原神×ウルトラマン ウルトラコクセイ&ウルトラカンウ   作:いぼんこ1234

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初めまして。初投稿になります。

本作は『原神』と『ウルトラマン』のクロスオーバー作品です。

怪獣ベムラーの襲来によって命を落とした刻晴と甘雨が、白銀の巨人から光を受け継ぎ、ウルトラコクセイとウルトラカンウとして戦う物語になります。

原作とは異なる独自設定や解釈、オリジナルの怪獣・技などが登場しますのでご注意ください。

楽しんでいただければ幸いです。


襲来

それは、一つの世界の物語ではなかった。

 

星々の海。

 

時間の流れすら曖昧な空間。

 

無数の世界を繋ぐ狭間。

 

そこを一匹の怪獣が飛んでいた。

 

青白い身体。

 

鋭い爪。

 

異様な咆哮。

 

ベムラー。

 

ある世界を焼き。

 

ある文明を滅ぼし。

 

また別の世界へ逃げる。

 

世界そのものを渡り歩く災厄。

 

その背後を、一筋の金色の光が追っていた。

 

轟音。

 

金色の光がベムラーへ激突する。

 

怪獣が咆哮を上げた。

 

宇宙空間に火花が散る。

 

隕石群が砕ける。

 

星の欠片が吹き飛ぶ。

 

その中心にいたのは、一人の戦士だった。

 

白銀の身体。

 

金色のライン。

 

胸に輝く小さな円形の宝珠。

 

大きく発光する瞳。

 

人ではない。

 

だが。

 

どこか女性らしさを感じさせる光の戦士だった。

 

「ようやく見つけた。」

 

静かな声だった。

 

疲労が滲んでいる。

 

それでも。

 

その瞳は諦めていない。

 

ベムラーが熱線を放つ。

 

蒼白い閃光。

 

戦士は身体を捻る。

 

熱線が肩を掠めた。

 

白銀の装甲が砕ける。

 

金色の火花が散る。

 

だが止まらない。

 

光弾。

 

拳。

 

蹴り。

 

ベムラーを追う。

 

ベムラーは逃げる。

 

戦士は追う。

 

また逃げる。

 

また追う。

 

どれだけ続いただろうか。

 

何十年か。

 

何百年か。

 

あるいはそれ以上か。

 

戦士自身も覚えていない。

 

ただ一つだけ確かなことがある。

 

ベムラーを放置すれば。

 

またどこかの世界が滅ぶ。

 

だから追う。

 

どこまでも。

 

やがて。

 

ベムラーが空間を引き裂いた。

 

黒い裂け目。

 

その向こうに青空が見える。

 

海。

 

山々。

 

知らない世界。

 

戦士は小さく息を吐いた。

 

「次はそこ?」

 

ベムラーが飛び込む。

 

戦士も続いた。

 

 

璃月港は今日も賑わっていた。

 

港には船が並び。

 

商人達が荷を運び。

 

市場には活気ある声が響いている。

 

帝君亡き後も。

 

璃月は止まらなかった。

 

人々は自分達の足で立ち。

 

自分達の手で未来を築こうとしていた。

 

その中心にいる者達もまた忙しかった。

 

月海亭。

 

会議室の机には大量の書類が積み上げられている。

 

港湾整備。

 

輸送計画。

 

鉱山管理。

 

予算案。

 

どれも璃月の未来に関わるものだった。

 

「以上が先月の港湾整備計画の進捗です。」

 

静かな声が響く。

 

甘雨だった。

 

長い年月を生きる半仙。

 

そして月海亭を支える秘書。

 

彼女は資料へ目を落とした。

 

「また、絶雲間の仙人方から頂いたご意見ですが――」

 

「待って。」

 

声が割り込む。

 

甘雨は視線を上げた。

 

刻晴だった。

 

璃月七星・玉衡。

 

鋭い紫色の瞳が真っ直ぐ甘雨を見ている。

 

「また仙人?」

 

会議室の空気が少し張り詰めた。

 

だが誰も驚かない。

 

いつものことだからだ。

 

甘雨と刻晴。

 

この二人の議論は珍しくない。

 

「また、とは?」

 

甘雨は冷静に尋ねた。

 

「そのままの意味よ。」

 

刻晴は腕を組む。

 

「港湾整備も。」

 

「輸送網改革も。」

 

「復旧計画も。」

 

「何かある度に仙人へ意見を求める。」

 

「それが当たり前みたいになってる。」

 

甘雨は静かに答える。

 

「仙人方は長きに渡り璃月を支えてくださいました。」

 

「その知恵を借りることは決して悪いことではありません。」

 

刻晴はため息を吐いた。

 

「だからそこなの。」

 

「私はその考えが嫌い。」

 

会議室が静まり返る。

 

「帝君はもういない。」

 

刻晴が言う。

 

「璃月は人間の時代に入ったの。」

 

「いつまでも仙人に頼る訳にはいかない。」

 

甘雨は少し考えた。

 

そして静かに答えた。

 

「私は。」

 

「人と仙人が共に歩む未来もあると思っています。」

 

刻晴は肩を竦めた。

 

「でしょうね。」

 

「だから意見が合わないのよ。」

 

その時だった。

 

轟音。

 

会議室全体が激しく揺れた。

 

窓ガラスが震える。

 

棚の書類が崩れ落ちる。

 

誰かが悲鳴を上げた。

 

「何!?」

 

刻晴が立ち上がる。

 

甘雨も窓へ駆け寄る。

 

そして。

 

二人は言葉を失った。

 

璃月港の遥か沖。

 

空そのものが裂けていた。

 

黒い裂け目。

 

その中から現れる巨大な影。

 

青白い身体。

 

鋭い爪。

 

耳を劈く咆哮。

 

誰も見たことのない怪物だった。

 

さらに。

 

その後ろから。

 

一筋の金色の光が飛び出す。

 

それは白銀の巨人だった。

 

「シュワァッ!」

 

轟音。

 

怪物へ激突する。

 

空が揺れた。

 

「な……。」

 

刻晴が絶句する。

 

甘雨も目を見開いた。

 

怪物だけではない。

 

あの白銀の巨人もまた。

 

理解を超えていた。

 

「千岩軍を招集して!」

 

刻晴が叫ぶ。

 

「全市民へ避難命令!」

 

「港湾区画を閉鎖!」

 

「弩砲部隊を配置して!」

 

月海亭の職員達が走り出す。

 

甘雨も動く。

 

「医療班へ連絡を!」

 

「避難経路の確保を急いでください!」

 

璃月全体が動き始めた。

 

 

怪物が海へ降り立つ。

 

轟音。

 

巨大な波が押し寄せる。

 

停泊していた船が吹き飛ぶ。

 

港が揺れる。

 

悲鳴が上がる。

 

その背後へ。

 

白銀の巨人も降下した。

 

海面へ着地した瞬間。

 

周囲の海が弾け飛ぶ。

 

巨大な水柱が立ち上がった。

 

まるで神話だった。

 

いや。

 

神話ですら、これほどの光景は語られていないかもしれない。

 

怪物が咆哮する。

 

白銀の巨人が飛ぶ。

 

「ハァッ!」

 

衝突。

 

轟音。

 

空気が爆ぜる。

 

海が割れる。

 

璃月港全体が揺れた。

 

誰も言葉を発せない。

 

ただ。

 

見上げることしか出来なかった。

 

 

千岩軍が展開する。

 

港湾地区。

 

市街地入口。

 

外縁部。

 

兵士達が次々と走る。

 

弩砲が据え付けられる。

 

神の目を持つ者達も集結した。

 

誰もが緊張している。

 

だが逃げない。

 

ここが璃月だからだ。

 

「第一中隊は住民避難支援!」

 

刻晴の声が飛ぶ。

 

「第二中隊は港湾封鎖!」

 

「第三中隊以降は迎撃準備!」

 

兵士達が一斉に動き出した。

 

その姿を見ながら刻晴は空を見上げる。

 

巨大な怪物。

 

山のような巨体。

 

胸の奥が重く沈む。

 

あれほどの存在を前にしてなお、自分は指揮を執らなければならない。

 

一つ判断を誤れば。

 

多くの命が失われる。

 

責任の重さが肩へ圧し掛かっていた。

 

「化け物ね……。」

 

小さく呟いたその時。

 

甘雨が隣へ降り立つ。

 

「避難誘導は順調です。」

 

「そう。」

 

刻晴は頷いた。

 

安堵する暇は無い。

 

避難が終わっても。

 

今度はあの怪物を止めなければならないのだから。

 

「なら今度は私達の番ね。」

 

甘雨も空を見上げる。

 

そして。

 

初めてその光景を正面から見た。

 

怪物。

 

そして。

 

その怪物へ立ち向かう白銀の巨人。

 

二つの巨大な影が空で激突している。

 

轟音。

 

衝撃波。

 

砕ける雲。

 

まるで神話だった。

 

だが。

 

刻晴の表情は険しいままだった。

 

「甘雨。」

 

「はい。」

 

「どう思う?」

 

刻晴は空を見上げたまま言う。

 

怪物。

 

そして白銀の巨人。

 

どちらも常識の外にいる存在だった。

 

甘雨は少し考える。

 

そして静かに答えた。

 

「分かりません。」

 

正直な答えだった。

 

白銀の巨人は怪物と戦っている。

 

だが。

 

だからといって安心できるとは限らない。

 

何者なのか。

 

何故戦っているのか。

 

敵なのか味方なのか。

 

何一つ分からない。

 

「そうよね。」

 

刻晴は小さく頷く。

 

「少なくとも。」

 

「どちらも私達の理解を超えている。」

 

甘雨も同意した。

 

「はい。」

 

怪物も。

 

白銀の巨人も。

 

神話や伝説の中から飛び出してきたような存在だった。

 

再び轟音が響く。

 

怪物の爪が振るわれる。

 

白銀の巨人が受け止める。

 

「ッ!」

 

衝撃波。

 

海面が爆ぜる。

 

そのまま巨人は怪物を押し返した。

 

二つの巨影がぶつかるたびに大地が震える。

 

どちらに転んでもおかしくない。

 

だが。

 

刻晴が考えるべきことは別だった。

 

敵か味方か。

 

そんなことを判断している時間はない。

 

どちらにせよ。

 

この戦いが続けば璃月は壊れる。

 

「まずは住民の避難を優先する。」

 

刻晴は振り返った。

 

「迎撃準備を続行!」

 

「怪物への攻撃を開始する!」

 

甘雨は静かに弓を構えた。

 

「攻撃を試みます。」

 

刻晴は頷く。

 

「お願い。」

 

少なくとも。

 

現時点で街へ被害を出しているのはあの怪物だった。

 

放置する訳にはいかない。

 

甘雨は弦を引く。

 

氷元素が収束する。

 

空気が白く凍り付いた。

 

周囲の兵士達が息を呑む。

 

この一撃の威力を知っているからだ。

 

そして。

 

氷の流星が放たれた。

 

白銀の光が轟音と共に空を切り裂く。

 

氷の矢が怪物の胸部へ直撃した。

 

瞬間。

 

巨大な氷塊が形成される。

 

冷気が港中へ吹き荒れた。

 

海面が白く凍り付く。

 

周囲の兵士達が息を呑む。

 

「やったか!?」

 

誰かが叫ぶ。

 

甘雨自身も。

 

ほんの僅かだけ期待した。

 

少しでも足止めできれば。

 

少しでも時間を稼げれば。

 

そう思った。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

轟音。

 

巨大な氷塊が内側から砕け散る。

 

無数の氷片が空へ舞った。

 

そして。

 

怪物が姿を現す。

 

傷一つ無い。

 

まるで何もされていないかのように。

 

甘雨の表情が僅かに曇った。

 

「そんな……。」

 

背筋を冷たいものが走る。

 

効いていない。

 

自分の力が。

 

まるで届いていない。

 

怪物はゆっくりと甘雨を見下ろした。

 

その視線だけで圧力を感じる。

 

巨大な獣に睨まれたような本能的恐怖。

 

甘雨は思わず弓を握り直した。

 

「なら!」

 

刻晴が飛び出す。

 

紫電が迸る。

 

剣へ雷元素が収束する。

 

地面を蹴る。

 

建物を足場に跳躍する。

 

一気に怪物の足元へ到達した。

 

甘雨の攻撃が通じないなら。

 

自分が道を切り開くしかない。

 

璃月七星として。

 

この場の指揮官として。

 

誰よりも前へ出なければならない。

 

「これでどう!?」

 

雷光一閃。

 

紫電が怪物の脚部を駆け上がる。

 

轟音。

 

閃光。

 

港全体が紫色に染まった。

 

だが。

 

怪物は僅かによろめいただけだった。

 

刻晴の顔色が変わる。

 

甘雨の攻撃も。

 

自分の攻撃も。

 

通じていない。

 

胸の奥で警鐘が鳴る。

 

まずい。

 

このままでは本当に止められない。

 

怪物は足元の刻晴へ視線を落とした。

 

ゆっくりと腕が持ち上がる。

 

そして振り下ろされた。

 

「っ!」

 

刻晴は咄嗟に飛び退く。

 

直後。

 

先程までいた場所が爆発した。

 

石畳が砕ける。

 

建物が崩れる。

 

衝撃波が吹き荒れる。

 

もし一瞬でも遅れていたら。

 

命は無かった。

 

着地した刻晴の額を冷や汗が伝う。

 

だが。

 

恐怖に足を止めるわけにはいかなかった。

 

自分が怯えれば。

 

兵士達の士気にも影響する。

 

歯を食いしばる。

 

再び剣を構える。

 

その時だった。

 

怪物が咆哮する。

 

蒼白い光が口元へ集まった。

 

熱線。

 

本能的に理解した。

 

刻晴が振り返る。

 

その先には。

 

まだ避難中の住民達がいた。

 

負傷兵。

 

老人。

 

子供。

 

逃げ遅れた人々。

 

「まずい!」

 

心臓が凍り付く。

 

間に合わない。

 

あれが放たれれば終わりだ。

 

次の瞬間。

 

白銀の巨人が飛び込んだ。

 

「シュワァッ!」

 

轟音。

 

拳。

 

ただそれだけだった。

 

怪物の顎が跳ね上がる。

 

熱線の軌道が逸れた。

 

蒼白い閃光が海を薙ぎ払う。

 

巨大な水柱。

 

津波のような波が港へ押し寄せる。

 

「全員伏せて!」

 

刻晴が叫ぶ。

 

兵士達が住民を庇う。

 

波が港へ叩き付けられる。

 

建物が揺れる。

 

だが。

 

熱線直撃より遥かにましだった。

 

誰もが理解した。

 

今。

 

あの白銀の巨人が。

 

住民達を守ったのだと。

 

怪物が怒りの咆哮を上げる。

 

巨大な腕を振るう。

 

白銀の巨人は正面から迎え撃った。

 

「ハァッ!」

 

轟音。

 

空気が爆ぜる。

 

怪物の一撃を受け止める。

 

刻晴は目を見開いた。

 

信じられない。

 

自分達の攻撃では傷一つ付かなかった相手だ。

 

その怪物と。

 

あの巨人は真正面から力比べをしている。

 

次の瞬間。

 

白銀の巨人が踏み込んだ。

 

拳。

 

衝撃。

 

怪物の巨体が後退する。

 

地面が砕ける。

 

港が揺れる。

 

さらに追撃。

 

飛び上がる。

 

回し蹴り。

 

轟音と共に怪物の身体が吹き飛んだ。

 

誰も声を出せなかった。

 

甘雨も。

 

刻晴も。

 

兵士達も。

 

ただ見上げることしか出来ない。

 

あまりにも次元が違った。

 

白銀の巨人は着地する。

 

静かだった。

 

勝ち誇ることもない。

 

ただ。

 

再び怪物へ向き直る。

 

怪物が立ち上がる。

 

そして。

 

二つの巨影が再び激突した。

 

拳と爪。

 

衝撃波。

 

爆発。

 

余波だけで倉庫が崩れ。

 

窓ガラスが砕ける。

 

まるで神話だった。

 

甘雨は息を呑む。

 

先程まで。

 

自分達はこの怪物を相手にしていた。

 

だが違う。

 

本当の意味で戦えてなどいなかった。

 

あの白銀の巨人だけが。

 

唯一。

 

あの怪物と同じ舞台に立っている。

 

兵士達の顔色が変わる。

 

「押している……。」

 

「勝てるかもしれない。」

 

「助かったんじゃ……。」

 

希望が広がり始める。

 

だが。

 

甘雨だけは黙っていた。

 

視線は白銀の巨人から離れない。

 

「甘雨?」

 

刻晴が声を掛ける。

 

甘雨は答えるまで少し時間が掛かった。

 

「……不思議なのです。」

 

「何が?」

 

甘雨は空を見上げる。

 

白銀の巨人。

 

その姿から放たれる光。

 

圧倒的な力。

 

それは確かに。

 

神や仙人にも匹敵する。

 

あるいは。

 

凌駕しているのかもしれない。

 

だが。

 

違う。

 

何かが違う。

 

甘雨は長い時を生きてきた。

 

仙人達を知っている。

 

魔神を知っている。

 

帝君の力も知っている。

 

だからこそ分かった。

 

あの力は。

 

どれとも似ていない。

 

元素力ではない。

 

仙力でもない。

 

神の権能でもない。

 

もっと異質な何か。

 

まるで。

 

この世界の外から来た光のように。

 

「私には……。」

 

甘雨は小さく呟く。

 

「あの方が何者なのか分かりません。」

 

その時だった。

 

ピコン……

 

ピコン……

 

奇妙な音が響いた。

 

甘雨と刻晴が同時に顔を上げる。

 

白銀の巨人の胸。

 

小さな宝珠。

 

先程まで青く輝いていたそれが。

 

今は赤く点滅していた。

 

ピコン……

 

ピコン……

 

規則正しい警告音。

 

白銀の巨人自身も気付いているらしかった。

 

ほんの一瞬だけ視線を落とす。

 

だが。

 

次の瞬間には再び怪物へ向かっていた。

 

まるで。

 

そんなものは関係ないとでも言うように。

 

しかし。

 

甘雨は見逃さなかった。

 

あの音が鳴り始めてから。

 

白銀の巨人の動きが。

 

ほんの僅かに鈍くなったことを。

 

ピコン……

 

ピコン……

 

胸の宝珠が赤く点滅する。

 

規則正しい警告音。

 

白銀の巨人自身も気付いているらしかった。

 

ほんの一瞬だけ視線を落とす。

 

だが。

 

次の瞬間には再び怪物へ向かっていた。

 

まるで。

 

そんなものは関係ないとでも言うように。

 

怪物が咆哮する。

 

蒼白い熱線。

 

白銀の巨人は身を捻ってかわす。

 

反撃。

 

「ハァッ!」

 

拳。

 

蹴り。

 

衝撃波。

 

怪物の巨体が後退する。

 

依然として戦況そのものは優勢だった。

 

怪物は押されている。

 

誰の目にもそう見えた。

 

兵士達の顔にも希望が戻り始めていた。

 

だが。

 

甘雨の胸のざわつきは消えなかった。

 

むしろ大きくなっていく。

 

白銀の巨人の動きは鋭い。

 

圧倒的だ。

 

だが。

 

先程までより僅かに遅い。

 

本当に僅か。

 

普通の人間なら気付けない程度。

 

だが。

 

甘雨は見逃さなかった。

 

怪物の爪が振るわれる。

 

白銀の巨人が受け止める。

 

「ッ!」

 

轟音。

 

衝撃波。

 

だが今度は。

 

爪の先端が肩を掠めた。

 

白銀の装甲が砕ける。

 

金色の火花が散る。

 

「……!」

 

甘雨が息を呑む。

 

初めてだった。

 

あの巨人が傷付いたのは。

 

だが。

 

白銀の巨人は止まらない。

 

怪物の腕を掴む。

 

投げ飛ばす。

 

地面へ叩き付ける。

 

海が揺れる。

 

港が揺れる。

 

兵士達から歓声が上がった。

 

「すごい……!」

 

「勝てる!」

 

「やれるぞ!」

 

希望だった。

 

絶望しか無かった戦場へ現れた希望。

 

だが。

 

白銀の巨人は歓声に応えることもない。

 

ただ黙って怪物を見据えていた。

 

その背中はどこか孤独だった。

 

まるで。

 

誰かに称賛されるためではなく。

 

ただ戦うことだけを目的にしているかのように。

 

怪物が立ち上がる。

 

その目が赤く光った。

 

次の瞬間。

 

怪物の全身から青白い光が噴き上がる。

 

空気が震える。

 

海が荒れる。

 

港の建物が軋み始めた。

 

「まずい……。」

 

甘雨の顔色が変わる。

 

刻晴も理解した。

 

今までとは違う。

 

怪物がさらに力を解放しようとしている。

 

白銀の巨人が踏み込む。

 

止めようとしている。

 

だが。

 

一瞬だけ。

 

本当に一瞬だけ。

 

動きが遅れた。

 

ピコン……

 

ピコン……

 

胸で赤く点滅する宝珠が警告音を鳴らす。

 

その僅かな隙を。

 

怪物は見逃さなかった。

 

巨大な尾が唸りを上げる。

 

轟音。

 

白銀の巨人の身体が吹き飛んだ。

 

「っ!?」

 

刻晴が息を呑む。

 

初めてだった。

 

あの巨人が正面から弾き飛ばされたのは。

 

白銀の巨体が倉庫群を突き破る。

 

建物が崩壊する。

 

瓦礫が舞う。

 

港が揺れる。

 

兵士達から悲鳴が上がった。

 

白銀の巨人はすぐに立ち上がる。

 

だが。

 

誰の目にも分かった。

 

戦況が変わり始めたのだと。

 

 

甘雨は目を離せなかった。

 

あの巨人は強い。

 

圧倒的だ。

 

神や仙人に匹敵するどころではない。

 

あるいは凌駕しているのかもしれない。

 

だが。

 

その力には限りがある。

 

そんな気がした。

 

理由は分からない。

 

けれど。

 

胸で赤く点滅する宝珠を見るたび。

 

命を削って戦っているようにしか見えなかった。

 

怪物の熱線が放たれる。

 

白銀の巨人は回避する。

 

だが。

 

熱線は港湾施設を貫いた。

 

爆発。

 

炎上。

 

悲鳴。

 

刻晴の表情が凍り付く。

 

「負傷者の搬送を急いで!」

 

「はい!」

 

兵士達が走る。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

別方向でさらに爆発が起こる。

 

終わらない。

 

被害が広がり続ける。

 

「刻晴さん。」

 

甘雨が静かに呼んだ。

 

刻晴は振り返る。

 

甘雨の表情は険しい。

 

「このままでは……。」

 

言葉は最後まで続かなかった。

 

言わなくても分かる。

 

このまま戦いが続けば。

 

怪物に勝とうが負けようが。

 

璃月そのものが壊れる。

 

その時だった。

 

怪物の熱線が白銀の巨人へ直撃した。

 

轟音。

 

閃光。

 

空が白く染まる。

 

「ジュワァァァッ!!」

 

苦痛に満ちた叫びが璃月へ響き渡った。

 

兵士達から悲鳴が上がる。

 

誰もが息を呑む。

 

煙の中から現れたのは。

 

やはり白銀の巨人だった。

 

立っている。

 

まだ倒れていない。

 

だが。

 

肩。

 

胸。

 

腕。

 

全身に傷が増えていた。

 

白銀の装甲は焼け焦げ。

 

砕けた箇所から金色の光が漏れている。

 

ピコン……

 

ピコン……

 

胸で赤く点滅する宝珠が鳴り続ける。

 

甘雨は目を見開く。

 

その姿が。

 

何故か痛々しかった。

 

勝てる。

 

まだ戦えている。

 

それなのに。

 

どこか。

 

無理をしているように見える。

 

まるで。

 

倒れることを許されていないかのように。

 

 

白銀の巨人が再び構える。

 

怪物も咆哮する。

 

二体の巨影が激突する。

 

その瞬間。

 

刻晴の元へ伝令が駆け込んできた。

 

血だらけの千岩軍兵士だった。

 

「玉衡様!」

 

刻晴が振り返る。

 

兵士の顔は青ざめていた。

 

「第四陣地が突破されました!」

 

「何ですって!?」

 

「弩砲隊壊滅!」

 

「第三中隊戦闘不能!」

 

「負傷者多数!」

 

刻晴の表情が変わる。

 

それを皮切りに。

 

次々と悪い報告が飛び込んできた。

 

「北側防衛線崩壊!」

 

「救護所被害!」

 

「港湾区画維持不能!」

 

刻晴は目を閉じる。

 

千岩軍は戦った。

 

誰一人逃げていない。

 

自分達も全力を尽くした。

 

それでも。

 

届かなかった。

 

空では。

 

ピコン……

 

ピコン……

 

胸で赤く点滅する宝珠を鳴らしながら。

 

白銀の巨人がまだ戦っていた。

 

まるで。

 

自分一人で世界を支えようとしているかのように。

 

刻晴はゆっくり目を開く。

 

そして。

 

決断を下した。

 

「……全軍撤退。」

 

その声は震えてはいなかった。

 

だが。

 

その決断がどれほど重いものかを。

 

ここにいる誰もが理解していた。

 

「全軍撤退!」

 

伝令が叫ぶ。

 

「全軍撤退だ!」

 

兵士達が動き出した。

 

負傷者を担ぐ。

 

住民を誘導する。

 

弩砲を放棄する。

 

必死だった。

 

敗北。

 

その言葉が誰の脳裏にも浮かぶ。

 

だが。

 

刻晴は首を振った。

 

違う。

 

これは敗北ではない。

 

生き残るための撤退だ。

 

ここで全滅すれば。

 

璃月を再建する者すらいなくなる。

 

だから。

 

生きなければならない。

 

「甘雨。」

 

「はい。」

 

「最後尾へ回る。」

 

甘雨は頷く。

 

殿。

 

撤退する部隊の最後尾。

 

最も危険な役目だった。

 

「私も行く。」

 

刻晴が言う。

 

甘雨は一瞬だけ眉を寄せる。

 

「ですが。」

 

「指揮官は――」

 

「だからよ。」

 

刻晴は即答した。

 

「誰かに押し付けられるものじゃない。」

 

「私が出した命令なら。」

 

「私が最後まで責任を取る。」

 

甘雨はそれ以上何も言わなかった。

 

この人はそういう人だ。

 

知っている。

 

ずっと前から。

 

「分かりました。」

 

二人は撤退する部隊の最後尾へ向かった。

 

空では。

 

白銀の巨人がまだ戦っていた。

 

ピコン……

 

ピコン……

 

胸の宝珠は赤く点滅している。

 

それでも。

 

戦い続けている。

 

怪物の爪を受け止め。

 

「ハァッ!」

 

拳を叩き込み。

 

吹き飛ばされても立ち上がる。

 

刻晴は空を見上げた。

 

「本当に。」

 

小さく呟く。

 

「何者なのかしらね。」

 

答えは返ってこない。

 

ただ。

 

白銀の巨人は怪物へ拳を叩き込んでいた。

 

まるで。

 

倒れることを許されていないかのように。

 

 

撤退は続いていた。

 

崩れた街路。

 

砕けた建物。

 

燃え上がる倉庫。

 

戦いの爪痕が街の至る所へ刻まれている。

 

「玉衡様!」

 

避難中の兵士が敬礼する。

 

刻晴は頷いた。

 

「先へ。立ち止まらないで。」

 

兵士は再び走り出す。

 

人々も続く。

 

誰もが疲れ切っていた。

 

だが。

 

まだ生きている。

 

それだけで十分だった。

 

その時だった。

 

遠くから泣き声が聞こえた。

 

刻晴と甘雨が同時に足を止める。

 

再び聞こえる。

 

子供の泣き声。

 

二人は顔を見合わせた。

 

そして駆け出す。

 

崩壊した街区。

 

倒壊した建物。

 

煙。

 

炎。

 

その奥にいたのは。

 

少女を抱きしめた母親だった。

 

瓦礫に挟まれ動けない。

 

「お願い……!」

 

母親が叫ぶ。

 

「助けてください……!」

 

少女は泣いていた。

 

まだ幼い。

 

刻晴は即座に状況を確認する。

 

巨大な梁。

 

崩壊寸前の瓦礫。

 

少しでも手順を間違えれば。

 

全て崩れる。

 

時間は無い。

 

怪物との戦いは続いている。

 

次の被害がいつ来てもおかしくない。

 

それでも。

 

刻晴は迷わなかった。

 

「助けるわよ。」

 

「はい。」

 

二人は同時に駆け出した。

 

怪物の咆哮が響く。

 

空ではなおも白銀の巨人が戦っている。

 

ピコン……

 

ピコン……

 

胸で赤く点滅する宝珠の警告音が。

 

遠くから微かに聞こえていた。

 

「助けるわよ。」

 

「はい。」

 

二人は同時に駆け出した。

 

刻晴は瓦礫へ飛び込む。

 

巨大な梁が母娘の前を塞いでいた。

 

「甘雨!」

 

「分かっています!」

 

甘雨が弓を構える。

 

氷元素が収束する。

 

白銀の光。

 

放たれた氷の矢が梁の一部を砕いた。

 

だが。

 

まだ足りない。

 

刻晴は剣を差し込む。

 

全身へ力を込めた。

 

梁が僅かに浮く。

 

重い。

 

信じられないほど重い。

 

「大丈夫!?」

 

刻晴が叫ぶ。

 

母親は涙を流しながら頷いた。

 

「お、お願いします……!」

 

「娘だけでも……!」

 

少女が母親へしがみ付く。

 

刻晴は首を振った。

 

「二人とも助ける。」

 

迷いは無かった。

 

甘雨も反対側へ回る。

 

氷元素が広がる。

 

崩れかけた瓦礫が凍り付く。

 

二次崩落を防ぐためだった。

 

額へ汗が浮かぶ。

 

それでも止めない。

 

やがて。

 

梁が持ち上がる。

 

「今です!」

 

甘雨が叫ぶ。

 

母親が少女を抱き上げる。

 

必死に這い出る。

 

刻晴はさらに力を込めた。

 

腕が悲鳴を上げる。

 

それでも離さない。

 

数秒後。

 

母娘が瓦礫の下から抜け出した。

 

刻晴は梁を投げ捨てる。

 

轟音。

 

地面が揺れた。

 

少女が泣きながら母親へ抱き付く。

 

母親は何度も頭を下げた。

 

「ありがとうございます……!ありがとうございます……!」

 

刻晴は息を整える。

 

「お礼は後。」

 

「走って。西へ向かいなさい。」

 

甘雨も頷く。

 

「急いでください。」

 

母親は少女の手を握る。

 

走り出す。

 

何度も振り返りながら。

 

涙を流しながら。

 

それでも走る。

 

刻晴はその背中を見送った。

 

安堵が胸を過ぎる。

 

助かった。

 

間に合った。

 

そう思った。

 

その瞬間だった。

 

甘雨の顔色が変わる。

 

「刻晴さん!」

 

刻晴が振り返る。

 

空。

 

そこには怪物がいた。

 

白銀の巨人が怪物へしがみ付いている。

 

必死だった。

 

全身の力を振り絞っている。

 

押し上げる。

 

少しでも上へ。

 

少しでも住民から離れた方向へ。

 

ピコン……

 

ピコン……

 

胸で赤く点滅する宝珠が警告音を鳴らす。

 

それでも離さない。

 

甘雨は理解してしまった。

 

あの巨人は。

 

自分達を守ろうとしている。

 

知らない世界の。

 

知らない人々を。

 

自分の命を削って。

 

次の瞬間。

 

怪物が咆哮した。

 

蒼白い光が口元で膨れ上がる。

 

熱線。

 

世界が白く染まった。

 

白銀の巨人が最後の力を振り絞る。

 

怪物の顎が僅かに上がる。

 

熱線の軌道が変わる。

 

本来なら住民達を薙ぎ払うはずだった光が。

 

空へ逸れる。

 

だが。

 

完全ではなかった。

 

熱線の一部が地表を掠める。

 

轟音。

 

爆発。

 

閃光。

 

刻晴は理解する。

 

間に合わない。

 

甘雨も理解する。

 

間に合わない。

 

そして。

 

二人は同時に駆け出した。

 

打ち合わせたわけではない。

 

言葉も交わしていない。

 

それでも。

 

二人は全く同じ判断をした。

 

「っ!」

 

刻晴が母親へ飛び込む。

 

甘雨が少女へ飛び込む。

 

轟音。

 

母親と少女の身体が弾き飛ばされる。

 

避難民達の方へ。

 

母親は何が起きたのか理解できなかった。

 

少女も同じだった。

 

ただ。

 

視界の端で。

 

刻晴と甘雨がこちらを見ていた。

 

そして。

 

二人は微笑んだ。

 

熱線が迫る。

 

刻晴は笑った。

 

「甘雨。」

 

「はい。」

 

「後悔してる?」

 

甘雨も微笑む。

 

「もちろん。」

 

刻晴は思わず吹き出した。

 

「私もよ。」

 

光が迫る。

 

その瞬間。

 

二人の脳裏に浮かんだのは。

 

戦場でも。

 

怪物でもなかった。

 

光り輝く璃月港。

 

働く人々。

 

笑う子供達。

 

市場の賑わい。

 

守りたかったもの。

 

それだけだった。

 

閃光。

 

蒼白い熱線が二人を飲み込む。

 

悲鳴すら残らない。

 

刻晴の身体が光に触れた瞬間。

 

その肉体は一瞬で蒸発した。

 

甘雨も同じだった。

 

半仙の肉体ですら耐えられない。

 

骨も。

 

血も。

 

衣服すら。

 

何一つ残らない。

 

二人の身体は熱線に呑まれた瞬間、この世から消滅した。

 

一瞬だった。

 

苦痛を感じる暇すら無かった。

 

母娘は助かった。

 

住民達も助かった。

 

だが。

 

そこに二人の姿は残らなかった。

 

 

空では。

 

白銀の巨人が目を見開く。

 

「――――ッ!!」

 

声にならない叫び。

 

怪物の尾が振り抜かれる。

 

轟音。

 

白銀の巨人の身体が吹き飛んだ。

 

港が揺れる。

 

建物が崩れる。

 

地面へ叩き付けられる。

 

「ジュワァァァッ!!」

 

苦痛の叫びが響く。

 

ピコン!

 

ピコン!

 

ピコン!

 

胸の宝珠が激しく点滅する。

 

それでも。

 

立ち上がる。

 

彼女達が命を賭して守った人々がいる。

 

だから。

 

まだ倒れるわけにはいかなかった。

 

白銀の巨人は再び構える。

 

怪物も咆哮する。

 

二つの巨影が再び激突した。

 

 

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