原神×ウルトラマン ウルトラコクセイ&ウルトラカンウ   作:いぼんこ1234

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遺光

戦いは終わった。

 

瓦礫と化した港。

 

静かに吹く海風。

 

その光景を少し離れた場所から見つめながら。

 

鍾離は小さく呟いた。

 

「古い友人よ。」

 

琥珀色の瞳が空を見上げる。

 

「その力を彼女達に託して逝ったか。」

 

誰に聞かせるでもない独り言だった。

 

やがて鍾離は静かに背を向ける。

 

そして。

 

何事も無かったかのように歩き去った。

 

 

刻晴が目を開く。

 

最初に見えたのは見慣れない天井だった。

 

薬草の匂い。

 

人々の話し声。

 

そして。

 

聞き慣れた声。

 

「おや。お二人ともお目覚めのようですね。」

 

刻晴は飛び起きた。

 

隣では甘雨も目を覚ましている。

 

目の前には薬屋「不卜廬」の主、白朮。

 

その隣には助手の七七。

 

どうやらここは彼らが開いた臨時の救護所らしかった。

 

「私達……。」

 

刻晴は自分の身体を見る。

 

傷は無い。

 

痛みも無い。

 

だが。

 

確かに最後は力を使い果たしたはずだった。

 

甘雨も同じことを考えていた。

 

白朮はそんな二人を興味深そうに見つめる。

 

「実に不思議ですね。」

 

「救助された時のお二人は、どう見ても助からない状態だったそうです。」

 

「ですが今はご覧の通り。」

 

「外傷も無く、脈も正常です。」

 

白朮は微笑む。

 

だが。

 

その視線は明らかに研究者のものだった。

 

「実に興味深い。」

 

刻晴と甘雨は顔を見合わせる。

 

説明できない。

 

というより。

 

本人達も何が起きたのか分かっていない。

 

「それは……。」

 

「私達も……。」

 

その時だった。

 

ぐぅぅぅぅ……

 

救護所に響く音。

 

沈黙。

 

刻晴が固まる。

 

そして。

 

数秒後。

 

ぐぅぅぅぅ……

 

今度は甘雨だった。

 

二人の顔が同時に赤くなる。

 

七七が首を傾げた。

 

「お腹、鳴った。」

 

白朮は小さく笑う。

 

「お二人とも相当消耗しているようですね。」

 

「七七。近くで万民堂が粥の炊き出しをしていたはずです。お二人の為に貰ってきてください。」

 

「分かった。」

 

七七はこくりと頷く。

 

そして。

 

とてとてと走っていった。

 

 

しばらく後。

 

二人は温かい粥を食べていた。

 

刻晴は夢中で食べる。

 

甘雨も普段では考えられない勢いで食べていた。

 

気付けば。

 

二人とも空になった器を見つめていた。

 

白朮が微笑む。

 

「足りましたか?」

 

二人は同時に目を逸らした。

 

 

その後。

 

二人は総務司へ向かった。

 

半壊した建物。

 

慌ただしく動く職員達。

 

そして。

 

二人の姿を見た瞬間。

 

全員が固まった。

 

「え……。」

 

「刻晴様?」

 

「甘雨様?」

 

「生きてる!?」

 

騒然となる総務司。

 

当然だった。

 

死亡したと報告されていたのだから。

 

 

執務室。

 

凝光も流石に言葉を失っていた。

 

「……。」

 

「……。」

 

数秒の沈黙。

 

そして。

 

「本当に刻晴と甘雨なの?」

 

それが第一声だった。

 

刻晴は苦笑する。

 

「失礼ね。」

 

「私達以外の誰に見えるっていうのよ。」

 

「そうね。」

 

凝光も小さく笑う。

 

だが。

 

その表情には安堵が浮かんでいた。

 

 

事情を聞かれても。

 

二人にも分からない。

 

むしろ聞きたいのはこちらだった。

 

だが。

 

仕事は山積みだった。

 

刻晴は机の上の書類を持ち上げる。

 

「とりあえず仕事を――」

 

「駄目よ。」

 

凝光が即答した。

 

「でも。」

 

「駄目。」

 

「……。」

 

「……。」

 

有無を言わせない口調だった。

 

「総務司は半壊。」

 

「職員達も疲弊している。」

 

「だからこそ…!」

 

刻晴の抗議を遮るように凝光は言葉を続ける。

 

「そして貴女達は一度死んだと報告された。」

 

凝光は腕を組む。

 

「そんな状態で仕事をさせるほど私も鬼じゃないわ。」

 

「今日は帰りなさい。」

 

 

結局。

 

二人は半ば追い出されるように総務司を後にした。

 

帰り道。

 

夕暮れが璃月を染めている。

 

刻晴は大きく息を吐いた。

 

「結局何だったのかしら。」

 

「分かりません。」

 

甘雨も首を振る。

 

本当に分からない。

 

死んだはずなのに生きている。

 

巨大な力を使った。

 

そして今は普通に歩いている。

 

その時だった。

 

「おや?」

 

聞き覚えのある声。

 

二人が振り返る。

 

そこに立っていたのは。

 

往生堂堂主、胡桃だった。

 

「これはこれは。」

 

胡桃は二人を見比べる。

 

そして。

 

少しだけ首を傾げた。

 

「ねぇ。」

 

刻晴が眉をひそめる。

 

「何よ。」

 

胡桃は少し考える。

 

そして。

 

いつもの調子で言った。

 

「二人とも…もしかして一度死んだ?」

 

沈黙。

 

刻晴が固まる。

 

甘雨も固まる。

 

胡桃だけが不思議そうに首を傾げていた。

 

「……。」

 

「……。」

 

数秒後。

 

最初に口を開いたのは刻晴だった。

 

「何を馬鹿な事言ってるのよ。」

 

だが。

 

声にいつもの勢いは無い。

 

胡桃は見逃さなかった。

 

「ふーん。」

 

「その反応なんだ。」

 

刻晴は視線を逸らす。

 

甘雨も黙ったままだった。

 

「最期に何があったの?」

 

胡桃が尋ねる。

 

刻晴と甘雨は顔を見合わせる。

 

ルミネの事。

 

あの力の事。

 

説明しようと思えば出来る。

 

だが。

 

何故か口にしてはいけない気がした。

 

刻晴は肩を竦める。

 

「さ…さぁ…?気が付いたら生きてたのよ。」

 

甘雨も頷く。

 

「私達にも分かりません。」

 

胡桃は二人を見る。

 

しばらく黙る。

 

そして。

 

小さく息を吐いた。

 

「なるほど。」

 

明らかに。

 

納得していない顔だった。

 

「まぁ…言いたくないなら無理には聞かないよ。」

 

胡桃はそう言った。

 

そして。

 

二人をじっと見つめる。

 

まるで何かを確かめるように。

 

「でも…二人とも生き返った訳じゃないね。」

 

沈黙。

 

刻晴と甘雨が同時に顔を上げる。

 

胡桃は続けた。

 

「正確には一つの命を二人で分けてる。」

 

夕暮れの風が吹く。

 

刻晴は眉をひそめた。

 

「何よそれ。」

 

「そのままの意味。」

 

胡桃はあっさり答える。

 

「普通じゃない。こんなの初めて見た。」

 

少し考える。

 

そして。

 

言葉を続けた。

 

「死者でも生者でもない。でも、ちゃんとここにいる。そんな感じかな。」

 

甘雨は胸元へ手を当てた。

 

確かに。

 

説明は出来ない。

 

だが。

 

何かが自分達の中に残っている感覚はあった。

 

胡桃はそんな二人を見る。

 

そして。

 

珍しく真面目な表情になった。

 

「正直、往生堂堂主としては言いたい事が色々あるんだ。」

 

胡桃は苦笑する。

 

「生と死の境界はそんなに曖昧なものじゃない。」

 

「本来なら見過ごせない。」

 

そして。

 

少しだけ視線を柔らかくした。

 

「でも、誰かが二人に命を託したんでしょ?」

 

刻晴が目を見開く。

 

甘雨も同じだった。

 

胡桃は肩を竦める。

 

「図星みたいだね。なら、その人の意思を大事にしなよ。せっかく託された命なんだから。」

 

夕日が璃月の街を赤く染める。

 

胡桃は空を見上げた。

 

そして。

 

いつもの調子で笑う。

 

「まぁ…その時が来たら、往生堂でちゃんとお世話してあげるよ。」

 

刻晴と甘雨は顔を見合わせた。

 

そして。

 

静かに頷く。

 

ルミネの事は話さなかった。

 

だが。

 

二人とも同じ事を考えていた。

 

白銀の戦士。

 

最後に微笑んだ少女。

 

『私の旅を引き継いでくれない?』

 

あの言葉だけは。

 

今も胸の奥に残っている。

 

正直。

 

あの旅人が託した旅がどんなものなのかは分からない。

 

どこから来て。

 

どこへ向かおうとしていたのかも分からない。

 

だが。

 

その意思は刻晴と甘雨に託された。

 

その事実だけは。

 

胸に深く刻み込まれていた。

 

 

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