繋がりの王者   作:宵取与一

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4話

 

ラルトスの手は小さかった。

俺の手よりずっと小さくて、だけど、暖かい。

生きている命の温かさ。

その手は確かに、そしてしっかりと俺の手を握っていた。

出会った時なら考えられなかったことだ。

あの時のラルトスは、俺を見るだけで怯えていた。

それが今ではこうして半歩うしろを歩いている。

 

もちろん完全に信用されたわけじゃないだろう。

でも、少しだけ距離は縮まった気がした。

 

「よし」

 

俺は立ち上がる。

 

「出口を探そう」

 

『……うん』

 

ラルトスは小さく頷く。

俺たちは再び洞窟を歩き始めた。

天井から落ちる水滴の音、湿った岩壁、薄暗い通路。

迷った時はただ怖いだけだった場所なのに、不思議と今は少し心強い。

 

だって、一人じゃないから。

うしろを見る。

ラルトスは周囲を警戒しながら歩いていた。

時々立ち止まっては耳を澄ませている。

野生のポケモン達の感情を感じ取っているのかもしれない。

 

「そういえばさ」

 

俺は歩きながら聞いた。

 

「その声」

 

『……こえ?』

 

「頭の中に聞こえるやつ」

 

ラルトスが少し首を傾げる。

 

『……みんな、できない?』

 

「できない」

 

『……え』

 

今度はラルトスが驚く番だった。

ラルトスにとって、できて当たり前のことのようだ。

 

『……ほんとう?』

 

「ほんと」

 

俺は笑う。

 

「俺、めちゃくちゃびっくりしたからな」

 

『……』

 

「最初なんて幽霊かと思った」

 

『……ゆうれい?』

 

「うん」

 

ラルトスは少し考えて。

 

『……わるかった』

 

顔を俯かせながら、申し訳なさそうに言った。

 

「いや、謝ることじゃないって」

 

むしろすごい能力だと思う。

人間とと話せる、そんなことができるポケモンがいるなんて知らなかった。

 

「他のポケモンとも話せるのか?」

 

するとラルトスは少し考える。

 

『……ことば、じゃない』

 

「ん?」

 

『……きもち』

 

「気持ち?」

 

『……わかる』

 

なるほど。

相手の”気持ちを読み取る力”か。

図鑑にもそんなことが書いてあったのを思い出す。

 

『……ユアは、わかりやすい』

 

「え?」

 

『……すぐ、おもったこと、でる』

 

「それ褒めてないよな?」

 

ラルトスは黙る。

でも少しだけ楽しそうだった。

この子は結構いたずら好きなのかもしれない。

そんなことを考えていた時だった。

 

 ふと。

 

ラルトスの足が止まった。

 

「どうした?」

 

『……』

 

返事がない。

ラルトスは通路の奥を見ていた。

その表情が少しずつ硬くなる。

 

嫌な予感がした。

 

「ラルトス?」

 

『……いる』

 

消えそうなほど小さな声。

 

『……ちかい』

 

背筋が冷える。

俺も、ラルトスの見ている方を見た。

 

「何が?」

 

なんて。聞くまでもなかった。

ラルトスの顔を見れば分かる。

 

あいつだ。

 

コドラだ。

 

次の瞬間、洞窟の奥から轟音が響いた。

 

 ガァン!!

 

金属同士がぶつかったような音。

そして、低い唸り声。

 

「嘘だろ……」

 

俺は顔を引きつらせた。

ラルトスの手を掴む。

 

「走るぞ!」

 

『……うん!』

 

今度はラルトスも迷わなかった。

二人で駆け出す。

 

 直後。

 

後方の曲がり角からコドラが飛び出してきた。

赤い目、鋼の身体、怒りに満ちた咆哮。

 

完全に俺たちに狙いを定めていた。

 

「なんでまた見つかるんだよ!?」

 

 叫ぶ。

 

当然返事はない、その代わりにコドラが突進してきた。

 

岩が砕ける。

 

地面が揺れる。

 

怖い。

めちゃくちゃ怖い。

でも立ち止まれない。

立ち止まったらそこで終わりだ。

 

走るしかない。

通路を曲がる、さらに曲がる。

しかし、コドラはしつこく追ってくる。

 

「はぁっ……!」

 

息が切れる。

 

足も重い。

さっきから走りっぱなしだ。

七歳の体力なんてとっくに限界だった。

それでも、と隣を見る。

ラルトスも必死に走っていた。

傷だらけなのに、小さな体で、足を引きずりながら。

それでも諦めていない。

だったら俺も止まれない。

 

『……ユア』

 

「なんだ!?」

 

『……ひかり』

 

「え?」

 

前方を見る。

暗い通路の先。

ほんの少しだけ明るい場所が見えた。

確かに光だ、自然の光、太陽の光。

 

「出口だ!」

 

思わず叫ぶ。

ラルトスの顔も明るくなる。

 

走る。

 

全力で。

 

転びそうになりながら。

 

息を切らしながら。

 

目の前に現れた希望の光を目指して。

 

光はどんどん大きくなる。

風も感じる。

外の空気だ。

今度こそ本当に、出口だ。

 

「やった!」

 

思わず声が出る。

あと少し、あと少しで外だ。

 

その時だった。

背後から嫌な音が聞こえた。

 

 ゴッ!!

 

地面が揺れる。

思わず振り返って、そして凍り付いた。

 

コドラがいた。

すぐ後ろに。

 

「なっ――」

 

速い、速すぎる。

いつの間に距離を詰めたんだ。

コドラの青い目が俺たちを捉える。

 

 そして。

 

前脚が振り上げられた。

出口まではあと少し。

ほんの数歩だった。なのに。

 

コドラに追いつかれてしまった。

…もうだめだ。

 

そう理解した瞬間。

 

ラルトスが俺の前へ飛び出した。

 

「ラルトス!?」

 

赤い瞳が真っ直ぐコドラを見据える。

その小さな背中は震えていた。

それでも、逃げなかった。

俺を庇うように立っていた。

 

そして――。

 

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