繋がりの王者   作:宵取与一

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6話

翌日。

俺たちは再び坑道の前に立っていた。

入口の奥には変わらない闇が広がっている。

最近はもう、よく見るようになった景色だ。

なのに今日は少し違って見えた。

足を踏み入れる前から感じる。

見られているような感覚。

 

坑道の奥。

 

灯りの届かない場所。

 

そこにクチートがいる。

 

『いる』

 

ラルトスの声が頭の奥に響いた。

 

「……ああ、いるね」

 

俺も小さく頷く。

隣に立つ男へ視線を向けた。

昨日、ゴーリキーを連れて坑道へ押し入った職人だった。

 

その表情は固いく、腕を組み、険しい顔で坑道を睨んでいる。

昨日よりは落ち着いている。

だけど、納得しているようには見えなかった。

 

「……で」

 

男が口を開く。

 

「今度は何する気だ」

 

「話す」

 

「話す?」

 

男は眉をひそめた。

意味が分からないという顔だ。

 

「相手はポケモンだぞ」

 

「うん」

 

「しかも大型の重機をあんなに粉々にできるようなやつだ」

 

「うん」

 

「……分かってねぇだろ」

 

呆れたように男が息を吐く。

俺は肩をすくめた。

 

「分かってるよ」

 

「なら何で来た」

 

少しだけ考える。

答えは決まっていた。

 

「理由を知りたいから」

 

男は黙った。

坑道の奥を見る。

暗闇を睨む。

 

「理由、か」

 

低い声だった。

 

「設備は壊された」

 

ぽつりと言う。

 

「仕事も止まった」

 

さらに続く。

 

「今度は怪我人がでるかもしれねぇ」

 

拳がわずかに握られる。

怒りが消えたわけじゃない。

 

恐怖も。

 

警戒も。

 

昨日の出来事が無くなったわけじゃない。

それでも、男はここにいる。

 

「だから俺はまだ信用してねぇ」

 

はっきりと言った。

 

「危険じゃないとも思ってねぇ」

 

俺は頷いた。

それでいい、別に、無理に納得する必要なんてない。

 

「でも」

 

男が続ける。

 

「昨日、お前が言ってたことが引っかかってんだ」

 

「引っかかってる?」

 

「ああ」

 

男は苦々しく笑った。

 

「もし本当に理由があるなら」

 

そこで言葉が止まる。

 

「知らねぇまま終わるのも気持ち悪ぃ」

 

その時だった。

 

ガチッ。

 

坑道の奥から音が響く。

鋼が噛み合う音。

男の肩がビクッと揺れる。

俺も反射的に奥を見る。

 

『近い』

 

ラルトスが小さく言った。

俺も感じた。

 

見ている。

 

聞いている。

 

沈黙が続く。

誰も動かない。

 

やがて、暗闇の奥に二つの瞳が浮かんだ。

赤く、鋭い瞳。

 

クチート。

 

男の喉が小さく鳴る。

それでも逃げなかった。

 

クチートも動かない。

 

ただ見ている。

昨日、自分へ向かってゴーリキーをけしかけた人間を。

じっと、時間をかけて。

 

『見てる』

 

ラルトスが呟いた。

 

俺は頷く。

クチートは俺ではなく、男を見ている。

 

その時。

 

男がぽつりと口を開いた。

 

「……まだ怖ぇよ」

 

小さな声だった。

 

「何考えてるか分からねぇしな」

 

苦笑する。

 

「今でも飛びかかってくるんじゃねぇかと思ってる」

 

強がりじゃない。

嘘でもない。

 

クチートは動かない。

 

男はそれでも視線を逸らさなかった。

 

「でも」

 

再び口を開く。

 

「昨日、俺にやられそうになってもお前は逃げなかった」

 

沈黙。

返事はない。

それでも男は続けた。

 

「だから」

 

ゆっくりと言葉を吐く。

 

「何を守ろうとしてるのかくらいは見てみてぇ」

 

ガチッ。

 

クチートの顎が鳴った。

長い沈黙。

風が吹く。

誰も動かない。

 

そして、クチートがゆっくりと背を向けた。

 

「……?」

 

男が眉をひそめる。

クチートは数歩歩いた後、止まってこちらを見る。

 

そしてまた歩く。

 

『……来て』

 

ラルトスが呟いた。

 

「え?」

 

『来て、って』

 

俺はクチートを見る。

クチートはもう一度だけこちらを見た。

赤いの瞳が細くなる。

それはいつものように敵意のある目じゃなかった。

かといって信用している目でもない。

 

クチートは坑道の奥へ歩き始める。

今度は振り返らない。

男が息を呑む。

俺はラルトスを見ると、ラルトスも小さく頷いた。

 

いつもは拒絶されていた。

でも今日は違う。

まだ信用はされていない。

許されたわけでもない。

 

それでも。

 

クチートは俺たちに何かを見せようとしている。

 

「……行こう」

 

俺はそう言った。

坑道の奥の闇を見据えながら。

クチートの背中は暗闇の中へ消えていく。

 

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