繋がりの王者   作:宵取与一

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8話

 

 

 残った二つのボールへ触れ、キルリアの方を外す。向かいのボタンも選び終えていた。チリさんが俺たちの手元を確かめ、コートの中央へ戻る。

 

「第二試合、ポケモンを出してや」

 

 ボールを投げると、白い光の中からキルリアが現れた。爪先で芝生へ降り、こちらへ顔を向ける。俺が頷くと、キルリアは身体を返し、両腕を広げて構えた。

 

 ボタンが出したのはリーフィアだった。草を思わせる耳と尾を立て、四本の足で静かに着地する。周囲の歓声に耳を動かしたものの、視線はキルリアから外さなかった。

 

「第一試合を取ったボタン選手が一歩リード! ここで決めるか、それともユア選手が追いつくのか! 第二試合、キルリア氏対リーフィアー!」

 

 大型画面に二匹の名前が並び、その上に零対一の数字が残っている。チリさんが片腕を上げた。

 

「始め!」

 

「リーフィア、“はっぱカッター”」

 

「キルリア、“かげぶんしん”!」

 

 リーフィアの身体から鋭い葉が放たれた。キルリアは片足を軸に身を回し、左右へ姿を増やす。葉が触れた分身は次々に崩れたが、本体はその隙間を縫うように前へ出た。

 

「“テレポート”!」

 

 姿が消え、リーフィアの背後へ移る。キルリアの両手に電気が集まったところで、ボタンの声が飛んだ。

 

「後ろ。“シャドーボール”」

 

 リーフィアは振り返りながら黒い球を放つ。キルリアも“チャージビーム”を撃ち、二つの光が近い距離でぶつかった。弾けた黒い煙の向こうから葉が飛び出し、キルリアの腕をかすめる。

 

 リーフィアは最初から後ろを取られると考えていた。キルリアも同じことに気づいたらしく、着地せずにもう一度姿を消す。今度はリーフィアの右側、数歩離れた場所へ現れた。

 

「そこからもう一発!」

 

 “チャージビーム”がリーフィアの脇腹を捉えた。身体が横へ押されても、リーフィアは四肢を踏ん張って倒れない。電気は草の身体へ吸い込まれるように弱まったが、一部がキルリアの腕と頭の角に残っている。

 

「キルリア氏、短い“テレポート”で予想を外したー! だけどリーフィアも崩れません!」

 

「効果の小さい攻撃ですが、キルリアには電気が残りました。次の攻撃まで注目です」

 

 オモダカさんの声が届く中、リーフィアの輪郭が左右へ揺れた。三匹、五匹と数が増え、キルリアの周りを囲むように歩き出す。

 

「リーフィア、“かげぶんしん”。そのまま距離を詰めて」

 

 どの姿も足の運びまで同じだった。キルリアは中央で爪先を動かし、身体の向きを少しずつ変える。背後に回った一匹の口元へ影が集まった。

 

「後ろへ“サイコショック”!」

 

 キルリアが振り返り、固めた念の塊を放つ。影の球を作っていた姿に当たったが、輪郭が崩れて消えた。偽物だ。正面にいたリーフィアが地面を蹴り、近い距離から“シャドーボール”を撃つ。

 

「上へ飛べ!」

 

 キルリアの姿が消え、黒い球が何もない場所を通り抜けた。視線を上げると、キルリアはリーフィアの斜め後ろへ降りている。真後ろを避け、距離も変えた。

 

「“サイコショック”!」

 

 念の塊がリーフィアの背中へ当たり、四本の足が芝生を滑った。倒れる前に前脚を踏み直し、リーフィアは素早く向きを変える。ボタンは追撃を待たず、短く息を吸った。

 

「“くさぶえ”」

 

 リーフィアが頭を上げる。葉の耳と尾が細かく震え、柔らかな音がコートへ広がった。

 

「キルリア、“テレポート”で離れろ!」

 

 キルリアはコートの端まで移った。それでも音は止まらず、風に乗って届いてくる。もう一度移動しようと持ち上げた腕が下がり、足元がふらついた。

 

『ユア……音、遠くまで……』

 

 最後まで言い終える前に膝をつき、そのまま芝生へ横になる。目が閉じても呼吸は続いていた。

 

「“くさぶえ”が命中ー! キルリア氏の動きが止まったぁ!」

 

「リーフィア、“はっぱカッター”」

 

 葉が眠ったキルリアへ迫る。声をかけても、瞼は開かない。何枚もの葉が腕や脚を打ち、身体が芝生の上を押されていく。

 

「キルリア、起きろ! 次が来るぞ!」

 

 リーフィアの口元へ黒い影が集まった。球が大きくなり、ボタンの腕がキルリアへ向く。

 

「“シャドーボール”」

 

 黒い球が放たれる。キルリアの指が芝生を掴み、閉じていた目が開いた。

 

「右へ“テレポート”!」

 

 姿が消え、影の球が芝生を深くえぐる。キルリアは離れた場所へ現れたが、片膝をついたまま立ち上がれない。腕や脚には葉で切られた跡が残り、肩が呼吸に合わせて上下していた。

 

「無理に続けて跳ばなくていい。一回、立て」

 

 キルリアは両手を地面につき、片足ずつ踏み直した。リーフィアが迫るのを見ながら上体を起こし、爪先を外へ向ける。

 

『次は、あの音を出させない』

 

「俺も見てる。葉が動いたら止めよう」

 

 リーフィアが距離を取った。ボタンは急がせず、キルリアが立ち上がるまでを見てから手を横へ振る。

 

「もう一度、“かげぶんしん”」

 

 増えたリーフィアが左右へ散った。キルリアも身体を回し、同じように姿を重ねる。白と緑の姿が入り混じり、客席から上がった声が一つに重なった。

 

「コートが分身だらけだー! キルリア氏とリーフィア、互いに本物を隠していくぅ!」

 

 リーフィアの分身が一斉に頭を上げた。葉の耳が震える。どれが本物か見つける前に、笛の音が出る。

 

「全部へ“サイコショック”!」

 

 キルリアの周囲に念の塊が並び、正面から順に飛んでいく。分身を突き抜けるたびに姿が消え、最後の一発が左端にいたリーフィアの前脚へ当たった。身体が傾き、笛の音が途切れる。

 

「今だ、“テレポート”!」

 

 キルリアはリーフィアの近くへ移り、すぐに姿を消した。背後へ回ると見たリーフィアが振り向き、“はっぱカッター”を放つ。葉が空を切った時、キルリアは正面から数歩離れたところへ現れた。

 

「“チャージビーム”!」

 

 電気の束がリーフィアの胸へ当たる。草の身体に阻まれて光は弱まったが、衝撃で前脚が浮いた。キルリアの腕には、先ほどより強い電気が残っている。

 

 リーフィアは後ろ脚で踏みとどまり、口元に“シャドーボール”を作った。キルリアも両手を前へ向ける。

 

「リーフィア、そのまま撃って!」

 

「“チャージビーム”で押し返せ!」

 

 電気と影が正面からぶつかった。黒い球の表面を光が走り、二つの攻撃が互いを押し合う。キルリアの足が芝生を滑ったが、腕に残っていた電気が光へ加わると、“シャドーボール”にひびが入った。

 

 影が弾け、黒い煙が二匹の間へ広がる。

 

「キルリア、右へ短く跳べ!」

 

 姿を消したキルリアが、煙の端へ現れた。リーフィアはまだ正面を見ている。

 

「“サイコショック”!」

 

 放たれた念の塊がリーフィアの横腹を打った。身体が浮き、芝生へ落ちて転がる。前脚をつこうとしたものの、力が入らず、そのまま顎を地面へ伏せた。

 

 チリさんがリーフィアのそばへ寄り、状態を確かめてから俺の方へ腕を上げる。

 

「リーフィア、戦闘不能! 第二試合はキルリアの勝ち!」

 

 大型画面の数字が動き、俺の下にも一が入った。歓声を受けたキルリアがこちらへ顔を向け、片足を後ろへ引く。いつものように回ろうとしたらしいが、途中でふらつき、両足を揃えて止まった。

 

「無理して踊らなくていいって」

 

『勝った時くらい、いいでしょ』

 

 キルリアは腕だけを広げ、軽く頭を下げた。俺も片手を上げてからボールへ戻す。

 

「ユア選手が取り返して一対一! これで勝負は泣いても笑っても第三試合へー!」

 

 向かいでは、ボタンが戻ってきたリーフィアのボールを両手で包んでいた。しばらく表面を撫でてから腰へ戻し、最後のボールを外す。

 

 俺も残った一つを手に取った。

 

「第三試合、ポケモンを出してや」

 

 二つのボールが同時に開く。

 

 俺の前にはクチート。ボタンの前にはニンフィアが降り立った。

 

 

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