製鉄所を離れてからもしばらく、俺の頭の中にはさっきのクチートの姿が残っていた。
職人の手元を見つめる横顔は、戦っている時とも、仲間を守ろうとしている時とも違って見えたからだ。
今までクチートのことを知らなかったわけじゃない。怒る時のことも知っているし、一度こうと決めたらなかなか譲らない性格だって知っている。クロガネの鉱山で見た姿を思い出せば、それだけでも十分分かった気になれる。
でも、それは違ったのかもしれない。
好きなものを知ることと、その相手を知ることは案外近い。
製鉄所で足を止めていたクチートを見ていたら、そんなことを考えてしまった。
仲間のことは分かっているつもりだったのに、実際はまだ知らないことばかりだ。
そう思うと不思議だったし、少し嬉しくもあった。
旅に出たのは世界を知るためだったはずなのに、気付けば隣を歩く仲間のことを知るのも楽しくなっている。
そんなことを考えながら歩いていたせいで、前方の景色が変わっていることに気付くのが少し遅れた。
花畑は相変わらず続いている。
製鉄所を離れてからもしばらく、俺の頭の中にはさっきのクチートの姿が残っていた。
職人の手元を見つめる横顔は、戦っている時とも、仲間を守ろうとしている時とも違って見えたからだ。
今までクチートのことを知らなかったわけじゃない。怒る時のことも知っているし、一度こうと決めたらなかなか譲らない性格だって知っている。クロガネの鉱山で見た姿を思い出せば、それだけでも十分分かった気になれる。
でも、それは違ったのかもしれない。
好きなものを知ることと、その相手を知ることは案外近い。
製鉄所で足を止めていたクチートを見ていたら、そんなことを考えてしまった。
仲間のことは分かっているつもりだったのに、実際はまだ知らないことばかりだ。
そう思うと不思議だったし、少し嬉しくもあった。
旅に出たのは世界を知るためだったはずなのに、気付けば隣を歩く仲間のことを知るのも楽しくなっている。
そんなことを考えながら歩いていたせいで、前方の景色が変わっていることに気付くのが少し遅れた。
花畑は相変わらず続いている。
けれど町の中心部ほど花が密集しているわけではなく、その向こうには今まで見たことのないものが見えていた。
巨大な風車だった。
一本ではない。
何本も並んでいる。
白い羽根がゆっくりと回り、その度に風を切る音が遠くまで響いていた。
最初は何の施設なのか分からなかった。
クロガネでは見たことがない景色だったからだ。
「なんだあれ。風車ってことは分かるけど、あんなにたくさん並んでるの初めて見た」
思わずそう呟くと、シロナが風車の方へ目を向ける。
「あれが谷間の発電所よ。この辺りの電力を支えている施設なの」
「発電所?」
思わず聞き返してしまう。
発電所という言葉は知っている。
クロガネにもある。
でも、俺の知っている発電所と目の前の景色は全然結び付かなかった。
「電気って、ああやって作れるのか?」
「ええ。風の力を利用しているの。場所によって方法は色々あるけれど、この辺りは風が強いから、それを活かしているのよ」
そう説明されて、もう一度風車を見る。
クロガネで見てきた施設は、燃料を使い、巨大な設備を動かしていた。
だから発電所と聞くと、どうしてもそっちを思い浮かべてしまう。
でもここは違う。
風だ。
目には見えないものを利用して電気を作っている。
同じ発電所なのに、景色も考え方もまるで違う。
「へぇ……」
自然と声が漏れた。
「クロガネの外に出ると、本当に知らないことばっかりだな」
そう言うと、シロナが少しだけ笑う。
「昨日も似たようなことを言っていた気がするわ」
「だって本当だし」
苦笑しながら答える。
「コトブキもそうだったし、ソノオもそうだし、今度は発電所まで違うんだぞ。旅に出る前の俺に言っても信じないと思う」
「でも、その驚きを楽しめているなら素敵なことだと思うわ」
そう言われて少し考える。
確かにその通りだった。
知らないことが多い。
負けることもある。
分からないこともある。
でも嫌じゃない。
むしろ楽しいから不思議だった。
その時だった。
前方に数人の人影が見えた。
それ自体は珍しくない。
旅人もいるし、仕事をしている人もいる。
ソノオタウンは人の行き来も多い。
だから本来なら気にも留めなかったはずだった。
それでも目を引かれたのは、全員が同じ服を着ていたからだろう。
灰色の制服。
胸には見慣れないマーク。
年齢も性別も違うのに、どこか同じ雰囲気をまとっている。
「なんか変わった人たちだな。同じ制服だし、会社か何かか?」
思ったことをそのまま口にすると、ラルトスもそちらを見上げた。
『おなじ』
「だよな。なんか揃いすぎてるというか……」
言葉を探しながら眺める。
すれ違う距離まで近付く。
一人の男と目が合った。
でも、それだけだった。
向こうはすぐ視線を戻し、そのまま仲間たちと歩いていく。
本当にそれだけの出来事だった。
それなのに、不思議と視線がその背中を追ってしまう。
何が気になるのか、自分でも分からなかった。
敵意があったわけじゃない。
嫌なことを言われたわけでもない。
むしろ何も起きていない。
それでも引っ掛かる。
だから考えてみる。
何が気になったんだろうと。
しばらく考えて、ようやく一つだけ思い当たった。
誰も笑っていなかったのだ。
もちろん仕事中なら真面目な顔をしていて当然だ。
それだけなら気にしない。
でも、あの人たちは少し違った。
全員が同じ服を着て、同じ方向を向き、同じような表情をしているからだろうか。
個人の集まりというより、一つの集団として動いているように見えた。
それが妙に印象に残った。
「知り合いなのか?」
そう思ってシロナを見る。
するとシロナは、さっきからその集団を静かに見ていた。
表情は穏やかなままだ。
けれど視線だけが少し違う。
昨日、ドダイトスを見ていた時にも似ている。
何かを観察しているような目だった。
「いいえ。ただ、最近よく名前を聞く人たちではあるわね」
「有名なのか?」
「ええ。シンオウ各地で活動している団体よ。研究活動や地域支援なんかもしているみたいだから、ニュースや新聞で名前を見ることも増えているわ」
「へぇ……」
納得したはずなのに、胸の奥の違和感は消えなかった。
たぶん気のせいだ。
町の人たちも気にしていない。
実際、何か悪いことをしているようにも見えない。
それでも名前だけは頭に残った。
「ギンガ団」
シロナがそう呼んでいた。
その名前を心の中で繰り返しながら前を向く。
風車はゆっくり回り続けている。
花畑も変わらず揺れている。
ソノオタウンは穏やかだった。
だからこそ、その穏やかな景色の中に残った小さな違和感だけが妙に心に引っ掛かっていたのかもしれない。けれど町の中心部ほど花が密集しているわけではなく、その向こうには今まで見たことのないものが見えていた。
巨大な風車だ、それも一本ではない。
何本も並んでいる。
白い羽根がゆっくりと回り、その度に風を切る音が遠くまで響いていた。
最初は何の施設なのか分からなかった。
クロガネでは見たことがない景色だったからだ。
「なんだあれ。風車ってことは分かるけど、あんなにたくさん並んでるの初めて見た」
思わずそう呟くと、シロナが風車の方へ目を向ける。
「あれが谷間の発電所よ。この辺りの電力を支えている施設なの」
「発電所?」
思わず聞き返してしまう。
発電所という言葉は知っている。
クロガネにもある。
でも、俺の知っている発電所と目の前の景色は全然結び付かなかった。
「電気って、ああやって作れるのか?」
「ええ。風の力を利用しているの。場所によって方法は色々あるけれど、この辺りは風が強いから、それを活かしているのよ」
そう説明されて、もう一度風車を見る。
クロガネで見てきた施設は、燃料を使い、巨大な設備を動かしていた。
だから発電所と聞くと、どうしてもそっちを思い浮かべてしまう。
でもここは違う。
風という、目には見えないものを利用して電気を作っている。
同じ発電所なのに、景色も考え方もまるで違う。
「へぇ……」
自然と声が漏れた。
「クロガネの外に出ると、本当に知らないことばっかりだな」
そう言うと、シロナが少しだけ笑う。
「昨日も似たようなことを言っていた気がするわ」
「だって本当だし」
苦笑しながら答える。
「コトブキもそうだったし、ソノオもそうだし、今度は発電所まで違うんだぞ。旅に出る前の俺に言っても信じないと思う」
「でも、その驚きを楽しめているなら素敵なことだと思うわ」
そう言われて少し考えてみれば確かにその通りだった。
知らないことが多い。
負けることもあるし、分からないこともある。
でも嫌じゃない。
むしろ楽しいから不思議だった。
その時だった。
前方に数人の人影が見えた。
それ自体は珍しくない。旅人もいるし、仕事をしている人もいる。
ソノオタウンは人の行き来も多い。
だから本来なら気にも留めなかったはずだった。
それでも目を引かれたのは、全員が同じ服を着ていたからだろう。
灰色の制服。
胸には見慣れないマーク。
年齢も性別も違うのに、どこか同じ雰囲気をまとっている。
「なんか変わった人たちだな。同じ制服だし、会社か何かか?」
思ったことをそのまま口にすると、ラルトスもそちらを見上げた。
『おなじ』
「だよな。なんか揃いすぎてるというか……」
言葉を探しながら眺める。
すれ違う距離まで近付く。
一人の男と目が合った。
向こうはすぐ視線を戻し、そのまま仲間たちと歩いていく。
本当にそれだけの出来事だった。
それなのに、不思議と視線がその背中を追ってしまう。
何が気になるのか、自分でも分からなかった。
敵意があったわけじゃない。
嫌なことを言われたわけでもない。
むしろ何も起きていない。
それでも引っ掛かる。
だから考えてみる。
何が気になったんだろうと。
しばらく考えて、ようやく一つだけ思い当たった。
誰も笑っていなかったのだ。
もちろん仕事中なら真面目な顔をしていて当然だ。
それだけなら気にしない。
でも、あの人たちは少し違った。
全員が同じ服を着て、同じ方向を向き、同じような表情をしているからだろうか。
個人の集まりというより、一つの塊として動いているように見えた。
それが妙に印象に残った。
「知り合いなのか?」
そう思ってシロナを見る。
シロナは、さっきからその集団を静かに見ていた。
表情は穏やかなままだ。
けれど視線だけが少し違う。
昨日、ドダイトスを見ていた時にも似ている。
何かを観察しているような目だった。
「いいえ。ただ、最近よく名前を聞く人たちではあるわね」
「有名なのか?」
「ええ。シンオウ各地で活動している団体よ。研究活動や地域支援なんかもしているみたいだから、ニュースや新聞で名前を見ることも増えているわ」
「へぇ……」
納得したはずなのに、胸の奥の違和感は消えなかった。
たぶん気のせいだと思うが。
町の人たちも気にしていない。
実際、何か悪いことをしているようにも見えない。
それでも名前だけは頭に残った。
「ギンガ団」
シロナがそう呼んでいた。
その名前を心の中で繰り返しながら前を向く。
風車はゆっくり回り続けている。
花畑も変わらず揺れている。
ソノオタウンは穏やかだった。
だからこそ、その穏やかな景色の中に残った小さな違和感だけが妙に心に引っ掛かっていたのかもしれない。