無理やりクロスに繋げようとしたらこうなりました。
『ダンジョン深層で【ロキ・ファミリア】壊滅!
Lv.7の【
巨大戦力の喪失はオラリオのみならず下界全体の大損失であり、黒竜討伐は絶望的となった。識者達は全ての終わりが始まったと提言しているが、終末の確定は間違っているのだろうか──下界の民たちよ震えて続報を待て!』
「な、なんですかこの記事……不穏すぎる」
白髪の少年冒険者、ベル・クラネルは紙を持つ手を震わせた。
場所は迷宮都市オラリオの名物酒場、『豊穣の女主人』。店内に置かれていた冊子を読んでいたベルは、その内容の酷さに思わず顔をしかめてしまった。
「あー、それ要らないから捨てておいてって言ったのに……ごめんなさいベルさん。それは悪趣味な情報屋さんがばらまいたゴシップ記事です。良くないですよねー。組織的にやってるところで、オラリオの外にも相当数が流れちゃったみたいで」
ひょい、と冊子を取り上げるのは、
彼女この酒場の店員で、若葉色の制服を身につけている。
ベルは抵抗することなく紙を渡した。こんな酷い記事はさっさと捨てて欲しいものだ。
「相当数が流れたって、大丈夫なんですかそれ。世界の終わりだって絶望してる人もいるんじゃ……」
「責任者をらちかんき……運営【ファミリア】と話し合いの場を設けて、訂正記事をばら撒かせてるので大丈夫ですよ。この記事の後にひっどい続報が出て、それで女神様達が怒っちゃったみたいで」
シルはクシャクシャと紙を丸めると、ぽーいとゴミ箱に投げ入れた。店内の客はベルしかいない。今は早朝の営業時間外である。
「……今、拉致監禁って言いかけました?」
「やってるのは私じゃないですからね。私はただの酒場の店員さんなので、そんな物騒なことなんて出来ませーん」
良い香りが鼻をくすぐる。シルが朝食を運んできたのだ。早朝に呼び出されたため、本日のベルは久しぶりに
気をてらうことが多いシルにしては、かなり無難な献立だ。なんでも、気合を入れて昨日から用意をしていたら侍女が寝込んだので、今日は普通にすることにしたとか。重度の状態異常みたいな感じで苦しんでいるらしい。後で何か差し入れをしてあげようとベルは思った。可哀想すぎる。
「どうですか? ベルさん、私の目玉焼きは」
「普通に美味しいですね……いつもこんな感じでいいのに……モグモグ」
シルが気合を入れると神がかった料理が生まれる。
物理法則とか色々と無視してトンデモナイものが出来上がったりするのだ。
あれはまさに神の御業。
そして彼女は実際に『神』である。女神フレイヤのもうひとつの姿だ。『シル』=『フレイヤ』。それは以前は【フレイヤ・ファミリア】の最高機密であったが、
「ヘルンさんみたいなこと言わないでくださいよー」
そのヘルンさんは、つい数時間前まで幻覚と幻聴でのたうち回っていたそうだ。重ね重ね可哀想すぎる。というか何を食べたらそんなことになるのだろうか。ダンジョンで拾い食いしたとかならともかく、彼女が食したのはシル・フローヴァお手製の料理である。
「あんまり酷使しないであげてくださいよ……あの人、シルさんのためならなんだってやるんですから。他の人にも頼めばいいじゃないですか」
「うーん……今回はアレンさんにもお願いしたんですけど、断られちゃって」
「それでいつも通りヘルンさんだけに?」
ベルはコップに手を伸ばし、お水を口に運んだ。
「いえ、ヘディンさんに食べてもらいました。そしたら口調が女の子になっちゃって」
「──ブッファア!?」
ベルは、水を吹いた。
ヘディン・セルランド。Lv.6。かつてベルに改造を施した鬼畜エルフで、彼のことはいつの間にか師匠と呼ぶようになっていた。
氷のような冷徹さと聡明さを併せ持つ、エルフの気高さを煮詰めて固めたような男だが、彼は女の子口調になってしまったらしい。なんだそれちょっと見てみたいとベルは思った。
「あーもー、ベルさんお行儀が悪いですよ?」
「ゲホゲホッ、ゴホッ!? そ、それで
思い切り呼吸を乱しながら尋ねると、シルはのほほんとした口調で答える。
「とっても可愛かったんでみんなで可愛がってあげてたんですけど、とっても怒っちゃって。自分の腕を剣で突き刺しながら出て行っちゃいました。しばらくダンジョンで過ごすとのことです」
「……」
ベルは脳内で悲鳴をあげた。彼のことだから心配は無用なのはわかってはいるが、それでも気遣わずにはいられなかった。主に尊厳的な意味で。
「ところでシルさん、話は戻るんですけど」
「はい。戻るってどの程度ですか?」
少し考えた後、ベルはひとまず忘れることにした。
女の子口調のヘディン・セルランドの姿を想像すると、目の前のことにまるで集中できないからだ。
本日、ベルは話があると言われて呼び出された。そろそろ本題についても聞かせて欲しいところである。
「あんまり酷いことしないであげてくださいよ……そのゴシップ記事を作ってた【ファミリア】……ちゃんと後始末さえしてくれるなら、殺したりとかは」
「それ、私に言われても困ります。拉致監禁したのは女神様達ですし。私もやろうと思ったんですけど、気づいた時にはことが動いていました」
と、その前に。
気がかりなことを片付けておく。
悪質なゴシップ記事はたしかに問題だし不愉快でもあったが、だからって解体したり殺したりする必要はない。あくまで穏便に。後始末でしっかり結末まで拡散してくれるのなら、今回は厳重注意でいいと思う。
オラリオ総戦力で決行された救出作戦により、【ロキ・ファミリア】は無事に生存している。全ての元凶だった穢れた精霊の討伐にも成功した。事が終わったあとで無駄に死人を出しても後味が悪いだけだ。
「その女神様達って誰なんですか? そこまで怒るってことは、【ロキ・ファミリア】を熱烈応援してる方々とか? 悪質なゴシップ記事なら他にもありますし、毎回そんな風にはならないですよね?」
「ええっとですね、最大の原因はベルさんが読んでた記事の続編なんです」
「出てたんですね、続編……」
「はい。ベルさんと【ロキ・ファミリア】のレフィーヤさんのことについて書かれてました」
レフィーヤ・ウィリディス。【
「僕とレフィーヤさんですか……なんでまた。それ、どんなことが書いてあったんですか?」
深層で壊滅後、命からがら地上に戻ってきた彼女は、ベル達と共にダンジョンに舞い戻るという強行軍を敢行した。分断されるまでは連携して戦わせてもらったが、かなり戦いやすかった。高い
「やっぱり悪口みたいな感じで?」
「そうですねー。たしか、『派閥連合は
「……」
シルは謎に芝居がかった口調で内容を語り、ベルは押し黙った。
なんだそれ、思っていた以上に
最後の方は本当にただの悪口だし、ベルは個人的な恨みでも抱かれているのだろうか。
「私がその記事を読んだ時には既に、ハトホル様が天誅部隊を結成して、記事の出処を取り囲んでました」
「……お礼、言っといた方がいいのかなぁ?」
ところで天誅部隊ってなんだろうか。
詳細を知ったら体が寒くなりそうだったので、ベルは聞かないことにした。ハトホルのことはノホホンとした女神様だと思っていたのに、ちょっと闇が深いかもしれない。
「あ、そうそう。『うちの婿を貶めることはゆるさーん』とか言ってました」
「聞かなかったことにします」
そして、何か知らんが勝手に婿にされている。
ベルは忘れることにした。
「ええと、凄い脱線しちゃいましたけど……僕ってなんで呼ばれたんですか? 話があるって言ってましたよね?」
気を取り直して本題。
シルは『個人的な相談があって』と言っていたはずだが、どんな内容なのかは一切聞かされていない。
「そうでしたそうでした。忘れてました、テヘッ」
「いや、可愛いですけど忘れちゃダメでしょ……」
ぼんやり既視感を覚える。
同じようでちょっと違うやり取りが、前にもあったような。そんな気がしたが、それがいつかは思い出せなかった。
とにかく緩い雰囲気だ。
これなら相談の内容もそんなに重いものではないだろう。そのように予想を立てていたベルだったが
「アーニャが酒場をやめるって言ってるんです」
「へ?」
次の瞬間、ピタリと固まる。
シルがサラッと重大発言をしたからだ。
アーニャ・フローメル。ベルが駆け出しの頃から親交がある
「相談の内容はそれです。アーニャ、酒場をやめてLv.5になるって言ってるんですけど、支離滅裂で怖いんで止めるのを手伝って欲しくて……」
「……」
酒場をやめる。勿論ベルは初耳だ。
最後に会ったのは一週間くらい前だが、その時は特に気になる様子はなかった。みんなでピクニックにいってドカ食いしようとか、くだらないことを言って笑っていた記憶がある。
『アーニャはいいわね。
『ねー。態度はあんなだけど、何があっても守ってくれるだろうし。いいなー。ああいう旦那ほしー』
『ルノア、正気ですか。にゃーおとか鳴いたりしませんよ、アレン様は凶暴ですから』
『いや、そりゃ鳴いたりはしないでしょ。にゃーおたか言い出したらむしろ怖いわ』
給仕してくれていた少女達はそんな会話をしていた。おかしな雰囲気は全くなくて、いつも通りだったはずだ。それがどうして、いきなり辞めるなんて話になるのか。
(珍しくアレンさんも輪に入ってくれて、嬉しそうにしてたのに……)
普段は店外で護衛の任についているアーニャの姉、アレン・フローメル。前回ベルが店に来た時はシルの命令で飲み食いさせられていて、顔は渋々ながらアーニャに給仕してもらっていた。
『おい、チェンジだ……この
『まあまぁ、アレンさん。良いじゃないですか、大切な妹が料理を運んでくれるなんて』
『
『ミャーは兄様を支えるのニャ! そうだ景気づけに歌うニャ』
『!? おいやめろッ!』
『やめてくださいアーニャさん! そんなことをしたら大変なことになります!』
──そんな一幕もあった。
アレンは相変わらず口は悪かったが、それでもアーニャは嬉しそうにしていた。ベルは微笑ましく思っていたのだが、どうしていきなりこんなことに。
「あの、シルさん。もしかしてアーニャさん、ずっと悩んでたんですか?」
はぁ、とシルの口から吐息が漏れる。
黙り込むベルに向かって、次の言葉を告げた。
「ここのところ
前代未聞の危機ばかりで、アーニャとしては思うところがあったらしい。ちなみにどこかの女神様というのはシル本人のことである。わざとらしい他人事で話しているのは自虐のつもりなのかもしれない。
「改めて振り返ってみると、凄いですよね……よくオラリオ滅びなかったなぁ」
「ええ、私もそう思います。今年は本当にお疲れ様でした。という
「あ、はい」
もうたっぷり労ってもらったはずだが、まだ続きがあるようだ。この前みたいに生々しい内容じゃないことを願うベルであった。
「怪我の功名と言いますか、派閥対戦を通じてアーニャとアレンさんはちょっと仲良くなれてたんです。私が出会った頃に戻ったみたいな……ううん、あの頃よりちゃんと向き合えてるって、そう思って見守ってたんですけど……」
ベルは頷いた。
フローメル
酒場で働くようになったのは、『シル』と仲良くなったからだと聞いている。アーニャは頭があまり良くないこともあって、シルとフレイヤという複雑な関係について完全には理解できていなかった。本人は『シル』は『シル』だから別にいいと納得していて、そのうちわかればいいとも話していたが……多分、今もまだよくわかっていない。
「アレンさんは……その、アーニャさんを突き放していたんですよね」
「はい。あの人はとっても素直じゃないんで。ツンデレさんなんですよ」
ベルはコクコクと頷いた。
あの刺々しさと凶暴性を『つんでれ』という言葉で済ませていいのかはともかく、シルが言いたいことはわかる。
「アーニャの方が強ければ……ううん、せめてもう少しだけ才能があれば、話は全然違ったんですけどね」
「充分強いですけどね……アーニャさんLv.4ですし」
「アレンさんは英雄の器ですから」
「そうなんですよねぇ……」
アーニャは必死に兄についていこうとしていたらしいが、いかんせん相手が悪かった。アレンが走り続けてきたのは、精鋭ばかりの【フレイヤ・ファミリア】の中でも最前線である。
それに、第一級冒険者というのは破格だ。ひとLv.が違うだけでも大きすぎる壁がある、というのは周知の事実。そして、Lv.4とLv.5以上では見える世界が全く違うと言われている。ベルは第一級冒険者になった後、そのことを身をもって実感した。
「前に比べて距離は縮まっていても、結局は変わらないんですよね。守り守られるという構図は。何かあったとしても、アーニャではアレンさんは守れない。派閥大戦以降は特に、そのことがずっと引っかかってたみたいで……」
「オラリオが
シルの言葉を引き継ぐ形で、自然に声が出た。
細い顎が上下したのを見て、自分の考えが的外れてないことを確信する。
「そうみたいです。アーニャは十分強いって何度も伝えたんですけどね。他のものは守れても、そんなの関係ないんですよね。あの子が一番守りたいのはアレンさんだなら」
「……そう、ですよね」
どこまでいっても守られるだけの存在。
そして、兄は英雄の器ではあっても無敵ではない。
死地に突っ込み続ける以上は、いつ死んでもおかしくないのだ。ここのところオラリオの存亡をかけた戦いが続いたこともあって、アーニャの中の危機感が膨れ上がった。今回の話はそういうことなのだろう。
「──こんな朝っぱらから何してるの?
店の扉が開くなり声が聞こえた。
声の主の姿を振り返るより早く、ベルはハッキリとした違和感を覚える。
「……アーニャさん」
「ジロジロ見て、なに?
向き合ってみても、その違和感は消えることはなかった。ニャーニャー言ってないし、自分のことをミャーとも呼ばない。若葉色のエプロンも着ていない。
代わりに身を包んでいるのは、白と赤の
「いえ……すみません。前に会ったのは一週間くらい前ですよね。かなり印象が変わったなって」
言葉を選んで発言すると、アーニャは肩をすくめた。
「そう。
「……っ!?」
明確な嫌味が感じられるその言葉に、ベルは仰け反りそうになった。
店内の気温が下がったような錯覚に囚われる。別人かと思ってしまうほど、アーニャ・フローメルは
(冷たくお前なんて言われたの、初めてだ……なんだ? 単にピリピリしてるというより、敵意みたいなものまで感じるんだけど……)
ベルは気圧される。
いくらなんでも短期間で変わりすぎだ。劇的すぎた。
「あ、アーニャさん……?」
「なに? 第一級冒険者のくせにオドオドして、みっともない」
「うっ……」
普段はおちゃらけている人間に圧をかけられると、凄みが凄いというか、迫力が何倍にも感じられるというか、とにかくやりにくい。これがヘルンあたりならヘラヘラできるようになってきたのだが、アーニャ相手だといきなりは無理だ。
「そこどいて。邪魔」
「アーニャさん、ちょっと落ち着いてお話しません……? なんか思い詰めすぎてる感じが……」
しかし、タジタジのまま終わるわけにはいかない。
今の状態で放っておくのは心配だし、勢いで酒場を辞めてしまうのも宜しくない。決めつけは良くないとは思うけども、冷静に考えた結果だとはどうしたって思えなかった。
「どいて。
「ヒッ……」
アーニャは、槍を、装備した。
今にも襲いかかってきそうな形相で、ベルのことを睨みつけてきた。
「あ、アーニャ! ダメだよおちつい」
「シルは黙ってて。なんと言われようと
「────かはっ」
仲裁に入ろうとしたシルは、仰向けに倒れた。
口からは断末魔的な何かが漏れた。冷たくブチ切れるアーニャは、女神からしても破壊力満点だったようだ。
「アーニャさん、待ってくださいおかしいですよこんなのっ。どう考えてもッ」
ベルは引き止めるべく呼びかけた。だが、
寝泊まりしていた部屋から私物を取ってきた彼女は、「はぁ」とため息を一度。そして、
「今日は荷物を取りに来ただけだから。もう戻らないから。バイバイ」
そう告げて、本当に酒場を出ていってしまった。
酒場の扉が叩きつけるように閉められ、嫌な
取り付く島もない。ベルはただただ呆然とした。
窓の外、太陽は灰色の雲に覆われており、白い結晶が舞い始めた。雪が降り始めた。
☆
派閥対戦の時。
黒いエルフが言っていた。
愛していたら捨てられない。憎むしかなかったんだろうと。それは事実だった。
不器用な兄は伝えてくれた。
あの
核心に触れることができた後、アーニャは涙が出るほど嬉しかった。その反面で、とても悲しかった。
「ありがとうガネーシャ様。しばらくここで寝泊まりさせてもらうから、お金は……」
「そんなものは要らん。俺達は既に十分すぎる対価を受け取っている。本拠は好きに使ってくれ」
酒場に別れを告げた後、アーニャは【ガネーシャ・ファミリア】の本拠に足を運んだ。
半裸の男神ガネーシャ。そして団長のシャクティとは、少し前から急激に交流が増えた。きっかけは神ガネーシャがその辺に落ちていたから拾って届けてあげたこと。団員達はとても感謝してくれて、アーニャに美味い飯を食わせてくれた。
そして、その時だった。
ぽろっと故郷のことを話してみたら、シャクティとガネーシャがあからさまに興味を示してきた。
『廃棄世界……そこで生まれたというのか、君達は。ガネーシャ、まさか……』
『うむ……いわゆるバグ面というやつだな。我々が欲している情報に繋がるかもしれん』
どこまでも延々と瓦礫の骸が続く、一夜で滅んだという大国の成れの果て。
滅ぼしたのは黒竜。二度と人は暮らせない。
昔フレイヤが説明してくれた内容はそんなところだったが、ガネーシャいわく
『廃棄世界はたしかに大国の成れの果て。その大部分は単なる廃墟だ。しかし、君達が育った領域は違うはずだ。人が魔物に変わる瞬間を見たことがあると言ったな? 老人に道を尋ねていたら、その老人は急に瓦礫になってしまった。そして、首のない銅像が話しかけてきたこともあった』
『うん。とても変な場所だったニャ……ゴホン!』
『無理にニャアはやめなくていいと思うが……まあいい。話を進めよう』
雨が燃えているのを見たこともあった。人間同士て
下界の常識が通用しない場面が山ほどあった。
そして、極めつけは
ずっと兄と二人で旅をしていたアーニャだったが、一度だけ人が沢山いる街に辿り着いたことがある。
そこでは親切な人が沢山いて、お腹いっぱいのご飯を食べさせてもらった。育ててあげると言ってくれた人もいた。ここでなら幸せに暮らせると思った。でも、寝て起きたら、その人は
知らない大人が現れていた。街の様子が前日よりも古ぼけていた。同じようなことが何回も起こって、最終的にそこには
『君達が見たもののひとつは、有り得ないはずの時間の逆流。おそらく間違いない。そしてそれは、下界の法則を完全に無視している。他の事象についても合わせて考えてみると、複数の法則が混ざっているように思えるのだ』
『……?』
ガネーシャは仮説を述べた。
アーニャ達が生まれたのは、廃棄世界の中にある
『……? ……ジューク、なに?』
『ジュウフクセカイだ。ガネーシャ命名。今決めた』
『て、適当……』
ガネーシャ達はわけあって別世界について調べていたらしい。そこでアーニャから手がかりになりそうな情報が得られたから、その感謝の気持ちとして無料で衣食住を与えてくれた。
金多少はあるが、タダにこしたことはない。
アーニャは有り難く甘えさせてもらうことにして、今はガネーシャの部屋で寛いでいる。ベッドがデカくて気持ちいいのだ。
「アーニャ・フローメル。どんな街に住んでいたのかは、やはり思い出せないか?」
出先から戻ってきたシャクティが、居眠りしていたガネーシャを蹴り飛ばした。「うおおおおおお!?」と部屋から叩き出される男神を無視して、彼女はアーニャに質問してきた。
「思い出せない。街の様子も親の顔も。記憶からすっぽり抜けてるのニャ」
「そうか。残念だ」
「……【ガネーシャ・ファミリア】はなんで異世界のことなんて調べてるの?」
「幼い頃に別世界から来たという団員がいる。特殊な能力とかは持ってない。ただ、そいつを故郷に返してやりたいとガネーシャが言っていてな。私もできればそうしてやりたいから、調べている」
「へー、酔狂な奴ら……」
アーニャは拍子抜けだった。別世界の強大な力を求めて、とかそういうのだと思っていたからだ。
「自覚はある。なんとでも言ってくれ」
「……悪かったニャ」
「なぜ謝る」
「他人の大切なものを悪くいうのは、良くないから」
「そこまで悪い言い方ではなかった。気にする必要は無いさ」
シャクティは穏やかな声を残し、早足で部屋から出ていった。
アーニャはゴロンと仰向けになる。
この【ファミリア】は良い人間ばかりだ。まさか住み着くことになるとは夢にも思わなかったが、できればいい関係を築いていきたい。
嘘じゃない。その気持ちは本当。でも、残念ながらそうはできなさそうで、
「……ミャー達の本当の故郷。あそこに帰れば、色んなことが上手くいくかもしれないニャ……兄様のためにもなるし」
少女の呟きを聞いている者はいなかった。
その心に宿るのは