因縁
「はあ……はあ……!!」
神である私を易々と殺せる存在であるアレを、特定のポイントまで誘導する。アレを封印するためにはこうするしかないためだ。
ポイントまで誘導し、英雄が投げた火山の下にアレは封印された。
しかし他のと違い、アレは封印されただけ、いつか開いてしまうでしょう。そのときのために対策を立てなければ……。
「……あそこに行く必要が出来たわね」
「今回、聖杯戦争が行われるのはイタリア、シチリア島だ。」
突然、先生に呼ばれたと思ったらなにやら儀式の話をされている、何故だ?
「どうやら呼ばれた理由が分かっていないようだ。答えは単純、今回行われるこの聖杯戦争に参加し実情を探って貰いたいのだ。」
「実情?」
聖杯戦争と言う儀式については授業でも少し習ったためある程度は知っている、聖杯と呼ばれる万能の願望器を完全にするために7騎の英霊を呼び出して殺し合い聖杯の魔力の糧にする儀式の事だ。
「ああ、今回の舞台に選ばれたシチリア島の霊脈のある場所には大きな家は1つしかなく、教会もない。つまり、聖杯戦争を行うための基盤が整っていないのだ。」
なるほど、調査をする必要があるのは分かった。しかし、
「なぜ俺がその儀式に参加しないとならないんですか?」
至極単純な理由をぶつけてみた。先生は魔術を教える立場でありながらロードの地位でもある、きっとなにか別の理由があるはずだ。
「……聖杯戦争において、君の持つその魔眼の力は一般的な魔術師には対応できない力だ。それにあの混沌の中で生き残るには君のように状況判断能力や対応力、何より生存本能の優れた人間が一番適任だと思ったのだよ。」
先生の観察眼は人の内側まで見抜くレベルだ、聖杯戦争と言う儀式において俺の能力が有用だと言うことも分かった。
「分かりました、行かせて貰います。」
「無論、私が出来るうちでの最大限の支援をさせて貰う。生きて帰ることが出来たならそれで良いのだが、聖杯戦争に勝つことが出来たならその聖杯は君が使うと良い」
意外だ、魔術師は神秘の探求をするもので先生もそのために聖杯が欲しいのだと思ってたんだが、本当に聖杯戦争の実情を調査するために俺を向かわせるようだ。
「調べて貰いたいことはそれだけではない、今のシチリア島にはとても純粋な魔力が溢れているらしいのだ」
「純粋な魔力?」
「そう、純粋と言うよりは現代の魔力とは思えない不思議な魔力、例えるなら神代のものとも取れる魔力が土地に満ちているのだ」
確かにそれほどの稀少な魔力が潤沢にあるのは奇妙だ、それに「今の」と言うことは最近になって現れたのだろう。
「でも大きな家が管理してる土地なんですよね、調べても平気なんですか?」
「ああ、彼女は要請を無下にはしない。きちんと申請さえすれば非人道的でない限りは協力してくれる」
魔術師の中でもかなり珍しいタイプだと分かる、ましてや地脈の管理をして居るなら安易に調査を許可するはずはないのにその家は無下にはしないと来た。
「既に要請は終えてある、向こうも勝手に調査をする輩が多くて困っていたらしくアポイントメントを取ってくれるこちらに協力的だ」
だが俺はなんとなく嫌な予感がしたので聞いてみた。
「大きな家ってことは、やっぱり……」
「恐らくはそうだろう」
飛行機から降りて、ロンドンとは空気があまりにも違うことを真っ先に感じさせられた。なんと言うか、空気中にあり得ないほど純粋な魔力に満ち溢れていたのだ。これほど魔力に満ち溢れているならば俺より強い魔術師なら強力な英霊や魔術を行使できるだろう。
……調査と言う名目で参加することにしたが早速不安要素が出てきたな。
「ようこそ、君がかのロードが話していた生徒ですね。私はシチリア島のスコールソ家の当主フィアル・スコールソ、フィアルとお呼びください。十分な歓迎が出来ず申し訳ない、ロードから聞いている通り今は勝手な魔術師の対応で手一杯なんだ」
律儀に、そして深々と頭を下げる対応を見て俺も自分に出来る限りのしっかりとした態度で彼には対応することにした。
「こちらこそ、大変な時期に調査の協力を要請してすみません」
「良いんだ、むしろこちらこそ礼を言わせて欲しい。この問題は我が家始まって以来の大事件でね、勝手ではない人手が欲しかったところなんだ。」
それもそうだろう。こんなところで突如として二つの事件が同時に起き、それを処理しなければならないのだから。
「俺も出来る限りの事はしてみます」
「それについてもよろしく頼みたい。先に許可さえ取って貰えればこちらも調査に関しては何も言わないとも。屋敷は今ごたついているから変わりにこちらのホテルを取らせてもらったよ」
話しながら歩いていたらいつの間にか、ホテルの前に着いていた。
「ありがとうございます」
「構わない。それから次に会うときは敬語は抜きにして話そう」
そう言うとフィアルさんはすぐに去って行った。
ホテルに荷物を置いてから、地脈とアグリジェントに近い場所で英霊の召喚を試みる。先生は聖遺物は渡してはくれなかったが、俺には相性の良い英霊が呼ばれるだろうと言ってくれたので少し賭けになるが聖遺物を使わずに召喚を試すことにした。
召喚場所の近くに選んだのはアグリジェント、古代ギリシャの植民都市のなかでもヘラクレス神殿の近くを選んだのは何と言ってもヘラクレスが呼べるかも?と言う安直な考えからだ。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
大きく魔力を消費する手応えと同時に手に赤い印が刻印され、目の前に英霊が召喚されていた。
「……え?」
英霊はしばらくキョトンとして、その後突然悲鳴を上げた。
「ど、どうしてアタシが英霊になってるの!?」
思いがけない反応に俺まで驚いてしまった。
「落ち着いたか?」
紅茶を受け取って英霊の少女は少し俯きながら話してくれた。
「ありがとうございます。ごめんなさい、突然大声なんか出してしまって。こんな英霊は普通じゃあり得ないですよね……」
「いや、初めての召喚だから分からないぞ?」
俺は素直な感想を投げ掛けた、サーヴァントの女の子はまだ不安そうだった。
「俺は君の真名も聞いてないから君の事を何も知らない。そもそも初対面の相手の事なんて分かるわけないだろ?だからこれから知っていけば良いだけだ」
自分でも少し照れ臭い言い方だが、サーヴァントの女の子も少し顔が赤くなっていた。打ち解けてくれたみたいだ。
「そ、そう、そうですね。ありがとうございますマスターさん。改めて、私はランサーの……」
真名を言おうとしたかもしれないその時、ランサーが槍を構えた。
「何者ですか!」
ランサーが向いている方向から剣を持った英霊が現れた。
「地脈の無断使用をした魔術師かと思ったのですが、聖杯戦争の参加者だったとは」
剣を持っていると言うことは……いや、まだ分からない。それよりも地脈の無断使用を確認しに来たと言うことはフィアルさんのサーヴァントと言うことか……。
「参加者として英霊召喚に適切な場所を選んだんだ、見逃してもらえないか?」
「そのような事で私が見逃すとお思いですか?」
向こうはやる気のようだ、俺はランサーに少し小声で話しかける。
「出来るだけ情報の収集を優先してくれ、そして君の実力を見せてほしい」
「分かりました!」
そう言うとランサーは敵サーヴァントに向かって行った。
敵サーヴァントも剣を持ち2人がぶつかると同時に衝撃が辺りの砂を舞わせる。
そのなかでも分かる、水流のように滑らかな槍捌きで砂ぼこりを払いながら敵サーヴァントの鞘をすり抜けて攻撃を当てている……鞘だと?
ランサーも疑問を持ったようだ。
「なぜ剣を抜いて戦わないのですか?」
正々堂々でないことに少しムッとしたのか、ランサーの声は少し怒っていた。敵サーヴァントは少し困ったように答えた。
「……私の宝具に由来するもので、私の正体に関わるからですよ。そう易々と真名を悟らせるわけには行きませんからね」
と言うことは剣を抜けばバレるほど剣が有名なサーヴァントと言うことだ。だがそれにしては妙だ。
「それにしてはうちのサーヴァントに力で負けているようだが?」
「剣を使う者が必ずしも英雄のような力を持っているわけではないと言うことです。それとわざわざクラスを隠すように話さなくても大方予想できますよランサー殿のマスター殿」
戦いが少し長引いたせいか敵サーヴァントにこちらのクラスを悟られてしまった。こっちは敵サーヴァントの詳細な情報を何も手に入れられていない。
「そうですね、とりあえずここまでにしましょう。ランサー殿と対等に戦うには剣を抜かねばならないようですから」
「……その案には賛成する、俺も自己紹介してる時に割り込まれてランサーの真名を知らないんだ」
敵サーヴァントはそれを聞いて笑いだした。
「はっはっは、そうでしたか。それは悪いことをしました。それでは……次は本気ですよ」
そう言って敵サーヴァントは去っていった。
※ ※ ※
「ふむ、そうですか……ついにランサーが召喚されましたか」
私は頷き、マスターの次の指示を待つ。
「ありがとうございました、今日のところは休んで大丈夫ですよ"バーサーカー"」
「休む前に少し進言をしても宜しいですか?」
休む、と言うのは厳密にはサーヴァントには必要がない。しかし目の前のマスターは私に対しても人のように対等に接してくれるのだ。
「どうぞ」
たった一言ではあるものの、マスターの優しさは隠せていない。
「それでは、ランサーへの私なりの見識を述べさせて貰いますと……あれは私が宝具を解放しなければ打ち倒す事の出来ない相手でした。槍の扱いに長け、槍のみで私を圧倒する強さでした」
「槍のみで、と言うことは槍だけではないと」
「はい。槍と盾、それに私と違い魔術にも精通しているようで気配遮断の無い私程度なら簡単に見つけ出せるほどでした。更に追跡が厄介でもう少しで逃げ先を知られていたと思います」
現に、屋敷に着く前にある程度追跡を撒くように逃げなければこちらの位置を捕まれていたことだろう。それだけの手練れが呼ばれたと言うことでもあり、マスターの勝利が少し遠退いたと言うことことでもある。
「今回はあなたの持つ仕切り直しに救われましたね、他にはありませんか?」
「ありません、それでは休ませて頂きます」
「ええ、ありがとう」
勝利よりも、私の身を案じてくれるあなたのその優しさに私も感謝を。
そして
「聖杯戦争が、本格的に始まりますね」
※ ※ ※
「見てきたぞ~マスタ~」
へべれけたアサシンの声がした。
「ったくまーた俺抜きで飲んでんのかよー」
「手間賃じゃよ、てーまーちーん」
まあそのくらいは良いか。俺は目の前の賭け事に戻る。
「まあおふざけはこのくらいにして、報告じゃ」
「聞いてるぜ」
黒の4番とー……。
「まず、もう少しでセイバーのマスターに見られるところじゃった」
「……見られてねぇよな?」
実は俺達は一度、七騎揃う前に小手調べでセイバーにちょっかいをかけに行ったんだが……あいつは逃げることにほぼ確実に成功するらしいアサシンのスキルの「仕切り直し」を容易く突破して、隠れ家を破棄せざるを得ないほど執念深く襲ってきたんだ。
「2回目ともなれば容易く関知はされんとも」
俺はそっと胸を撫で下ろす。だけどその間に玉が投げられちまった。
「くっそー……」
「さて、これからはどうするのじゃ?」
アサシンがニヤニヤしながら聞いてきたが俺の答えは決まってる。
「ちょっかいかけて遊んでを繰り返すに決まってんだろ!」
「それでこそワシのマスターじゃな!」
玉はピッタリと、黒の四番に落ちていた。
※ ※ ※
「ようやく七騎集まったんね、ま、す、た、ぁ♡」
「あー、あー」
アタシは傀儡と化したマスターを足蹴にしながら森林の方を見る。
神代の魔力の中にうっすらと見える神の気配をアタシの目は逃していない。
「せいぜい益のある取引を持ってきなよ~、神様」
※ ※ ※
「マスター、七騎揃いました。これより聖杯戦争が本格化します」
まるで機械のような声でセイバーが教えてきます。
「見えています」
目が見えずとも、一際魔力の大きな存在が増えたのは感じ取れている。戦いはこれから過激さを増すことでしょう。
座禅を止め、刀を取る。
「いつでも戦えるようにしておきましょう」
私はそうセイバーに言うと、刀の手入れを始めました。
※ ※ ※
「女神様女神様、七騎揃ったらしいですよ!」
「そうですね、私も感じています」
私のマスターはとても無邪気で可愛らしい。
まるで、あの子のよう……。
しかし彼女は自分が死ぬことを覚悟している。自分が死ぬことで……いいえ、私が死なせません。
「マスター、必ず守ります」
そう言うと私は視線を切るため、盾を構えた。