1577年 越後国春日山城
春日山城内の庭園で数人の子供たちが走り回っていた。
「養父上、やはりこちらにいらっしゃいましたか。最上殿が探しておりましたぞ」
青年が庭園で遊ぶ子供たちを微笑ましそうに見ている老人に声をかける。
老人は青年の方を振り向き、答える。
「そうか、義光をここに連れてきてくれ。ここで話がしたい」
「分かりました。すぐに連れてきます」
青年はそう答えると慌ただしく走り去っていく。
「全く、もう少し落ち着けばよいものを」
「逆に兄上が落ち着きすぎなだけでは?」
「そうかのう?子供たちを見ていると落ち着くぞ」
「兄上がそういう趣味をお持ちなのは理解しましたし、否定いたしませんが私に押し付けないでください」
「酷くないか?私はそんな趣味はないのだが」
老人の横にいる初老の男が軽口をたたくように言い合う。
「しかし、齢16の少女を50を越えてから嫁にしたのですから、言い逃れは出来ませんぞ」
「……それは事実だから言い返せぬが。妻というよりかは娘のように思っておる」
「つまり、娘に手を出すと。我が娘は渡しませぬぞ!」
「変な勘違いをするな!」
老人の名を武田信定、この城の主である。
その横の初老の男の名を一条信龍、信定の弟である。
「しかし、信龍、いつも通りで頼む。最上は聡い、気づかれたくない」
「景虎殿の件ですな」
この頃、長尾景虎は病に伏せていた。
「景虎だけではない、信繁に勘助、高坂もじゃ」
「前年には真田殿、宇佐美殿。人が少なくなりますなあ」
「ああ、老いた我らが消え、信義様ら若い世代へと変わっていく。信龍、お主はその狭間におるのじゃ、私の死後の武田は頼むぞ」
「兄上は死ぬ気がしないのでまた今度、お願いします」
「おい、感動の場面だろうが」
兄弟でそんな話をしていると遊んでいた子供の一人が駆けよってくる。
「のぶさだじいさま、みてください。きれいなゆきだまができました」
城の外には雪が降っている。
「おお、綺麗な雪玉じゃな、源三郎」
「じいさま!わたしのもみてください」
「わたしも」
「ぼくもおねがいします」
「ああ、皆、綺麗な雪玉じゃ。……信龍、子供は武田の宝じゃ。何としても守り抜くぞ」
「はい」
「…それにしても雪が強まってきたな。そろそろ部屋に戻りなさい。おふうが菓子を作って待っているだろうから」
「はい!」
「信龍、子供は元気じゃのう」
「そうですな」
そうして暫く二人で談笑を続けていると先ほどの青年が最上義光を連れてやってきた。
「久しいですなあ、最上殿」
「いやいや、最後に会ってからまだ1月も経っていませんよ」
「そうか、信清、信龍、少し席を外してくれ二人で話がしたい」
「はっ」
「えっ、しかし、わ、分かりました」
二人が部屋に戻ると信定が口を開く。
「最上殿、織田より内通の書状でも届きましたかな」
その言葉に義光の目が開かれる
「…ばれておりましたか?」
「勘に、長篠の敗戦から武田はまだ立ち直れていない。対して織田家は越前を落とし、加賀・能登にも手を出し始めている。本願寺が頑張っておりますが後、2,3年もすれば降伏するでしょう。皆が少しずつ気づき始めていますよ、武田は終わりだと。織田に付き、家名を残しなさい。ただ叶うのであれば、武田家が滅んだ際に武田の郎党を保護していただきたいのです」
「…畏まりました。これにて御免!」
義光が去った後
「少し甘くなりましたかな?」
「そうかもしれぬな。だが、織田に一方的に負けるのは嫌じゃからのう一泡吹かせてくるとしよう」
この数日後、最上義光が武田家を離反。
これと同時期に伊達輝宗が再度、武田領に侵攻するが一条信龍がこれを撃退し、再び米沢を奪取する。
さらに加賀手取川において武田信定が柴田勝家が率いる織田軍を撃破し、能登の七尾城を陥落させるなど、武田家の健在を周辺諸国に知らしめる。
一方で1578年、高坂昌信、長尾景虎、山本勘助、武田信繁が相次いで病死し、武田家の軍事力はより縮小することになる。
1580年には高天神城が陥落し、三河・遠江の武田軍はすべて撤退することになり。
運命の1582年に突入する。
次回から甲州征伐編(天目山編)に突入予定。
駆け足気味になってはいますが、楽しんでいただけると幸いです。
年数を一気に進めるのあり?なし?
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あり
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なし