繋がりの王者   作:宵取与一

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鋼の牙
1話


最近、この町はおかしい。

いつからだっただろうか、鉱山から運び出されるはずの鉱石が途中で砕かれていたり、坑道で使われる重機が壊されていたり。

 

最初はただの事故だと思われていた。

けれど、それは一度では終わらなかった。

 

 二度。

 

 三度。

 

同じような被害が続き、気付けば町の人たちは顔を合わせるたびに同じ話をするようになっていた。

 

「また壊されたらしいぞ」

 

「今度は奥の坑道だって」

 

「一体何がいるんだ……」

 

不安は少しずつ、だけど確実に町全体へと広がっていた。

そして今日もまた、その日が来た。

 

 

 

 ガァンッ!!

 

 

 

家の中にまで響くような大きな音だった。

思わず肩が跳ねる。

俺は窓の方へ顔を向けた。

音が聞こえたのは鉱山の方角だ。

 

「……またか」

 

小さく呟く。

嫌な予感がした俺は、気付けば椅子から立ち上がっていた。

 

玄関へ向かう。

 

後ろからぱたぱたと小さな足音が続いた。

 

『ユア』

 

今となっては聞き慣れた声。

振り返らなくても分かる。

 

 ラルトスだ。

 

「行くぞ」

 

『うん』

 

短いやり取りを交わし、俺たちは家を飛び出した。

 

 

クロガネシティの坂道を駆け下りる。

煙突から立ち上る煙、鉄の匂い、石炭の匂い、子供の頃から当たり前だった景色。

 

でもココ最近は違った。

 

空気が重い。

胸の奥がざわざわする。

騒ぎの中心へ近付くほど、その違和感は強くなっていった。

 

 

現場には大勢の人が集まっていた。

職人たちの怒鳴り声、慌ただしく動く人影。

俺は人混みの隙間から中を覗く。

 

そこにあったのは、無惨に破壊された掘削機だった。

鉱山で使われる大型の重機。

巨大なアームは途中からへし折られ、金属の骨組みはぐしゃぐしゃに捻じ曲がっている。

 

まるで何か巨大な力で無理やり押し潰されたみたいだった。

 

「なんだよ……これ」

 

思わず漏れる。

隣でラルトスも静かに見上げていた。

 

「ふざけるな!」

 

「また鉱山のポケモンの仕業か!」

 

「いい加減にしろ!」

 

怒鳴り声が飛ぶ。

連日の事件で皆、苛立っていた。

 

それも無理はない。

 

仕事道具が壊されれば生活に関わる。

そんなものは子供の俺にだって分かる。

 

 だけど。

 

俺は壊れた重機を見つめた。

 

「妙……だよな」

 

被害は出ている。

それなのに、人が襲われた話は聞かない。

壊されるのは決まって重機や運搬車、鉱石ばかりだ。

 

 

 

 まるで――

 

 

 

仕事そのものを止めたいみたいに。

そんな考えが頭をよぎった時だった。

 

「静かにしろ」

 

低い声が響いた。

人の波が割れ、現れたのは父だった。

 

煤で汚れた作業着、太い腕。

職人たちを束ねる親方としての姿。

 

父は壊れた重機の前にしゃがみ込み、しばらく何も言わずに状態を確認していた。

そして小さく息を吐く。

 

「……またか」

 

怒りではない、疲労だった。

何度も同じことが続いている。

その重さが、その一言に滲んでいた。

 

「親方!」

 

一人の職人が前へ出る。

 

「もう決まりでしょう!」

 

「炭鉱のポケモンたちです!」

 

「このままじゃ誰か死にます!」

 

鉱夫達が口々に叫ぶ

 

「追い出すべきだ!」

 

周囲から賛同の声が上がる。

父はそれを黙って聞いていた。

否定もしない。肯定もしない。

 

 ただ考えている。

 

ふと、ラルトスの方を見ると、重機に手を置き、目を閉じていた

 

 そして。

 

『……ちがう』

 

と、小さく呟く。

 

「え?」

 

ラルトスは炭鉱の方を見ていた。

 

『おこってるだけじゃない』

 

静かな声。

 

『…かなしんでる』

 

胸の奥が引っ掛かる。

悲しんでいる?

誰が?

ポケモンが?

 

俺は炭鉱の入口を見る。

 

暗い穴。

その奥に一体、何があるのか。

 

「父さん」

 

気付けば口が動いていた。

周囲の視線が集まる。

父がこちらを見る。

 

「なんだ」

 

俺は一度だけ息を吸った。

 

「……本当にポケモンが悪いのか?」

 

一瞬、その場が静まり返った。

 

「何言ってんだ」

 

「見りゃ分かるだろ」

 

そんな声が聞こえる。

だけど俺は続けた。

 

「誰か見たのか?」

 

沈黙。

 

「犯人を見た人いるのか?」

 

誰も答えない。

現場は見た、被害も見た。

当然、こんなことが出来るのはポケモンしかいない。

 

でも、誰もその瞬間を見ていない。

 

「だったら」

 

俺はぽっかりと口を開けた炭鉱の入口を見る。

 

「俺が見てくる」

 

空気が止まった気がした。

次の瞬間。

 

「馬鹿か!」

 

「危険すぎる!」

 

「子供が行く場所じゃねぇ!」

 

と、鉱夫達の怒声が飛ぶ。

当然、父の仕事を間近に見てきた俺は、危険なことなんて知ってる。

 

でも。

 

ラルトスの言葉が離れなかった。

 

 

 

 ――かなしんでる。

 

 

 

もし本当にそうなら。

話も聞かずに追い出すのは違う気がした。

父はしばらく俺を見ていた。

まるで何かを量るように、そして静かに尋ねる。

 

「なぜ行く」

 

俺は答えた。

 

「単純な破壊だとは思えないから」

 

それが本音だった。

きっと、何か理由がある。

 

「それを確かめたい」

 

父は目を閉じ、考える。

 

ーー数秒。

 

やがて、

「……行ってこい」

と、一言だけ言った。

 

職人たちがざわめく。

だが父は構わなかった。

 

「ただし」

 

真っ直ぐ俺を見る。

 

「危険なら引け」

 

「うん」

 

「無茶をするな」

 

「分かった」

 

父はほんの少しだけ笑った。

 

「ちゃんと帰ってこい」

 

父親としての心配と、成長を見たいという思いの籠った父さんの目。

胸の奥が熱くなる。

 

俺は力強く頷いた。

 

『ユア』

 

ラルトスが隣に並ぶ。

 

『いっしょ』

 

短い言葉。

でも、その一言だけで十分だった。

 

「ありがとう」

 

俺は笑う。

ラルトスも小さく笑った気がした。

そして前を見る。

鉱山の入口、暗い穴の向こう側。

何が待っているのかは分からない。

だけど、行かなきゃ。

 

だから俺は一歩を踏み出した。

 

クロガネの鉱山へ。

 

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