繋がりの王者   作:宵取与一

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5話

坑道から戻る頃には、日が少し傾き始めていた。

クロガネシティはいつも通りだった。

煙突からは煙が上がり、荷車が鉱石を運んでいる。

職人たちの声も聞こえる。

見慣れた景色だ。

 

俺はそのまま作業場へ向かった。

すれ違う職人たちがこちらを見る。

誰も声は掛けてこない。

ただ黙って道を開ける。

 

坑道で何かあったことだけは、もう伝わっているらしかった。

 

作業場へ入ると鉄の匂いが鼻をついた。

奥では父さんがしゃがみ込んでいる。

壊れた重機の部品を前にしていた。

 

俺の足音に気付き、顔を上げる。

 

「戻ったか」

 

「うん」

 

短いやり取りだった。

父さんはそれ以上聞かない。

俺もすぐには話さなかった。

近くの木箱へ腰を下ろす。

少し息を整えてから口を開いた。

 

「クチートに会った」

 

父さんの手が止まる。

俺は続けた。

 

坑道で見たこと。

 

ラルトスが感じたこと。

 

職人とゴーリキーが押し掛けたこと。

 

そして、それでもクチートは最後まで襲ってこなかったこと。

 

知っていることをそのまま話した。

分からないことは分からないまま。

余計な想像は入れずに。

 

父さんは黙って聞いていた。

途中で工具を置き、腕を組む。

それでも最後まで口は挟まなかった。

 

話し終わると、しばらく沈黙が続いた。

 

 

 

 カン。

 

 

 

遠くで金属を叩く音が響く。

父さんは天井を見上げながら息を吐いた。

 

「……そうか」

 

ぽつりと呟く。

そして壊れた部品へ視線を落とした。

 

「妙だとは思ってた」

 

「妙?」

 

父さんは頷く。

 

「壊すだけなら、もっと派手にやれる」

 

手元の金属片を持ち上げる。

 

「人を襲うことだってできたはずだ……なのに、そうなってない」

 

部品を置く。

鈍い音が響いた。

 

「壊されてるのは設備ばかりで、人間は一度も襲われていない」

 

俺は黙って聞いていた。

それは俺も感じていたことだった。

 

坑道で見た傷跡。

 

クチートの警告。

 

全部が頭をよぎる。

父さんは少しだけ目を伏せた。

 

「理由があるのかもしれんな」

 

それ以上は言わない。

その理由までは分からないからだ。

俺たちはまだ何も知らない。

 

ただ、一つだけ確かなことがある。

 

クチートは無差別に暴れているわけじゃない。

 

「父さん」

 

俺が呼ぶ。

父さんがこちらを見る。

 

「俺、もう一回行く」

 

静かに言った。

父さんの眉が少しだけ動く。

 

 

 

「危険だぞ、と言っても、行くんだろうな、お前は」

 

「うん」

 

「今朝もそうだったが……本当に無茶だけはするなよ」

 

当然、怖くないわけじゃない。

むしろ怖い。

でも、このままにはできなかった。

 

坑道の奥で見たクチートの目が頭から離れない。

 

「放っておけないんだ」

 

自然と口から出た言葉だった。

父さんは黙って俺を見る。

何かを確かめるように。

長い沈黙のあと、父さんはゆっくり立ち上がった。

 

そして俺の肩を軽く叩く。

 

「……わかった、お前のやりたいようにやれ」

 

それだけだった。

反対はしない。

だが手放しで賛成もしない。

その一言にはそんな意味が込められている気がした。

俺は小さく息を吐く。

 

『ユア』

 

「ん?」

 

『また行くの?』

 

「行くよ、このまま放っておけないからね」

 

迷いはなかった。

ラルトスは少しだけ黙る。

そして。

 

『うん』

 

短く頷いた。

俺は立ち上がる。

まだ何も分かっていない。

 

クチートのことも。

 

坑道で起きたことも。

 

だけど、知らないまま終わらせたくなかった。

だからもう一度行く。

今度こそ答えを見つけに、坑道の奥へ。

 

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