結局のところ、俺たちの決着はつかなかった。
大会が終わってみれば、後に残ったのは静寂で、これまで湧き上がっていた歓声は嘘のように消えていた。それを少し寂しく思いながら、俺はコートの真ん中に立っていた。
客席の通路を、係の人が袋を持って歩いている。手すりに結ばれていた旗が外され、畳まれた布が台車へ積まれた。大型モニターには大会終了の文字が出ていて、誰の名前も載っていなかった。
靴の先へ目を落とす。乾きかけた泥に爪先を入れると、薄い表面だけが割れた。腰へ手をやれば、治療を終えた三匹のボールが指に当たる。服についた泥も洗ったはずなのに、袖口にはまだ茶色い線が残っていた。
通路の方で台車の車輪が鳴った。こんな小さな音まで聞こえるんだなと思いながら顔を上げたところで、後ろから呼ばれた。
「お疲れ様」
ネモが手を振っていた。隣にボタン、その後ろにはペパーがいる。ナンジャモさんが二人の間から顔を出し、ハイダイさんの横をチリさんとポピーが歩いてきた。オモダカさんも一緒だ。最後に、その後ろからアイが俺を見つけて手を上げた。
「いやぁ! いい試合を見せてもらいましたぞユア氏! ボクの配信もこの大会で視聴率がシビルドン上り! うひひひ!」
ナンジャモさんが足早に近づき、俺の前で両袖を広げた。その横からネモも顔を寄せる。
「ユア、パルデアに来た頃よりずっと強くなってる! またわたしとバトルしようね!」
「もうかよ。今、ボール返してもらったばっかりなんだけど」
「うん、今日はちゃんと休んで! そのあとでいいから!」
「そのあと、オレも入れとけよ! 次に大会やる時は、オレも出るからな!」
ペパーが後ろから声を張った。ナンジャモさんが半歩ずれ、俺もそちらへ顔を向ける。
「コライドンとミライドン、その二匹は禁止な」
「なんでだよ! まだ誰を出すとも言ってねえだろ!」
「わたしは戦いたい! どっちとも!」
ネモが振り返った。ペパーは俺へ向けかけた指を下ろし、ネモを見て口を開く。その声に、ハイダイさんの笑い声が重なった。
「ワッハッハ! 若いっていいもんだい! もう次の話か!」
「……大会終わったばっかなのに」
ボタンが俺の横へ来た。ネモたちを見ていた目がこちらへ向き、イーブイのバッグの肩紐を握り直す。
「ユア、お疲れ。いい勝負だった。でも、次は負けんから」
「ボタンも次の話してんじゃん」
「……うちは、今すぐやろうとは言っとらんし」
少し口を尖らせたボタンを見て、俺は笑った。ネモがこっちへ戻ろうとしたが、ペパーがまだ話していて、そちらへ顔を向け直している。
その間を抜けてきたチリさんが、俺の前で足を止めた。コートの端まで一度目をやり、それから俺へ戻す。
「正直びっくりやで。ユア、ほんま強なったな」
俺は腰へ置いていた手を下ろした。
「ありがと、チリさん」
「クチートちゃんも! とってもかっこよかったですの!」
ポピーがチリさんの横から身を乗り出した。俺の腰を覗き込み、ボールから顔へ目を動かす。
「もう元気になりました?」
「うん。今日はゆっくりさせてやってって。飯も食べていいってさ」
「じゃあ、ポピーが持っていってあげます!」
「熱いのはチリちゃんが持つで。皿ひっくり返さんようにな」
ポピーは両手で皿を持つ形を作り、頷いた。その頭の上から、オモダカさんが俺へ声をかける。
「ユアさん、とてもよいものを見せていただきました。まさか、この目で魂性の発現を見ることになるとは」
「俺も、あそこまでは初めて見た」
オモダカさんの視線がクチートのボールへ下りた。俺は指でその表面に触れたが、続く質問はなかった。
「またいずれ、詳しく聞かせてください。今日は皆さんと、ゆっくり過ごしましょう」
オモダカさんが横へ退くと、その後ろにアイがいた。洗った手をハンカチで拭き、ポケットへしまってから俺の前へ来る。
「……つかなかったね、決着」
「だな」
アイは俺の顔を見て、少し笑った。すぐ隣で喋っていたナンジャモさんが口を閉じ、ネモもこちらへ顔を向ける。
「でも、すごく楽しかった。あのバトル、ずっと終わらなきゃいいのにって思うくらい」
「俺も」
アイが右手を出した。握ると、指に力が返ってくる。俺も握り返し、そのまま目を合わせた。
「次は勝つから」
「だから、それ俺のセリフだろ」
アイが声を出して笑った。握っていた手が離れたところで、ハイダイさんが大きく腕を広げる。
「よーし! 話も済んだなら飯にするんだい! みんな、こっちへ来てくれよお!」
振り返ると、会場脇の広場に長いテーブルが並んでいた。台車を押してきた人が、その上へ蓋をした大皿を置いている。一皿置かれると、すぐに次の皿が運ばれた。
「あれ、全部食べるの?」
「もちろんだい! ポケモンたちの分もあるぞ! 腹が減っちゃ戦の後も楽しめんからな!」
蓋の隙間から湯気が漏れた。ハイダイさんが歩き出すと、ポピーがチリさんの手を引く。ネモもついていきかけて、まだ立っていた俺たちへ振り返った。
「ユア、アイ! 行こう!」
返事をしようとしたところで腹が鳴った。アイが俺を見て、何も言わずに肘で腕をつつく。
「分かってるって。行くよ」
ーー
大皿の蓋が開くと、焼いた魚とハーブの匂いが広がった。隣の皿には揚げ物が山になり、サンドイッチは具が見えるよう切って並べられている。飲み物の入った容器をチリさんがテーブルへ置くと、ポピーがその横へコップを一つずつ並べた。
ペパーは料理を見るなり、皿の山を持ってテーブルの端へ移った。俺にも数枚渡し、ポケモンたちが集まれるよう、椅子を少し外へ引く。
「ユア、そっち空けてくれ。皿を持って歩くとこに尻尾が出ると危ねえから」
「分かった。こっちでいい?」
「おう。そのくらいあれば大丈夫だ」
空いた場所へ、ハイダイさんがポケモン用の料理を運んできた。人の分とは器が違い、木の実や野菜が食べやすい大きさに切ってある。量の違う皿を俺とアイで受け取り、少しずつ間隔を空けて地面へ置いた。
ボールを開くと、キルリアがすぐに皿を覗いた。エンニュートは首を伸ばして匂いを嗅ぎ、クチートは俺のそばへ降りてから、テーブルと人の間を見回している。
向かいにはライチュウとルガルガン、ドオーが出てきた。ライチュウが座ろうとしたところへエンニュートの尾が伸びたので、俺が呼ぶと、尾先がゆっくり引き寄せられた。ライチュウは空いた場所に腰を下ろし、前脚で食べ物を持ち上げる。
キルリアはドオーの前にある大きな器を見て、自分の皿へ目を戻した。
『あっちはいっぱい入ってるね』
「身体の大きさが違うだろ。足りなかったらおかわりもあるって」
『じゃあ、これを食べてからにする』
キルリアが皿の前へしゃがんだ。ドオーはもう口を動かしていて、アイが器を押さえると、鼻先を少し持ち上げた。エンニュートもその隣で食べ始める。食べ物を追って尾が動くので、俺は通り道へ出ないよう皿を奥へずらした。
「クチートちゃんのは、これですか?」
ポピーが両手を出してきた。皿を渡すと、受け取ってから膝を曲げ、クチートのいる方へ顔を向ける。
「クチートちゃん! “絶対王者”ですの!」
「名前まで覚えてんの、早くない?」
「かっこいいからです! ポピー、ちゃんと覚えました!」
クチートが一歩引いた。ポピーの足も止まる。皿を持ったままクチートを見ていたので、俺は二人の間の地面を指さした。
「そこに置いてやって」
ポピーが皿を置き、手を離して一歩下がった。クチートは鼻先を寄せ、皿の中を確かめてから大顎を軽く閉じる。
ガチン。
「チリちゃん、いま鳴らしました!」
「見とったで。ほな、ポピーもご飯食べよか」
ポピーが振り返る間に、クチートは皿を少し引き寄せた。俺の少し後ろ、人の足が通らないところへ戻って座る。大顎の先が椅子に当たりそうだったので、その椅子だけテーブルへ寄せた。
アイが飲み物を二つ運んできた。
「はい、ユアの。食べ物はもう取った?」
「まだ。こいつらの分で手いっぱいだった」
「じゃあ、ボクのと一緒に――」
言いかけたアイの腰へ、ルガルガンが頭を押しつけた。アイはコップを置き、白いたてがみへ片手を入れる。ルガルガンの長い尾が左右へ揺れた。
「でかくなっても、それやるんだな」
「中身はさっきまでと同じだもん」
撫でられたルガルガンが、もう一度ぐっと頭を押した。アイの靴が半歩ずれ、テーブルへ手が伸びる。
「ちょ、力はさっきまでと違うって!」
俺はコップを奥へ避けた。アイがしゃがんで首を抱えると、ルガルガンも腰を落とす。耳の後ろを掻かれ、長い鼻先をアイの肩へ寄せた。アイの髪に白い毛が混じる。
「立ったままだと危ないな、それ」
「うん。……こら、もうご飯つけてるじゃん」
アイがルガルガンの口元を拭いた。俺も背へ手を置くと、耳だけがこちらを向く。撫で下ろした毛並みは首元と背中で感触が違い、指の先に少し硬い毛が引っかかった。
ボタンが俺たちのテーブルへ皿を二枚置いた。サンドイッチと、取り分けた料理が載っている。
「二人の分。ポケモンたちの世話してたら、全然食べられんでしょ」
「ありがと。ボタンのは?」
「ある。ネモがうちの分まで取ってきたから」
示された先を見ると、ボタンの皿だけサンドイッチが二つ重なっていた。ネモはその横で揚げ物を取り、ハイダイさんの話に頷いている。
「そんなに食べられる?」
「無理そうだったら、一個食べて」
ボタンはそう言って自分の席へ戻った。アイがルガルガンの首をもう一度撫で、立ち上がる。白い毛のついた肩を払ってから、俺の隣で皿を取った。
魚へフォークを入れると、焼けた表面が割れた。中から湯気が出て、ハーブの匂いが強くなる。口へ運ぶと熱く、少しずつ噛んで飲み込んだ。続けて食べようとしたところで、アイの手が俺のコップを近くへ寄せた。
「急がなくてもなくならないよ。まだあんなにある」
「分かってる。腹減ってんだよ」
「ボクも」
アイがサンドイッチを両手で持った。俺も次の一口を食べ、今度は飲み物へ手を伸ばす。皿の底が見える頃、ハイダイさんが俺たちの前へ来た。
「足りとるかい? 欲しいものがあったら言ってくれよお!」
「うまい。これ、上に載ってるのも一緒に食べていいんだよな?」
「そのために載せとる! 野菜にも合うぞ!」
ハイダイさんが取り分けてくれたところへ、ペパーが皿を持って寄ってきた。
「ハイダイさん、こっちの衣にもハーブ入ってるよな? 口に入れた時より、噛んだあとに香る」
「おお、分かるかい! 乾かしたやつを細かくして混ぜとるんだい。入れすぎると苦くなるからな、そこは少しずつだ!」
ペパーが頷き、揚げ物を割って中を見る。ハイダイさんは空いている皿へ一つ載せ、割った断面を指で示した。俺も覗き込んでいると、ペパーが自分の分を半分寄こしてきた。
「食ってみ。ソースなしでもうまいから」
受け取って口へ入れる。衣が軽く割れ、あとから香りが広がった。俺が頷くと、ペパーはハイダイさんへ向き直り、油へ入れる前の手順を尋ねた。
隣のテーブルから、ナンジャモさんの笑い声が聞こえた。片手にパンを持ち、スマホロトムへ顔を近づけている。
「うひひ……これはすごい数字ですなあ。こっちの集計も出たら、さらに――」
「飯くらい画面見んと食べぇや。ずっと同じパン持っとるで」
「むむっ、これは失礼!」
チリさんに言われ、ナンジャモさんがパンを齧った。スマホロトムは脇へ下がり、キルリアの顔の高さで止まる。キルリアがそちらへ目を向けたので、ナンジャモさんはパンを飲み込んでから袖を振った。
「今日はもう配信終了ですぞ、キルリア氏。次の出演はまた今度!」
『うん。今はまだ食べてるから』
キルリアは皿を引き寄せ、残っていた木の実を取った。ナンジャモさんもパンへ顔を戻す。チリさんが笑いながら飲み物を置いていった。
オモダカさんはテーブルの端に立ち、空いた器をまとめていた。運ぼうとした俺へ数枚だけ渡し、残りは自分で持ち上げる。
「そこの台へお願いします。戻ったら、おかわりもどうぞ」
「オモダカさんも食べた?」
「ええ。ハイダイさんが、なくなるたびに持ってきてくださいますから」
見ると、オモダカさんの場所には小さな皿が何枚も並んでいた。ハイダイさんが遠くから次の大皿を持ち上げて見せ、オモダカさんも笑って頷く。
器を置いて戻ると、アイが魚の下に残っていた野菜を食べていた。俺の皿にも、ソースを吸った野菜が残っている。フォークを取ったところで、ドオーが空の器へ鼻先を入れた。アイが気づき、追加の料理を少し取り分ける。
「結局、今回もお前に勝てなかったな」
「ボクも今日はキミに勝てなかったよ」
アイが器を戻した。ドオーは鼻先を上げ、また食べ始める。
「次な」
「うん。……あ、ルガルガン。それはドーの分」
横から首を伸ばしてきたルガルガンへ、アイが手を出した。鼻先が止まり、二つの器を順番に嗅ぐ。自分の皿へ戻ったものの、そちらはもう空だった。
「お前もか。食べる量まで増えてる」
「さっきの大きさで盛っちゃったからね。もうちょっと持ってくる」
アイが新しい皿を取ったので、俺も空の器を持ち上げた。戻る途中、ポピーがクチートの横へしゃがんでいるのが見えた。ポピーは自分の料理を食べながら、クチートが噛むたびに顔を向けていた。
クチートは皿から目を離さず、ポピーも触ろうとはしない。俺がそばを通ると、大顎が少し動いた。邪魔にならないよう足をずらし、テーブルへ戻る。
皿を置いたあと、隣から視線を感じた。アイが俺を見ている。自分の口元を拭いてみたが、何もついていなかった。
「何?」
「別に」
アイは顔をそらさなかった。口元が少し上がっている。
「じゃあ見るなよ。……お前、また何かする気じゃないだろうな」
「鋭い」
「やっぱする気じゃん」
アイが皿をテーブルへ置き、一歩近づいた。頬へ軽くキスをして、すぐに離れる。
俺はフォークを持ったまま止まった。向かいでペパーの声が途切れ、顔を上げると目が合った。
「おぉ……」
ペパーの視線がアイへ動く。その隣のネモも俺たちを見て、少し遅れて口を開いた。
「おぉー……」
「おぉー!」
ポピーまで声を合わせた。皿を両手で持ち、ネモの顔と俺たちを交互に見ている。
「……なんでみんな見てんだよ!」
言ってから頬へ手を当てた。アイは隣に立ったまま、俺を見ている。
「……またかよ」
「あの時は、いたずらのキス」
アイが少し首を傾けた。
「今度は、ここまで強くなったキミに、ご褒美のキス」
言い終えると、アイは皿を取った。フォークで野菜を寄せ、こっちを見ないで口へ運ぶ。横を向いた耳が赤かった。
「お前ら、いつからそんな感じなんだよ」
ペパーが皿を置いた。俺は頬から手を下ろし、首を振る。
「知らん!」
「昨日から?」
「そこで答えんな!」
アイが笑った。ボタンはコップを口元へ上げたまま、俺とアイを見比べる。
「……人前でやることか、それ」
「ほんとだよ!」
「若いなぁ」
チリさんが呟く横で、ナンジャモさんが両袖を握った。
「くぅ~! 配信切った後にこれとは惜しいですぞー!」
「切っててよかったよ!」
俺が声を張ると、ハイダイさんが大きく笑った。ポピーが「仲良しですの!」と言い、チリさんのそばへ戻る。オモダカさんも口元を緩めていたが、目が合うと軽く頷くだけで、何も言わなかった。
ネモはまだ俺たちを見ていた。何か言いかけてから、隣のボタンに袖を引かれ、自分の皿へ目を落とす。手に持っていた揚げ物がフォークの先から落ちかけていて、慌てて口へ入れた。
俺はアイへ身体を寄せ、声を落とした。
「みんなの前でやるなよ……」
「なんで?」
「なんでって……今みたいになるだろ」
アイが一度みんなの方を見る。ペパーとハイダイさんはもう料理の話へ戻っていたが、ペパーだけまだ少し口元が緩んでいる。
「ボクの方がお姉ちゃんだし、ご褒美くらいいいでしょ」
「二歳しか違わねぇ!」
また声が大きくなった。アイが笑い、ペパーも堪えきれずに顔を伏せる。俺は皿へ目を落とし、冷めかけた料理をフォークで刺した。
「もういい。食う」
「うん」
アイも隣で食べ始めた。俺が野菜を口へ入れると、アイは少し遠くにあった飲み物をこっちへ寄せる。受け取って一口飲み、コップを置いた。
キルリアがテーブルの横へ来て、俺の手に空の器を重ねた。
『これ、どこに置いたらいい?』
「向こうで集めてる。俺が持っていくよ」
『まだ食べてるでしょ。場所を教えてくれたら持っていけるよ』
台の場所を指すと、キルリアは器を抱え直して歩いていった。ポピーも空いた皿を持ってついていきかけたが、自分の皿にはまだ料理が残っていて、チリさんに呼び止められた。
「先に食べてしまい。皿はそのあとや」
「分かってます! これを食べたら持っていきます!」
ポピーが椅子へ戻った。チリさんが飲み物を渡し、自分もようやく椅子へ腰を下ろす。その横へネモが皿を持って寄っていった。
「チリさん、今度わたしともバトルしてください!」
「今度な。今日のチリちゃんは、もう仕事終わりや」
「はい! じゃあ、いつがいいですか?」
「今度の予定も、今決めるんかい」
ボタンが横で肩を落とした。チリさんは笑いながら料理を口へ運び、ネモはその返事を待って隣へ座る。ナンジャモさんも席を寄せ、空いたコップを持ち上げた。
「そんな話を聞いたら、ボクも実況したくなっちゃいますなあ!」
「まずそれ飲んで食べ終わり。全然休憩にならへんやん」
チリさんの声に、また笑いが重なった。
ハイダイさんが追加の料理を取りに行き、ペパーも空の大皿を持って追いかけた。戻ってくると、さっきより少し小さな皿がいくつも並ぶ。ペパーが置き場所を空ける間、俺は近くのコップを端へまとめた。
足元では、ライチュウが前脚で口元を拭っていた。エンニュートは食べ終えた皿の横で身体を伏せ、尾をゆるく曲げている。ドオーはアイの椅子のそばへ腹をつき、ルガルガンもその隣へ座った。長い尾が通路へ出たので、アイが少しだけ椅子を動かす。
俺はクチートのそばへしゃがんだ。空になった皿を取ると、顔がこちらへ向く。頭へ手を置き、短く撫でてから離した。クチートはその場から動かず、大顎を後ろへ下ろした。
「ねえ、ユア」
立ち上がると、アイが隣にいた。皿に残っていた一口を飲み込み、俺へ顔を向ける。
「次は勝つから」
「俺が勝つ」
すぐに返すと、アイが笑った。
「じゃあ、また決着つかないかもね」
「それは困る」
「ボクは別にいいよ」
俺が顔を向けると、アイは少し考えるように視線を上げた。それからこっちへ戻す。
「またバトルできるから」
俺も笑って、空の皿をテーブルへ置いた。
「決着ついてもやるだろ、どうせ」
「うん、やる」
「できたぞお! 食べたいものから取ってくれい!」
ハイダイさんの声に、ネモが真っ先に立ち上がった。アイが取り皿を二枚重ねて持ち、一枚を俺へ差し出す。受け取って隣へ並ぶと、ペパーが向かいから大皿を少しこっちへ寄せてくれた。