繋がりの王者   作:宵取与一

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17話

 

 

 焦げた芝の上で、チリさんがこちらを振り返った。俺とアイがボールを持っているのを見て、コートの外側へ下がる。

 

「ほな、次のポケモンを出して」

 

「頼むぞ、キルリア!」

 

 投げたボールから光が広がり、キルリアが爪先をついた。焼け跡を一度見下ろしてから、向こうへ顔を向ける。アイの前に降りたイワンコは、耳を立てて短く吠えた。

 

『イワンコも、頑張ろうね』

 

 声をかけられたイワンコが尻尾を振る。キルリアも片腕を上げたが、アイが名前を呼ぶと、イワンコは足を広げて姿勢を低くした。

 

「第二戦はキルリア氏とイワンコ! ついさっきまで仲良くしてた相手だって、コートに立てば真剣勝負! 先に一勝を挙げるのはどちらだぁ!」

 

 客席へ向きかけたキルリアの顔が戻った。両腕を身体から離し、片足を引く。俺はその背中越しに、イワンコの前脚を見た。腹の下へ引き寄せ、今にも飛び出しそうにしている。

 

「第二戦、始め!」

 

「イワンコ、“ふるいたてる”!」

 

 イワンコが顔を上げて吠えた。首の毛が逆立ち、地面を踏む脚に力が入る。

 

「“チャージビーム”!」

 

 キルリアの腕の間に電気が集まった。放たれた光を見てイワンコが横へ跳ぶ。着地した足で走り出すところへ、キルリアが腕を向け直した。

 

「“いわおとし”で止めて!」

 

 キルリアの頭上に岩が現れた。俺が声を上げると、キルリアは電撃を切り、落ちてくる岩の外へ跳び退く。砕けた破片が足元へ散る中を、イワンコが駆け抜けてきた。

 

「“かみつく”!」

 

「“テレポート”! 横へ出ろ!」

 

 開いた口の前からキルリアが消えた。イワンコはすぐに首を振り、離れた場所へ現れたキルリアを追う。小さな身体が傾き、ほとんど膨らまずに向きを変えた。

 

「“サイコショック”!」

 

 キルリアの周りから念の塊が飛んだ。イワンコは一つ目をかわしたが、次の塊が肩に当たり、横へ転がる。それでも起き上がると、耳をこちらへ向けたまま走り出した。

 

 キルリアの腕には細い電気が残っていた。イワンコが向きを変えるところへ狙いをつけ、もう一度“チャージビーム”を放つ。今度は脇腹を捉えた。走る脚がもつれ、イワンコが低く唸る。

 

「離れて、“がんせきふうじ”!」

 

 キルリアの右に岩が落ちた。続けて左にも落ち、土が跳ねる。正面にはイワンコがいるが、背後はまだ空いていた。

 

「後ろへ――」

 

 言いかけたところで、イワンコが岩の脇を回った。キルリアの足もそちらへ向く。その頭上に、また岩の影が重なった。

 

「違う、横の岩を越えろ! “テレポート”!」

 

 落ちた岩がキルリアのいた場所を塞いだ。左の岩を挟んだ向こうに姿が現れる。けれど、イワンコはもうそちらへ回り込んでいた。キルリアが腕を上げる前に飛びつき、片腕へ噛みつく。

 

『っ、離して!』

 

「足元へ“サイコショック”!」

 

 至近距離で生まれた念の塊が、イワンコの胸を打った。口が開き、キルリアは腕を引き抜いて離れる。白い腕に歯の跡が残っていた。

 

 イワンコも転がったが、起き上がって岩の間へ戻った。キルリアからその背中が見えなくなる。こちらが横へ出れば追いつけるよう、岩の陰で耳だけを動かしていた。

 

 下がる場所を残して、そこへ岩を落とす。外へ逃げれば、今みたいに噛みつかれる。

 

「キルリア、遠くまで離れなくていい。次はあの岩の上だ」

 

 噛まれた腕を寄せていたキルリアが、顔だけこちらへ向けた。

 

『足元が狭いから、長くは立っていられないよ』

 

「一発当てたら降りよう」

 

 キルリアがイワンコへ向き直った。俺が示した岩は、キルリアの背丈より少し低い。上からなら、陰にいるイワンコまで見える。

 

「“いわおとし”!」

 

 アイの指示で岩が降る。キルリアが消え、隣の岩へ爪先をつけた。イワンコは横へ走りかけてから顔を上げる。その鼻先へ、キルリアが両腕を向けた。

 

「“チャージビーム”!」

 

 電撃がイワンコの背へ落ちた。イワンコは低く身を伏せながら岩を離れ、キルリアも反対側の芝へ降りる。着地で膝が曲がったが、すぐに腕を構え直した。

 

「上を取ったぁ! 岩で追われたキルリア氏、今度はその岩を足場に反撃ー!」

 

 イワンコは顔を下げたまま息をしていた。アイが名前を呼ぶと、片耳が動く。地面を掻き、前脚を踏ん張ったところで、その身体が白く光った。

 

 キルリアが伸ばしかけた腕を止めた。光の中で脚が伸び、丸みのあった胴が細長くなる。首の周りが大きく膨らみ、尖った耳と長い尾が浮かび上がった。

 

 白い光がほどけた。芝へついた四本の脚は、さっきまでよりずっと長い。首には白いたてがみが広がり、その間から岩が突き出ている。

 

「ここで進化だぁー! イワンコ、ルガルガンへ進化しました!」

 

「まひるのすがたですね。あの長い脚を使った走りには、気をつけたいところです」

 

 オモダカさんの声を聞きながら、ルガルガンの足を見た。前脚を一歩出し、爪を芝へ立てている。アイが腰を少し落とすと、ルガルガンは首を向け、長い尾を振った。

 

「うん、見てるよ。そのままいこう!」

 

 ルガルガンがキルリアへ向き直る。身体を低くしたと思った次の瞬間には、距離が半分になっていた。

 

「キルリア、“テレポート”!」

 

 キルリアの姿が消えかけたところへ、たてがみの岩がぶつかった。身体が横へ跳ね、芝を転がる。ルガルガンはその先まで駆け抜けてから、前脚を突っ張って止まった。

 

「今のが“アクセルロック”ですね」

 

 実況席から聞こえた技名より、俺はキルリアの起き上がる方を見ていた。片膝をつき、顔を上げている。ルガルガンが振り向くと、キルリアは指示を待たず姿を消した。

 

 今度は岩の向こうへ出た。ルガルガンも追ったが、岩を曲がるところで後ろ脚が流れた。爪で土を掻き、外へ膨らんでから戻ってくる。

 

『さっきの距離じゃ、間に合わないよ』

 

「ああ。岩を間に置いてくれ」

 

 キルリアが動くと、ルガルガンも岩の横へ回った。あの速さで直線を走られたら、消える前に追いつかれる。俺はキルリアの立つ場所と、倒れず残っている岩を順に見た。

 

「“かげぶんしん”!」

 

 キルリアの姿が四つに増え、岩の両側へ散った。ルガルガンは近くの一つへ飛びつく。牙が空を噛み、消えた姿の向こうから電撃が走った。背中を打たれたルガルガンは、振り向きながら大きく跳び退く。

 

 キルリアが再び腕を上げた。ルガルガンは岩の間を走って狙いを外したが、出口で身体を曲げきれず、肩を岩へ擦った。

 

 イワンコの時は、あそこを簡単に曲がっていた。

 

「ルガルガン、広い方へ! “がんせきふうじ”!」

 

 アイの声でルガルガンが岩の並びを離れた。キルリアたちの頭上へ新しい岩が降る。二つの分身が消え、本体も岩陰から飛び出した。そこへルガルガンが身体を向ける。

 

「“アクセルロック”!」

 

「岩の後ろへ!」

 

 キルリアは横へ身を投げた。岩を挟めたものの、足がまだ外へ出ている。ルガルガンの肩がかすめ、キルリアは岩の裏で倒れた。残った分身も消えてしまう。

 

 ルガルガンは真っすぐ走り抜けた。今度は急に曲がらず、大きく回って戻ってくる。アイが指で行く先を示し、ルガルガンはその外側を走っていた。

 

 キルリアが岩へ手をついて立つ。噛まれた腕を下げたまま、細く息を吐いた。

 

 広く走らせれば、曲がり損ねることも減る。追いかけて撃っても、向こうが速い。俺は回ってくるルガルガンの脚を見た。真っすぐこちらへ向き直ると、今まで走っていた外側に広い芝が空いた。

 

「キルリア、次は岩から離れるぞ」

 

 キルリアがこちらを見た。俺はルガルガンが回ってきた方を指さした。

 

「走ってきた道の脇へ出てくれ。通り過ぎたところを狙う」

 

『……消えるの、早めにするね』

 

 キルリアは岩から手を離した。両腕を広げると、隣に同じ姿が並ぶ。そのうちの一つが岩陰を出た。

 

「“がんせきふうじ”! 離れたら追って!」

 

 岩が落ちた。外に出ていた分身が消え、キルリアも岩陰から姿を消す。ルガルガンはすぐには走らず、耳を動かしてコートを見渡した。

 

 現れたのは、ルガルガンが回ってきた広い芝だった。こちらへ身体を向けるまでに、キルリアの腕の間へ電気が集まる。

 

「“チャージビーム”!」

 

「横へ避けて、“アクセルロック”!」

 

 ルガルガンが電撃をかわした。後ろ脚が芝を蹴り、キルリアへ真っすぐ走る。キルリアは電撃を切ったが、まだ腕を下ろさない。

 

「今だ!」

 

 キルリアが消えた。ルガルガンは前脚を突っ張る。胸が沈み、後ろ脚が前へ滑った。身体を止めるまでに、芝へ二本の跡が伸びる。

 

 キルリアはその横へ出ていた。ルガルガンが首を向けても、脚はまだ踏ん張ったままだ。

 

「“サイコショック”!」

 

 念の塊が脇腹へ重なった。ルガルガンの身体が横へ倒れる。それでも前脚で地面を押し、牙を見せて顔を上げた。

 

「“かみつく”!」

 

 ルガルガンが飛びついた。キルリアが身を引いたが、避けきれず、牙が腕を捉える。細い身体が引かれ、足が芝を擦った。

 

「そのまま撃て!」

 

 キルリアは残った腕を前へ伸ばした。胸元で固まった念がルガルガンにぶつかり、噛んでいた口が離れる。二匹が別々に倒れ、キルリアは肘をついて身体を支えた。

 

 ルガルガンの脚が動いた。腹の下へ引き寄せようとして、途中で止まる。アイが身を乗り出したが、ルガルガンは顔を上げられなかった。

 

 チリさんが近づき、ルガルガンの様子を確かめる。それからキルリアへ顔を向けた。キルリアは震える脚で立ち上がり、噛まれた腕を身体へ寄せた。

 

「ルガルガン、戦闘不能! 第二戦、キルリアの勝ち!」

 

 歓声が上がった。アイがルガルガンのそばへしゃがみ、首の白い毛を撫でる。

 

「よく頑張ったね。戻って休もう」

 

 ルガルガンがボールへ戻るのを見届けてから、俺もコートへ入った。キルリアはこちらへ歩こうとして、片足を引きずった。駆け寄ってしゃがむと、噛まれていない方の手が肩に触れる。

 

『ちゃんと、曲がれなくなるところに出られたよ』

 

「ああ。最後までよく見てた。腕、触るぞ」

 

 身体を抱き上げると、キルリアは息を吐いて肩へ額を寄せた。腕に触れないよう支え直して、コートの外へ運ぶ。

 

 向かいでは、アイがボールを腰へ戻していた。俺もキルリアを戻し、空いた手を一度開く。指には土がついていた。

 

「さあ、ユア選手が一勝を挙げたところで、続くは三組目! クチートとドオーの対戦です!」

 

 アイが最後のボールを外した。俺も腰に残った一つへ手を伸ばし、土のついた指で握った。

 

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