繋がりの王者   作:宵取与一

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……らいばるぅ?
1話


クロガネシティを出てから数日、山道を越え、見知らぬ森を抜け、何度か道を確かめ直した末に、俺たちはようやく目的の町へ辿り着いた。

 

「……でっか」

 

 町へ入った途端、思わずそんな声が漏れた。

 

 首を反らしても、一番上まで見えない建物が並んでいる。広い道には人が途切れることなく行き交い、建物の壁に取り付けられた巨大な画面では、知らない店の宣伝が次々と流れていた。画面から聞こえる明るい声に、人の話し声やポケモンの鳴き声、道路を走る車の音まで混ざり、どこへ耳を向ければいいのか分からない。

 

 クロガネシティも大きな町だと思っていたが、それは俺がほかの町を知らなかっただけらしい。ここでは建物も道も人の数も、何もかもがクロガネよりずっと大きく、立ち止まっている俺たちを置いて、町だけが休まず動き続けていた。

 

『……ひと、おおい』

 

「ああ……多すぎるだろ」

 

 仕事へ向かうらしい人、買い物袋を抱えた人、ポケモンと手を繋いで歩く子ども。見たことのない服を着た人もいれば、聞き慣れない話し方をする人もいて、どこへ目を向けても新しいものが飛び込んでくる。

 

『……ユア』

 

「ん?」

 

『……じゃま』

 

「え?」

 

 ラルトスの視線を追うと、俺たちの後ろには人の流れができていた。町へ入ったところで立ち止まり、道を半分塞いでいたらしい。

 

「うわ、ごめん!」

 

 慌てて端へ寄ろうとした瞬間、すぐ後ろから驚いた声が上がった。

 

「うわっ!?」

 

 振り返ると、近くを通ろうとした男が大きく体を引き、クチートから距離を取っている。クチートは何もしていなかったが、大顎をわずかに持ち上げ、近づいてくる人の流れを赤い瞳で追っていた。

 

「な、なんだこいつ……」

 

 男は俺たちを避けるようにして去っていき、クチートはその背中を見送ると、大顎を短く鳴らした。

 

 ガチン。

 

「人が多いの、嫌か?」

 

 クチートは答えず、俺の後ろへ回ると、通り過ぎる人に合わせて立つ場所を変えた。誰かが近づけば一歩下がり、空いたところができればまた元の距離へ戻る。隠れようとはしないが、人の流れへ入るつもりもないらしい。

 

『……きらいそう』

 

「だよな。俺も、ちょっと疲れそう」

 

 クチートの大顎がもう一度鳴った。今度は賛成したようにも聞こえたが、本当のところは分からない。

 

 俺は道の端から、改めて町を見回した。遠くには大きな時計台があり、その周りをさらに高い建物が囲んでいる。見慣れた赤い屋根のポケモンセンターも見えるが、それ以外は知らない店と読めない看板ばかりで、右を向けば食べ物の匂いが漂い、左を向けば色鮮やかな服が店先へ並んでいた。

 

『……どうする?』

 

「まずは歩いてみよう。ここで見てても、何があるか分からないし」

 

『……うん』

 

 ラルトスが頷き、クチートも少し遅れて後ろへつく。俺たちは人の流れが途切れたところを選び、町の中へ足を踏み出した。

 

 歩き始めると、さっきよりも見るものが増えた。建物は上へ上へと伸び、窓の数を数えようとしても途中で分からなくなる。道の向こうには、何階あるのか見当もつかない建物まで立っており、俺は歩きながら何度も顔を上げた。

 

「すげぇな。あれ、どこまで続いてるんだ?」

 

『……まえ』

 

「え?」

 

 ラルトスの声に顔を戻した時には遅く、肩が誰かへぶつかった。

 

「っと、ごめんなさい!」

 

 慌てて頭を下げると、相手の人は少し驚いた顔をしたあと、笑って手を振った。

 

「大丈夫だよ。観光?」

 

「たぶん、そんな感じです」

 

「じゃあ、上ばかり見て歩かないようにね」

 

「はい……」

 

 その人は人混みの中へ消えていった。クロガネでは、歩いているだけで知らない人へぶつかることなんてほとんどなかった。

 

『……二回目』

 

「まだ一回しかぶつかってないだろ」

 

『……じゃまに、なったのも』

 

「それも数えるの?」

 

 ラルトスは当然という顔で頷き、俺は何も言い返せなくなった。後ろを見ると、クチートまでこちらを見ており、大顎がガチンと鳴る。

 

「クチートまで笑ってないよな?」

 

 返事の代わりに、もう一度だけ顎が鳴った。

 

 気を取り直して歩いていると、今度は道の反対側を歩くポケモンたちが目に入った。小さなポッチャマが子どもの後ろを懸命についていき、パチリスが飼い主の肩から街灯へ飛び移り、その下ではブイゼルが噴水の縁へ前足を掛けて水を覗き込んでいる。図鑑で名前を見たことはあるが、実際に動いている姿を見るのは初めてだった。

 

『……しらない』

 

「俺も。あれがポッチャマで、あっちがパチリス……たぶん」

 

『……たぶん?』

 

「図鑑で見ただけだから、ちょっと自信ない」

 

 俺たちが立ち止まって見ていると、ポッチャマがこちらへ顔を向けた。目が合ったと思った次の瞬間、子どもに呼ばれて急いで走り出し、小さな足でつまずきそうになりながら人混みへ消えていく。

 

「本当にいるんだな」

 

『……なにが?』

 

「図鑑に載ってるポケモン。知ってるつもりだったけど、歩き方とか鳴き声までは分からなかった」

 

 ラルトスはポッチャマが消えた方を見ながら、静かに頷いた。

 

 少し進めば、また知らない店があり、その先には大きな広場が見える。広場の中央では楽器を演奏している人がいて、周りには足を止めて聴いている人とポケモンが集まっていた。立ち止まりたいものばかり増えていき、どれから見ればいいのか決められない。

 

 数日歩き続けてきたせいで、足は少し重かった。それでも、休みたいとは思わない。

 

「あっちも見たいし、その店も気になるな」

 

『……ぜんぶ?』

 

「全部は無理だろうけど、見られるだけ見よう」

 

 そう答えながら歩き出すと、さっきまでより自然と足が速くなった。ラルトスがすぐ隣へ並び、クチートは人との距離を取りながらも、俺たちの後ろを離れずについてくる。

 

 知らない人、知らないポケモン、知らない景色。

 

 町へ着いたばかりなのに、もう見たいものが多すぎた。

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