ーー殺される。
諦めかけたその時。
横から飛び込んできた何かによって、コドラの身体が吹き飛んだ。
轟音。
鋼と岩がぶつかる激しい音が洞窟中に響く。
コドラは悲鳴のような声を上げながら地面を転がり、岩壁へ激突した。
俺は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
「……え?」
どうやらそれは、ラルトスも同じようで、俺の前に立ったまま固まっている。
さっきまで俺たちは追い詰められていた。
あと少しで捕まるところだった。
なのに。
一瞬で状況が変わった。
土煙が舞う。
視界が霞む。
その向こうに大きな影が立っていた。
「な……」
俺は目を見開く。
突如現れ、俺たちを助けてくれたポケモン。
そのポケモンを、俺は知っている。
青い身体。
力強い四肢。
頭部から伸びる鋭いヒレ。
まるで鮫のような顔。
その姿を見た瞬間、俺は名前を叫んでいた。
「ガブ!!!」
ドラゴン・じめんタイプのポケモン。
『ガバイト』
荒々しい見た目とは裏腹に、信頼した相手にはとことん忠実なことで知られている。
そして何より、このガバイトのことを俺は知っているどころじゃない。
何度も遊んでもらったことがある。
一緒に昼寝をしたこともある。
ガバイトがこちらをちらりと見る。
そして、ニヤッと笑ったように見えた。
離れたところで、吹き飛ばされたコドラがゆっくり立ち上がる。
怒りの咆哮。
完全に頭に血が上っていた。
しかし、フンッと鼻を鳴らし、ガブは動じない。
むしろ、守るように俺たちの前へ出た。
「ユア!」
聞き慣れた声が響く。
「……父さん!」
洞窟の出口の向こうから駆け寄ってくる人影。
父さんだった。
そして。
「ユア!」
母さんもいる。
俺はその場に立ち尽くした。
夢じゃない。
本当に、本当に来てくれたんだ。
「父さん!」
気付けば走り出していた。
父さんも駆け寄ってくる。
次の瞬間。
俺は強く抱き締められていた。
「この馬鹿!」
父さんの声が震えていた。
「どれだけ心配したと思ってる!」
「ご、ごめん……」
「本当にごめんで済むと思ってるのか!?」
怒鳴っている。
でも、その声は少し泣きそうだった。
母さんも駆け寄ってくる。
「怪我は!?」
「だ、大丈夫……たぶん」
「たぶんじゃない!」
そう言いながらも俺の肩や腕を確認している。
本当に心配してくれていたんだ。
胸の奥が少し痛くなった。
「ごめん…なさい」
今度はちゃんと謝る。
母さんは大きくため息を吐いた。
「帰ったらお説教だからね」
「うっ」
「覚悟しなさい」
それはそれで怖かった。
だが、今はそれどころじゃない。
背後から咆哮が響いた。
コドラは完全に怒り狂っている。
ガバイトへ突進する。
鋼の身体が一直線に迫る。
だが。
「ガブ」
父さんが静かに言う。
「止めろ」
ガバイトが動いた。
コドラの突進を正面から受け止める。
いや、受け止めたというより押し返した。
コドラの身体が浮き、そのまま吹き飛ばされる。
「すご……」
思わず声が漏れる。
俺もポケモンは好きだ。
強いポケモンもたくさん知っている。
でも。
実際に見るのは全然違った。
ガバイトの強さは圧倒的だった。
コドラが再び立ち上がる。
しかし今度は慎重だった。
2度も吹き飛ばされて、むしろ冷静になった、のだろう。
目の前の相手が格上だと理解したようだ。
父さんは静かに前へ出る。
「お前も必死だったんだろうな」
コドラを見る。
怒ってはいない、ただ落ち着いた声だった。
「縄張りを守りたかっただけなんだろう」
コドラが低く唸る。
「だが」
父さんの目が鋭くなる。
「お前の気持ちもわかるが、俺の息子に手を出した時点で、お前は敵だ」
ガバイトが一歩前へ出る。
それだけで空気が変わる。
コドラも感じ取っているようだ。
勝てない。
そう理解したはずだ。
しばらく睨み合いが続く。
洞窟に緊張が満ち、そして、先に視線を逸らしたのはコドラだった。
低く唸る。
悔しそうに、警戒するように。
それでも、最後には背を向けた。
重い足音を響かせながら洞窟の奥へ消えていく。
やがて姿も見えなくなった。
静寂が戻る。
俺はようやく息を吐いた。
終わった。
本当に終わったんだ。
そう思った時だった。
父さんの視線が俺の足元へ向く。
「ユア」
「な、なに?」
「そのラルトスは誰だ?」
俺は固まった。
ラルトスも固まった。
そして俺たちは同時に顔を見合わせる。
そういえば。
まだ説明してなかった。