残った二つのボールへ触れ、キルリアの方を外す。向かいのボタンも選び終えていた。チリさんが俺たちの手元を確かめ、コートの中央へ戻る。
「第二試合、ポケモンを出してや」
ボールを投げると、白い光の中からキルリアが現れた。爪先で芝生へ降り、こちらへ顔を向ける。俺が頷くと、キルリアは身体を返し、両腕を広げて構えた。
ボタンが出したのはリーフィアだった。草を思わせる耳と尾を立て、四本の足で静かに着地する。周囲の歓声に耳を動かしたものの、視線はキルリアから外さなかった。
「第一試合を取ったボタン選手が一歩リード! ここで決めるか、それともユア選手が追いつくのか! 第二試合、キルリア氏対リーフィアー!」
大型画面に二匹の名前が並び、その上に零対一の数字が残っている。チリさんが片腕を上げた。
「始め!」
「リーフィア、“はっぱカッター”」
「キルリア、“かげぶんしん”!」
リーフィアの身体から鋭い葉が放たれた。キルリアは片足を軸に身を回し、左右へ姿を増やす。葉が触れた分身は次々に崩れたが、本体はその隙間を縫うように前へ出た。
「“テレポート”!」
姿が消え、リーフィアの背後へ移る。キルリアの両手に電気が集まったところで、ボタンの声が飛んだ。
「後ろ。“シャドーボール”」
リーフィアは振り返りながら黒い球を放つ。キルリアも“チャージビーム”を撃ち、二つの光が近い距離でぶつかった。弾けた黒い煙の向こうから葉が飛び出し、キルリアの腕をかすめる。
リーフィアは最初から後ろを取られると考えていた。キルリアも同じことに気づいたらしく、着地せずにもう一度姿を消す。今度はリーフィアの右側、数歩離れた場所へ現れた。
「そこからもう一発!」
“チャージビーム”がリーフィアの脇腹を捉えた。身体が横へ押されても、リーフィアは四肢を踏ん張って倒れない。電気は草の身体へ吸い込まれるように弱まったが、一部がキルリアの腕と頭の角に残っている。
「キルリア氏、短い“テレポート”で予想を外したー! だけどリーフィアも崩れません!」
「効果の小さい攻撃ですが、キルリアには電気が残りました。次の攻撃まで注目です」
オモダカさんの声が届く中、リーフィアの輪郭が左右へ揺れた。三匹、五匹と数が増え、キルリアの周りを囲むように歩き出す。
「リーフィア、“かげぶんしん”。そのまま距離を詰めて」
どの姿も足の運びまで同じだった。キルリアは中央で爪先を動かし、身体の向きを少しずつ変える。背後に回った一匹の口元へ影が集まった。
「後ろへ“サイコショック”!」
キルリアが振り返り、固めた念の塊を放つ。影の球を作っていた姿に当たったが、輪郭が崩れて消えた。偽物だ。正面にいたリーフィアが地面を蹴り、近い距離から“シャドーボール”を撃つ。
「上へ飛べ!」
キルリアの姿が消え、黒い球が何もない場所を通り抜けた。視線を上げると、キルリアはリーフィアの斜め後ろへ降りている。真後ろを避け、距離も変えた。
「“サイコショック”!」
念の塊がリーフィアの背中へ当たり、四本の足が芝生を滑った。倒れる前に前脚を踏み直し、リーフィアは素早く向きを変える。ボタンは追撃を待たず、短く息を吸った。
「“くさぶえ”」
リーフィアが頭を上げる。葉の耳と尾が細かく震え、柔らかな音がコートへ広がった。
「キルリア、“テレポート”で離れろ!」
キルリアはコートの端まで移った。それでも音は止まらず、風に乗って届いてくる。もう一度移動しようと持ち上げた腕が下がり、足元がふらついた。
『ユア……音、遠くまで……』
最後まで言い終える前に膝をつき、そのまま芝生へ横になる。目が閉じても呼吸は続いていた。
「“くさぶえ”が命中ー! キルリア氏の動きが止まったぁ!」
「リーフィア、“はっぱカッター”」
葉が眠ったキルリアへ迫る。声をかけても、瞼は開かない。何枚もの葉が腕や脚を打ち、身体が芝生の上を押されていく。
「キルリア、起きろ! 次が来るぞ!」
リーフィアの口元へ黒い影が集まった。球が大きくなり、ボタンの腕がキルリアへ向く。
「“シャドーボール”」
黒い球が放たれる。キルリアの指が芝生を掴み、閉じていた目が開いた。
「右へ“テレポート”!」
姿が消え、影の球が芝生を深くえぐる。キルリアは離れた場所へ現れたが、片膝をついたまま立ち上がれない。腕や脚には葉で切られた跡が残り、肩が呼吸に合わせて上下していた。
「無理に続けて跳ばなくていい。一回、立て」
キルリアは両手を地面につき、片足ずつ踏み直した。リーフィアが迫るのを見ながら上体を起こし、爪先を外へ向ける。
『次は、あの音を出させない』
「俺も見てる。葉が動いたら止めよう」
リーフィアが距離を取った。ボタンは急がせず、キルリアが立ち上がるまでを見てから手を横へ振る。
「もう一度、“かげぶんしん”」
増えたリーフィアが左右へ散った。キルリアも身体を回し、同じように姿を重ねる。白と緑の姿が入り混じり、客席から上がった声が一つに重なった。
「コートが分身だらけだー! キルリア氏とリーフィア、互いに本物を隠していくぅ!」
リーフィアの分身が一斉に頭を上げた。葉の耳が震える。どれが本物か見つける前に、笛の音が出る。
「全部へ“サイコショック”!」
キルリアの周囲に念の塊が並び、正面から順に飛んでいく。分身を突き抜けるたびに姿が消え、最後の一発が左端にいたリーフィアの前脚へ当たった。身体が傾き、笛の音が途切れる。
「今だ、“テレポート”!」
キルリアはリーフィアの近くへ移り、すぐに姿を消した。背後へ回ると見たリーフィアが振り向き、“はっぱカッター”を放つ。葉が空を切った時、キルリアは正面から数歩離れたところへ現れた。
「“チャージビーム”!」
電気の束がリーフィアの胸へ当たる。草の身体に阻まれて光は弱まったが、衝撃で前脚が浮いた。キルリアの腕には、先ほどより強い電気が残っている。
リーフィアは後ろ脚で踏みとどまり、口元に“シャドーボール”を作った。キルリアも両手を前へ向ける。
「リーフィア、そのまま撃って!」
「“チャージビーム”で押し返せ!」
電気と影が正面からぶつかった。黒い球の表面を光が走り、二つの攻撃が互いを押し合う。キルリアの足が芝生を滑ったが、腕に残っていた電気が光へ加わると、“シャドーボール”にひびが入った。
影が弾け、黒い煙が二匹の間へ広がる。
「キルリア、右へ短く跳べ!」
姿を消したキルリアが、煙の端へ現れた。リーフィアはまだ正面を見ている。
「“サイコショック”!」
放たれた念の塊がリーフィアの横腹を打った。身体が浮き、芝生へ落ちて転がる。前脚をつこうとしたものの、力が入らず、そのまま顎を地面へ伏せた。
チリさんがリーフィアのそばへ寄り、状態を確かめてから俺の方へ腕を上げる。
「リーフィア、戦闘不能! 第二試合はキルリアの勝ち!」
大型画面の数字が動き、俺の下にも一が入った。歓声を受けたキルリアがこちらへ顔を向け、片足を後ろへ引く。いつものように回ろうとしたらしいが、途中でふらつき、両足を揃えて止まった。
「無理して踊らなくていいって」
『勝った時くらい、いいでしょ』
キルリアは腕だけを広げ、軽く頭を下げた。俺も片手を上げてからボールへ戻す。
「ユア選手が取り返して一対一! これで勝負は泣いても笑っても第三試合へー!」
向かいでは、ボタンが戻ってきたリーフィアのボールを両手で包んでいた。しばらく表面を撫でてから腰へ戻し、最後のボールを外す。
俺も残った一つを手に取った。
「第三試合、ポケモンを出してや」
二つのボールが同時に開く。
俺の前にはクチート。ボタンの前にはニンフィアが降り立った。