真・女神転生 聖園ミカの終末世界紀行   作:塞翁が馬

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赤伯爵の正体

「―――天使様? 貴方が?」

 

 胡散臭いローブの男…マンセマットの名乗りに、しかし法二は懐疑的な視線を向ける。他の面子も似たような表情だ。

 

「この様な姿ですからね。信じられないのも致し方なし。ただ、今は潜入している身。故に正体をお見せする訳にもいきません。ですが…」

 

 何やら含み笑いの様な物を漏らしながら話すマンセマット。が、ここで右手のひらをミカに向ける。

 

「貴女なら…大いなる光の力を持つ熾天使ミカエル様なら、私の正体も分かる筈」

 

 どこか恍惚とした声色でミカに語り掛けるマンセマット。

 

「知らないよ。誰なの貴方? 天使かどうかなんて見ないとわからないに決まってるじゃん」

 

 しかし、ミカからの返答は困惑に満ちている。当然だが、何のヒントも無く全身をローブに包まれている相手の正体を看破しろなどと言われても、出来る訳がない。

 

 一方、この返答が余程に予想外だったのだろう。マンセマットは今までよりひと際低い声で「なに…?」と呟いた後、品定めをするかの如くミカの全身を眺めまわす。

 

「―――何だこれは…? 感じる力は確かにミカエル様の物。が…その力を人の子という器で無理やり包んだ様な歪な存在…。堕天…ともまた違う。いや、そもそもかの偉大な力が人の子の器で包めているという方が不可思議だ。この者は一体…?」

 

「ちょっと! 何をブツブツ言っているのか知らないけど、天使を名乗るならせめてこの子を助ける方法をご教授して下さらないかしら?」

 

 そのまま考え込んでしまうマンセマットだったが、ここで愛子から藍子に手を向けながらの抗議が入る。

 

「ふむ…。残念ながら、元に戻すのは不可能です。ただ、魂をこの死の体から解放する方法はある。反魂香と呼ばれる物を使えば解放されるでしょう。ですが、この品は大変貴重な品。そう簡単には…」

 

「反魂香!? それなら私持ってるよ! ほら、これかな!?」

 

 愛子の要請に、マンセマットは藍子を見つめながらつらつらと説明する。そして、それを聞いたミカが大急ぎでシンジュクで貰った反魂香をマンセマットの目前に突き出した。

 

「なんと…。この様な貴重品を既にお持ちとは…」

 

「シンジュクのメシア教っていう所の人がくれたんだ!」

 

 驚きの声をあげるマンセマットに得意げに答えるミカ。

 

「流石はミカエル様だ。この様な歪な存在に変貌しようと、その威光に陰りが差す事などありえないのか」

 

「ねえ、もう何回も言ってるけど、その名前で呼ぶの止めてくれる? 私には聖園ミカって言うちゃんとした名前があるの。ミカエルだかニカエルだか知らないけど、私をそのよく分かんない奴と混同するのは止めて」

 

 しかし、続くマンセマットの称賛の声に、ミカは一転して不機嫌そうに顔を歪める。このミカを法二が痛ましそうに見ていたが、ミカは気づかなかった。

 

「みそのミカ…? みその…ミカ…ですか」

 

「何? 何かおかしいの?」

 

 不可解そうにミカを見遣るマンセマットに、ミカはますます不機嫌になっていく。

 

「失礼しました。それでは、これからは聖園ミカ様とお呼びすれば宜しいでしょうか?」

 

「好きにすればいいじゃん! じゃ、早速これ使うね!」

 

 頭を下げ、改めて問い質すマンセマット。ただ、その物言いが気に入らなかった様で、ミカは怒声を上げながらこの話は終わりだ…とばかりに反魂香を使おうとする。

 

「お待ちください聖園ミカ様。今使っても意味がありません」

 

「はあぁっ!? 使えば助かるって言ったのあなたじゃん! なに、嘘ついたの!?」

 

 しかし、唐突なマンセマットの制止にミカの怒りは更にヒートアップしていく。

 

「いえ、使えば魂は解放される。これは本当です。ですが、問題はこの周辺に貼られている結界。この結界、一見周囲から身を守るために貼られているように見えますが、実は違う。天に返る魂を束縛し封じる事こそがこの結界の真の目的。当然、この結界内で魂を開放しようと、結界の束縛から逃れる事は出来ない。真に魂の解放を願うなら、まずはこの結界を解かなければなりません」

 

 集う不審の眼差しを物ともせず説明を続けるマンセマット。特にミカからの圧はかなりの物なのだが、それにも動じないあたり大変肝が据わっている事だけは間違いなさそうだ。

 

「で、では…。あの結界を解く事が出来れば藍子の魂を救うことができると…?」

 

 そんな中で、訝し気に法二が切り出す。

 

「その通り。ですが、それもまた難しい事なのです。そもそも、私がここにいるのは強大な悪魔がこの地に降り立ったと聞き、その正体を探り可能なら排除する事でした。私も力の御使いを名乗る身。そうそう遅れをとるような事はありません。しかし、ベリアルという予想外なまでの強大な悪魔を相手取るには流石に分が悪い」

 

「ベリアル!? ベリアルだって!? あの魔界の大貴族ベリアルがここに!?」

 

 法二の切り出しに説明を続けるマンセマットだが、その時に出たベリアルという名前に法二が驚愕の大声を上げる。

 

「そう、そのベリアルです。それがこの地を治める者…赤伯爵の正体。無論、結界を作っているのもこのベリアル。なので、結界を消そうと思うならば、ベリアルを何とかするしかないのです」

 

「ああ…。何という事だ…。まさかあのベリアルが相手だなんて…。今回は…今回ばかりは流石にミカ様と言えども勝ち目はないかもしれない…」

 

 頷くマンセマットに絶望に両手を地に着ける法二。それ程までにそのベリアルという悪魔は強大なのだろう。

 

「ちょっと! 勝手に私が負ける前提で話を進めないでくれる!? 戦いなら私は誰にも負けないし、そもそもそのベリアルとかいうのを倒さないと、牢屋の中のアイコちゃんを助けられないんでしょ!? だったら、やってみるしかないじゃんね!」

 

 しかし、ここでミカから抗議の声が入る。どうやら、自分が負ける前提で話をされている事が非常に気に入らない様だ。銃を構えて意気込んでいるのを見るに、ベリアルのいる場所に突撃する気満々の様子。

 

「ふっ…その勇ましさはやはりミカエル様そっくりだ…。分かりました。では、ベリアルに会う方法をお教えしましょう。普段の奴は滅多に姿を見せません。が、この町のどこかにアリスと呼ばれる少女がいます。そして、どうやらこのアリスという少女をベリアルの奴は大層気に入っている様だ。なので、このアリスを(かい)させれば会える可能性が高い」

 

「アリスちゃんね! 分かった!」

 

 マンセマットの話を聞くやいなや、牢屋を飛び出してしまうミカ。中道が「待て!」と制止したのだが、全く聞く耳持たずだ。それだけ、自分が負ける前提で話をされていたのが気に入らなかったのだろう。

 

「そのアリスの居場所を聞かずに何をするつもりなんだアイツは…」

 

「ふっふっふ、非常に頼もしい限りだ。ところで、皆様に二つほど注意点をお伝えいたします」

 

 やれやれ…と言った様子で頭を押さえる中道。一方、マンセマットはご満悦気味の含み笑いを漏らした後、改まって中道達に向き直る。

 

「まず一つ目ですが、この地において私はあまり助力できそうにない。邪悪な結界のせいで力を十全に取り廻せないのです」

 

「そんな有様でよく排除に動こうと思ったわね…」

 

「少し強い程度の悪魔の結界なら振り払えたのですが、先ほども言った通り、相手が予想に反しあまりにも強大すぎた。この点は反省しなければいけませんね」

 

 その注意点の一つ目に対し愛子が疑惑の声を上げるが、これはマンセマットにサラッとかわされてしまう。

 

「そしてもう一つの点ですが、この地を治めるもう一人の男…黒男爵。この者は赤伯爵にわをかけて外に姿を現さない。それこそ、前述のアリスを介させても難しいでしょう。故にその正体もついぞ掴むことはできなかった。とはいえ、あのベリアルが自身と同じ地位を許した者。危険な相手である事は間違いない。ゆめゆめ油断成されぬようお気をつけて…」

 

 そして、二つ目の注意点を伝えた後、おもむろに中道達に背を向けるマンセマット。法二の「天使様!?」という声も気にかけず、マンセマットは何処かへと消えてしまうのだった。

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