繋がりの王者   作:宵取与一

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2話

シロナは石像の前まで歩くと足を止め、そのまま見上げるように顔を上げた。広場の中央に立つ二体の石像は近くで見ると想像していたよりずっと大きく、首を上げても全体が視界に入りきらない。街の中心に置かれているだけあって存在感もあるが、それ以上に気になったのは隣のシロナだった。さっきまで街を案内していた時と比べても分かるくらい楽しそうな顔をしていて、同じ石像を見ているはずなのに、俺とは違うものを見ているように思えた。

 

「シンオウ地方にはね、昔から伝わる神話があるの」

 

 案の定だった。俺が何も言わないでいると、シロナがこちらを見る。

 

「その顔、聞く前から疲れているわね」

 

「気のせいだろ」

 

「そうかしら」

 

 聞かなくても分かっているくせに、シロナはそれ以上追及せず、また石像へ視線を戻した。その横顔を見ていると、本当に好きなんだなと思う。神話も、遺跡も、昔話も。資料館で会った時からずっとそうだった。古いものをただ古いものとして見るのではなく、その奥に誰がいて、何を考えていたのかまで見ようとしている。

 

「この二体はディアルガとパルキア。シンオウ神話では有名だから、ユアも名前くらいは知っているでしょう?」

 

「それくらいはな」

 

 ディアルガは時間。パルキアは空間。シンオウで生まれ育った人間なら一度は聞いたことがある話だ。もちろん俺も知っている。けれど改めて石像を見上げても、やっぱりよく分からなかった。時間を司るとか空間を司るとか言われても、大きくて凄そうなこと以外は想像がつかない。

 

「実在するのか?」

 

 そう聞くと、シロナは少しも迷わなかった。

 

「私はいると思っているわ」

 

「見たことあるのか?」

 

「ないわ、だから調べているの。もしかしたら本当にいるのかもしれないでしょう?」

 

 シロナは楽しそうに笑った。その答えは、何だかシロナらしかった。証拠があるから言い切っているわけじゃない。けれど最初から否定しているわけでもない。本当にいるかもしれないから知りたい。ただそれだけのことを、シロナは当たり前みたいに言う。俺にはまだそこまでは分からない。けれど、シロナがどうして神話を追い続けるのかは少しだけ分かった気がした。

 

「神話ってさ」

 

「うん?」

 

「シロナは全部本当だと思ってるのか?」

 

 シロナは少しだけ考え、それから首を横に振った。

 

「全部かどうかは分からないわ。でも昔の人たちが何かを見て、何かを信じたからこそ残った話だと思うの。だから私は知りたいのよ。何を見たのか。何を信じたのか。本当にそこに何かがいたのか」

 

 風が吹き、長い髪が揺れる。シロナの視線はずっと石像へ向いていた。隣を見ると、ラルトスも同じように石像を見上げている。真面目な顔をしているが、話を全部理解しているようには見えない。しばらくしてから、小さく首を傾げた。

 

『……つよい?』

 

「きっと、想像も出来ないくらい強いわ」

 

 シロナが笑う。

 

『……おおきい』

 

「それは間違いないな」

 

 思わず吹き出してしまった。時間だ空間だと言われても分からない。でも大きいことは分かるし、強そうなことも分かる。

 

広場では子供たちが走り回り、噴水の周りでは人が話している。その真ん中でディアルガとパルキアは何も言わず立っていた。昔の人たちも同じように見上げていたのだろうか。もしそうなら、何を思っていたのだろう。そんなことを考えていると、シロナが不意に口を開く。

 

「ねえユア」

 

「ん?」

 

「もし本当に会えたらどうする?」

 

 伝説のポケモン。時間と空間の神。少し考えてから答える。

 

「自慢する」

 

 シロナが吹き出した。

 

「もっと他にないの?」

 

「こんなデカイポケモン相手に、生きて帰れたらそれだけで儲けもんだろ」

 

 今度は声を出して笑った。ラルトスもつられて小さく笑う。神話の話をしている時のシロナは楽しそうだが、こうして笑っている時の方が見ていて安心する。

 

 その時だった。シロナのポケッチが鳴り、画面を見たシロナの表情が少しだけ変わった。

 

「ごめんなさい」

 

「用事か?」

 

「ええ」

 

 短く頷いた様子から、断れない予定なのだと分かった。

 

「今日は別行動になりそう」

 

「了解」

 

「本当はもう少し案内したかったのだけれど」

 

「神話の続きか?」

 

「もちろん」

 

 即答だった。やっぱりかと思って呆れた顔をすると、シロナは満足そうに笑う。

 

「続きはまた今度聞かせてあげる」

 

「遠慮しとく」

 

「却下」

 

 それだけ言うと、シロナは手を振って歩き出した。人混みの中へ消えていく背中を見送りながら、俺は小さく息を吐く。広場にはラルトスとクチートだけが残った。ラルトスはまだ石像を見上げている。クチートは少し後ろで周囲を見ていたが、不意に視線を横へ向ける。俺もつられてそちらを見ると、石畳の通りを挟んだ向こう側に、葉の紋章が描かれた看板が立っていた。

 

 ハクタイジム。

 

 クチートは何も言わない。ただ、その看板をじっと見つめていた。

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