転生したら甲斐の虎の弟になった   作:淡々鬼

24 / 27
小田原征伐終結

 1590年 忍城

 

 6月20日、北条方に残された数少ない城の一つ、忍城へ6つの攻め口より、奥州・関東軍、同時攻撃を開始。

 

 まず、最初に穴が開いたのは皿尾口であった。

 攻め手の武田信定は采配を振るう。

 

「今じゃ!門が燃え尽きたぞ!進め!」

 

 この時、皿尾口の門に雷が落ち、門が焼け落ちたという。

 だが、不思議なことにすぐに雷による火は消える。

 

 理由を問われれば、この男であるが故と答えるしかないであろう。

 後世において、『武田家の忠臣』『甲斐の狼』などとして知られるこの男の最も有名な異名は『天神』であった。

 

 皿尾口の主将、成田土佐守、皿尾口より撤退。

 皿尾口の守備兵、280余りの内、2名が焼死、139名討死、27名捕縛と伝わる。

 

「追撃じゃ!このまま城を落とせ!」

 

 武田信定隊、更に進軍。

 

 

 長野口も皿尾口と同時刻に陥落。

 

「叩き潰せ!久方ぶりの前線じゃ!」

 

 最上義光自らが金棒を振り回し、守備兵を4,5人程度、叩き潰すと、恐れをなした長野口の守備隊は撤退したという。

 

「この柴崎和泉守が相手じゃ!潰せぇ!」

 

「柴崎様、駄目です!撤退を」

 

「しゃらくせえ!」

 

 しかし、長野口の二人の主将の一人、柴崎和泉守が撤退せず20名ほどの兵と奮戦し、討死。

 この抵抗により、最上隊にも少なくない被害は出たという。

 

 柴崎和泉守は忍城一の猛将と名高い将であったが、最上義光との一騎打ちの末、義光に討たれたという。

 この働きを秀吉より『最上殿の武は奥州一』と評されている。

 

 更に石田三成の猛攻によって持田口、佐竹義重によって下忍口も難なく突破される。

 

 一方で大宮口を攻める結城隊は大宮口の援軍に到着した酒巻靱負なる将と激戦を繰り広げたが、これを突破できず、しかし、その側の下忍口の陥落を受けて守備隊が撤退したことで陥落する。

 

 佐間口においては成田家の重臣、正木丹波が奮闘。

 武田信清率いる5千を3度撃退したが、他方面の陥落を受けて撤退することになる。

 

 これをもって、忍城は三ノ丸・二ノ丸・本丸を除き陥落。

 その城兵全てをもってして、成田門の防衛にあたる。

 

***

 

 忍城内

 

 この時、忍城を守る成田勢の士気は低くなっていた。

 理由としては大きく2つ。

 

 一つは前述のとおり、各攻め口の敗退によるもの。

 

 そして、もう一つが、城代・成田季泰が病に倒れたことである。

 

 季泰が病に倒れたことにより、その息子であり、忍城の民から好かれている成田長親が祈祷のためなどと称して、部屋に籠ったこともあり、兵たちの士気は下がるばかりであった。

 

「如何する、もはや時間はないぞ」

 

「柴崎殿の討死も痛いですな」

 

「せめて長親様が立ち直らねば、戦うことも出来ぬ」

 

「我らや足軽はともかく、民兵は戦いますまい」

 

「民兵が戦わねばこちらは3百足らずだぞ、守り抜けるわけがない」

 

 ここに集うはいずれも成田の重鎮たち、長親がいない今、その会議をまとめるは正木丹波。

 

 しかし、今、季泰・長親の他にもう一人、この会議に異議を唱えれるものがいた。

 

「仮に、降伏すると結論を出したとして、あの方が認める気がせぬ」

 

「戦ったとしてもあの方は討死するまで戦おうとしましょう」

 

 丹波が憂鬱そうに息を吐く。

 

 その時、部屋の扉を思いっきり開く音がした。

 

「丹波!降伏などと申すな。長親は私が引きずってでも戦場に連れて行く!それに元より降伏の選択肢はない!」

 

 開かれた扉の向こうに立つのは一人の少女であった。

 

 少女の姿を確認すると一部の若者たちが歓声を上げる。

 丹波を始めとする少女をよく知る大人たちは溜め息を吐く。

 

 この少女こそ、『東国無双の美人』と評され、武芸・軍事にも明るく『男子であれば、成田家を中興させて天下に名を成す人物になっていた』とも評される、成田家当主・成田氏長が娘。甲斐姫である。

 

「あんの、じゃじゃ馬が」

 

「丹波殿、落ち着いて、落ち着いて」

 

 忍城内では既に降伏か継戦か、意見が割れ始めていた。

 

***

 

 1590年6月21日、奥州・関東連合軍、忍城三ノ丸を突破。

 しかし、忍城も甲斐姫が先頭に立ち奮闘し、二ノ丸へは攻め入れず。

 

 そして6月22日、二度目の降伏勧告が行われる。

 

 使者は長束正家が務めた。

 この降伏勧告に忍城の多くの将兵は乗り気であったという。

 

 しかし、ここで成田長親が復帰し、民兵たちが戦に賛成し始めてしまい、降伏勧告は失敗に終わる。

 

「面目ない」

 

「いや、仕方あるまい。敵将である成田長親は余程の将のようだ、降伏に傾いていた場内を継戦一色に染め上げた。あのような男が家臣に欲しいな」

 

 石田三成、彼は中々の人材コレクターである。

 彼の家臣団にいる渡辺新之丞なる男、豊臣秀吉より2万石で誘われるほどの男であった。しかし、そんな男を三成は僅か5百石で配下に加えた。

 秀吉が問うと、三成は「自分の5百石の知行全てを与えた。新之丞に自分が100万石取りになった際に10万石を与える約束をして召し抱えた」

 また、ならば三成はどうしているかと秀吉が問うと、『新之丞の家に居候していると答えたという』

 また、他にも島左近を当時の自分の知行の半分を与えて配下に加えるなどしている。

 

「さて、というわけで、攻勢にも失敗したぞ」

 

「というわけでではないだろ、吉継」

 

「正家、あの三成が茶化しても怒らないぞ」

 

「ああ、吉継、三成が成長している」

 

「お前らは私をなんだと思ってるんだ」

 

 かくして、忍城は陥落せず。

 されども、既に二ノ丸と本丸を残すのみとなった。

 

「叔父上、この城、中々落ちませんな」

 

「季泰は病と長束が言っていましたが、事実なのでしょうか?代理の将でこのような」

 

「あ奴の子じゃろ、戦を望んでおるのは。民を動かし、戦へと進ませ、坂東武者の武を示そうとでもしておるのだろうよ」

 

 信清が言うと、信龍と信定がそれぞれ答える。

 

「しっかし、落ちぬ落ちぬ。如何する?」

 

「知らんよ。鬼殿は自分で考えられては?」

 

「虎殿が騒がしいのう。殴り殺してしまいそうじゃ」

 

 佐竹義重と最上義光が談笑しながら歩いてくる。

 

「明日でこの戦を終わらせるとしよう」

 

「ああ、明日で終わらせる。絶対に」

 

 奇しくも同じ時間に別の場所で、この戦に参戦しているすべての将が杯を掲げていた。

 

***

 

 1590年6月23日、忍城の戦い最終日開戦。

 

「突撃せよ!」

 

 先陣を切るのは佐竹家臣・真壁氏幹。

 

「防ぎきれ!」

 

 対するは成田家臣・正木丹波。

 

 両軍は互角。

 

「門を突破すれば、兵数差で圧倒できる。門の中へなだれ込め!」

 

「和田隊、出るぞ!」

 

 第二陣、佐竹家臣・和田昭為、出陣。

 

「ちぃ!踏みとどまれ!門を死守せよ!」

 

 ヒュン!

 

 そんな音と共に矢が飛来する。

 矢は一寸の狂いもなく、佐竹軍の武者を打ち抜く。

 

「俺の頬をかすめたぞ」

 

「済まない、少し奥に敵がいたので」

 

 甲斐姫の矢であった。

 

「我らには姫がついているぞ!」

 

 本丸の方より声が響く。成田長親の声であった。

 

「そうじゃ、儂らにはのぼう様と姫様がおられる」

 

「負けぬぞ!」

 

 城方の奮戦により、思うように戦は進まない。

 

「出るぞ!」

 

「鬼が出るぞ!」

 

「鬼じゃ!坂東最強の鬼が出る!」

 

 清和源氏の一族・佐竹家当主・佐竹義重、出陣。

 

「なんじゃ、このみっともない戦い方は!我ら佐竹は坂東一の武を誇るのじゃ!佐竹1千年の歴史に泥を塗る出ないわ!」

 

 空気が変わる。

 

 兵たちの目の色が変わる。

 

 勢いが増し、門がこじ開けられる。

 

「食い止めろ!」

 

「包囲殲滅じゃ!武田信定隊出るぞ!」

 

「手柄は側ぞ、ここで敵将を討ち取れ!木曾隊出るぞ!」

 

 門が開くや否や武田軍の先陣二部隊が門内に侵入する。

 

 その前を行く佐竹軍はすぐさま本丸の門を攻める。

 

「本丸を落とすのが第一功ぞ!」

 

「敵将を討て!」

 

 声が入り乱れる。

 敵味方も。

 

「そこを退け!」

 

「貴殿の首を貰ったらどいてやる」

 

 正木丹波、死す。

 

「否、死なん!」

 

 矢が飛ぶ。丹波に斬りかかった者達が射抜かれる。

 

「丹波、お主は成田に必要じゃ!だから死のうなどと思うな」

 

「姫君」

 

「姫様と丹波様を守れ!」

 

「防ぎきれ!」

 

 忍城の農民たちが盾になろうとする。

 

 その時、一つの声が響く。

 

「城代・成田季泰、降伏!忍城は開城じゃ!武器を降ろせ!」

 

 余りにも呆気ない幕切れ。

 降伏を宣言したのは病床に伏していた成田季泰。

 

 彼は最後の気力を振り絞り、息子・長親を説得し、降伏したという。

 

 この僅か5日後、成田季泰は病死する。

 

***

 

 1590年7月5日

 

 小田原城開城。北条家前当主・北条氏政、大道寺政繁、北条氏照らが切腹。

 北条家当主・北条氏直、高野山へ。

 

 ここに関東の覇者、北条家が滅亡。

 その旧領には徳川家康が入る。

 

 主な戦後処理である

 徳川家:三河・遠江・駿河・甲斐・南信濃より旧北条領(相模・伊豆・武蔵・上総・下総・上野の一部)へ

 武田家:下野の北条領を加増。

 佐竹家:常陸一国支配のお墨付き。(以降、江戸氏などの取り込みを行う)

 里見家:安房国安堵、上総没収。

 結城家:下総に10万石ほどの所領か(恐らく徳川領に含まれる)

 織田家:旧徳川領への移封。 

 

 奥州仕置きによる主な領土の変更

 蒲生家:伊勢松阪より旧大崎・葛西領30万石に移封。

 南部家:津軽家が独立。津軽地方を失う。

 津軽家:独立。

 




補足:前話で増援部隊と書いた部隊も21日以降は一部が城に入ったりしています。(長束正家とか)

普通に城攻めの描写ってこれで合ってるのかが不安ですが、そこは現実じゃないということで許してください。

蒲生家が本来獲得する土地を武田が持っているので氏郷さんには旧大崎・葛西領に移ってもらいました。(多分、氏郷さんの間は一揆が起こらない気がする)
織田家もこの世界線では移封を断っていないので改易されていません。
次の回くらいから史実と展開が変わってくると思います(いつも通りのあてにならない予告。もうだいぶ変わってる?気のせい気のせい)

今後の生前編の展開

  • 史実通り(細かい部分は異なる)
  • 史実無視のオリジナルストーリー
  • 史実で起こった事件の大きい流れを変更
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。