繋がりの王者   作:宵取与一

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4話

バトルが終わったあとも、しばらく俺は動けなかった。

ラルトスは無事だった。

戦闘不能になっただけで、大きな怪我はない。今はベンチに座りながら木の実をかじっている。

 

けれど、俺の胸の中は全然落ち着かなかった。

負けた。それも、どうしようもなく。

ラルトスは最後まで戦った。

最後まで立とうとしていた。

 

なのに勝てなかった。

 

いや、違う。

 

勝たせてやれなかった。

 

『ごめん』

 

不意にラルトスが言った。

俺は顔を上げる。

 

『まけた』

 

「違う」

 

即座に否定した。

その言葉だけは聞きたくなかった。

負けたのはラルトスのせいじゃない。

 

「悪いのは俺だ」

 

ラルトスが首を傾げる。

 

『ユア?』

 

「ああ」

 

視線を落とす。

アイの言葉が頭から離れない。

――問題はキミ。

反論できなかった。

途中から何を指示すればいいのか分からなくなっていた。

焦って、慌てて、迷って。

攻撃を叫ぶことしかできなかった。

 

その間もアイは落ち着いていた。

ドオーを見て、ラルトスを見て、俺まで見ていた。

 

その差が、そのまま結果になった。

 

「納得いかねぇ……」

 

思わず漏れる。

 

「負けたから?」

 

向かいのベンチから声が返ってきた。

アイがドオーの頭を撫でながら、こちらを見ていた。

 

「……いや」

 

少し考える。

 

「負けたのは悔しい」

 

「うん」

 

「でも、それより、何も出来なかったのが悔しい」

 

アイは黙って聞いていた。

 

「途中から何すればいいか分かんなくなった」

 

「そうだろうね」

 

あっさり肯定された。

少しムッとする。

でもアイは気にした様子もなく続ける。

 

「ラルトスは強いよ」

 

その言葉にラルトスが顔を上げる。

アイは続けた。

 

「念力も上手かったし、テレポートのタイミングも絶妙、なにより、よく周りを見てた」

 

そして少しだけ笑う。

 

「正直、思ったよりずっと強かった」

 

ラルトスが照れたように目を逸らした。

 

『えへへ』

 

その姿に少しだけ空気が和らぐ。

でも俺は納得できなかった。

 

「ならなんで負けたんだよ」

 

少し強い口調になる。

アイは気分を害した様子もなく答えた。

 

「経験だよ」

 

一言だった。

 

「経験?」

 

「うん」

 

アイは指を一本立てる。

 

「キミはラルトスとドーしか見てなかった」

 

俺は黙る。

 

「ボクは違う」

 

アイは続けた。

 

「ドーの調子を見て、ラルトスの動きを見て、君の判断を見る」

 

「俺?」

 

「うん」

 

当然みたいに頷く。

 

「いい?ポケモンバトルってね、トレーナーも戦うんだよ」

 

その言葉は少し意外だった。

 

「指示を出すだけじゃだめ、相手のトレーナーも観察するの」

 

アイは真剣な表情で続ける。

 

「焦ってるか、迷ってるか、次に何を考えてるか」

 

そこでアイは少し笑った。

 

「途中からキミ、顔に全部出てた」

 

「……マジか」

 

「うん」

 

かなり恥ずかしい。

思わず顔を覆う。

アイが肩をすくめた。

 

「別に珍しくないよ、初心者なら普通だし、ボクも最初はそうだったから」

 

その言葉に少しだけ救われた気がした。

少なくとも馬鹿にはされていないらしい。

しばらく沈黙が流れる。

ドオーがのんびり鳴いた。

ラルトスは木の実を食べ終えると、ベンチから降りてドオーの方へ歩いていった。

 

『つよかった』

 

ラルトスが言う。

ドオーはぽけっとした顔のまま鳴いた。

 

『やさしい』

 

「それはそう」

 

アイが笑う。

 

「ボクの相棒だもん、ドーは、優しいに決まってる」

 

ドオーが嬉しそうに尻尾を揺らした。

その様子を見ていると、さっきまで本気で戦っていたのが嘘みたいだった。

 

「なあ」

 

「ん?」

 

「アイって、どれくらい旅してるんだ?」

 

ふと気になった。

俺と同じくらいの年に見える。

なのに差がありすぎた。

 

「本格的に旅を始めたのは一年くらい前かな、10歳の時にパルデアの学校に入学して、11歳までは猛勉強してから旅を始めて、今12歳だよ」

 

「一年……」

 

思わず呟く。

たった一年。

でも、その一年でこんなにも差が付く。

 

俺はまだ何も知らない。

知らないことばかりだ。

 

バトルも、旅も、ポケモンも。

アイはそんな俺を見て少し笑った。

 

「でもさ」

 

「?」

 

「キミは面白いよ」

 

予想外の言葉だった。

 

「面白い?」

 

「うん」

 

アイは頷く。

 

「普通、旅に出たばかりの子がクチート連れて歩いてない、あのポケモンは本来山奥に住んでるポケモンだからね」

 

思わず後ろを見る。

少し離れた壁際。

クチートは相変わらずそこにいた。

じっとこっちを見ている。

 

「それに」

 

アイは続けた。

 

「ラルトスもキミを信頼してる」

 

ラルトスがきょとんとする。

 

「そういうのは見れば分かる」

 

アイは立ち上がった。

 

「だから次は負けないように頑張ればいい」

 

「次?」

 

「次、ボクはまたキミと戦うつもりだけど」

 

その言葉に思わず笑う。

今日出会ったばかりなのにもう次の話をしている。

でも不思議と嫌じゃなかった。

 

「今度は勝つ」

 

そう言うと。

アイは楽しそうに笑った。

 

「うん、そうして?その方が面白い」

 

そして少しだけ前に出て、

 

「次は負けないから」

 

そう言った。

 

「それ俺の台詞だろ」

 

「早い者勝ち」

 

初めて会ったばかりなのに。

なぜかそのやり取りが妙にしっくり来た。

窓の外では夕方の光が差し込んでいる。

悔しさはまだ消えていない。

 

でもそれ以上に。

少しだけ前を向ける気がした。

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