繋がりの王者   作:宵取与一

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3話

 

 

 カラン。

 

ーー小石が転がる音がした。

俺は反射的に身構える。

さっきまでコドラに追いかけられていたせいで、心臓がまだ落ち着いていない。

 

 ーーもしまた敵だったら。

 

そう思うだけで足が震えそうになる。

どうやらそれはラルトスも同じようで、いつの間にか俺の腕の中にいたラルトスも身体を強ばらせている。

 

『……くる』

 

小さな声が頭の中に響く。

俺は唾を1つ飲み、暗闇の奥をまっすぐ見つめる。

 

 やがて。

 

小さな影がひょこっと姿を現した。

 

「……え?」

 

思わず間の抜けた声が出る。

現れたのはコドラではなかった。

丸っこい体に短い足、茶色い毛並み。

そして、前歯の大きなポケモン。

 

「ビッパだ」

 

ビッパは俺たちを見ると首を傾げ、

「ビパ?」

と鳴く。

 

緊張感が台無しだった。

俺はその場に座り込む。

 

「なんだよ……」

 

どっと、肩の力が抜ける。

本当に、心の底から安心した。

ビッパは俺たちの周りを少し歩いた後、興味を失ったらしく別の通路へと消えていった。

 

静寂が戻る。

俺は大きなため息を吐いた。

 

「はぁ……」

 

今度こそ本当に一息つけそうだった。

腕の中を見る。

ラルトスも少し落ち着いたみたいだ。

 

「……下ろしてもいいか?」

 

そう聞くとラルトスは少し迷ったあと、小さく頷いた。

俺はゆっくり地面へ下ろす。

いくらラルトスが小さくて軽いとはいえ、7歳の俺の腕の力じゃ抱えていられる時間にも限界はある。

ラルトスは近くの岩に寄りかかるように座った。

その距離はさっき出会った時よりは近く、多少警戒を解いてくれたことが伺える。

まだ傷が痛むようで、動きはぎこちなかった。

 

「大丈夫か?」

 

ラルトスは少し黙る。

それから。

 

『……いたい』

 

と、一言だけ返事が返ってきた。

 

「だよなぁ」

 

俺は苦笑した。

見れば分かる。

むしろよく動けるなってレベルだ。

 

ラルトスも少しだけ視線を逸らす。

なんだか気まずそうだった。

 

しばらく沈黙が続いた。

でも、不思議と嫌な空気じゃない。

俺は思い切って聞いてみる。

 

「なあ」

 

『……?』

 

「なんで追いかけられてたんだ?」

 

ラルトスが固まった。

赤い瞳が伏せられる。

聞いちゃまずかっただろうか。

 

そう思った時。

 

『……たべもの』

 

「食べ物?」

 

『……おなか、すいてた』

 

俺は瞬きをする。

ラルトスは少し恥ずかしそうだった。

 

『……きのみ、ひろった』

 

『……でも』

 

『……コドラの』

 

「あー……」

 

理解した。

ラルトスが見つけた木の実は、コドラの縄張りの中にあった木の実だったんだろう。

 

空腹で。

食べ物を探して。

木の実を拾った。

 

だけどそれがコドラの縄張りの中のものだった。

 

そして見つかって、追いかけられた。

抵抗しながら逃げて、傷ついた、と。

 

「災難だったな」

 

『……うん』

 

ラルトスの声は小さかった。

確かにコドラからしたら縄張りを荒らされた形になる。

でもラルトスだって生きるためだった。

どっちが悪いとは簡単には言えない。

 

しばらくして。

 

今度はラルトスが俺を見る。

じっと、まっすぐに。

 

『……ユアは?』

 

ラルトスは、ここで初めて俺の名前を呼んだ。

 

「俺?」

 

『……どうして、ここにいるの』

 

その質問に、今度は俺が気まずくなった。

 

「えーっと……」

 

なんて説明しよう。

少し悩む、けど正直に話すしかない。

 

「足跡を見つけたんだ」

 

『……あしあと?』

 

「うん」

 

俺は、ラルトスに出会うまでの経緯を最初から話した。

 

家族でテンガン山へ来ていたこと、珍しい足跡を見つけたこと、気になって追いかけたこと、気付いたら父さんたちとはぐれていたこと、洞窟に入ったこと。

 

ーーそして。

 

迷ったところでラルトスと出会ったこと。

 

全部。

ラルトスは黙って聞いていた。

途中で何度か瞬きをする。

そして俺が話し終えた時。

 

『……ばか』

 

と、一言だけ呟いた。

 

「えっ」

 

思わず変な声が出た。

ラルトスは真顔だった。

 

『……すごく、ばか』

 

「そんなにはっきり言う!?」

 

ラルトスは少しだけ目を細める。

たぶん、笑ったんだと思う。

ほんの少しだけ、だけど確かに。

最初に会った時よりずっと柔らかい表情だった。

俺もつられて笑ってしまう。

 

「否定できないけどさ」

 

『……うん』

 

「自分でもそう思う」

 

『……うん』

 

「そこまで同意されると傷つくんだけど」

 

ラルトスがまた少しだけ笑った気がした。

ほんの少しだけ、本当に少しだけ。

 

だけど、それを見て俺は安心した。

 

 ーーよかった。

 

少なくとも今は怯えていない、嫌われてもいない。

 

 ぐぅぅぅ。

 

静かな洞窟に妙な音が響いた。

俺とラルトスが同時に固まる。

 

音の発生源は――。

 

『……』

 

ラルトスだった。

顔を伏せる。

耳まで赤くなってるような気がした。

もちろんこんな薄暗い洞窟じゃはっきりとは分からないけど。

 

俺は思わず吹き出す。

 

「やっぱり腹減ってるんじゃん」

 

『……』

 

「木の実探すか」

 

そう言うと、ラルトスは少し驚いたように俺を見た。

まるでまだ一緒にいてくれるのか、とでも言いたげに。

俺は立ち上がり、手を差し出した。

 

「まずは洞窟から出ないとな」

 

ラルトスはその手を見つめる。

それから、小さな手がそっと俺の手に触れた。

最初はアレだけ警戒していたラルトスが自分から俺に触れた。

その温もりは、思っていたよりずっと暖かかった。

 

 

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