繋がりの王者   作:宵取与一

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9話

 

 

 二つの白い光が広場へ落ちた。ブライア先生の前にウインディが現れ、大きな前脚を踏み出す。低い唸り声が聞こえたので顔を上げると、たてがみの下の目が俺たちを捉えていた。

 

 スグリの前には、蜜飴をまとった大きなりんごがあった。そこから幾つもの首が伸び、中央の頭が高く持ち上がる。左右の頭は、俺とアイへ別々に向いていた。

 

「カミツオロチ……。あのカミッチュ、進化したのか」

 

 スグリは仮面を片腕に抱えたまま足を踏み替えた。俺が名前を呼んでも、肩の揺れは止まらない。

 

「キビキビ!」

 

 ウインディが身体を低くした。カミツオロチも中央の首を俺たちへ向け、口を開く。俺はボールを持ち上げ、アイと一緒に二匹を出した。

 

「ビブラーバ、頼むぞ!」

 

「ルガルガン、お願い!」

 

 ビブラーバが羽を広げて浮き、ルガルガンがアイの前へ降り立った。その背中越しに、スグリたちの後ろにある像が見える。看板の脇にも生徒がいた。カミツオロチへ正面から撃てば、外れた技が像へ向かってしまう。

 

「ここじゃ祠が近い。もう少し広い方に移動しようぜ」

 

「うん。ルガルガン、こっち」

 

 俺たちは広場の横へ移った。ウインディが顔を向け直して歩き、カミツオロチも尾で地面を押して後に続く。スグリと先生は像の近くに残り、同じ声を繰り返していた。

 

 祠と像が右手へ外れたところで止まった。正面は踏み固められた土で、左端には岩と少し高くなった地面がある。ウインディが俺たちの前に立ち、その奥にカミツオロチが収まった。二匹の背後は、人のいない広場の端だ。

 

「アイ、地上を頼む。俺は上から行く」

 

 アイが頷き、ルガルガンへ手を向けた。俺もビブラーバへ指示する。

 

「“こうそくいどう”!」

 

 羽音が高くなり、ビブラーバが斜めに上がった。広場を回り込む速度が増していく。ウインディがその動きを追って顔を上げた時、ルガルガンが土を蹴った。

 

「“アクセルロック”! カミツオロチへ!」

 

 首元の岩に光が走る。ルガルガンが低い姿勢で踏み込んだが、その進路へウインディが飛び込んだ。大きな身体が横から迫り、肩と肩がぶつかる。

 

 ルガルガンが押し出され、前脚で土を削った。“しんそく”だ。“アクセルロック”の踏み込みに割り込まれ、カミツオロチまで届かなかった。

 

「踏ん張って! 横へ回って!」

 

 ルガルガンは脚を開いて身体を支え、ウインディの脇へ走った。その間にビブラーバがカミツオロチの斜め上まで来る。中央の頭はルガルガンを見ていたが、脇の頭が上を向いた。

 

「ビブラーバ、“りゅうのはどう”!」

 

 口元へ青紫の光が集まった。新しく覚えて、一緒に練習してきた技だ。ビブラーバは羽を振って身体を支え、カミツオロチへ波動を放つ。光が空気を震わせながら斜め下へ伸びた。

 

 カミツオロチの尾が土を押した。中央の首が引かれ、大きな身体が横へ動く。波動は首の脇を抜け、後ろの地面へ突き刺さった。土がめくれ、跳ねた砂利が蜜飴の表面へ当たる。

 

 ビブラーバが飛び抜けようとすると、カミツオロチが中央の頭を上へ向けた。その口にも光が集まっている。

 

「左へ抜けろ!」

 

 ビブラーバが羽を傾けた。カミツオロチの“りゅうのはどう”が腹の下を通り、空へ伸びる。左へ避けたビブラーバが向きを変えようとしたところへ、地上から炎が上がった。

 

 ウインディが空を見上げていた。“かえんほうしゃ”が旋回する先へ伸び、ビブラーバの羽へ迫る。曲がりきるだけの距離がない。ビブラーバは身体を下へ倒し、炎の下へ潜った。羽の端が熱に揺れたが、低い位置で身体を起こした。

 

「ビブラーバ、こっちへ戻れ!」

 

 炎が途切れた間に手前へ呼び戻した。ルガルガンもウインディから離れ、地上で向き直っている。二匹とも相手の前へ入れていたのに、どちらも攻め続けられなかった。

 

 アイがウインディへ目を向けた。

 

「ボクがもう一回近づく。ビブラーバは右から行ける?」

 

「ああ。ウインディがそっちを見たら撃つ」

 

 ルガルガンがウインディの左側へ回り込んだ。ウインディが地上へ向き直り、脚を踏み替える。その途中へ“アクセルロック”が入り、横腹を押した。大きな身体がカミツオロチから少し離れる。

 

 俺はビブラーバを低い位置から上げた。炎の吐かれていない側を回り、カミツオロチへ口を向けさせる。中央の頭もこちらを追ったが、波動はビブラーバの身体へ向かわなかった。

 

 光が左側の空間を貫いた。ビブラーバが右へ羽を傾けると、その先でウインディが口を開く。

 

「下だ、ビブラーバ!」

 

 ビブラーバは集めかけた光を消し、地面近くまで降りた。炎が頭上を抜ける。けれど、低くなった進路へ黄色い塊が飛んできた。カミツオロチの“かふんだんご”が土の近くで弾け、広がった粒が腹へ当たる。

 

 ビブラーバが脚を縮め、地面へ降りた。俺が呼ぶと頭を上げたが、羽には土がついていた。身体を起こすのを見ながら、今の攻撃を思い返す。

 

 最初に炎を避けた時、ビブラーバは左へ大きく回った。今度は左へ波動を撃たれ、右へ動けば炎、下へ降りれば“かふんだんご”が待っていた。カミツオロチはビブラーバのいる場所へ撃つだけではなく、避ける場所を狭めていた。

 

 ドレディアとのバトルでは、カミッチュは何度も外してから狙いを変えてきた。今回は一度見せた飛び方で、次の攻撃を合わせてくる。

 

「前のバトルからそんなに経ってねぇのに……もう対応できるようになってんのかよ」

 

 スグリへ目を向けた。彼は仮面を抱え直し、また同じ声を上げていた。指示を出せる状態には見えない。それでもカミツオロチは、ウインディの位置まで見ながら攻撃をつないでいた。

 

 ビブラーバが羽を広げた。俺はその顔へ目を戻す。

 

「ビブラーバ、次は大きく回るな。低く飛んで、短く切り返すぞ」

 

 土を蹴って浮いたビブラーバが、広場を低く横切った。ウインディが口を向けると、羽を傾けて進路を折る。カミツオロチの中央の頭も追って動いた。ほかの頭は地上のルガルガンへ向き、上を見ている間にも接近を捉えている。

 

 ルガルガンがウインディの前へ出た。ウインディが顔を下げたところで、アイが声を張る。

 

「“バークアウト”!」

 

 低い咆哮が広場へ響いた。黒い音の波がウインディの胸へ当たり、その奥のカミツオロチまで広がる。ウインディが首を振り、カミツオロチの幾つもの首が沈んだ。ルガルガンは叫び終えるとすぐ横へ走り、二匹の正面から外れた。

 

 ウインディが追って吐いた炎は、さっきより薄かった。ビブラーバは炎の端をかすめながらも姿勢を崩さず、地上を走るルガルガンの上へ抜ける。続いて飛んだカミツオロチの波動も、地面を浅く削って消えた。

 

 威力は落ちている。俺はウインディがルガルガンへ向き直るのを見て、ビブラーバをカミツオロチの横へ寄せた。

 

「“むしのさざめき”!」

 

 羽の振動が変わった。高い音が重なり、俺の耳にも響く。カミツオロチの首が震え、尾が土を掻いた。中央の頭がビブラーバへ口を向けようとするが、首が揺れて光がまとまらない。

 

 ビブラーバは近づきすぎず、横へ飛びながら音を当てた。カミツオロチがそちらへ身体を回す。その低い首へ、地上のルガルガンが踏み込んだ。

 

「“こおりのキバ”!」

 

 白い冷気が牙へまとわりついた。カミツオロチは中央の頭を地上へ下げ、頭部の前に爪の形をした青い光を作った。首が振られ、“ドラゴンクロー”がルガルガンの鼻先を薙ぐ。

 

 ルガルガンは前脚を突っ張って身を引いた。牙を届かせられず、横へ跳んで爪を避ける。光が土を削った。その溝の脇へ着地したルガルガンを、ウインディが追ってきた。

 

「左へ跳んで!」

 

 ルガルガンが着地した脚で身体を支え、後ろ脚を蹴り直す。炎をまとったウインディが迫り、“フレアドライブ”が肩をかすめた。ルガルガンは横へ押し出され、土へ脚をついた。前脚が一度曲がったが、踏み直して立ち上がる。

 

 ウインディも走り抜けた場所で頭を低くした。炎が消えると肩が大きく上下し、短い息が漏れる。突進の反動が残っていた。けれど、上を飛ぶビブラーバへ目を向けると、前脚を踏み出した。

 

 吐く炎が弱まっても、あの突進を続けて受ければルガルガンも持たない。ビブラーバをウインディの斜め上へ回し、口を向けさせる。ウインディが顔を上げた時、地上からルガルガンが入った。

 

「“かみなりのキバ”! すぐ離れて!」

 

 牙が肩口へ食い込み、電気がたてがみの根元で弾けた。ウインディが身体を振る。ルガルガンは牙を外し、後ろへ跳んだ。追って向き直ったウインディの胸が、ビブラーバの射線へ入る。

 

「“りゅうのはどう”!」

 

 青紫の波動が斜め下へ伸びた。ウインディが頭を上げたが、避けきれず胸へ受ける。大きな身体が土を滑り、前脚が地面を掴んだ。ルガルガンは波動の通る場所から離れ、ウインディの脇で向き直る。

 

 ウインディが立ち上がった。肩を低くして脚を置き直し、すぐには走らない。アイがルガルガンへ手を向けた時、カミツオロチから黄色い塊が飛んだ。

 

 俺はビブラーバを退かせかけたが、塊はウインディの背へ向かっていた。“かふんだんご”が当たり、細かな粒が身体を覆う。ウインディが首を上げ、沈んでいた背を持ち上げた。

 

「くそ、回復までしてくんのかよ」

 

 ウインディが強く土を蹴った。肩口の傷は残り、息も荒い。けれど、ルガルガンが近づくと、さっきより速く身体を向け直した。カミツオロチは中央の頭を上へ戻し、またビブラーバを追っている。

 

 俺はビブラーバを高く上げた。ルガルガンを追うウインディへ口を向けさせると、ウインディも空を見上げた。開いた口に、炎とは違う強い光が集まる。

 

「“はかいこうせん”だ! ビブラーバ、“こうそくいどう”! 大きく回れ!」

 

 ビブラーバが羽を傾け、広場の端から中央へ弧を描いた。太い光が空へ伸び、通ったばかりの場所を貫く。速度を上げても、一瞬で向きは変えられない。ビブラーバが曲がりきる途中へ光の端が迫り、背の近くで衝撃が弾けた。

 

 身体が傾いた。ビブラーバは羽を振って耐えたが、高度が落ち、土へ脚をついて滑る。浮き直そうとしても、片側へ傾いたままだった。

 

「ビブラーバ! ……大丈夫だ、慌てんな。体勢を戻せ」

 

 俺の声に頭が上がり、羽が広がった。ウインディへ目を戻すと、口から光が消え、四本の脚で立ったまま止まっている。ルガルガンが横へ走っても、顔を向けられなかった。

 

 アイがウインディの脇を指した。

 

「今だよ。“アクセルロック”!」

 

 ルガルガンが踏み込んだ。カミツオロチが中央の首を下げ、地上へ波動を撃つ。ルガルガンは横へ跳んで射線を外し、着地した勢いでウインディへ肩をぶつけた。大きな身体が傾いても、ウインディは脚を運べない。

 

 カミツオロチがもう一度口を向けた。ルガルガンは追撃をやめ、手前へ戻る。ビブラーバまで攻め込ませたいが、まだ羽の動きが揃っていなかった。俺は身体の傾きが戻るのを待ち、低い位置へ浮かせた。

 

 ウインディが頭を動かし、前脚を踏み直した。ルガルガンへ向き直る。その奥でカミツオロチの中央の首が下がった。口へ集まっているのは、さっきのウインディと同じ光だ。

 

 ルガルガンが回り込もうとする広場の中央へ、頭が向いた。ビブラーバも今、低い位置から中央へ戻ろうとしている。

 

「ビブラーバ、横へ抜けろ!」

 

「ルガルガン、こっちへ戻って!」

 

 二匹が離れた間へ“はかいこうせん”が伸びた。光が地面の近くを走り、土を跳ね上げる。ビブラーバは煽られて身体を傾け、低いまま広場の端へ逃れた。ルガルガンも土煙を抜け、アイの近くで振り返る。

 

 光が消えると、カミツオロチの中央の首が低く垂れた。ほかの頭も動かず、目だけがルガルガンを追っている。けれど、その前にはもうウインディが戻っていた。

 

 ビブラーバが横から近づくと炎が伸び、ルガルガンが駆ければ“しんそく”が割り込んだ。ルガルガンは肩をぶつけられ、土を滑って距離を取り直す。その間にカミツオロチの首が上がり始めた。

 

 ウインディへ近づけばカミツオロチが撃ち、カミツオロチが動けなくなればウインディが来る。二匹が同じ場所へ戻れる限り、できた隙に攻め込めない。

 

 俺は削れた土へ目を落とした。ビブラーバを高く飛ばす必要はない。地上を走るウインディへ、下から当てられる。

 

「アイ、ビブラーバを潜らせて、ウインディを下から狙う。岩の近くまで追わせられるか?」

 

「やってみる。出てくるタイミングは、キミに任せるよ」

 

 アイがルガルガンを呼び、ウインディから見える位置へ立たせた。俺はビブラーバを土へ降ろす。像の土台から離れ、石の少ない場所だった。

 

「“あなをほる”! ウインディの横へ回れ!」

 

 ビブラーバが脚で土をかき、頭から潜った。羽も尾も穴へ消える。カミツオロチの頭が二つ、穴へ向いた。中央の頭は、地上に残ったルガルガンを追っている。

 

「ルガルガン、“アクセルロック”!」

 

 ルガルガンがウインディの側面へ踏み込んだ。ウインディは肩を引いて避け、身体を回す。ルガルガンが広場の左へ走ると、ウインディも後を追った。カミツオロチとの間が開いていく。

 

 黄色い塊がルガルガンの進路へ飛んだ。“かふんだんご”が足元で弾け、ルガルガンは跳んで粒を避ける。着地する場所を横へずらしたところで、ウインディが急に止まった。

 

 前脚を突っ張り、足元へ顔を向けている。土が小さく盛り上がっていた。ビブラーバが進んでいる場所を見つけられたんだ。

 

「ビブラーバ、待て! まだ出るな!」

 

 土の動きが止まった。ウインディはルガルガンへ目を戻しても、盛り上がった土の手前から動かない。カミツオロチも顔をこちらへ向け直し、口に光を集め始めた。

 

 アイがルガルガンへ手を振った。

 

「もう一回。今度は逃げすぎないで、ウインディの目の前を抜けて!」

 

 ルガルガンが引き返した。ウインディの鼻先まで入り、前脚が動くのを見ると短く横へ跳ぶ。カミツオロチの波動がその着地点へ伸びたが、ルガルガンは着地した脚を蹴り、ウインディの正面へ戻った。

 

 ウインディの顔が土から離れた。身体に炎が走り、目の前のルガルガンへ踏み込む。ルガルガンが横へ抜けても、ウインディの身体はもう前へ伸びていた。

 

「ビブラーバ、今だ!」

 

 ウインディの横で土が裂けた。ビブラーバが地中から飛び出し、胸の下を身体で突き上げる。前脚が地面から離れ、まとい始めていた炎が乱れた。

 

 ウインディは身体をひねったが、着地で脚が揃わず、横腹を土へ打ちつけた。ビブラーバは尾まで地上へ抜け、羽を開く。カミツオロチの中央の頭がこちらへ向いたが、ルガルガンがその正面を横切ると、口が地上へ下がった。放たれた波動がルガルガンの後ろを通り、土を削る。

 

 ウインディが前脚へ力をかけた。けれど、身体を起こす途中で脚が沈み、また胸が土へ近づく。ほのおタイプに地面の攻撃は強く通る。立ち上がった後も、前脚を踏み直してからでないと進めなかった。

 

「よし、ビブラーバ! 上がれ、カミツオロチの正面からは外れるぞ!」

 

 ビブラーバが羽を振り、ウインディの左上へ上がった。地上ではルガルガンがウインディとの距離を取り直している。カミツオロチは広場の奥に残り、二匹を追って頭を動かした。

 

 ウインディが顔を上げた。肩口の傷も、土へ打ちつけた横腹の跡も残っている。それでもルガルガンへ身体を向けると、炎が全身を包んだ。

 

「ルガルガン、左の岩の方へ! 高い地面を使って!」

 

 ルガルガンが広場の端へ走り、盛り上がった土へ駆け上がった。ウインディの“フレアドライブ”が追ってくる。ルガルガンは岩を背にする手前で身体を折り、低い側へ跳び降りた。

 

 ウインディは坂へ踏み込んだ勢いを曲げきれず、肩がルガルガンの脇腹をかすめた。ルガルガンが横へ飛ばされ、土へ脚をつく。短い声を漏らし、片方の前脚を浮かせたが、踏み直してウインディへ顔を向けた。

 

 ウインディも低い地面へ着地し、身体を縮めた。炎が消え、頭が下がる。突進の反動で脚が震えた。ルガルガンはその正面を避け、広場の中央へ走り戻った。

 

 カミツオロチがウインディへ首を向けた。口に黄色い粒が集まっている。

 

「アイ、また回復させようとしてる!」

 

「ルガルガン、カミツオロチへ! “こおりのキバ”!」

 

 中央へ戻ったルガルガンが、そのままカミツオロチへ踏み込んだ。冷えた牙が低い首へ迫る。地上を見ていた頭が引かれ、中央の頭もウインディから離れた。黄色い粒が散り、爪状の光が前へ伸びる。

 

 ルガルガンは振られた“ドラゴンクロー”の脇へ身を滑らせた。カミツオロチが首を引き、さらに身体をずらす。その横へ、岩の近くからウインディが駆け戻ってきた。

 

 ルガルガンへ向き直ろうとするが、前脚の踏み替えが遅い。カミツオロチとの間へ入る途中で、横腹がルガルガンの前へ出た。

 

「“アクセルロック”! ウインディへ!」

 

 ルガルガンが進路を変えた。肩がウインディの側面へ入り、大きな身体が横へ揺れる。その上では、ビブラーバが岩の上方から中央へ回り込んでいた。

 

 ウインディの背後は土の空き地だ。ルガルガンが身体の脇を抜けたのを見て、俺は手を振った。

 

「“りゅうのはどう”!」

 

 ビブラーバの口から波動が伸びた。ウインディの胸から肩へ当たり、大きな身体を土へ押し込む。ウインディは前脚を突っ張ろうとしたが、支えきれずに横へ倒れた。

 

 頭が一度持ち上がり、地面へ戻った。胸は動いている。けれど、もう立とうとはしなかった。ルガルガンが距離を取り、アイの声で手前へ戻る。

 

 俺はブライア先生を見た。先生は倒れたウインディへ顔を向け、まだ両腕を揺らしていた。

 

「キビキビ!」

 

「先生! ウインディを戻してください!」

 

 先生の手はボールへ向かわなかった。足を踏み替え、同じ声を上げる。俺がもう一度呼ぼうとした時、空へ波動が伸びた。

 

「ビブラーバ、横だ!」

 

 ビブラーバが羽を傾けて避けた。カミツオロチの中央の頭が上を追っている。残った一匹は、ウインディが倒れても首を下げず、ルガルガンへも低い頭を向けていた。

 

 アイがカミツオロチを見て、ルガルガンへ手を伸ばした。

 

「ルガルガンで引きつけるから、上から狙って」

 

「ああ。上を向いた時は頼むぞ」

 

 ルガルガンがカミツオロチの左へ回った。中央の頭が地上へ下がり、爪の光を振る。ルガルガンは跳び退き、着地するとすぐ横へ走った。その間にビブラーバが右上へ入る。

 

「“りゅうのはどう”!」

 

 今度こそ中央の首を捉えられる。俺はビブラーバの向く先を見た。けれど、口に光がまとまる途中で、カミツオロチの尾が土を押した。大きな身体が横へ動き、波動が蜜飴の縁をかすめて地面へ落ちる。

 

 ビブラーバは撃つ時に速度を落とし、顔を目標へ固定していた。カミツオロチは、その姿勢になった時点で避けている。光が飛んでから動いたのではなかった。

 

「マジかよ……。撃つタイミングまで覚えたのか」

 

 中央の頭がビブラーバへ戻った。ビブラーバが上へ逃れようとすると、首も上を追う。俺は横へ抜けるよう指示したが、波動の端が尾を捉えた。

 

 ビブラーバが空中で回った。羽を大きく振って身体を起こす。カミツオロチはもう口を向け直していた。俺は息を吸い、ビブラーバが回り終える方向へ手を向ける。

 

「ビブラーバ、止まって狙うな! 飛びながら撃つぞ!」

 

 ビブラーバが横へ飛んだ。中央の首が追って伸びると、ルガルガンがその下へ踏み込んだ。

 

「“アクセルロック”!」

 

 肩が大きなりんごの横へ当たった。カミツオロチの身体が押され、上を向いた首が揺れる。中央の頭が地上へ戻り、爪の光を振ったが、ルガルガンはぶつかった勢いを使って脇へ走り抜けた。

 

 ビブラーバが横へ飛びながら口を向けた。

 

「“りゅうのはどう”!」

 

 カミツオロチはルガルガンを迎撃した直後で、首を引いたが、身体を動かすのが遅れた。飛ぶ速度を落とさずに放った波動の端が蜜飴を削り、地面へ落ちる。

 

 ビブラーバは止まらず、カミツオロチの横へ降りた。俺が“むしのさざめき”を指示すると、羽音が広がり、中央の首が震える。ほかの頭がルガルガンを追って顔を引いた。カミツオロチがそちらから離れる方へ身体を動かすと、ビブラーバを狙う首も揺れる。

 

 ルガルガンが冷気をまとった牙を見せた。カミツオロチはさらに首を引き、土を押す。けれど、ビブラーバの音を受けながらでは、身体を回しきれなかった。

 

 俺はビブラーバを少し上げ、音を切らせた。中央の頭が追って伸びる。ルガルガンは正面へ飛び込まず、低い首の横へ回った。

 

「“こおりのキバ”! 当てたらすぐ離れて!」

 

 カミツオロチが中央の首を下げ、爪の光を振った。ルガルガンは身体を縮め、肩へ光の端を受けながらも、低い首の付け根へ牙を届かせた。

 

 白い冷気が広がった。蜜飴の表面へ霜が走り、カミツオロチの首が一斉に跳ねる。中央の頭から長い声が上がり、大きな身体が傾いた。

 

 ルガルガンが牙を外して後ろへ跳んだ。前脚が着地で滑ったが、身体を低くして踏みとどまる。肩には爪の光を受けた跡が残っていた。

 

 カミツオロチは尾で土を押し、身体を支えようとした。けれど、氷を受けた首が低く垂れ、中央の首まで震えている。くさとドラゴンの両方へ氷が強く通った。首を持ち上げようとしても上がりきらず、身体をずらす動きも止まった。

 

 俺は追撃を指示しかけた手を止めた。中央の頭がビブラーバへ顔を向け、まだ口を開いている。

 

「距離を取れ、ビブラーバ!」

 

 黄色い塊が飛んだ。ビブラーバが羽を傾けると、“かふんだんご”が手前の土で弾ける。広がった粒を腹へ受け、ビブラーバが脚を縮めた。高度が落ち、羽を強く振り直す。

 

 カミツオロチも技を出した後に首を低くした。ルガルガンが横へ動くと顔を向けるが、さっきほど身体を回せない。氷を受けた首は垂れたまま、尾が同じ場所で土を押していた。

 

 ルガルガンの前脚にも震えが出ていた。踏み替えて身体を支え、息を吐いている。ビブラーバも旋回するたびに高度が下がり、羽を大きく動かして戻さなければならなかった。

 

「スグリ、もう止めてくれ! カミツオロチ、かなり傷ついてるぞ!」

 

 俺が呼ぶと、スグリの顔が上がった。アイはルガルガンを手前へ呼び、俺もビブラーバを退かせる。けれど、スグリは仮面を抱えた腕を揺らしただけだった。

 

「キビキビ!」

 

 カミツオロチの中央の頭が持ち上がった。口へ青紫の光が集まる。退いたビブラーバを追って首が伸び、今いる高さへ照準が合い始めた。

 

「ユア、来るよ!」

 

 アイがルガルガンを横へ回した。冷えた牙が低い首へ迫り、カミツオロチの身体が少しずれる。中央の頭も揺れた。その間に俺はビブラーバを斜め上へ動かした。

 

「ビブラーバ、上へ回れ! 途中で高さを落とすぞ!」

 

 ビブラーバが羽を振り、上がりながら右へ曲がった。中央の頭がその先へ向く。俺が手を下げると、ビブラーバは上昇をやめ、低い側へ身体を傾けた。

 

 カミツオロチの首もすぐ下がった。ビブラーバが通った場所へ撃たず、切り返した先へ口を向けている。避ける場所を変えても、狙いが外れない。

 

 ビブラーバの羽が大きく振られた。尾が下がり、身体が一度傾く。ここからまた向きを変えれば、その途中へ波動が来る。カミツオロチの口元では、光が膨らんでいた。

 

「ビブラーバ、“りゅうのはどう”!」

 

 ビブラーバが飛ぶ勢いを残したまま顔を向けた。口へ集めた光が強まる。ルガルガンがカミツオロチの正面から離れ、アイの方へ跳んだ。

 

 カミツオロチの尾が土を押した。氷を受けた首は上がらなかったが、中央の頭はビブラーバを捉えたまま伸びる。

 

 二つの“りゅうのはどう”が放たれた。

 

 斜め下へ伸びるビブラーバの波動と、斜め上へ伸びるカミツオロチの波動が、広場の中央でぶつかった。地面から離れた空間で光が砕け、次の波が押し寄せる。衝突した場所が膨らみ、その下で土が跳ねた。

 

 ビブラーバの身体が後ろへ流れた。羽を大きく振って支え直し、口から波動を送り続ける。カミツオロチも中央の首を揺らしながら向きを保った。尾が地面を押し、大きな身体の下で土がずれていく。

 

 光のぶつかる場所がカミツオロチへ近づいた。けれど、口から強く波が伸びると、また中央へ押し戻される。ビブラーバの尾が下がり、片側の羽が遅れた。身体を傾け直し、もう一度光を送り込む。

 

「負けんな、ビブラーバ……!」

 

 俺は拳を握った。カミツオロチの中央の首も低く曲がり、口の向きを保つたびに震えている。どちらの波動も途切れず、ぶつかった中心から風が広がった。

 

 アイが戻ってきたルガルガンのそばへ腰を落とした。俺の服も風ではためく。土が跳ねる範囲が大きくなり、光の中心が上下に揺れ始めた。

 

 ビブラーバの波動が細くなった。カミツオロチの首も震え、光の波が崩れる。膨らんだ中心が、横へ裂けた。

 

「伏せて!」

 

 アイの声の直後、光が弾けた。俺は腕で顔を覆い、脚を開いて踏みとどまる。風に押されて片膝が地面へ落ちた。細かな砂利が腕へ当たり、土煙が広場を覆う。

 

 羽音が途切れた。

 

「ビブラーバ!」

 

 俺が顔を上げると、ビブラーバが低い位置から降りてきた。脚が土につき、傾いた身体を尾で支える。羽は細かく震えていたが、すぐには浮き直せなかった。

 

「もういい、撃たなくていい! 止まってろ!」

 

 口が閉じた。ビブラーバは俺へ顔を向け、脚で身体を支えた。俺が近づこうとした時、土煙の向こうでカミツオロチの頭が上がった。

 

 ルガルガンが前へ出ようとする。アイが呼び止め、そばへ戻した。ルガルガンの前脚が細かく震えている。

 

 カミツオロチも身体を起こしていた。氷を受けた首は低いまま、中央の口が開く。けれど、光はすぐには集まらず、首が下がった。俺は次の指示を出さず、ビブラーバへ手を伸ばした。ここからもう一度撃ち合えば、どちらも大きく傷つく。

 

「キビキビ……」

 

 声が途切れた。スグリの空いた腕が下がり、踏み替えていた足が止まる。膝が一度曲がったが、仮面を抱え直して立ち直った。

 

 ブライア先生も肩を揺らしかけて止まった。持ち上げていた手を自分で見て、指を開く。先生は像へ顔を向け、それから土煙の残る広場を見回した。

 

「スグリ!」

 

 俺が呼ぶと、顔がこちらへ向いた。目に浮かんでいた紫色が薄くなり、俺を見たまま動きが止まる。

 

「……ユア?」

 

 俺は息を吐いた。スグリが俺からアイへ目を移し、傷ついたカミツオロチを見た。

 

「わやじゃ……。カミツオロチ、どうしたん?」

 

「あとで話す。まず、止めてやってくれ」

 

 カミツオロチの中央の頭がスグリへ向いた。スグリは仮面を片腕で支え、空いた手を伸ばす。

 

「カミツオロチ、もういい。戻って……」

 

 中央の口が閉じた。ほかの頭も俺たちから離れ、スグリへ向く。尾で身体を押し、首を低くしたまま彼のそばへ寄った。スグリが首の付け根へ手を近づけ、ボールを向ける。赤い光が大きな身体を包んだ。

 

「ウインディ……!」

 

 ブライア先生が倒れたウインディへ駆け寄った。そばへ膝をつき、胸が動いているのを確かめる。たてがみに手を添えて声をかけたが、ウインディは立ち上がらなかった。先生はボールを向け、光の中へ戻した。

 

 アイが先生のそばへ近づいた。先生が顔を上げ、俺たちと削れた地面を見た。

 

「……私たちが、あなたたちと戦っていたのですか?」

 

「はい。先生たちが急にポケモンを出してきたんです。呼んでも、キビキビって言うばかりで……」

 

「そう、だったんですね……。あなたたちに、怪我は?」

 

 アイが首を振った。先生は息をつき、ウインディのボールを両手で持ち直した。俺もビブラーバの前へしゃがむ。顔の横へ手を添えると、ビブラーバがゆっくり口を向けた。

 

「よくやったな。もう終わりだ。休んでろ」

 

 ビブラーバをボールへ戻した。アイもルガルガンの肩を確かめてから戻し、ボールを鞄へしまう。スグリもカミツオロチのボールを持ったまま、揺れなくなった自分の手を見ていた。

 

 アイがスマホを取り出した。

 

「ゼイユに連絡するね。ユア、スグリくんのそばにいて」

 

「ああ」

 

 俺は散った砂利を避け、スグリのところまで歩いた。スグリが土煙を吸って咳き込む。背へ手を添えると、俺の顔を見て、仮面を抱える腕に力を入れ直した。

 

「ちょっと座ろうぜ」

 

 スグリが頷いた。広場の端へ並んで腰を下ろし、碧の仮面を膝へ載せる。包んだ布についた土を払うと、緑の縁と、直した額の飾りが覗いた。スグリは布をかけ直し、両手で仮面を支えた。

 

 

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