繋がりの王者   作:宵取与一

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7話

 

 

 グレープアカデミーの寮は、自分の部屋と食堂、それから普段使う場所くらいなら迷わなくなったけど、少し階を変えるだけでまだ知らない場所がいくらでも出てくる。その日は特に予定もなかったから、キルリアとクチートを連れて適当に歩いていた。ドレディアたちは部屋でそれぞれ好きに過ごしている。六匹全員で来たところで散策というより行列になりそうだし、たまにはこの三人くらいでちょうどいい。

 

『こっちって行ったことあったっけ?』

 

「多分ない。俺も覚えてねえけど」

 

『じゃあ行ってみよ!』

 

 キルリアが先に角を曲がり、クチートも少し後ろからついてくる。似たような扉が並ぶ廊下を進んでいると、向こうから見覚えのある赤と青の髪が歩いてきた。片手には小さな袋を提げていて、俺たちに気づくと足を止める。

 

「ボタン?」

 

「……ユア。こんなとこで何してんの」

 

「暇だったから寮見て回ってた。ここお前の部屋?」

 

 ちょうどボタンが立ち止まった扉を指すと、小さく頷いた。

 

「うん」

 

 鍵を開けて中へ入り、そのまま扉を閉めるのかと思ったら、ボタンはまだ廊下にいる俺たちを振り返った。キルリアとクチートにも一度ずつ目を向けて、少しだけ間を置く。

 

「……入る?」

 

「いいのか?」

 

「別に」

 

『入ろ入ろ!』

 

「お前が一番乗り気なのな」

 

 キルリアはもう俺より先に部屋へ入っている。クチートも嫌がる様子はないので、俺も後に続いた。

 

 扉をくぐったところで足が止まった。

 

「……なんだこの部屋」

 

「普通じゃない?」

 

「どこがだよ」

 

 まず暗い。昼間なのにカーテンはほとんど閉じられていて、奥の机に横並びで置かれた三つの画面ばかりが目立っている。その周りには何本もの細い線が伸び、机の横には用途の分からない黒い箱がいくつも積まれていた。

 

 そこまでならまだ、ボタンがよく分からない機械好きなんだと思えば済む。

 

 問題は、その機械だらけの部屋でポケモンたちがやたらくつろいでいることだった。

 

 ベッドではニンフィアが身体を丸め、床にはブラッキーが腹をつけて寝そべっている。椅子の下からはシャワーズの尾が伸び、カーテンの隙間から陽が入る窓際にはリーフィア。ブースターはベッド脇で丸くなり、部屋の隅にはサンダースまでいる。

 

『わ、いっぱい!』

 

 キルリアが嬉しそうに見回すと、ブラッキーが片耳だけこちらへ向けた。クチートも見慣れないポケモンたちを順番に眺めながら、俺の少し後ろで立ち止まっている。

 

「これ全部お前の?」

 

「うん」

 

「よくこんだけ一緒に暮らせるな」

 

「みんな好きな場所にいるだけだし。うちが帰ってきても別に集まってこんよ」

 

 言われてみれば、ニンフィアなんて一度だけ目を開けたあと、もう寝直している。ボタンもそれが普通らしく、特に声をかけるでもなく持っていた袋を机の横へ置いた。

 

 俺は三つ並んだ画面へ近づいた。全部違うものが表示されているけど、そもそも画面が三つ必要なのかが分からない。

 

「これ全部使うの?」

 

「使う。こっちで作業して、こっちで調べて、もう一個に別のやつ出したり」

 

「一個じゃダメなの?」

 

「できるけど、いちいち切り替えるのめんどい」

 

「三つ同時に見る方がめんどそうだけどな」

 

「慣れ」

 

 その横に置かれた黒い箱も気になる。薄いのやら少し厚いのやら、どれも線でパソコンに繋がっていた。

 

「この箱みたいなの何?」

 

「保存するやつ」

 

「何を?」

 

「色々」

 

「急に怪しくなったな」

 

「別に怪しくないし」

 

 そう言いながら目を逸らした。

 

「怪しいじゃねえか」

 

「……前にリーグのシステムハッキングしたことがあって、あ、もうやらんよ? トップ怖いし……」

 

「お前さらっと何言ってんの?」

 

 聞き間違いかと思って振り返ったけど、ボタンは普通に鞄の中を片づけている。

 

「リーグって、あのポケモンリーグ?」

 

「他に何があるん」

 

「いや、だから余計ダメだろ。なんで入ったんだよ」

 

「それは色々あって……」

 

「また色々で済ませたな」

 

「説明長くなるし。もう終わったことだし」

 

 そこで少し間が空き、ボタンが小さく付け足した。

 

「トップにバレた時ほんと怖かったし。怒鳴ったりせんのに怖いんよ、あの人」

 

「オモダカさんが?」

 

「……うん」

 

 俺が会った時はずっと落ち着いていたけど、ボタンの顔を見る限り深掘りしない方が良さそうだった。

 

 そのままボタンは袋から服を取り出した。

 

「ちょっと着替える」

 

「おう」

 

 俺がまたモニターへ目を戻すと、すぐ後ろで服の擦れる音がした。何となく振り返れば、ボタンがその場で着替え始めようとしている。

 

「まてまてまてまて」

 

 慌てて止めると、ボタンもそのまま動きを止めた。

 

「……なに」

 

「そこで着替えんなよ!」

 

「なんで?」

 

「俺いるだろ!」

 

「いるけど」

 

「だからだよ!」

 

「……?」

 

 本気で分かってない。

 

 俺の部屋と間取りはほとんど同じだから、シャワールームの場所も分かる。奥の扉を指すと、ボタンもそちらを見る。

 

「シャワールームあるだろ。そこで着替えてこいよ」

 

「別にここでよくない?」

 

「よくねえ!」

 

 ボタンは数秒こっちを見ていた。やっぱり納得してないらしく、服を持ち直して小さく息を吐く。

 

「……めんど」

 

「なんで俺が悪いみたいになってんだよ」

 

 ボタンがシャワールームへ入ると、すぐ横から笑い声がした。

 

「何笑ってんだよ」

 

『ユア、すっごい慌ててた』

 

「普通止めるだろ!」

 

『そうかなぁ』

 

「そうだよ!」

 

 キルリアはまだ楽しそうに笑っている。クチートは俺たちのやり取りには興味がないらしく、少し離れたところでブラッキーを眺めていた。

 

 しばらくして戻ってきたボタンは、大きめのTシャツとスパッツという完全な部屋着になっていた。Tシャツの真ん中にはイーブイが大きく描かれている。

 

「……ほんと好きなんだな」

 

「何が」

 

「服までイーブイじゃん」

 

「好きだから着てるんだけど」

 

「そこは即答なんだな」

 

 ボタンは気にする様子もなくベッドの端へ座り、近くにあった端末を拾い上げた。

 

「ていうか、お前、人いるのにその格好でいいのか?」

 

「……?」

 

「いや、俺いるだろ」

 

「うち、普段人部屋に入れんし。アイは入ったことあるけど、ネモとペパー入れたことないから」

 

「俺はいいのかよ」

 

 ボタンは端末を開きながら少し考えた。

 

「アイが信用してるから?」

 

「そこ疑問形なんだな」

 

「……多分」

 

「本人が一番分かってねえじゃん」

 

 それでも追い出される気配はないので、俺もベッド脇の床へ座った。キルリアはすぐ隣へ来て、クチートは少し離れたところに座る。

 

 その時、ベッドの下から茶色い毛が出てきた。

 

 イーブイだった。

 

 俺の足元まで来て匂いを確かめたあと、今度はキルリアの方へ鼻先を向ける。

 

『こんにちは』

 

「ブイ」

 

『ここ、みんな家族?』

 

「ブイッ」

 

『そっか。賑やかだね!』

 

 キルリアとイーブイがそのまま話し始める横で、俺はもう一度部屋を見回した。名前なら知っている。イーブイも、その進化系もシンオウにいるし、図鑑や本でも見たことはある。

 

 ただ、こうして何種類も同じ部屋にいるところを見るのは初めてだった。

 

「ここにいるこいつら、みんな元はこのイーブイなんだよな?」

 

「そう」

 

「知ってはいたけど、実物並んでるとすげえな。シャワーズとかリーフィアなんて、元が同じには全然見えねえ」

 

「イーブイは周りの影響受けやすいんよ。使う石だったり、育つ場所だったり、一緒に過ごした相手との関係だったり。進化すると見た目だけじゃなくて身体の性質までかなり変わる」

 

「そこまで変わってもイーブイの進化なんだもんな」

 

「それがいい」

 

 返事がやたら早かった。

 

「今ちょっと声大きくなったぞ」

 

「なってない」

 

「なったって」

 

「なってないし」

 

 ボタンは否定しながらも端末をこちらへ向けた。画面にはイーブイを中心に、いくつもの進化した姿が並んでいる。

 

「例えばシャワーズ。身体の作りが水にかなり近くなるから、水の中にいるとほんと見失うことある」

 

「そんな分かんなくなる?」

 

「なる。じっとされたら色も水に馴染むし。あと尾びれも大きいから泳ぐの上手いし、水辺いると機嫌いい子多い」

 

 椅子の下からシャワーズが顔だけ出した。

 

「こいつも?」

 

「この子も。雨降りそうな時とか外見てること多い」

 

「雨分かんの?」

 

「ひれの辺りで空気の変化感じるって言われてる。あと耳のひれ動くのかわいい」

 

「最後そこなんだ」

 

「そこ“も”」

 

「訂正早ぇな」

 

 ボタンが画面を横へ払うと、次にサンダースが映った。部屋の隅にいた本人もこちらへ耳を向ける。

 

「サンダースは体毛に静電気溜めるんよ。機嫌悪い時とか帯電が強くなるから、何も考えず触るとパチッてきて普通に痛い」

 

「じゃあ怒ってる時は触らない方がいいのか」

 

「無理に触らん方がいい。毛もぶわって逆立つから結構分かりやすいし」

 

「そりゃ分かりやすそうだな」

 

「でも怒って毛逆立ててるのかわいい」

 

「結局そこ行くんだな」

 

「かわいいものはかわいいし」

 

「静電気食らっても?」

 

「それとこれは別」

 

「俺には分からん」

 

 こちらを見ていたサンダースが小さく喉を鳴らし、耳を後ろへ倒した。

 

「ほら、ボタン悪口言ってるぞ」

 

「ユアが言ってんじゃん」

 

「俺!?」

 

 サンダースはもう興味をなくしたように顔を伏せた。

 

 ボタンは笑いながら次の画像へ指を滑らせる。

 

「ブースターは毛がふわふわで身体もかなりあったかい。寒い時は近くにいるだけで全然違う」

 

「じゃあ冬は一緒に寝たら暖房いらねえじゃん」

 

「ブースターにも都合あるから」

 

「別に無理やり抱えて寝るとは言ってねえよ」

 

「今ちょっと考えたでしょ」

 

「ちょっとだけな」

 

 ベッド脇にいたブースターが顔を上げたので、俺はすぐに両手を振った。

 

「いや、やんないからな」

 

 ブースターはしばらく俺を見てから、また身体を丸めた。

 

「聞いてるじゃん」

 

「そりゃ聞こえるし」

 

 窓際ではリーフィアがカーテンの隙間から差し込む光へ身体を寄せている。

 

「リーフィアは光浴びるの好き。身体も植物に近い性質になるから、自分で光を使って力作れるし、草とか葉っぱみたいな匂いすることもある」

 

「どんな匂い?」

 

「雨上がりとか、草切った後みたいな感じ」

 

「ちょっと嗅いでみたいな」

 

 俺が窓際を見ると、リーフィアの長い耳がこちらへ向いた。そのままゆっくり歩いてきて、俺から少し離れたところで座る。

 

『来たよ』

 

「嗅いでいいのかこれ?」

 

「嫌なら逃げるでしょ」

 

「じゃあちょっとだけ」

 

 近づいてみると、本当に青い草に近い匂いがした。

 

「……ほんとだ」

 

「でしょ」

 

「これは図鑑じゃ分かんねえな」

 

 俺が元の場所へ戻る頃には、ボタンはもう次の画像を開いていた。

 

「エーフィはここにはいないけど、毛がすごく細かい。空気の流れとか相手の動き感じ取るのが得意で、天気の変化にも敏感」

 

「名前は知ってるけど、本物はほとんど見たことねえな」

 

「見た目すましてるけど、信頼してる相手には結構分かりやすい子もいるよ。近くで寝たり、尻尾寄せて丸くなったり」

 

「……説明急に細かくなったな」

 

「普通だけど」

 

「今の絶対お前の好きな仕草入ってただろ」

 

「全部好きだけど」

 

「便利な答えだな」

 

「ほんとだし」

 

 ボタンはそのまま端末を動かした。

 

「ブラッキーは夜に動くことが多くて、暗い場所だと身体の輪っかが光る」

 

「こいつ夜だと光んの?」

 

「うん。真っ暗でもどこにいるか大体分かる」

 

 床にいたブラッキーが身体を起こし、ボタンの足元から少し離れたところへ移動して座った。

 

「警戒心強い子もいるけど、慣れるとこんな感じ。ずっとくっついてくるわけじゃなくて、気づいたら近くにいる」

 

 俺は少し離れて座っているクチートを見る。

 

「クチートっぽいな」

 

 大顎がガチン、と鳴った。

 

『似てないって』

 

「そんな嫌がる?」

 

 もう一度ガチン。

 

「はいはい、違うってことで」

 

『クチートはクチートだもんね』

 

 キルリアが笑いながら言うと、クチートは少しだけ顔を逸らした。

 

 ボタンまで小さく笑っている。

 

「グレイシアは自分の身体の熱をかなり下げられる。周りの水分凍らせたり、細かい氷作ったりするし」

 

「夏近くにいたら涼しそう」

 

「またポケモン家電にしようとしてる」

 

「してねえって!」

 

『ブースターの時も言ってたよ』

 

「お前までそっちにつくな!」

 

「でもグレイシアは毛も面白いんよ。身体の温度下げると毛も凍って」

 

「待て」

 

「何」

 

「また長くなるやつだろ」

 

「まだ全然話してないけど」

 

「分かったから一回進めろ」

 

「……じゃあニンフィア」

 

「不満そうだな」

 

「別に」

 

 画面には今度はニンフィアが映る。

 

「ニンフィアはこの触角が一番分かりやすい」

 

「リボンみたいなやつな」

 

「見た目はそうだけど触角。トレーナーの腕に巻いたりするし、相手を落ち着かせるのも得意」

 

 言った直後、ベッドで寝ていたニンフィアが身体を伸ばし、細長い触角の一本をボタンの腕へ巻きつけた。

 

「ほら」

 

「ほんとにやるんだな」

 

「かわいいでしょ」

 

「これは分かりやすい」

 

「“これは”って何」

 

「サンダースに静電気食らうのまでかわいいって言うよりは」

 

「それとはかわいさの種類が違うし」

 

「全部かわいいで終わるじゃん」

 

「だって全部かわいいし」

 

 真顔だった。

 

「もう無敵だな、その理屈」

 

「あとニンフィアは」

 

 ボタンが端末を持ったままこちらへ寄ってくる。画面を見せるつもりなのは分かるけど、肩が普通に当たり、顔を上げたらすぐ横にボタンの顔があった。

 

「……近い」

 

「何が?」

 

「お前が」

 

「?」

 

「顔近ぇって」

 

「画面見えん?」

 

「見えるけど、そういう問題じゃねえよ」

 

 ボタンは一度俺の顔を見て、それから画面を見る。

 

「……じゃあ何が問題なん?」

 

「そこから説明しなきゃダメなの?」

 

「?」

 

「なんで本気で分かんねえんだよ……」

 

 少し距離を取ろうとしたところで、背中に重みが乗った。

 

「ん?」

 

 キルリアが後ろからおぶさるように両腕を回し、肩の横から顔を出す。そのまま俺の背中へぎゅっと身体を寄せた。

 

「キルリア?」

 

『なに?』

 

「急にどうした」

 

『別に?』

 

「別にってくっつき方じゃないだろ」

 

『ここ見やすいから』

 

「俺を台にすんなよ」

 

『いいじゃん』

 

 離れる気はないらしい。そのまま座り直そうとすると、今度は膝に重みが加わった。

 

「……お前まで何してんの?」

 

 いつの間にかクチートがいた。

 

 大顎を横へ逃がすようにして、何食わぬ顔で俺の膝へ座っている。

 

「いつ来たんだよ」

 

 クチートは答えず、大顎だけ小さくガチンと鳴らした。

 

「今日やけに近いな、お前ら」

 

『仲良しだからいいでしょ』

 

「まあいいけど」

 

 ボタンは俺の背中のキルリアと、膝に乗ったクチートを順番に見た。

 

「……仲いいな」

 

「長いからな。でもクチートが自分から膝乗ってくるのは珍しい」

 

「そうなん」

 

 ボタンは少しクチートを見たあと、それ以上気にせず端末へ視線を戻した。

 

「で、イーブイなんだけど」

 

「まだ戻るの?」

 

「進化した後の話ばっかしてたし。イーブイ自体も同じように見えて、耳の動きとか毛の感じとか結構違う。進化しやすいからって必ず進化したがるわけでもないし」

 

「そこは本人次第か」

 

「そりゃそうでしょ。ずっとイーブイのままの子も普通にいるし」

 

 俺の足元にいたイーブイが、話を聞いていたのか耳をぴんと立てた。

 

『この子はまだ決めてないって』

 

「そうなのか」

 

「ブイ」

 

「じゃあ好きに決めろよ」

 

 イーブイは返事をするように尾を揺らし、そのままキルリアの足元へ戻っていった。

 

 その横でボタンはまた端末を操作している。

 

「あとイーブイの毛って」

 

「待て待て、一回止まれ」

 

「何」

 

「お前、最初こんな喋ってなかっただろ」

 

 ボタンの指が止まった。

 

「……喋ってたけど」

 

「いや、今の方が絶対喋ってる。ブイズの話になってからずっとじゃん」

 

「ユアが聞くからでしょ」

 

「最初はな。途中から俺が何も聞いてなくても次の話始めてたぞ」

 

「……別にいいじゃん」

 

『楽しそうだもんね』

 

 肩の横からキルリアが笑う。

 

「……うるさい」

 

 ボタンはそう言いながらも端末を閉じなかった。

 

「まあ、面白いけどな。名前とか進化の仕方は知ってても、こんな近くで見ることなかったし」

 

「でしょ」

 

「そこで急に嬉しそうになんなよ」

 

「なってない」

 

「なってるって」

 

 そこからも話はなかなか終わらなかった。シャワーズは水から上がると尾で床を濡らしやすいとか、ブースターは寝ていた場所まで暖かくなるとか、リーフィアは晴れた日に窓際を取り合うことがあるとか。ボタンが何か話せば、実際に部屋にいる誰かが反応し、キルリアが横から話へ入り、俺が気になったところを聞く。そのたびに話が別のところへ転がっていった。

 

 気づいた時には、カーテンの隙間から差していた光がほとんどなくなっていた。

 

「……もうこんな時間か」

 

『ほんとだ』

 

「ドレディアたちも待ってるし、そろそろ戻るか」

 

 立ち上がろうとしたけど、背中にはキルリア、膝にはクチートがいる。まずキルリアに降りてもらい、クチートを床へ下ろしてから立ち上がった。

 

 ボタンも端末の画面を消す。

 

「お前、ブイズの話になるとほんと喋るな」

 

「……悪い?」

 

「別に。面白かったし」

 

「……そ」

 

「でも次は説明、一気に詰め込むなよ」

 

「まだグレイシアの話ほとんどしてないし、グレイシアは地方によって進化の仕方が……」

 

「続き始めんな! それは次な!」

 

 ボタンは少し不満そうに口を閉じた。

 

 キルリアとクチートを連れて扉へ向かい、取っ手へ手をかけたところで後ろから声が飛んでくる。

 

「……また来てもいいけど」

 

 振り返ると、ボタンはこっちを見ずに端末を触っていた。

 

「じゃあまた来るわ」

 

「……うん」

 

「次はもうちょいゆっくりな」

 

「それだと全部話すのに時間かかるし」

 

「全部話す前提なのかよ」

 

 ボタンが小さく笑う。

 

「……まだ半分くらいしか話してないし」

 

「嘘つけ、あれで半分なの!?」

 

 廊下へ出ても、扉が閉まる直前までキルリアの笑い声が止まらなかった。





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