繋がりの王者   作:宵取与一

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7話

夕暮れの通りに、少しだけ気まずい沈黙が落ちた。

 

俺はアイを見る。

アイは女性を見ていた。

女性は相変わらず穏やかな笑顔のままだ。

 

「知り合いか?」

 

俺が聞くと、アイははっとしたように視線をこちらへ戻した。

 

「いや……知り合いじゃない。ただ、なんか気になっただけ」

 

「なんだそれ」

 

「ボクにも分からない」

 

本当に分からないらしい。

アイは少し眉をひそめたあと、それ以上は何も言わなかった。

女性はそんなやり取りを見て、小さく笑う。

 

「お友達?」

 

「友達っていうか……今日負けた相手です」

 

アイが吹き出した。

 

「その紹介やめて」

 

「間違ってないだろ」

 

「間違ってないけど、もっと他に言い方あるでしょ」

 

「じゃあ何て言えばいいんだよ」

 

「ライバルとか」

 

「まだ一回しか戦ってないのに?」

 

「うっ……」

 

アイが言葉に詰まる。

その反応が面白くて少し笑ってしまった。

 

アイは不満そうに頬を膨らませた。

女性はそんな俺たちを見て楽しそうに笑っている。

 

「それで?」

 

アイが改めて女性を見る。

 

「あなたは?」

 

「私?」

 

「うん。ユアの知り合い?」

 

「今日会ったばかりよ」

 

「今日会ったばかり?」

 

アイが俺を見る。

俺も頷いた。

 

「今日っていうか、ついさっきだな。資料館で話しかけてもらったんだ」

 

「それで一緒に歩いてるの?」

 

「流れで」

 

「流れで知らない人と一緒に歩くんだ……」

 

呆れたような目で見られた。

なんか失礼だな。

 

「いい人だぞ」

 

「それは今のところ分かる」

 

アイはそう言いながら女性へ視線を戻す。

 

「で、結局あなたは誰なの?」

 

女性は少しだけ首を傾げた。

 

「ただの旅人よ」

 

アイが黙る。

明らかに納得していない。

でも女性は平然としていた。

 

「北へ向かう途中なの」

 

「北?」

 

「ええ」

 

「ハクタイ方面?」

 

「そうなるわね」

 

アイは少し考える。

 

「ボクとは真逆か」

 

「あらそうなの?」

 

「シンジ湖の方へ行く予定」

 

その言葉に俺は少し驚いた。

 

「もう次の目的地決まってるのか」

 

「決めてないの?」

 

「まだ」

 

「行き当たりばったりだなぁ……」

 

「うるさい」

 

でも否定できなかった。

実際その通りだからだ。

アイは肩をすくめる。

 

「ボクは見たいものがあるんだよ」

 

「シンジ湖に?」

 

「うん」

 

俺たちはそのまま近くの広場へ移動した。

宿へ向かう前に少し休憩しようという話になったのだ。

広場にはいくつかベンチが置かれていて、噴水の周りでは子供たちが遊んでいる。

夕焼けに染まった空は少しずつ夜の色へ変わり始めていた。

 

ベンチへ腰を下ろす。

風が気持ちいい。

歩き続けていた疲れも少し和らいだ。

 

『ねむい』

 

ラルトスがぽつりと呟く。

 

「寝るなよ」

 

『がんばる』

 

全然頑張れそうな顔をしていなかった。

女性が少し笑う。

 

「可愛いわね」

 

『?』

 

ラルトスは意味が分かっていないらしい。

首を傾げていた。

 

そこから自然と会話が始まった。

 

 地方の話。

 

 旅の話。

 

 ポケモンの話。

 

 女性は色んなことを知っていた。

 

パルデアの話になるとアイが驚き、ジョウト地方の古い伝承の話になると今度は俺が驚く。

カントーやホウエンの話まで出てきて、気付けば俺もラルトスも普通に聞き入っていた。

 

『しらなかった』

 

『そんなのあるんだ』

 

ラルトスも何度も驚いている。

俺も同じだ、世界は広い。

コトブキに来てから何度も思っていることだ。

でも今は、その広さを少しだけ覗いている気分だった。

アイも最初は普通に会話していた。

けれど時間が経つにつれて、少しずつ表情が変わっていく。

 

 女性が話す。

 

 アイが驚く。

 

 また話す。

 

 また驚く。

 

その繰り返しだった。

やがてアイは我慢できなくなったらしい。

 

「……なんでそんなこと知ってるの?」

 

ぽつりと聞いた。

その場が少し静かになる。

それは俺も気になっていた。

資料館の時からそうだ。

 

 歴史。

 

 神話。

 

 地理。

 

 地方文化。

 

 ポケモン。

 

知識の量がおかしい。

旅人だからで説明できるレベルじゃない。

女性は少しだけ笑った。

 

「好きだから」

 

「それだけ?」

 

「それだけじゃないかもしれないわね」

 

資料館でも同じやり取りをした。

曖昧な答えだった。

 

アイはますます怪しそうな顔をする。

でも女性は気にした様子もない。

まるで反応を楽しんでいるみたいだった。

その時だった。

 

「きゃあっ!」

 

悲鳴が響いた。

広場の空気が一瞬で変わる。

俺たちは反射的に立ち上がった。

視線を向けると、人混みが大きく割れていた。

何かが暴れている。

ポケモンだ。

逃げ惑う人たち。

慌てて子供を抱き上げる親の姿も見える。

 

「まずいね」

 

アイが呟いた。

ドオーも立ち上がる。

ラルトスが前へ出る。

クチートも静かに身構えた。

俺も駆け出そうとした。

 

ーーその瞬間だった。

 

「待って」

 

女性の声。

不思議と、その一言で足が止まる。

女性はゆっくり立ち上がった。

焦らず、慌てもせず。

周囲は混乱しているのに、その人だけが妙に落ち着いて見えた。

まるで最初から状況が見えているみたいに。

女性は暴れるポケモンを見つめ、小さく息を吐く。

 

「大丈夫。すぐ終わるから」

 

静かな声なのに妙な説得力があった。

そう言って腰のボールへ手を伸ばす。

 

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