次に俺が目を覚ますと、そこはどうやら建物の中らしかった。だがやはり見たことないような内装だった。気絶する前、俺はバケモノを目の前にしていたはずだ。どうやってここまで…?
「ここは…?」
「お、目が覚めたか!もう体は大丈夫か?」
俺の声を聞いてバケモノが話しかけてきた。どうやら俺をここまで連れてきたのはバケモノのようだ。
「お前、ここはどこだ?なぜ俺をここに連れてきた?」
俺はバケモノに尋ねる。奴の目の前で倒れた俺を連れてくるからには何かしらの意図があるはずだ。
「…お前、病院を知らないのか?」
バケモノが驚いたように言う。病院…?
「病院っていうのはなんだ?聞いたこともねえが…。」
「お前、病院を知らないのか、珍しい奴だな。病院っていうのは、怪我した人間を治療するところだ。」
「怪我した人間の治療なんて特定の建物でやることなのか?救護班に包帯を巻いて貰えば怪我なんて治ると思うが…。」
「…お前、俺がいうのもなんだけど、結構古クサイ考えなんだな…。」
バケモノが呆れたように言う。嘘だろ?俺の所属している騎士団は国の最先端の治療を受けているぞ?
「まあいいや。しばらくそのまま休んでいた方がいいんじゃないか?お前と戦ってたやつもさっき目を覚ましたばっかだしな。」
戦っていたやつ……マンモスのことか。コイツはマンモスも助けたってことか?
「ちょっと待ってくれ。お前は俺たちを殺したかったんじゃなかったのか?なのになぜ俺たちを助ける?」
「…殺したかった?そんなわけないだろ、俺はただ強そうな奴と戦いたかっただけだ。」
…どうやらコイツは生粋の戦闘狂らしい。
「聞きたいことは他にないか?なかったら俺はもう1人の方を見に行くぞ。」と言ってバケモノが立ち去ろうとする。
「いや、聞きたいことは色々あるんだが…おそらくこれはマンモス…さっき戦っていたアイツも交えて話し合った方がいい。俺もついていく。」
「アイツはマンモスっていうのか!それよりお前、さっき起きたばっかりなのにもう動けるのか!?」
「ああ。脳へのダメージが大きかったが、それ以外には特に問題はねえ。」
「じゃあ一緒に行くか!…っと、その前にお前の名前も教えてくれねえか?」
「俺の名前はユーヴェンスだ。お前の名前は?」
「俺か?俺はカイロスのロトだ!よろしくな!」
…カイロスのロト?カイロスってのはなんなんだ?ロトが名前でいいのか?このバケモノに関してはまだ分からねえことだらけだ。困惑を抱えながら、俺はバケモノの後につきマンモスの元へと向かった。
マンモスのいる部屋は俺の部屋の隣だった。マンモスは俺とバケモノが話している間に起きていたようだ。
マンモスは負けたのを気にしているようで少し不機嫌だった。
「…何の用だよ。」
「お前に聞きたいことがある。今からこのバケモノと3人で互いの知ってることについて話し合うぞ。」
「おい、バケモノってのは俺のことかよ!?ちゃんとさっき名前を教えたじゃねえか!?」
「あの紹介だとカイロスとロトどっちが名前かわかんねえよ。」
「お前、カイロスも知らないのか!?…いや、それは地方によっては普通にあるか…?」
この反応を見るにどうやらコイツはロトという名前らしい。コイツの名前もわかったところで、俺は自分について話し始める。
「俺は王国の騎士団に所属しているユーヴェンスだ。王国のにある森に行方不明者の調査に出たところ、謎の穴に入ってしまい、ここに飛ばされた。」
「オウコク…ってのはどこの地方にあるんだ?」
ロトが質問する。
「地方も何も、王国はそういう国の名前だが…、多分お前のとこには、国という概念もなさそうだな。」
「???なんの話をしてるんだ?」
ロトが理解できないと言った様子で聞いてくる。
「俺の予想が正しければその謎もすぐに解ける。とりあえずお前も自分がここについた経緯について話してみろ。」
「…まあいいや。俺はロトって名前だ!カントー地方の出身なんだが、ガラル地方のチャンピオンと戦っていた時に急に変な穴に巻き込まれてここにきてたんだ!で、誰かに話を聞こうと人を探してたら、お前らがいたんで、とりあえず戦うことにした!」
「傍迷惑な奴だな…」
カントー、ガラル、チャンピオン…いくつか聞きなれない言葉が出てきたな。だがどうやらコイツの住んでたところでは普通に使われているんだろう。
「じゃあ最後はてめえだ、マンモス。お前、『この世界に来たばっかり』だの『ある男から報酬をもらえる』だの色々言ってたよな?何か知ってるだろ?」
俺はマンモスに確信を持って尋ねる。コイツは何か情報を持っている。
「…いいよ、わかったよ、話してやるよ。どうせ負けてのこのこと帰っても殺されそうだしな。」
そうぶっきらぼうに答えてマンモスは語り出した。
「俺もお前らと同じで穴に巻き込まれてここに来たんだよ。ただ、俺がここに来たのは1週間前だ。俺も最初はお前らみたいに訳もわからず彷徨っていたが、しばらく歩いてある男に色々教えてもらったんだ。俺はそいつに『この世界に来たばかりのやつを殺す度に報酬をやろう。』と言われてたから、お前に襲いかかったんだ。」
「なるほど…お前が俺に襲いかかってきた経緯と、お前に命令した奴のことはわかった。だが、『この世界に来たばっかり』ってとこをまだ聞いてねえぞ。そこについてもその男に聞いたのか?」
「ああ。俺も奴にここがどこかについて聞いたんだよ。そしたらやつは『ここは様々な世界の戦士たちが俺たちのボスによって集められた場所』って言ってたんだよ。」
…やはり、間違いない!
「つまり、俺もアンタもロトも、それぞれ別の世界の住人ってことでいいんだな?」
俺はマンモスに尋ねる。
「ああ。奴の言っている言葉が正しければそうなる。」
やはりか…。それなら、ロトがガラルだのカイロスだなと知らない言葉を使っていたのにも、病院という俺の知らない施設を当たり前のように話していたのにも納得がいく。だが、マンモスの話を聞いて、新たな疑問も浮かび上がってきた。
「この世界がどんなところかは少しわかった。だが、その男が言っていた俺たちのボスってのはなんなんだ?」
俺はマンモスに尋ねる。
「さあな…俺もそこまでは聞いちゃいねえよ。」
マンモスが答える。
参ったな…そのセグなんとかやそのボスについて知らないとこれからやることもはっきりさせられない。
そう悩んでいた時、後ろから声がした。
「彼らのボスというのはおそらく、パテルのことだと思います。」
その声に反応して3人が一斉に声の方向を向いた。その人はナースの服を着ていたが、顔は黒い何かに覆われており、自分の顔の代わりに覆っているものの上からボヤけた絵のような表情が映し出される。
「なんで顔がドット絵なんだよ?」
マンモスが口からこぼす。どうやらあの覆っているものの上に描かれているのはドット絵と呼ぶようだ。マンモスに続いて俺も疑問をこぼす。
「アンタは…?」
その問いに答えたのはロトだった。
「あの人はここの主治医だ!倒れたお前らを治療してくれたのもこの人だよ。」
「はい、私はこの病院の主治医をやっております、チユと申します。」
その人は声も普通の人間の発さない声になっており、男性が女性かもわからない。
「変声機まで付けてんのか。」
マンモスが再びこぼす。どうやら声が変なのは変声機とやらのせいらしい。
「この顔と声については詮索しないでいただけると幸いです。過去に色々あってこうなりましたので。」
「アンタの顔や声のことはどうでもいい。それより、パテルってのはなんだ?」
俺は尋ねる。その名前は当然と言えば当然だが、やはり知らない名前だった。
「この世界にはあなた方のような別世界からやってきた者たちの命を狙う組織があります。それが『第8異界訪問者』です。」
第8異界訪問者…おそらくマンモスもそこに雇われていたのだろう。
「第8ってことは第1から第7まであるのか?だとしたら相手がいっぱいで楽しそうだな!」
ロトが呑気にいう。冗談だろ?楽しそうどころの話じゃねえ。俺たちの命を狙う組織が少なくとも8つもあるなんて命がいくつあっても足りねえよ。
「いえ、第1や第2などはありません。彼らはどういうわけか第8を名乗っているのです。」
「なあんだあ…。」
ロトが落胆する。おかしな話だ。だが、8つも命を狙ってくる組織がないと言うのはひとまずいいニュースだろう。
「ですが、第8異界訪問者は各地に点在しており、実質8つの組織に分かれていると言っていいでしょう。」
「「変わんねえじゃん!!」」
俺とロトが口を揃えて叫ぶ。俺は落胆しているが、ロトは喜んでいるようだ。とんでもねえ奴だよ。だがひとつ気になることがある。
「そいつらはこの世界とは違うとこから来た奴らで構成されてるんだろ?だったらなぜ俺たちの命を狙う?俺たちも別の世界から連れてこられたんだぞ?」
マンモスは奴らに雇われていたが、俺はノータイムで命を狙われた。この違いはなんだ?
「そういった疑問もありますので、おそらく第8異界訪問者は何かこの世界に連れてこられた方々について何かを知っていると考えていいでしょう。もしあなた方が元の世界に帰りたいと願うのであれば、彼らとの接触が必要になります。」
チユが提案する。俺たちの命を狙ってくるやつと接触するかどうか?そんなもの、答えは決まっている。
「もちろん、それが方法だっていうなら喜んで接触する。俺はなんとしてでも元の世界に帰る。」
「正気かよお前?命を狙われるんだぞ?」
マンモスが信じられないような口ぶりで聞く。だが俺は正気だ。俺はなんとしてでも俺の住んでいた街、自然、仲間を取り戻したい。
「ロト、お前はどうだ?」俺は聞く?
「俺は元の世界に帰りたいとかはどうでもいいんだけど…つええやつがいっぱいいるなら俺も戦ってもっと強くなりてえ!」
嬉しそうにロトが答える。コイツは変わらない。戦いが大好きなんだろう。
「マンモス、アンタはどうする?」
「俺は命を狙ってくる連中なんかと戦いたくねえんだけどなあ…もう俺は任務に失敗して命を狙われてる身だろうし、1人で逃げるよりもお前らといたほうが安全だろうな。」
「じゃあ決まりだな。一応言っておくけど、急に裏切って後ろから刺したりしてくるなよ?俺もロトもお前に刺されたくらいじゃ簡単には死なねえけど。」
「…チッ。」
「おい舌打ちすんじゃねえ。やっぱりやる気だったんじゃねえか。」
マンモスのやつは保身第一ということらしい。だが俺とロトが2人ともコイツといる限りはこいつは裏切れないはずだから大丈夫だろう。それに、俺たちといるのが一番安全だと分からせてやればいい。
「とりあえずは俺たち3人で結託して第8異界訪問者とやりあって元の世界に帰る方法を探ろう。チユさん、マンモス、何か奴らについての情報はあるか?」
俺は尋ねる。動き出そうにも、何か情報がなければ始まらない。
「俺はさっき言ったとおり、雇われただけで詳しい情報は知らねえよ。
…いや、雇ってきた男の外見くらいはわかるな…ちょっと待てよ…」
マンモスが顎に手を当てて考え始める。敵のことを知ってるやつがいるのは大きなアドバンテージだ。
「ああ、思い出した。ソイツは金髪で、白い服に白い仮面みたいなのを被ってたな。それと、俺との会話でことあるごとにエサクタとか言ってたような…」
「それはおそらく第1聖人直属の部下、フィンドール・キャリアスでしょう。」
チユさんには心当たりがあったようで、特徴を聞くとすぐに思い浮かんだようだ。
「チユさん、知ってるのか?というか第1聖人ってなんだ?」
俺は尋ねる。またしても聞きなれない言葉だ。
「さきほど、第8異界訪問者は8つの組織に分かれていると言いましたよね。その8つの組織をそれぞれ束ねているものを聖人と呼びます。第1聖人が一番弱くて第8が最も強い。そして、数字が一つ違うだけでも彼らの力には大きく差があると言います。」
「じゃあ第1聖人はとんでもなく弱いってことか、なあんだあ…。」
ロトが残念そうに答える。
「いえ、第1聖人ですら今のあなた方の力を遥かに超えています。第1聖人がとんでもなく弱いのではなく、第8が途轍もなく強いのです。」
「おおっ!やったあ!」
ロトは自分が強くなれる可能性に歓喜している。だが俺は固唾を呑んだ。マンモスに至っては冷や汗をかいている。これからの戦いがどうなっていくのか、想像もつかない。
だが、元の世界に帰るためにはやるしかないのだろう。俺は覚悟を決めた。そして、マンモスの背中を叩いて喝を入れる。
「やると決めたらやるしかねえぞ。」
「チッ…わかってるよ、退路がねえってことはな。」
マンモスも軽口を叩く。この分なら大丈夫だろう。
「それで、チユさん。第1聖人について教えてくれるか。」
「…分かりました。第1聖人についてお話しします。
第1聖人は、かつて自分がいた世界で王であったものです。そして、王でありながら、自分自身の力もとても強力です。その者は屋根のない宮殿に拠点を構え、常に部下を侍らせそこの玉座に鎮座しています。見た目は白髪の隻眼でシワも深く、口元と見えない右目に傷跡があり、また片手には斧を携え、骨でできた王冠を被っているため、誰が見ても彼を王だと思うでしょう。彼の名前は─」
とても特徴的な奴のようだ。聞いているだけでも強さと風格が伝わってくる。そしてチユさんが名前を発する。
「第1聖人にして第2十刃(セグンタ・エスパーダ)、バラガン・ルイゼンバーン。」