とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記 〜動植物学者の父に鍛えられたマイペース妻の知識がチートすぎて、未知の魔境を無双でまったり開拓していきます〜   作:水翔

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第一話~第二話

第一話 この身に変えても妻は守る! あの…… 昨夜はご満足いただけなかったのでしょうか はっ?

 

障子をがらっと開けた西園寺祥吾の前に、

空気を引き裂くような轟音とともに、

すべてを押し潰すような炎の塊が迫ってきていた

 

ドクン、と心臓が跳ねた。

軍人としての彼の直感が、冷徹に終わりを告げる。

 

——ああ、間に合わない。

次の瞬間、彼の体は思考を追い越し、

背後にいた妻に覆い被さり、その分厚い背中で壁を作った。

 

轟音を耳にしながら、彼はただ、自分の背中が少しでも長く、

彼女を遮る盾であらんことを祈った。

 

「旦那様、旦那様」

 

覆い被されて、くぐもった妻の声がへんに熱っぽい

見ると顔が真っ赤になっている。

 

「あの……左様(さよう)に……昨夜はご満足いただけなかったのでございましょうか」

 

「はっ?」

 

祥吾の口から出たのは、軍人らしからぬ間の抜けた声だった。

脊髄を駆け抜けていた死の恐怖が、妻の放った言葉で、行き場を失って霧散する。

 

(昨夜は……いや、俺は緊張しすぎて、布団の端で寝ていただけ……!

 ち、違う……! いや違わないが、いや違う! 何を考えているんだ俺は!)

 

「もう、あんなにお日様が高くなっておりますし、せめて雨戸を閉めてからでないと……」

 

「な、何を言っている! 炎だ! 炎が、すぐそこに——」

 

祥吾が震える指で外を指差す。

視線の先では、天を突くような業火が、荒れ狂う龍のごとく屋敷に迫っていた。

 

——だが、届かない。

 

轟音を立てて渦巻く炎は、屋敷の境界線にある「透明な何か」に阻まれ、

そこから先へは一寸たりとも侵入できずにいた。

 

呆然と口を開けて固まる祥吾。

そんな夫の心中など露知らず、

千草はいつもの丁寧な所作で三つ指をつき、お辞儀をした。

 

「旦那様、朝餉(あさげ)の用意ができておりますわ。

 お味噌汁が冷めないうちに、お召し上がりくださいませ」

 

朝餉の席に着く

屋敷の外では、炎の龍のような魔物が結界に阻まれ、悔しげに吠えている。

 

だが千草は、味噌汁の湯気を見つめながら、のんびりと言った。

「旦那様、今日はお野菜を収穫してみませんこと?」

 

(俺の覚悟は…… )

祥吾は、遠くで吠える魔物を見つめながら、味噌汁を口にした。

 

 

 

第二話 異世界でも、妻の役目は変わりませんわ いや昼の話ですよね!

 

味噌汁を一口飲んでから、祥吾は気がついた

味噌汁の具が明らかにおかしい。

 

お椀の中で、七色に輝くキノコがゆらゆらと揺れている。

 

(こ、これは……毒ではないのか? いや、千草が毒を出すはずがない。

 しかし、地震のあと、庭の植物はすべて変異したはず……)

 

「旦那様、どうかされましたか?

 お箸が止まっておりますわ。お口に合いませんでしたでしょうか?」

 

「い、いや! ……む、美味だな(意外とイケる……!)」

 

箸を動かしながら、祥吾の脳裏に結婚式の日の光景が蘇る。

 

親族に見守られ、三三九度を交わした。

軍人として、国と、そしてこの淑やかな女性を守り抜くと誓った。

 

すべて、滞りなく終わり

二人は、祥吾の屋敷に戻った

 

新しく用意された屋敷で

二人きりになってから、祥吾は何を話していいか分からず

ただ時計の針の音だけが響いていた。

 

その音に耐えかねて

「千草殿、その……」

と声をかけた、まさにその時。

 

世界がひっくり返るような衝撃。

思わず、彼女を引き寄せ、覆い被さる。

 

春の陽だまりのような甘い香りを最後に

祥吾の意識は途絶えた。

 

意識を取り戻した後の自分の醜態は思い出したくもない

夫としての威厳も尊厳も木っ端みじんに砕け散った

 

と、思うのだが、妻の千草の態度は少しも変わらない

常に自分を立てて敬ってくれている

その都度、妻の顔をじっと見てしまい、

 

「旦那様、どうかなさいましたか?」

 

小首をかしげて聞いてくる姿が愛しくて

 

(……じゃない! 本当に頼りにしてくれているのだろうか?)

 

そのことが常に心をよぎる

 

回想から覚めた祥吾は、縁側の向こうを再確認する。

 

屋敷の敷地、畑、鶏小屋、さらには愛馬まで、

完璧な形で切り取られてこの森へ放り込まれている。

 

「千草、先日も言ったが、我々はとんでもない場所に迷い込んだようだ。

 軍の演習地でも、他国の奥地でもない……

 ここは、この世ではないのかもしれん」

 

深刻な顔で分析する祥吾に対し、千草がふと困ったように微笑む。

 

「左様でございますね」

「いや、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ」

 

聞かれた千草は、逆に不思議そうに言う

 

「旦那様、どのような場所であれ、妻の役目は変わりませんもの」

 

「妻の役目?」

 

「ええ、朝、朝餉を作り、旦那様を起こし、お洗濯をして、

 お掃除をして、昼餉を作り、畑仕事、家畜の世話、

 夕餉を作り、お風呂を用意して、

 そして夜——」

 

急に顔を赤らめる千草

 

(いや、夜って……! いや、そうだが……いや違う!)

 

妻以上に赤くなってうろたえる祥吾

 

千草は、こほんと小さく咳払いして言う

 

「旦那様のために、できることが同じであれば、

 千草はそれだけで幸せですもの」

 

(そうなのか!)

 

思わず納得しかける祥吾

 

外では変わらず魔物が結界と喧嘩していた

 

 

 

 

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