転生したら甲斐の虎の弟になった   作:淡々鬼

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高遠城の戦い後編

 1582年 3月3日 早朝

 

 まだ日も昇りきらぬ頃、100程の兵が川を渡っていた。

 率いるは武田信定。

 

 1582年3月3日午前3時頃、武田軍100が滝川一益の陣を強襲する。

 

「突撃せよ!」

 

「食い止めろ!」

 

 各所より声の聞こえる乱戦。

 敵味方の区別はなく。

 

 しかし、織田は弱兵であった。

 

「的確に殺せ!武田の強さ見せつけてやれ!」

 

「こら逃げるな!雑兵ども!戦え!」

 

 兵の練度と覚悟。

 織田の兵はその多くが金で雇われた兵であった。

 武田の兵は自らの土地を守ろうとする兵であった。

 

 織田の兵は戦に特化した兵であった。

 武田の兵は歴戦の猛者であった。

 

「滝川一益を討ち取れ!」

 

 信定が叫ぶ。

 

「悪いな、伯父御のところに行かせるわけにはいかねえ」

 

 信定の目の前に一人の大男が立ちふさがる。

 その見た目は『派手』の一言に尽きる。

 

 どこからどう見ても派手!

 傾奇者とはこの男を指すのであろう。

 

 手に持つ槍は尋常でない太さと長さ。

 だがそれを自らの手のごとく扱う技術。

 

 彼こそが

 

「天下御免の傾奇者、前田慶次郎利益たあ俺のことよ!」

 

 前田利益。滝川一益の甥であり、前田利家の兄・前田利久の養子。

 慶次郎の名で知る人が多いであろう。

 そんな男の名乗りを受けて

 

「……」

 

「……」

 

 一瞬時が止まる。

 慶次郎はこの戦において実父であり一益の弟・益氏の副官として鉄砲隊を率いていたはずであった。

 それが何故かここにいる。

 窮地を救われたとはいえ、織田家において5本の指に入る家臣である滝川家の一族としてこの軍令違反はどうなのだという気持ちが一益にはあった。

 なにより、弟が気づけば怒り狂うことが彼の目には見えていた。

 

「…傾奇者、そうか、はっはっは!面白い。久しぶりじゃな、ここまでの戯けに会ったのは」

 

 武田信定、武田信玄・北条氏康・今川義元といった名将が覇を競い合った時代より活躍し現在も生きる数少ない男。

 

 そんな男が動く。

 

「はぁ!」

 

「ぐっ!」

 

 一撃、慶次郎の鉄傘がそれを防ぐ。

 だが、少しづつ傘が切られていく。

 

 スポンッ!

 

 突然、鉄傘が外れる。

 

「なぁッ!」

 

 信定が勢い余って体制を崩す。

 

 その瞬間を慶次郎は見逃さない。

 

 鉄傘を外した槍が信定に向かう。

 

「チィ!」

 

 信定の腹に槍が突き刺さる。

 

「老骨を労わってくれてもいいんじゃぞ」

 

「戦に老いも若いも関係ないわ!」

 

 そこからは一進一退の攻防。

 周りの者たちは見守ることしかできない。

 

 そんな状況に水を差すものが一人。

 

「お前ら、足軽は3点、武士は10点、大将首は100点だ!」

 

 名を森長可。織田軍の若手きっての猛将であり、この戦場における実質的な副官である。

 そしてこの男、前日の戦いでは武田の弓隊と攻防を繰り広げていたはずである。

 

 この場にいるのは森の全軍、約3千。

 つまるところ、森軍は自らに任された戦場を放棄し、100の別動隊を倒すためにこの地に来た。

 滝川一益は考える。元々本陣にいたのは1千、慶次郎が連れてきたのは5百、更に本陣が攻撃を受けたとみてここに来たのが2千、そして森が3千。今、この地に6千5百がいる。

 100に対して6千5百。本来の戦場は8千9百と8千5百。いや、森の戦場に3千はいたはず。

 この3千は?8千5百の横腹を突くのでは?

 そうなれば、如何に弟と言えども戦えないだろう。

 しかも敵は武田だ、歴戦の猛者だ。

 ああぁ~!森~やりやがったな!

 伊勢に帰って隠居したい。信案が様から茶器をもらおう。

 そして余生を過ごそう。そうしよう。(この間、0.05秒)

 

「森様だったか?俺の喧嘩に手ぇ出すんじゃなぇ!」

 

「ああ?オレも混ぜろよ!」

 

「知らん、知らん。急に乱入してくるな!」

 

 3つ巴の乱闘は激しさを増す。

 当初100の兵で突入していた武田軍は開戦より2刻が経ち、日も昇りきったころには80程になっていたという。

 対する織田軍は既に1千近くが死傷している。

 

「おかしいだろ!」

 

 一益が叫ぶ。

 何故か、自軍の被害が増え続ける現状に。

 自分よりも年上のはずなのに未だに打ち合っている信定に。

 この時、滝川一益、数え58歳。

 そろそろ引退したい年頃である。

 

 この時、武田信定、数え60歳。

 いい加減、隠居したい年頃である。

 

「滝川益氏様の陣が突破されました!」

 

 先に崩れたのは織田軍であった。

 武田軍、約8千が織田軍に突撃する。

 

 織田軍が武田軍に飲み込まれようかというその時、一つの報告が届く。

 

「高遠城陥落!城主、仁科信盛様他、城兵悉く討死!」

 

 高遠城陥落。

 

「退くぞ!」

 

「逃げるな!」

 

「殺せぇ!」

 

「また、いずれ会う時もあるだろうよ、その時まで首を洗っておれ!」

 

 信濃の要衝であり、武田家に残された戦力のほとんどをつぎ込んだ城の陥落。

 それは武田家の凋落を示すには十分であった。

 

 この日、武田信義は甲府を焼き払い、小山田信茂を頼り岩殿城へと向かう。この時には既に信義に従う兵は2千程であったという。

 

 一方で奥州においては武田軍が奮闘し、一条信龍の手によって伊達方の猛将、鬼庭良直が討ち取られる。

 更に、伊達軍を追い詰めた信龍は裏切った白河城を攻めこれを陥落させる大内某を呼び出し、これを誅殺する。

 出羽においては本庄繁長が酒田を失陥し庄内が最上の手に渡るものの大宝寺城を拠点に最上軍と争い、武田軍の勢力を維持。

 

 北陸においては未だ、織田軍が立て直せていない中で神保氏の旧臣が富山城を乗っ取ったことにより、前線が能登・加賀付近にまで後退している。

 

 上野では北条高広がついに降伏したものの武田方は未だに奮戦を続け、3月5日には真田昌幸が岩櫃城に入城し、対北条を続けている。

 

 




補足:正直最初の方に伊達を虐めすぎたせいで東北地方の大名がほとんど武田に付くか壊滅的な被害を受けています。また、伊達家は本拠地だった米沢が陥落してしまったのもあってそこまでの戦力が出せていません。出羽は本編にも一瞬出てきたことのある本庄繁長君が頑張っています。
北陸は甲州征伐の序盤で柴田勢が壊滅したので史実でもあった富山城乗っ取りがより酷くなり、越中をほとんど失っています。
関東では、北条高広(きたじょうと読みます。)が降伏しましたが、史実でも24将に選ばれた小幡だけでなく内藤の息子、摩利支天の再来と呼ばれた沼田さんなどの若い諸将が奮闘し、真田が合流したことでまだ耐えると思います。
信濃も北信濃は頑張っています。南信濃は勝頼の居城だった諏訪上原だけが残っています。
甲斐は穴山が裏切ったりでごたごた、駿河はほぼ陥落。

何気に武田一門は裏切りの穴山と戦死した仁科・諏訪を除けばまだ生存中。(信廉・信豊とかは自分の城とかに逃亡してるけど)

年数を一気に進めるのあり?なし?

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