「ユーヴェンス!」「ユーヴェンスくん!」「頑張れ!」
住民が俺にエールをかけてくれる。コイツら、俺はいつも任務に行ってるのに、毎日飽きないのかよ。まあ、悪い気はしないけど。
「ユーヴェンスくん。今日の任務も頑張ろうか。」
上司のライアンが声をかけてくる。
「ああ。」
俺はこの国の騎士団に入っている。最初は面倒なことも多かったが、ライアンや住民たちに囲まれた生活は、今は悪い気はしない。
「─ここが例の森だね、ユーヴェンスくん」
「ああ、外から見る限りは普通の森だな」
そうして、俺たちは今回のパトロール先である森に到着した。現在、各地で行方不明者が多発している。
俺たちの国でもそれは同様であり、先日もこの森に任務に出ていたクロストの待ちの警護団長であったアルセリアという人間が行方不明となった。アルセリアが消えたのは王国にとっても一大事だったようで、王国はこの森に騎士団のほとんどを調査に出させた。俺としても住民を行方不明のままにするわけにもいかねえから、一刻も早くこの事件を解決したい。
もちろん行方不明者が出てる森で単独行動なんてのは言語道断だから、最低でも二人組で行動するよう命じられている。
それからしばらくアルセリアの足跡と思わしきものを辿って森を進んでいったが、森をしばらく進んでいくと足跡がぱたりと途切れていた。
「おそらくアルジェリアくんはこの場所で何らかのことがあり
行方不明になったんだろうね」
「ああ、そうだろうな。だが、少し妙じゃねえか?」
「何がだい?」
「アルセリアは警護団長に任命されるほどの実力者なんだろ?そんな奴が攫われるってんならタダで攫われるはずはねえ。きっと激しく抵抗するはずだ。だがここでは足跡が途切れているだけで周囲は何もなかったように綺麗だ。こりゃあまるで─」
「神隠しにでもあったみたいだね」
俺の言葉をライアンが引き継いだ。そう。これは誰かに攫われたというより、何か俺たちの理解のできない現象が起こっているような感覚だ。より一層警戒を強めねえといけねえ。
そう思ったその時、背後から音がした。振り返ってみると、木の間からアグラムが出てきた。アグラムはツノと牙とヒレを持った海竜のような見た目をしているモンスターだが、実際には小心者で戦い方もよくわかっていない。
だが、俺たちが遭遇したアグラムは様子がおかしかった。
情報に聞いていたアグラムより明らかに大きいし、小心者であるはずのソイツは今にも俺に攻撃してきそうな気配だ。そもそもアグラムは森にいねえはず。一体何が起こってやがる!?
「こんなところにアグラム…!?やはり何かがおかしいみたいだね」
ライアンも異変を察知し臨戦体勢に入った。だか次の瞬間、ソイツは俺目掛けて思いっきり突進してきた。
「なに!?あんな足でそんなスピードが出るのかよ!?」
海竜のような見た目に反して素早い突進に怯んでしまった。このままでは奴のツノがモロに刺さっちまう!
俺は咄嗟に両手で持っていた剣を交差させ、奴の突進を防いだ。だが─
(なんて威力だ!抑えきれねえっ…!)
奴の突進は以上なほど威力が高く、俺は思わず吹き飛ばされてしまった。
だが突進を俺が防いでいる隙にライアンが攻撃を仕掛けていた。それによってアグラムが怯む。俺も早く戦線に戻らなければならない。吹き飛ばされながら周囲を見渡すと、蹴るのに良さそうな木はいくつもある。とりあえず吹き飛ばされた先にある木を蹴って戦線復帰しようかと考えていたその時─
─いきなり、俺の吹き飛ぶ先に穴が出現した。
「…なんだよ、アレは!?」
柄にもない俺の大きく動揺する声を聞いて即座にライアンもこっちをみる。そこには闇を煮詰めたような色の禍々しい穴が生まれていた。その穴の先からはなぜかは分からないが、刺さるような悪意を感じる。吹き飛ばされている俺は避けることもできず─
「ああああっ!?」
「ユーヴェンスくん!!!!!!」
その穴に吸い込まれてしまった。
穴に吸い込まれてからも動きが止まることはなく、ずっと後ろに飛ばされている。穴の中はとても気持ち悪い感覚だった。無数の値踏みするような視線を感じた。やがてその視線が無くなると、首の裏に何かを刺されるような感覚があった。その直後─
「ぐああああああああっ!?」
身体中が熱くなり、刺さるような激痛ととてつもない吐き気がした。初めは耐えていたが、何分もそれが治る気配はなく─
やがて俺は気絶してしまった。
目覚めると、もう穴の中ではなくなっていた。そこは小高い丘の上だった。遠くには建物の集まりらしきものが見える。だが俺の住んでいる待ちの建物とは全然違った。
俺はこの光景を夢だとも考えたが、首の裏に少し痛みが走り、これが夢であることを否定した。とにかく俺は人に話を聞こうと思い、遠くに見える街を目指して歩き始めた。
歩き始めてからしばらくして、人を見つけた。俺はその人が何か知っているかもしれないと思い、話しかけてみることにした。その人は、長い髪を結った2メートルはあろうかという巨漢だった。
「なあ、すまねえ。アンタ、ここがどこだか知ってるか?」
「あ?」男がぶっきらぼうに返す。
「ここがどこだか分からねえってことは…お前、この世界に来たばっかってことか?」
この世界?どういうことだ…?コイツは俺のいる世界とは別のとこから来たってのか?
「この世界がどうとかはよく分かんねえが…俺は謎の穴に触れて気づいたらここにいたんだ」
「なるほどなあ…」
男はそう言って素敵な笑みを浮かべた。
その次の瞬間だった。
「は?」
その男は俺の顔面目掛けて拳を振るった。突然のことで反応できなかった俺はモロに喰らっちまった!
「アンタ…一体どういうつもりだ!?」
「俺はマンモス西田っていうもんでな。俺もこの世界にこの前来たんだがな、ある男に話を持ちかけられたんだ。俺やお前みたいにこの世界に外から来たやつをブチ殺せば報酬を貰えるんだよ」
訳がわからねえ…やっぱりここは俺がいた世界とは別なのか!?ある男ってのは誰だ!?ソイツはなぜ俺たちのような奴の命を狙っている!?
動揺している間にも西田が今度は腹目掛けて拳を振るう俺は咄嗟に剣を持って対応しようとしたが…
─剣が、手からこぼれた。
「しまった…!」
先ほどのマンモスの打撃で脳に打撃があったみてえだ。手に力が入らねえ…!
「俺は運がいいみたいだな!脳にダメージがいって何もできねえやつをブチ殺すだけで金がもらえるんだからよ!」
マンモスの打撃が腹に入る。それは俺の鳩尾にモロに入った。普通の人間ならここで倒れるだろう。だが…
「なに…お前、なぜ倒れない!!」
マンモスが動揺する。
俺は巨漢のフルスイングを顔面と鳩尾に1発ずつもらいながらもなお立っていた。
「悪いな…俺は昔からタフだったもんでね。簡単には沈んでやらねえな。」
と言ってみるものの、手に力が入らねえから何もできねえのは変わらねえ。マンモスもそれは知っている。
「ぬかせ!死ぬまでの時間が少し伸びただけじゃねえか!」
そういって再び顔面に拳を振ろうとしてきた。だがその時…
「グアッ!?」
拳がマンモスの顔面に突き刺さった。
「テメェ!何しや…何!?」
そこに立っていたソイツを見た瞬間、俺もマンモスも固唾を飲み込んだ。
ソイツは人間の言葉こそしゃべっているものの、明らかに風貌が人間のそれではなかった。二本の銀色の巨大なツノを携え、口は左右5本ずつの牙とともに縦についている。体は全身茶色く、筋骨隆々だった。
「俺はロトって言うんだ。いきなりここに飛ばされて迷ってたところに、お前らが闘ってるじゃねえか!話を聞くついでに闘わせてもらうぜ!お前もボロボロのソイツより俺と闘った方が楽しいだろ?」
どうやら、コイツもどこかから飛ばされてきたようだ。それに、かなりの戦闘ジャンキーらしい。こりゃあまいったな…。
だが、俺はまだ満身創痍じゃねえ。さっきは動揺して頭が回らなかったが、手に力が入らなくても闘う手段はある!
俺は咄嗟にマンモスに蹴りを入れ、それは腿にモロに刺さった。
「グアッ!?」
マンモスが悶絶する。その隙をつき、俺は落とした剣を拾い、マンモス目掛けて投げつけた。手に力が入らなくたって俺なら投げることぐらいできる!
それはマンモスの腹に刺さった!
「があああああああああああああああああああ!!!!!!!」
マンモスは悲鳴をあげ、その場に倒れ伏した。これで一旦難は去った。
…いや、まだ去っていない。
「おおっ!お前、もうボロボロかと思ってたけど、なかなかやるな!さあ、次は俺とやろうぜ!」
戦闘ジャンキーが臨戦体勢に入った。だが…
「勘弁してくれよ…。俺はもう動けねえぜ…。」
俺もその場に倒れ伏した。王国の騎士団が1日に2度も気絶なんて、情けねえ。