転生したら甲斐の虎の弟になった   作:淡々鬼

8 / 23
老将の意地

 1554年 side伊達稙宗

 

「全く、どいつもこいつも、あたふたしおって。晴宗の奴もじゃ老人を労わらんか!」

 

 鷹狩りなどはいかがですか?と聞かれれば誰でも行くと答えるじゃろうに、それで、連れてこられたのがこんな戦場じゃと?

 挙句、あやつめ『虎と龍を撃ち落としませんか』じゃと?虎は兄の方であろうに。弟の方は狼かのう。守りに向かぬ鋒矢の陣で足並みが揃わぬとはいえ3倍の敵を相手取るとはのう。

 いや、相手取るなどという程度のことではないな、押されておる。

 後、3いや2日もすれば、大崎、葛西あたりが撤退を主張するじゃろうな。

 奴らにはそこまでの国力がない、更に北で斯波と隣接して居る。

 

 まあ、だからこそ面白い。

 

「宗朝よ、儂のために死んでくれ!」

 

「お任せを」

 

 どうせ、この戦が終われば再び半幽閉の隠居生活、ならば最後に一花咲かせて死んでくれよう。

 伊達の魔術は我が代にて終わり。

 

 過ぎたる力はここに潰えさせるとしよう。

 この老人の意地とともにな。

 

「何を笑っておる?宗朝」

 

「いえ、殿が笑っておられましたので」

 

「ふん、既に倅に追いやられた隠居爺じゃぞ」

 

「某にとってはいつまでたっても殿は殿に」

 

「ありがたいものじゃ。陣幕にてわが身を隠せ、中には誰も入れるなよ」

 

「お任せを、老人共のつまらぬ意地を見せつけてやりましょう」

 

 全く持って儂にとっては過ぎた家臣よ。

 

 

 

 

「『地の利』『人の和』そして『天の時』、敵には『人の和』、我らには『地の利』。残るは『天の時』。だが、そればかりは時の運か」

 

 周りには誰も居らぬ。

 

 宗朝にも前線へ向かうように命じた。

 思い残すことはない、儂の最後の仕事を始めるとしようか。

 

 

 

「不動明王よ、我らにこの地を守るだけの力を与え下さいませ────────火界咒…ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダ マカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン」

 

 体の内が燃えているのが分かる。

 我が身なぞ神にくれてやろう、地獄に落ちようとも一向に構わぬ。

 ただ、惜しむらくはついぞあの愚息と和解できなんだことか……

 

「がっ…」

 

 口からも火が出る。

 

 続いて体中から火が出ているのが分かる。

 

 何故、最後に思い出すのか。

 

「父上!越後の上杉なぞに実元を差し出すというのですか!」

 

「ああ、これで伊達は越後も制することになる。次は越後の次は関東、その次は甲信・東海、そして畿内じゃ!お主にも働いてもらわねば」

 

「私は…次郎は、そのようなこと望んでおりませぬ!」

 

 何故、今なのだ、何故、思い出すのだ。

 軟弱者の発言を。

 

 …そうだ、斬ろうとしたのだ我が子を自らの手で。

 

 最初は少し謹慎させるだけのつもりだった。

 すぐに許すつもりだった。

 気づけば南奥州の全てを巻き込む戦となっていた。

 

 何故だ、ああ、死にたくない。

 

 覚悟は決めたはずであった。死にとうない。

 

 晴宗よ…我が誇りよ、伊達は頼んだぞ。

 

 

 

 

  伊達稙宗、奥州連合軍陣中において自害。将来を憂いての焼身自殺と伝えられる。

       前半生を奥州の覇者として君臨した男がここに去る。

                                       享年:67

 

 

***

 

 

 敵の陣中から火柱が立っている。

 

 ずっとだ、誰かが死んだか。

 自害かな?生贄かな?

 

 どちらにせよ、何らかの魔術の行使と見て間違いないかな。

 

 『甲斐源氏 魔術教本』と書かれた本を開く。

 

 何ページだったか、あったあった。

 

「平安の世より、自らを贄とした魔術の行使こそが云々と…字が汚くて読めん!」

 

「信定様!敵陣より火を纏った武者が突撃しているとのこと!近づくと刀や槍の刃の部分が溶かされているようです!」

 

「武器を溶かされたものの一部が燃えています!」

 

「あの火柱か!」

 

「また増えたぞ、1,2,3,…30はある」

 

 敵方もあの武者を除けば進んでいない、誰かの独断によるものか。

 

「前へ出る。あの武者を殺す」

 

「あれだけ燃えていて死んでいないというのですか!」

 

「そのように見える、馬も燃えているのに走っておるしな」

 

「な、なれどあれだけの炎、無事ではすみますまい」

 

「無事ではない確証がどこにある。どれほどたてば死ぬ。その間にこちら側の兵は…民はどれだけ死ぬ?」

 

「そ、それは…」

 

「私は私が見たものを信じる。故に諏訪明神も毘沙門天も信じておる。若人よ、戦場において常識という物にとらわれれば足元をすくわれるぞ。今、目の前で起きていることは紛れもない真実と思え」

 

「は、はは」

 

 この若武者の名を木曾義昌、後に『今義仲』と呼ばれ、戦国後期の武田家において絶対的なエースとして知られることになる。

 

「貴方様も若いでしょうに」

 

 景綱が言う。

 

「私も30を過ぎてる若いとは言えんよ」

 

「馬の準備が出来ました」

 

「信守、義昌、お主らは私に続け。景綱、本陣は任す」

 

「御意」

 

 

***

 

「幸隆様、火、火がこちらに向かっております!」

 

「上手く、景虎様を避けたわけか」

 

 長尾景虎が率いる先陣は敵方の田村の陣の奥深くにまで突っ込んでおり、このことに気付いておらず援軍は見込めない。

 

 因みに、景虎様を女性だと知っているのは元長尾軍の上層部と武田軍の上層部のみであり、信定との夫婦関係についても事情を知らないものからは衆道の関係と思われている。

 

「狼狽えるな!あれは人じゃ。我らが昨年戦った理不尽ではない!あれに比べれば全然ましじゃろ!死を恐れるな!六文銭を掲げよ!」

 

 もちろん理不尽とは景虎のことである。

 

 

***

 

 

 武田兄弟の逸話『甲斐のタコ』

 

 1550年代後半のある日、甲府に来ていた信定と信繁、信廉や信龍といった弟たちを武田晴信は無理矢理遊郭に連れて行ったそうな。

 どこからともなく夫たちが遊郭に行ったことを知った彼らの妻たちは遊郭に乗り込み、晴信をタコ殴りにしたそうである。

 

 この際に晴信の正室の三条の方だけが来なかったこともまた巷において語り草になったそうな。

 

 この際に乗り込んだ女性については信定、信繁、信廉の正室。亀御料人(大井信為室、晴信の妹兼養女)と推測されているが詳細は不明。




 最後にちょっと出てきた亀御寮人は史実では病死していますが本作では生存しています。(理由は特にありません。こういうのは今後もちょこちょこいるかも)

 そして稙宗さんは今回で退場となりました。
 稙宗さんの魔術に関してはこの戦い終了後に少し書こうと考えています。

 新しいアンケート追加したので投票お願いします。

年数を一気に進めるのあり?なし?

  • あり
  • なし
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。