死人の町
「このぉっ!!」
苛立たしげな声と共に、空に向けて銃を撃つミカ。しかし、空を高速で飛び回る鳥の悪魔にはかすりもしない。
「もうっ! ちょこまかと…当たりさえすれば一撃なのに…っ!!」
「はあっ!」
悔しさに歯噛みするミカの隣で、気合の声と共に右手を空の悪魔に向かって突き出す愛子。すると、その右手から電撃が放たれ悪魔にヒット…感電により動きが止まる!
「ミカ!」
「あ、うんっ!」
愛子の合図に、ミカは再び銃を構えなおして撃つ! 見事的中させ、悪魔を倒した。
「すまん二人とも…。俺のミスのせいで手間をかけた」
快哉を上げるミカと、腰に手を当てて倒した悪魔を見つめている愛子に、中道から声がかかる。
「大丈夫だよ! それに、ナカミチが交渉を失敗するなんて珍しいものが見れたし!」
「そうね…。何だか舌の回りがイマイチだったわ…どこか調子が悪いの?」
対して、問題ないとばかりに右手を上げるミカと、逆に中道の様子を心配する愛子。そう、今回の戦闘は中道が交渉を失敗してしまった事により起こってしまったのだ。ミカの見る限りでは、交渉が決裂するのを見たのは今回が初めてだ。
「―――愛子が一緒にいてくれると思って少し浮かれていた様だ。ちょっと気合を入れなおさないとな…」
「―――もう、恥ずかし気もなくそんな事言わないでよ…」
そして中道の口から飛び出る調子が悪い理由に、愛子はプイっとそっぽを向いてしまう。が、顔が少し赤くなっているのを見るに、満更でもなさそうだ。
そんな二人を羨ましそうに見ていたミカだが、不意にある事に気づいた。
「ねえアイコちゃん。貴女のその力も悪魔と合体して手に入れたの? リキヤみたいに」
「合体…? いえ、この力は元から…ちょっと待って。リキヤみたいにって…。リキヤって、力也の事よね? 中道と法二と一緒にいた。合体って…あの人、悪魔と合体したの!?」
その気づき…愛子が放った電撃について聞くミカだったが、愛子はその時に例えに出た力也の事に驚きの声を上げている。そして、黙ってしまった中道、法二、ミカの三人を見て、愛子も事実だと悟り、悲し気に目を伏せる。
「そう…。大破壊前に会った時から危うい印象があった人だったけど、ついにそこまでいってしまったのね…。でも、こんな時代だからこそ、力を求めるのも無理はないかもしれない…。力がなければ、己の身も守りたいものも何も守れないから…」
「力のみを求めるのは愚行…。だが、力がなければ何も守れないというのもまた真実…。僕は…」
心境を吐露する愛子。その、悲哀をおびた表情から紡がれる言葉に、法二も何やら思いつめた様子で呟いていた。
そうして辿り着いたロッポンギの地。確かに周囲に結界が張り巡らされ、普通には入れそうにない。
だが、結界の外に地下からの入り口があり、そこからすんなり中に入る事が出来た。
「これじゃ結界の意味がない様な…?」
ミカが頭をひねる。他の三人も疑問には思っていた様だが、とりあえず侵入は出来たのでそのまま奥へと進んでみるしかない。
そして、肝心のロッポンギの内情はと言うと…!
「普通に平和な町だね…」
拍子抜けした様子で口を開くミカ。とはいえ、これは仕方がない。なにしろ、本当に特筆して語る事がない町並みなのだ。
死人どころか怪しい人すら全くいない。道行く人それぞれが、楽しそうに語り合い、幸せそうにしているではないか。店が開いていない…武器や防具の店はともかく、雑貨屋の様な日常品を売っている店すら開いていないのは唯一気掛かりだが、それ以外は本当に変な所は何もない。
そんな中、情報を求めてディスコなる場所に辿り着いた一行。流石に娯楽施設という事で、人がかなりおり、情報も集まった。
今このロッポンギを治めているのは赤伯爵と黒男爵と名乗る二人の男だそうだ。以外にも評判は良い様だが、二人ともとある少女に夢中の様で、そこだけは不審がられていた。
そしてもう一つ。この平和な地で、ただ一人捕まり牢屋に入れられている少女がいるという。前述の二人に気に入られている少女とはまた別の人物の様だ。
「ただ一人牢獄に入れられている…。気になりますね。少しその人に会ってみませんか?」
法二の提案に、中道、愛子、ミカの三人は頷いた。
「ばかな……。そんな、まさか……?」
牢屋に入れられているという少女に会いに向かった四人。しかし、その少女の姿を見るやいなや、法二が震える声で牢屋に近づく。そして、よく見ると中道も法二と同じくらい目を見開いている。
「
「…法二? ああ…こんな事…こんな事って…」
まるで夢遊病者の如く牢屋の檻の前にまで移動し、檻の隙間から少女…藍子に向かって手を伸ばす法二。一方、藍子の方は、絶望の表情で法二を見ていた。
「へ…? へ…? アイコ…? アイコちゃんと同じ名前…? 姉妹か何か? でも全然似てないし…」
「来ないで法二!」
愛子と同じ名前の人物の登場に明らかに混乱しているミカだったが、唐突な藍子の大声にハッと我に返る。見ると、藍子は法二の伸ばした手を拒んでいたのだ。
「法二、私をよく見て。どこかおかしくない?」
そう言って、自分の胸に手を当ててアピールする藍子。最初は訝し気にしていた法二だが、徐々にその顔には冷汗が流れ始める。
「―――何故だ? 三十年もたったはずなのに、何故君は少女の姿のままなんだ…?」
その冷や汗の理由を口にする法二。そう、法二を知っているという事は三十年前の人物の筈なのだが、それにしては目の前の少女は若すぎるのだ。
「私はゾンビにされてしまったの。いえ、私だけではない。この街の住人の全ては普通の人に擬態したゾンビよ。赤伯爵と黒男爵がそういうふうにゾンビたちを虜にしたの。なぜか私はゾンビにできても虜にはできなかったからこうやって捕まっているの。でも、法二…それに後ろの中道君もゾンビにされてしまったのね…」
「ゾ、ゾンビ…。ああ、何という事だ…なんという…」
藍子の告白に、法二は絶望に頭を抱えてしまう。そこに中道が一歩乗り出した。
「藍子、聞いてくれ。俺も法二も死んではいない。手をこっちに…」
そう言って、藍子の手を自分の胸に触れさせる中道。
「―――心臓の鼓動がする。本当に生きてるのね。でも、だったら二人とも何故姿が変わってないの…? いえ、今はそんな事どうでもいい! 二人とも…いえ、全員早くこの町から逃げて! 死人にされてしまう前に!」
「そういう訳にもいかない。ミカ、どうかもう一度、力を貸してくれないか?」
「待って待って! そもそもこの子は誰なの? 状況も良く分からないのに力を貸しようがないよ!」
藍子の悲痛な叫びに、しかし中道は首を横に振りながらミカに助力を依頼する。とはいえ、状況が全く呑み込めていないミカとしては先ず説明が欲しい所なのは言うまでもない。見ると、無言ながら愛子も訝し気にしている。彼女も状況を理解できていないのだろう。
「この子の名前は星川藍子。俺の幼馴染にして、法二の恋人だ。ただ、いま彼女自身が言ったように今はゾンビとなってしまった様だ。本来の藍子は三十年前の大破壊で既に…」
「話には聞いていたけど、この子が中道の幼馴染…」
「ゾ、ゾンビって…。そんな漫画やゲームみたいな存在が本当に…?」
辛そうな声色の中道の説明に、愛子はしみじみと藍子を見定める。一方、ミカは驚愕に震えている。
死してなおその地に未練を残し動き回る存在。それがミカの知っているゾンビという存在だ。そんな創作でしか聞いた事の無い存在が、今目の前にいる。しかも、ミカの知っているゾンビは辛うじて人の姿を保っているだけの化け物然としたものだが、今目の前にいる少女は言われなければ普通の人間と変わらないではないか。この少女をゾンビなどと言われても、到底信用できそうにない。
「お願いですミカ様! どうか…どうか藍子にご慈悲を…っ!!」
「う、うん! いいよ! 力を貸すのは全然良い! ただ、戦闘なら任せて貰って全然かまわないけど、ゾンビの戻し方なんて私知らないよ!?」
しかし、法二に土下座までされて懇願されてしまってはもう頷くしかない。とはいえ、ゾンビの子を助けてくれなどと言われてもミカにはどうしようもない。武力なら幾らでも自信があるが、そういう神秘の方面はさっぱりなのだ。
「この様な不浄な地に突如現れた、大いなる光の力に導かれてみれば…。何やらお困りの様だ」
と、その時だった。不意に一行の背後から声がかかる。
「誰だっ!!?」
先ほどの土下座の姿勢から一転、素早く銃を構え大声を上げる法二。続いてミカ、中道、愛子も銃を声の方へ構える。しかし、その声の主…ローブで全身を包んでいるため、正体は分からない…は、銃を突きつけられて尚落ち着いた声色で言い放った。
「人の子らよ、気を静めなさい。私は天使マンセマット。光の王国を望む力の御使いです」