「中道! 会いたかった!!」
愛子の精神世界から脱出したミカ、中道、法二、サイコダイバーの四人。そこには、既に目を覚ましていた愛子が待っており、戻ってきた中道に愛子は即座に抱きついてきた。
「改めて聞かせてくれ。お前は三流愛子なのか?」
そんな愛子を受け止めながら、真剣な表情で問い質す中道。
「ええ、私は三流愛子。あの大破壊で私の肉体は一度滅んだ…。でも、貴方にもう一度会いたいという強い願いが私を再び現世へと生まれ変わらせたの」
対して、中道の目を見ながら、しっかりと頷き説明する愛子。
「て、転生したという事か…? ほ、本当にそんな事が…」
「に、肉体が滅んだって事は、死んじゃったって事だよね? でも、ただ好きな人に会いたいって一心だけで生まれ変わって…? そんなおとぎ話みたいな事が本当に…? すっごい…」
愛子の説明に、法二は驚きの声を上げる。一方、ミカも両手を口に当てて驚いているが、それと同時になにやら感動している様子もある。恐らくロマンティックなものを感じているのだろう。
「愛子! 会いたかった! どうしても礼が言いたかったんだ。愛子が居なければ、俺は間違いなくあの大破壊で死んでいただろうから…ありがとう愛子」
「助けて貰ったのは私も同じ。夢の中で、都庁で、そして今も…。だから、気にしないで。ありがとう中道」
抱擁を続けながらお互いに感謝の言葉を口にする中道と愛子。その仲睦まじい様子は見ているだけでも非常に微笑ましいものだ。
そうして、暫く抱擁を続けていた二人だが、どちらからともなく身を離し、愛子が法二とミカの方に振り返った。
「法二、貴方にも礼を…。ありがとう、おかげでこうして中道と再会できたわ」
「いえ、正直今回は僕は何もできなかった。実際に貴女を助けたのは…」
愛子の礼に、法二は申し訳なさそうに言いながらミカの方を見る。その流れで、愛子と中道の視線もミカの方へと向いた。
「そうね。助けてくれてありがとう。名前を聞いても?」
「あ、うん! えっと私、聖園ミカっていうの。よろしくねアイコちゃん!」
「…ええ、よろしく」
名を聞かれて名乗るミカだが、その動作が少しぎこちない。何故なら、愛子の接し方が中道や法二と明らかに違うからだ。
感謝はされていると感じるが、それはそれとして微かに警戒されている感じ。笑顔なのは中道と抱擁していた時から全く変わっていないのに、ミカに対してだけは明らかに目が笑っていない。トゲ…とまでは言わないが、なにやら薄い膜で遠ざけられている感じだ。
「メシア様! 行っちゃうんですか!?」
少しぎこちない雰囲気で部屋を出た一行に掛かる声。見ると、あのシブヤに来た時に最初に声を掛けてきたメシア教の少年が、悲しそうな表情で立っていた。
「ええ、ごめんなさい。私はこの人…中道と一緒に往く定めなの」
その少年に、愛子はハッキリと言い放った。少年に…そして、メシア教が懇意にしていた少女が目を覚ましたという話を聞いて駆けつけてきたらしい人々に向かって。
「みんな、ちょっと聞いて欲しいの!」
メシアもいなくなり、意気消沈している人々に、ミカが声を掛ける。
「アイコちゃんも居なくなって辛いと思うけど、どうか皆がっかりしないで欲しいんだ!」
大声で訴えるミカだが、人々からの視線は冷たいもの。が、ミカもこんな声だけで人々に受け入れて貰えないことくらいは承知しているのだろう。
「ナカミチ、お金使ってもいい? 2000マッカ」
唐突に中道の方に振り返り、金の無心をするミカ。
「2000…。大金だな。何に使う?」
「メシア教会に寄付する。あの人達ならここの人達を救える力があるはず」
「―――分かった。ただ、力があったとしても奴らが使ってくれるかは…」
「大丈夫。見てて」
中道とマッカの交渉をして許可を貰った後、マッカを手に人々の群れの中にいたメシア教徒の高僧っぽい人の前にそのマッカを差し出す。
「このお金を寄付するよ。だから、ここの人達を助けてあげて。勿論、ルールを守るのは大事だけど、人によってはできれば大目に見てあげて欲しいの」
真剣な表情でお願いするミカ。
「承知しました…。天使様のお願いとあらば、無下にするわけにはいきますまい…」
対して、メシア教の高僧も厳かな表情でしっかりと頷く。
「―――ま、良い子ではあるみたいね…」
その一部始終を見ていた愛子が、品定めをするかの如く呟いていた。
シブヤでの要件を終え、シンジュクに戻ってきた中道、法二、ミカ、愛子、サイコダイバーの五人。サイコダイバーはシンジュクに戻るなり、再び酒場に走って行ってしまった。
そして、スティーヴンだがどうやらオザワ用の悪魔召喚プログラムの処理の目途が立ったそうだ。もう少しすれば処理し終えるらしい。
更に、もう一つ情報がまいこんでいた。なんと、ロッポンギから戻ってきた人物がいるというのだ。これまで、ロッポンギに向かって戻ってきた人は一人もいなかったそうなのだが…。
ただ、その人物は精神的にだいぶ衰弱しているらしく、うわごとの様にただ一つの言葉を繰り返すのみらしい。
あそこは”死人の町”だ…と。
「死人の町か…。やはり、一筋縄でいくような場所ではなさそうだな…」
「聞くだけでも悍ましそうな町だ…」
「やはり…真の意味での平穏な場所というのは、もうどこにもないのね…」
その言葉に、中道、法二、愛子が険しい表情で感想を漏らす。
「ちょっと怖いけど…それでも私は行くよ! 元の世界に帰るにはそのロッポンギとかいう所を通らないといけないみたいだし!」
一方、ミカは行く気満々だ。死という言葉に僅かながら怯えは見えるが、この程度で臆する程ミカの帰りたいという気持ちは弱くはないという事だろう。
そして中道、法二、愛子の三人もついて来てくれるそうだ。中道と愛子はシブヤでの出来事のお礼として、法二はそもそもミカと離れるつもりはないらしい。この世界にはまだまだ不慣れなので、そういう意味でありがたい限りだ。
更に、もう一つ朗報があった。あのシンジュクのメシア教の法衣の女性からミカ宛に贈り物をされたのだ。
「ガイアの者が献上品を出したというのに、メシア教の我らがミカ様に何も出せないというのは恥以外の何物でもありません。少し遅れましたがこちらをお受け取り下さい」
そう言って差し出されたのはお香だ。それもかなり古めかしい。
「それは
「な、なんかすんごい貴重な物っぽいんだけど、本当に貰っていいの!?」
取り出した物…反魂香について淡々と説明する法衣の女性だったが、その説明を受けたミカは思わず頓狂な声を上げてしまう。いろいろ制約があるとはいえ、死者をも蘇らせてしまう香とはただ事ではない。それをタダでもらえるとなれば、このミカの反応も致し方ないだろう。
「構いません。これは、このメシア教会新宿支部の威信をかけた献上品でありますので…」
しかし、法衣の女性も頑として譲らない。ここまで言われたのなら、寧ろ受け取らない方が失礼だろう。そう判断し、ミカは「あ、ありがとう…」と礼を言い、おずおずと反魂香に手を伸ばすのだった。
次回からロッポンギ編です。そして、ついにミカをもってしてもまともにやり合っては苦戦は免れないであろう強敵の予感です…。