原神×ウルトラマン ウルトラコクセイ&ウルトラカンウ 作:いぼんこ1234
戦いは終わった。
瓦礫と化した港。
静かに吹く海風。
その光景を少し離れた場所から見つめながら。
鍾離は小さく呟いた。
「古い友人よ。」
琥珀色の瞳が空を見上げる。
「その力を彼女達に託して逝ったか。」
誰に聞かせるでもない独り言だった。
やがて鍾離は静かに背を向ける。
そして。
何事も無かったかのように歩き去った。
◇
刻晴が目を開く。
最初に見えたのは見慣れない天井だった。
薬草の匂い。
人々の話し声。
そして。
聞き慣れた声。
「おや。お二人ともお目覚めのようですね。」
刻晴は飛び起きた。
隣では甘雨も目を覚ましている。
目の前には薬屋「不卜廬」の主、白朮。
その隣には助手の七七。
どうやらここは彼らが開いた臨時の救護所らしかった。
「私達……。」
刻晴は自分の身体を見る。
傷は無い。
痛みも無い。
だが。
確かに最後は力を使い果たしたはずだった。
甘雨も同じことを考えていた。
白朮はそんな二人を興味深そうに見つめる。
「実に不思議ですね。」
「救助された時のお二人は、どう見ても助からない状態だったそうです。」
「ですが今はご覧の通り。」
「外傷も無く、脈も正常です。」
白朮は微笑む。
だが。
その視線は明らかに研究者のものだった。
「実に興味深い。」
刻晴と甘雨は顔を見合わせる。
説明できない。
というより。
本人達も何が起きたのか分かっていない。
「それは……。」
「私達も……。」
その時だった。
ぐぅぅぅぅ……
救護所に響く音。
沈黙。
刻晴が固まる。
そして。
数秒後。
ぐぅぅぅぅ……
今度は甘雨だった。
二人の顔が同時に赤くなる。
七七が首を傾げた。
「お腹、鳴った。」
白朮は小さく笑う。
「お二人とも相当消耗しているようですね。」
「七七。近くで万民堂が粥の炊き出しをしていたはずです。お二人の為に貰ってきてください。」
「分かった。」
七七はこくりと頷く。
そして。
とてとてと走っていった。
◇
しばらく後。
二人は温かい粥を食べていた。
刻晴は夢中で食べる。
甘雨も普段では考えられない勢いで食べていた。
気付けば。
二人とも空になった器を見つめていた。
白朮が微笑む。
「足りましたか?」
二人は同時に目を逸らした。
◇
その後。
二人は総務司へ向かった。
半壊した建物。
慌ただしく動く職員達。
そして。
二人の姿を見た瞬間。
全員が固まった。
「え……。」
「刻晴様?」
「甘雨様?」
「生きてる!?」
騒然となる総務司。
当然だった。
死亡したと報告されていたのだから。
◇
執務室。
凝光も流石に言葉を失っていた。
「……。」
「……。」
数秒の沈黙。
そして。
「本当に刻晴と甘雨なの?」
それが第一声だった。
刻晴は苦笑する。
「失礼ね。」
「私達以外の誰に見えるっていうのよ。」
「そうね。」
凝光も小さく笑う。
だが。
その表情には安堵が浮かんでいた。
◇
事情を聞かれても。
二人にも分からない。
むしろ聞きたいのはこちらだった。
だが。
仕事は山積みだった。
刻晴は机の上の書類を持ち上げる。
「とりあえず仕事を――」
「駄目よ。」
凝光が即答した。
「でも。」
「駄目。」
「……。」
「……。」
有無を言わせない口調だった。
「総務司は半壊。」
「職員達も疲弊している。」
「だからこそ…!」
刻晴の抗議を遮るように凝光は言葉を続ける。
「そして貴女達は一度死んだと報告された。」
凝光は腕を組む。
「そんな状態で仕事をさせるほど私も鬼じゃないわ。」
「今日は帰りなさい。」
◇
結局。
二人は半ば追い出されるように総務司を後にした。
帰り道。
夕暮れが璃月を染めている。
刻晴は大きく息を吐いた。
「結局何だったのかしら。」
「分かりません。」
甘雨も首を振る。
本当に分からない。
死んだはずなのに生きている。
巨大な力を使った。
そして今は普通に歩いている。
その時だった。
「おや?」
聞き覚えのある声。
二人が振り返る。
そこに立っていたのは。
往生堂堂主、胡桃だった。
「これはこれは。」
胡桃は二人を見比べる。
そして。
少しだけ首を傾げた。
「ねぇ。」
刻晴が眉をひそめる。
「何よ。」
胡桃は少し考える。
そして。
いつもの調子で言った。
「二人とも…もしかして一度死んだ?」
沈黙。
刻晴が固まる。
甘雨も固まる。
胡桃だけが不思議そうに首を傾げていた。
「……。」
「……。」
数秒後。
最初に口を開いたのは刻晴だった。
「何を馬鹿な事言ってるのよ。」
だが。
声にいつもの勢いは無い。
胡桃は見逃さなかった。
「ふーん。」
「その反応なんだ。」
刻晴は視線を逸らす。
甘雨も黙ったままだった。
「最期に何があったの?」
胡桃が尋ねる。
刻晴と甘雨は顔を見合わせる。
ルミネの事。
あの力の事。
説明しようと思えば出来る。
だが。
何故か口にしてはいけない気がした。
刻晴は肩を竦める。
「さ…さぁ…?気が付いたら生きてたのよ。」
甘雨も頷く。
「私達にも分かりません。」
胡桃は二人を見る。
しばらく黙る。
そして。
小さく息を吐いた。
「なるほど。」
明らかに。
納得していない顔だった。
「まぁ…言いたくないなら無理には聞かないよ。」
胡桃はそう言った。
そして。
二人をじっと見つめる。
まるで何かを確かめるように。
「でも…二人とも生き返った訳じゃないね。」
沈黙。
刻晴と甘雨が同時に顔を上げる。
胡桃は続けた。
「正確には一つの命を二人で分けてる。」
夕暮れの風が吹く。
刻晴は眉をひそめた。
「何よそれ。」
「そのままの意味。」
胡桃はあっさり答える。
「普通じゃない。こんなの初めて見た。」
少し考える。
そして。
言葉を続けた。
「死者でも生者でもない。でも、ちゃんとここにいる。そんな感じかな。」
甘雨は胸元へ手を当てた。
確かに。
説明は出来ない。
だが。
何かが自分達の中に残っている感覚はあった。
胡桃はそんな二人を見る。
そして。
珍しく真面目な表情になった。
「正直、往生堂堂主としては言いたい事が色々あるんだ。」
胡桃は苦笑する。
「生と死の境界はそんなに曖昧なものじゃない。」
「本来なら見過ごせない。」
そして。
少しだけ視線を柔らかくした。
「でも、誰かが二人に命を託したんでしょ?」
刻晴が目を見開く。
甘雨も同じだった。
胡桃は肩を竦める。
「図星みたいだね。なら、その人の意思を大事にしなよ。せっかく託された命なんだから。」
夕日が璃月の街を赤く染める。
胡桃は空を見上げた。
そして。
いつもの調子で笑う。
「まぁ…その時が来たら、往生堂でちゃんとお世話してあげるよ。」
刻晴と甘雨は顔を見合わせた。
そして。
静かに頷く。
ルミネの事は話さなかった。
だが。
二人とも同じ事を考えていた。
白銀の戦士。
最後に微笑んだ少女。
『私の旅を引き継いでくれない?』
あの言葉だけは。
今も胸の奥に残っている。
正直。
あの旅人が託した旅がどんなものなのかは分からない。
どこから来て。
どこへ向かおうとしていたのかも分からない。
だが。
その意思は刻晴と甘雨に託された。
その事実だけは。
胸に深く刻み込まれていた。