繋がりの王者   作:宵取与一

139 / 142
12話

 

 

 クチートのボールをコートへ投げる。白い光から降り立ったクチートは、正面のコライドンを見上げると、大顎を持ち上げて足を開いた。

 

 コライドンはドラゴンテラスタルを保ったまま、荒い呼吸を繰り返している。エンニュートが焼いた前脚には黒い跡が残り、後ろ脚も深く曲げられていない。脇腹を覆う結晶の一部は欠け、内側の鱗が覗いていた。

 

「ユア選手の二匹目はクチート! エンニュートが残した傷へ、今度はどんな攻めを重ねるのかー! 対するコライドンはテラスタル継続、交代も休憩もなし! 準決勝第二戦、始まります!」

 

 クチートはナンジャモの声にも顔を動かさず、コライドンの前脚へ目を向けていた。身体の大きさは比べるまでもない。コライドンの一歩は、クチートなら何歩も走る距離を詰める。

 

 背中の大顎がゆっくり開く。

 

 ガチン。

 

「嬉しそうだな。けど、正面から全部受けるなよ」

 

 クチートは俺を見ず、両腕を身体の横へ下ろした。コライドンも頭を低くし、傷ついた前脚を半歩だけ後ろへ引く。

 

 チリさんが二匹の位置を確かめ、腕を上げた。

 

「第二戦――始め!」

 

「クチート、“てっぺき”!」

 

 金属の光がクチートの身体を覆う。ORMがマントの内側から片手を出し、真っ直ぐクチートへ向けた。

 

「“アクセルブレイク”」

 

 コライドンが地面を蹴る。最初の一歩で傷のある前脚が沈み、身体がわずかに傾いた。速度は落ちても、一度走り出した巨体が押し退ける空気でクチートの横髪が揺れる。

 

「大顎を下ろせ! 右へ受け流せ!」

 

 クチートが身体を半分ずらし、大顎の側面をコライドンへ向ける。ぶつかった瞬間、大顎が押し戻され、クチートの靴が芝生を削った。踏みとどまろうとした片足が浮き、身体ごと横へ弾かれる。

 

 転がりながら大顎を地面へ打ち込み、クチートは数歩分で止まった。コライドンも勢いのまま通り過ぎたが、向きを戻す時に傷ついた前脚を浮かせている。

 

「今だ! 脚へ“アイアンヘッド”!」

 

 クチートが大顎を引き抜き、銀色に染めた頭を低くして走る。コライドンが身体を向け終える直前、その額が前脚の付け根へぶつかった。結晶の表面に亀裂が走り、巨体が片膝をつく。

 

「入ったぁ! エンニュートが狙い続けた場所へ、クチートが一発目から合わせたー!」

 

 クチートは頭を押しつけたまま足を進めようとする。コライドンは膝をついた姿勢から腕を引き、拳を握った。

 

「“ドレインパンチ”」

 

「左腕で止めろ! “メタルクロー”!」

 

 淡い光をまとった拳と、銀色の爪が正面からぶつかった。クチートの腕が押し戻され、拳が肩へ食い込む。小さな身体が浮きかけたところで大顎が地面を挟み、足をコートへ残した。

 

 クチートは押されながらも爪を引かず、コライドンの拳から腕へ滑らせる。結晶が削れ、その下に細い傷が四本並んだ。淡い光がコライドンへ戻り、浅い傷は塞がったが、立ち上がった前脚はまだ外側へ開いている。

 

「回復はしていますが、受けた損傷のすべてを戻せるわけではありません。クチートも打たれる瞬間まで、攻撃をやめていませんね」

 

 コライドンが拳を振り抜く。大顎の支えが外れ、クチートが芝生を滑った。肩を押さえるように腕を寄せたものの、立ち上がると銀色の爪をもう一度前へ向ける。

 

 同じ距離で殴り合えば、回復する相手へ傷を渡しているだけになる。コライドンの脚は動かしにくい。クチートが近づくのではなく、向こうから来る場所を決めればいい。

 

「クチート、大顎で“かえんほうしゃ”! 前を塞げ!」

 

 大顎から吐き出された炎が二匹の間へ広がる。コライドンは頭を振り、結晶の飾りで火の粉を散らした。ドラゴンテラスタルの身体を炎が流れても、赤い巨体は火の向こうに残っている。

 

「炎に沿って左へ回れ。傷ついた脚の側から離れるな!」

 

 クチートが火炎の端へ走る。コライドンも首を巡らせたが、前脚を軸に向きを変えた途端、肩が落ちた。その低くなった位置へクチートが踏み込み、銀色の手を振り上げる。

 

「“メタルクロー”!」

 

 爪が脇腹の欠けた結晶へ入る。破片が飛び、コライドンの身体が炎の中へ押し戻された。クチートは腕を引いて距離を取ろうとしたが、炎の奥から赤い手が伸びる。

 

「捕まるな!」

 

 クチートが身を沈める。指先は頭上を通り過ぎたものの、コライドンの尾が横から大顎へ当たった。大顎に引かれて身体が回り、背中から芝生へ落ちる。

 

 コライドンは追撃せず、両腕を地面へついた。脇腹の傷をかばうように身体を曲げ、前脚の位置を何度も直している。クチートもすぐには起き上がらず、大顎を開いて地面を押し、片膝から身体を起こした。

 

 客席の最前列では、ペパーが手すりに両手を置いたまま立っている。背中は伸び、目はコライドンだけへ向いていた。隣にいるネモも今は話しかけず、コートを見下ろしている。

 

「両方とも、かなり効いてるぞ! クチート、まだ立てるな」

 

 呼びかけに応じ、大顎が一度閉じた。

 

 ガチン。

 

 ORMのフードがクチートへ向く。マントの隙間から出た手が、低い位置で前へ動いた。

 

「“アクセルブレイク”」

 

 コライドンが再び走り出す。一歩ごとに肩が揺れ、最初の突進ほど身体は上がっていない。それでもクチートが横へ抜けられる幅は、数歩で潰される。

 

「避けなくていい。“てっぺき”で受けろ!」

 

 クチートの全身に金属の光が重なる。大顎を地面へ噛ませ、両足を開いたところへ、コライドンの肩がぶつかった。

 

 クチートの身体が大きく沈む。大顎の歯が土を掻き、二本の線を残しながら後ろへ押されていく。コライドンも傷ついた脚では踏ん張り切れず、進むたびに身体がクチートの左へずれた。

 

「そのまま外へ流せ! 通り過ぎる時に“メタルクロー”!」

 

 クチートが大顎を斜めに倒す。コライドンの肩が側面を滑り、巨体の向きが横へ変わった。クチートは押し潰される寸前で身体を外し、すれ違う脇腹へ銀色の爪を突き立てる。

 

 傷の上を結晶ごと削られ、コライドンの前脚が折れた。巨体が横倒しになり、芝生の上を滑って止まる。クチートも反対側へ転がり、大顎を支えに起き上がろうとした。

 

「倒したー!? いや、コライドンはまだ動いている!」

 

 コライドンの指が芝生へ食い込む。片腕で身体を持ち上げ、傷の少ない後ろ脚を腹の下へ入れた。立ち上がった姿勢は低く、脇腹の結晶には大きな穴が空いている。

 

 クチートは大顎を地面から離した。足元は揺れているのに、口元が上がって見えた。相手が大きく、力が強いほど、こいつは正面へ行きたがる。

 

「次は来るぞ。無理に押し返すな」

 

 俺の声に、クチートは大顎を開いたままコライドンへ向き直った。

 

 ORMの腕が下がる。

 

「“フレアドライブ”」

 

 コライドンの全身を炎が包んだ。陽射しの下で膨らんだ火は、傷のある前脚から頭上の結晶まで覆い隠す。走り出した身体は左右へ揺れ、真っ直ぐ進むだけでも芝生を深く抉っていた。

 

 横へ抜けろと指示すれば、クチートは動く。そう考えたところで、大顎が地面を噛み、両足が正面へ揃った。

 

 逃げるつもりがない。

 

「……だったら受け切れ! “てっぺき”から“アイアンヘッド”!」

 

 クチートの身体へ金属の光が走る。頭を銀色に染め、大顎を支えに低く構えた。炎をまとった巨体が迫り、二匹が正面からぶつかる。

 

 火がコート一面へ弾けた。クチートの足元が崩れ、大顎が芝生から引き抜かれる。コライドンも傷ついた前脚をついた途端に傾き、銀色の頭を肩へ受けたまま、数歩分押し戻された。

 

「クチート、そのまま押せ!」

 

 クチートが片足を踏み出す。コライドンの頭上で竜の飾りが揺れ、脇腹の結晶に残っていた亀裂が広がった。

 

 次の一歩を出す前に、コライドンの後ろ脚が地面を掴む。燃える肩が沈み、下から持ち上げるようにクチートへ力を返した。

 

 大顎が宙へ跳ね上がり、クチートの身体がコートの端まで飛ばされる。背中から落ちた小さな身体を追って大顎が地面へぶつかり、炎が消えたあとも動かなかった。

 

 コライドンも前脚をつけず、片膝を落とした。全身を包んでいた炎が消え、肩と脇腹から煙が上がる。頭上の結晶は残っているが、荒い呼吸のたびに身体が前後へ揺れていた。

 

 チリさんが二匹の間へ入り、クチートの横へしゃがむ。腕と呼吸を確かめたあと、立ち上がって片手を挙げた。

 

「クチート、戦闘不能! 第二戦もコライドンの勝ち!」

 

「耐えた! 削った! あと一歩が届かなかったぁ! ですがコライドンも、もう無傷とは正反対! エンニュートからクチートへ繋いだ攻撃が、確実に残っています!」

 

 クチートへボールを向ける。赤い光が身体を包む直前、大顎が開き、歯が一度だけ閉じた。

 

 ガチン。

 

「十分だ。休んでろ」

 

 光を収めたボールを腰へ戻す。顔を上げると、ペパーは手すりから片手を離していた。強く握っていた指を開き、息を吐くように肩を落としても、視線はコライドンから動かない。

 

 コライドンは片膝をついた姿勢から立ち上がり、傷の少ない腕を地面へ置いた。ドラゴンテラスタルの光は消えていない。前脚は浮き、脇腹の結晶は砕け、後ろ脚も深く曲がらない。金色の目だけが、次の相手を待つように俺へ向いていた。

 

 最後のボールを外し、手の中で握る。

 

「キルリア。あとは俺たちで倒すぞ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。