繋がりの王者   作:宵取与一

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7話

朝、目が覚めた。

窓の外から聞こえるのはムックルの鳴き声。

まるで、昨日あったことが嘘のような朝だった。

 

ーーただ1つ違うのは、俺の横で丸くなって寝ている小さくて白い身体。

 

 ラルトス。

 

昨日、テンガン山の洞窟の中で出会ったポケモン。

追われていて、傷ついていて。

気づけばうちに連れて帰っていた。

寝息は静かだった。

時折ぴくりと身体が動く。

夢でも見ているのだろうか。

しばらく眺めていると、小さく瞼が開いた。

赤い瞳がこちらを見る。

 

『……』

 

ほんの数秒、ぼんやりとした顔。

 

 そして。

 

『……あ』

 

何かを思い出したように身体が固まる。

昨日のことを思い出したらしい。

洞窟の中でコドラに襲われ、追われ、助けられ、そして着いてきた、

知らない家。

 

『……ここ』

 

「おはよ」

 

俺が声をかけると、ラルトスは少しだけ肩を震わせた。

 

『……おはよう』

 

小さな声が頭に響く。

 

「ここは俺の家だよ」

 

『……いえ』

 

「そう」

 

ラルトスは周囲を見回した。

 

知らない天井、知らない部屋、知らない匂い。

不安そうな顔をしている。

けれど逃げ出そうとはしなかった。

 

『……こわく、ない』

 

「そうだね」

 

俺の返事を聞いて、ラルトスの肩から少しだけ力が抜けた気がした。

 

 

朝食の時間。

ラルトスはテーブルの横に置いたクッションの上に座っていた。

かなり緊張している。

 

 母さんを見る。

 

 父さんを見る。

 

 また母さんを見る。

 

忙しなく、まるで知らない群れに放り込まれたポケモンみたいだ。

いや、まぁ、状況的には実際そうなんだけど。

 

「そんなに固くならなくて大丈夫だよ」

 

と、俺が言う。

ラルトスはこくりと頷いた。

でも固い。

全然固い。

父さんなんて完全に観察対象になっている。

…まぁ、父さんゴツイからな…。

 

「……」

 

「……」

 

父さんも無言でラルトスを見ている。

ラルトスも無言で父さんを見ている。

なんだこの空気。

先に折れたのは父さんだった。

 

「ユア」

 

「はい」

 

「その子はどうするんだ」

 

来た。

昨日連れて帰ってきた時点で、来るだろうと思っていた質問。

俺は箸を置いて、真っ直ぐに父さんを見る。

 

「一緒にいたい」

 

父さんは何も言わず、ただ続きを待っている。

 

「これからも、一緒にいたい」

 

言葉にすると少し恥ずかしかった。

でもこれが、正直な気持ちだ。

 

隣を見る。

 

ラルトスは少し照れくさそうに、それでも小さく、そしてたしかに、頷いた。

 

「理由は?」

 

父さんが聞く。

俺は少しだけ考えた。

上手い言葉は出てこない。

だから正直に言う。

 

「放っておけないから」

 

父さんがため息をついた。

 

「昨日も聞いたな」

 

「そうだっけ」

 

「同じこと言ってた」

 

「だって本音だから」

 

母さんが吹き出した。

 

「…」

 

父さんは真剣な顔で俺を見る。

それからラルトスを見る。

 

「お前はどうなんだ」

 

『……わたし?』

 

「嫌なら無理に残らなくていい」

 

ラルトスは目をぱちぱちさせた。

そんなことを聞かれると思っていなかったんだろう。

 

しばらく考える。

 

少しの沈黙。

 

 やがて。

 

『……わからない』

 

小さな答えだった。

 

『でも』

 

ラルトスが俺を見る。

 

『……いやじゃない』

 

その言葉だけで十分だった。

父さんは全て理解したと言わんばかりに腕を組む。

 

「ならいい」

 

「え、いいの?」

 

「ただし」

 

指を一本立てる。

 

「最後まで責任を持て」

 

「うん」

 

「途中で投げ出すな」

 

「分かってる」

 

「なら好きにしろ」

 

その瞬間。

胸の奥が少し軽くなった。

 

 

朝食の後、ラルトスと一緒に庭に出た。

ラルトスは家の外に出るだけで少し緊張していた。

風が吹くと足を止める。

 

『……』

 

草が揺れ、木々がざわめく。

遠くから聞こえるポケモン達の声。

ラルトスは静かに辺りを見回した。

 

『……ひろい』

 

「そうか?」

 

『……うん』

 

山の洞窟とは何もかも違うんだろう。

ラルトスはゆっくり歩き始めた。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

地面を確かめるように、転ばないように。

 

だけど確実に前へ進む。

その姿が少しだけ面白くて、俺は笑った。

 

『……?』

 

「なんでもない」

 

ラルトスは不思議そうな顔をした。

 

 

午後になると、少しずつ慣れてきたラルトスが縁側で座っていた。

父さんが近づく。

その手には木の実が握られていた。

 

「ほら」

 

『……?』

 

「食べろ」

 

ラルトスは少し迷った。

 

父さんを見る。

 

木の実を見る。

 

また父さんを見る。

 

そしてそっと受け取り、木の実を齧る。

 

 一口。

 

 もう一口。

 

『……あまい』

 

「そうか」

 

父さんはそれだけ言って戻っていった。

ラルトスは木の実を見つめる。

それから父さんの背中を見る。

少しだけ嬉しそうだった。

 

 

夕方。

 

空が赤く染まり始めた頃、縁側に座るラルトスの隣に腰を下ろす。

 

しばらく何も話さない。

風だけが通り過ぎていく。

 

 やがて。

 

『……ユア』

 

「ん?」

 

『……ここ』

 

ラルトスが家を見る。

 

『……あたたかい』

 

小さな声だった。

 

『……こわくない』

 

昨日。

あれほど怯えていたポケモンが言う言葉。

 

俺は空を見上げた。

 

赤い夕日がテンガン山を染めている。

 

「そっか」

 

それだけ返す。

それだけでよかった。

 

隣を見る。

 

ラルトスはもう昨日みたいな顔をしていなかった。

不安はまだあるだろう。

怖いこともあるだろう。

 

 でも。

 

少なくとも今はここが安心できる場所だと思ってくれている。

それだけで少し嬉しかった。

 

明日から何が起きるかなんて分からない。

けれど、その時の俺は、なんとなく思った。

 

この出会いはきっと特別なものになる。

そんな気がしていた。

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