繋がりの王者   作:宵取与一

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2話

坑道の中は思っていた以上に静かだった。

入口付近では聞こえていた職人たちの声も、奥へ進むにつれて少しずつ遠ざかっていく。

残るのは自分たちの足音だけだった。

 

 

 

 コツ。

 

 コツ。

 

 

 

靴底が岩を踏む音が、薄暗い坑道の中に反響する。

その音がやけに大きく聞こえた。

 

「……暗いな」

 

思わず呟く。

壁に取り付けられたランプは古く、ところどころ灯りが消えていた。

先へ進むほど光は弱くなり、奥はほとんど闇に飲まれている。

 

『だいじょうぶ』

 

隣からラルトスの声が聞こえた。

 

『みえる』

 

「便利だな、それ」

 

少しだけ笑う。

けれど胸の奥の緊張は消えなかった。

俺は周囲を見回しながら歩き続けた。

 

しばらく進んだところで足が止まる。

 

「……なんだこれ」

 

壁に大きな傷が残っていた。

岩盤を深く抉るような爪痕。

指先で触れてみると、ざらりとした感触が返ってきた。

 

かなり深い。

 

人間の力ではありえない傷跡だ。

ポケモンの繰り出す技によるものだと、そう考えるのが自然だった。

 

けれど妙だ。

 

俺は周囲へ目を向ける。

抉られているのはこの壁と、一部の支柱だけだ。

暴れ回った跡には見えない。

まるで狙ってここだけを壊したようだった。

 

「……」

 

ラルトスも傷を見上げていた。

何かを感じ取ってているらしい。

 

けれど何も言わない。

俺たちは再び歩き始めた。

少し進んだところで今度は地面に金属片が落ちているのを見つけた。

しゃがみ込んで拾い上げる。

 

重い。

 

掘削機の一部だった。

そうか、あれは、あの壁の傷は……。

 

恐らく、あの場所には重機が置いてあったのだろう。

それを破壊した時にできた傷跡、なのだと、俺は思った。

 

その掘削機の破片をひっくり返して確認した瞬間、思わず眉をひそめる。

 

「……噛まれたみたいだな」

 

切断された跡でも、潰された跡でも、ねじ切った跡でもない。

金属の端が不自然に抉れていた。

まるで巨大な顎で無理やり噛み砕いたような跡。

 

 その時だった。

 

『ユア』

 

ラルトスの声に顔を上げる。

ラルトスは坑道の奥を見ていた。

 

じっと。

 

耳を澄ませるように。

 

『……いる』

 

小さな声だった。

その瞬間。

 

 

 

 ガンッ!!

 

 

 

鈍い音が響いた。

 

「っ!」

 

反射的に飛び退く。

それと同時に岩の破片が目の前へ飛んできた。

ほんの少し前まで俺が立っていた場所よりも少し前。

そこに新しい傷が刻まれている。

心臓が跳ねた。

 

「なんだ……!?」

 

姿は見えない。

どこからだ。

 

周囲を見回す。

薄暗い坑道、揺れる灯り、その先に広がる闇。

 

何も見えない。

その時。

 

 

 

 ガリッ。

 

 

 

奥から音がした。

何かが岩を削るような音。

金属が擦れるような音。

 

ラルトスが俺を庇うように一歩前へ出る。

 

小さな背中が警戒していた。

そして再び。

 

 

 

 ガンッ!!

 

 

 

今度は正面の岩壁き岩が当たり、砕ける。

破片が飛び散る。

だけど、どうにも妙だ。

 

さっきも。

 

そして今も。

 

本気なら当てられたはずだった。

なのに当ててこない。

まるで、近付くなと警告しているだけのように。

 

『……おこってる』

 

ラルトスが小さく呟く。

 

「……ああ」

 

それは俺にも分かった。

 

怒り。

 

警戒。

 

敵意。

 

空気が張り詰めている。

でも、それだけじゃない気がする。

もっと別の感情が混ざっているような。

 

焦り。

 

不安。

 

そして――必死さ。

 

何かを守ろうとしている。

そんな気がした。

 

 

 

 ガリッ。

 

 

 

再び音が鳴る。

今度はもっと近い。

暗闇の奥の灯りが届かない場所。

そこに何かがいる。

見えないけれど確実に。

こちらを見ている。

 

ごくりと唾を飲み込む。

正直、今すぐ引き返したかった。

 

でも、ここで戻れば。

町の人たちは答えを決めてしまう。

 

ポケモンが悪い。

 

それだけで終わってしまう。

 

だから俺は足を止めなかった。

 

「……話を聞かせてくれ」

 

自分でも驚くくらい小さな声だった。

返事はない。

 

ただ。

 

暗闇の奥で何かが動く。

 

ギラリ。

 

鋭い光が一瞬だけ見えた。

大きな顎、赤く光る瞳。

 

『……!』

 

ラルトスが息を呑む。

俺も動けなかった。

闇の中から現れたその姿を見て。

 

人間へ向けた怒りを抱えながらも、その奥に消えない悲しみを宿したソイツは、現れた。

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