繋がりの王者   作:宵取与一

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4話

ナタネに案内された先には、木々に囲まれたバトルフィールドが広がっていた。ジムの中にいるはずなのに、天井から差し込む光は葉の隙間で揺れ、土の匂いと草の匂いが混ざった空気が足元から立ち上がってくる。ラルトスは俺の隣で静かにフィールドを見つめ、クチートは少し後ろから全体を見ていた。ナタネは反対側まで軽い足取りで進むと、こちらを振り返って指を二本立てる。

 

「使用ポケモンは2匹! 入れ替えはチャレンジャーのみ可能! 2体とも倒れた時点で敗北だよ!」

 

「分かった」

 

「ちなみに、あたしも2匹でいくから安心してね。ジムリーダーは挑戦者に合わせて戦うの! その代わり、手加減はしないよ!」

 

 明るい声だった。けれど、その言葉で少しだけ背筋が伸びる。ナタネは元気で距離も近いが、ただ勢いだけで立っているわけじゃない。俺たちの手持ちを見て、ちゃんと勝負の形を整えている。俺はラルトスを見る。ラルトスもこちらを見上げて、小さく頷いた。

 

「最初は頼む」

 

『……うん』

 

 ラルトスが前へ出ると、ナタネもボールを構えた。

 

「じゃあ、いっくよ! チェリンボ!」

 

 光の中から現れたのは、小さな木の実みたいなポケモンだった。丸い体を跳ねさせながらフィールドへ出たチェリンボは、ラルトスを見るなり元気よく鳴く。見た目は可愛い。けれどジムリーダーのポケモンだ。油断していい理由にはならない。

 

「始め!」

 

 合図と同時にチェリンボが地面を蹴った。小さな体のわりに速い。一直線に来るなら避けられると思ったが、チェリンボは途中で跳ねる向きを変え、ラルトスの斜め前から飛び込んできた。

 

「ラルトス、下がるな。横へ」

 

 ラルトスは短く頷き、一歩だけ横へずれて突進をかわす。チェリンボが通り過ぎた瞬間、俺はすぐに声を重ねた。

 

“ねんりき”

 

 ラルトスの目が淡く光り、見えない力がチェリンボの体を捕まえる。小さな体が空中で止まり、そのまま土の上へ叩きつけられた。チェリンボが転がる。効いている。そう思ったが、ナタネは慌てなかった。

 

「いい反応! チェリンボ、起きて!」

 

 チェリンボはすぐに跳ね起きた。思ったより立ち直りが早い。ナタネが片手を振ると、チェリンボの周りに葉が舞い上がる。

 

“はっぱカッター”

 

 飛んできた葉は真っ直ぐではなく、少し広がりながらラルトスの逃げ道を削ってきた。右へ避ければ二枚目、後ろへ下がれば三枚目が来る。俺は一瞬だけフィールドを見て、空いている場所を探す。

 

「前へ出ろ!」

 

 ラルトスは俺の声に反応して前へ飛び出す。葉が肩を掠めたが、後ろへ逃げるよりはずっといい。距離が詰まった。チェリンボの攻撃が次へ移る前に、ラルトスは息を吸う。

 

“チャームボイス”

 

 柔らかい声がフィールドに広がった。チェリンボの動きが一瞬止まり、体がぐらつく。今のは入った。俺はその隙を逃さず、続けて指示を出す。

 

“ねんりき”

 

 チェリンボの体が再び浮いた。今度はさっきより高い。ラルトスはそのまま力を込め、チェリンボをフィールドの端へ叩きつける。土が跳ね、チェリンボの小さな体が転がった。ナタネはチェリンボの様子を見て、一度だけ頷く。

 

「チェリンボ、まだいける?」

 

 チェリンボは起き上がろうとしたが、体がふらついた。もう一度跳ねようとして、その場にぺたりと座り込む。審判が旗を上げた。

 

「チェリンボ、戦闘不能!」

 

「よし……!」

 

 思わず拳を握る。ラルトスは大きく息を吐きながら俺の方を見た。傷はある。けれどまだ立っている。初めてのジム戦で、ちゃんと一匹倒した。その事実だけで胸の奥が熱くなる。

 

「いいね、ラルトス強いじゃん!」

 

 ナタネは悔しがるより先に笑っていた。チェリンボをボールへ戻しながら、今度は少しだけ目つきが変わる。

 

「でも、次はちょっと重いよ。お願い、ナエトル!」

 

 次に現れたナエトルは、チェリンボよりずっと落ち着いていた。小さな体で地面を踏みしめ、俺たちを見る目も揺れない。ラルトスは構え直したが、さっきより呼吸が荒い。チェリンボ戦で受けた傷と消耗が残っている。

 

「ラルトス、距離を取って戦うぞ」

 

『……うん』

 

「ナエトル!」

 

“たいあたり”

 

 ナエトルが走り出す。チェリンボほど跳ね回る速さはない。けれど一歩一歩が重く、まっすぐ来られるだけでフィールドの空気が押されるようだった。

 

“ねんりき”

 

 ラルトスの力がナエトルを捕まえる。止まる。そう思った。でもナエトルは一瞬だけ足を鈍らせただけで、そのまま前へ出てきた。見えない力を押し破るように突っ込んでくる。

 

「ラルトス、横!」

 

 間に合わなかった。ナエトルの体当たりがラルトスにぶつかり、小さな体が土の上を滑る。

 

「ラルトス!」

 

『……まだ』

 

 ラルトスはすぐに立ち上がった。声は小さい。けれど目は逸らしていない。俺は唇を噛む。正面から止められないなら、まともに受けない戦い方をするしかない。

 

“かげぶんしん”

 

 ラルトスの姿が揺れ、分身がいくつもフィールドへ広がる。ナエトルは一瞬だけ足を止めた。見えている。迷っている。俺はその隙にラルトスを横へ回らせる。

 

“チャームボイス”

 

 分身の陰から声が響き、ナエトルの体が揺れた。効いている。けれど倒れるほどではない。ナタネが目を細める。

 

「なるほどね。ラルトス、ちゃんと工夫してる。でもナエトル、落ち着いて!」

 

“はっぱカッター”

 

 ナエトルの背中から葉が飛ぶ。狙いは分身全部だった。葉が広がり、偽物が次々と消える。本物のラルトスも避けようとしたが、チェリンボ戦の疲れで動きがわずかに遅れた。葉が足元を掠め、体勢が崩れる。

 

「そこ!」

 

“たいあたり”

 

 ナタネの声が落ちる。ナエトルが踏み込み、崩れたラルトスへ真正面からぶつかった。今度の衝撃はさっきより重い。ラルトスの体が宙へ浮き、土の上へ落ちる。

 

 フィールドが一瞬静かになった。ラルトスは起き上がろうとした。腕に力を入れ、膝を立てる。けれど立ち上がる前に力が抜けた。審判が旗を上げる。

 

「ラルトス、戦闘不能!」

 

 胸の奥が重くなる。ラルトスは悔しそうに目を開け、俺を見る。

 

『……ごめん』

 

「謝るな。よくやった」

 

 それは本当だった。チェリンボを倒して、ナエトルにも一撃を入れた。何も出来なかったわけじゃない。俺はボールを向けてラルトスを戻し、手の中で小さく震えるボールを見下ろす。勝てなかった悔しさはある。けれど、まだ終わっていない。

 

 顔を上げると、フィールドの端でクチートが一歩前へ出ていた。ナエトルはまだ立っている。ナタネもクチートを見る。その視線はさっきチェリンボやナエトルへ向けていた明るさとは少し違っていて、何かを確かめるように静かだった。

 

「次はクチートだね」

 

 ナタネが笑う。

 

 クチートは何も言わない。ただフィールドへ歩き出す。大顎が一度、短く鳴った。

 

 ガチン。

 

 俺は息を吐き、クチートの背中を見る。

 

「頼むぞ、クチート」

 

 クチートは振り返らなかった。けれど、そのままナエトルの前へ立った。

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