飛び出していったミカを追って牢屋を出る中道、法二、愛子の三人。幸いなことに、出てすぐのところでミカは立ち止まっていたのですぐに合流できた。なんでも、肝心のアリスのいる場所が分からず途方に暮れていたとの事。
ただ、そのアリスの居場所はマンセマットからも聞く事が出来なかったので、結局情報を集めながら探す事となる。
そうして、ロッポンギ中を探す事数時間。遂にアリスらしき少女と会う事が出来たのだ! 何故だか彼女は人気のない路地裏に一人でいた。
「ねえ、貴女がアリスちゃん? ちょっとお願いがあるんだけど…」
目の前の金色の髪に美しい顔立ちの少女にミカが声を掛ける。しかし、少女はミカの事を目を見開いて見つめ続けるのみで返事は無い。
「えっと…どうしよう…」
「とにかく、出来るだけ刺激しないように話を続けていくしか…」
反応がない事に困惑するミカに、法二が同じく困惑しつつも会話を続行しようとする。と、その時だ!
「か……可愛いーーっ! わあーーっ! お姉ちゃんすっごく綺麗で可愛いねーーっ! 白い羽に綺麗な輪っかが頭にあるって事は、天使様!? すっごく綺麗で可愛い天使様!!」
突如大声でまくし立ててくる少女。何事かと全員が少女を見るが、彼女は大変興奮しているらしく頬は紅潮し、鼻息も荒い。
「へ?! あ、ありがと…」
突然の賛辞に戸惑うミカ。とはいえ、褒められて悪い気はしていない様で表情が若干緩んでいる。
「その…貴女はアリスちゃん…であってるよね?」
「そうだよ! 私の名前はアリス! お姉ちゃん達はアリスに何か用なの?」
改めて少女の名前を聞くミカ。対して、少女…アリスは元気よく返事をしてくれた。
「えっとね、ベリアルっていう悪魔と会わせて欲しいんだけど…」
「ベリ…アル…? だーれそれ? そんな人アリスは知らないよ」
次いで会いに来た目的を言うミカだが、これにアリスは首を横に振る。嘘をついている様には見えず、本当に知らない様だ。
「あれ…? 何で知らないの…?」
「アリスちゃん。僕達は赤伯爵という人に会いたいんだ。案内してもらっても良いかな?」
「あ! 赤おじさんなら知ってるよ! こっち! アリスが会えるようにお願いしてあげる!」
話が通じない事に少し混乱するミカだが、ここで法二からフォローが入る。どうやら、アリスは赤伯爵の正体を知らない様だ。
「あの子、赤伯爵がベリアルっていう悪魔だって知らないの? 確か気に入られてるって…」
「気に入っているとはいえ、自分の正体を教えるかはまた別の話という事でしょう。さあ、後を追いましょう」
驚き、少し悲し気に呟くミカに、法二が冷たく言い放ちながらアリスの後を追う。納得してなさそうな表情でミカも法二に続いた。
「君達か、私に会いたいというのは」
とある建物の最上階に連れてこられた四人。そこにいた赤伯爵の執事という男にアリスがお願いして、遂に四人は赤伯爵と出会う事となる。どんな奴が出てくるのかと
「アリス、私はこの人達と少し話をする。お外で遊んできなさい」
「はーい!」
挨拶もそこそこに、早速アリスをその場から退出させる赤伯爵。そして、アリスが外に出て行って少しした次の瞬間、赤伯爵の纏う雰囲気が瞬時に変貌したのだ!
「さて、では要件を窺おうか。聖園ミカとそのお供の人間共よ」
優しかった目付きは一気に鋭くなり、声のトーンもガクッと落ち、威圧感に満ち満ちている。先ほどまでのアリスと接していた人物とはまるで別人だ。
「な、何で私の名前を…?」
「最近、この辺りで派手に活躍している高位の天使がいると聞いてな。人間ならともかく天使と聞いては捨ておくことはできん。悪いが少し探りを入れさせてもらったよ。しかし…ふむ。ミカエルの顕現という情報もあったが、実際に会ってみると奴…ではないな。確かに奴とほぼ同質の力を感じるが…在り様が異質だ」
名前を言われた事に驚くミカに、何でもないように返事をした後ミカを見定める赤伯爵。
「またそいつ? もううんざりなんだけど…」
「はっはっは! どうやら奴の事を酷く毛嫌いしている様だな。まあ、奴としても自分と同じ質の力を持つ者にこう派手に動かれては、迷惑している事だろう。私としては愉快な話だ」
そして、またもや出てくるミカエルの名に流石にげんなりしている様子のミカ。一方、赤伯爵は言葉通りに愉快そうに笑っている。
「ねえ、そんな事よりもこの辺りに張ってる結界何とかしてくれない? あれのせいで私達困ってるんだけど」
どうしても話を変えたかったのだろう。ミカは要件を率直に赤伯爵に伝える。ただ、あまりにも率直過ぎるその物言いに、後ろにいた中道、法二、愛子の三人は赤伯爵の怒りを買うと感じ慌てて臨戦態勢を取る。
「結界か…。よかろう」
しかし、赤伯爵からの返事はあまりに予想外のもの。その想定外すぎる簡潔な返事に、中道達三人は素っ頓狂な表情で赤伯爵を見遣り、ミカですら呆けた顔で「いいの…?」と確認を取るほどだ。
「構わんよ。黒男爵から既に想定した魂の数は確保できたと報告を受けている。再びロウとカオスの軍勢が動き始めたという情報も入った今、この地に長居する理由などない。私や黒男爵、他の死人共はともかく、アリスを危険な目に会わせる訳にはいかんからな」
「ま、待って! もし何処かへ行くというなら牢屋に捕まっているアイコちゃんだけでも放してあげて!」
「牢屋…? ああ、あの黒男爵の虜にならなかった死人か…。まあよかろう。虜にできなかった死人などに用はない」
ミカの要件全てに首を縦に振る赤伯爵。本来なら喜ばしい事なのだろうが、あまりにとんとん拍子に話が進んでいくため、逆に言葉に詰まってしまうミカ。
「ミカ様! 騙されては駄目だ! こいつは自分の目的の為だけに多くの人の魂を弄ぶつもりなんだ!」
と、ここで法二から叱咤が飛ぶ。この声にミカはハッと顔を上げる。
「そ、そうだ! その魂たちはどうするつもりなの!? すぐに開放して!」
「それは出来ぬ相談だ。この魂たちにはアリスの遊び相手になって貰わなければならんからな。永遠にな…」
「そんな自分勝手が許されるものか! ミカ様が…いや! この地に続々と降臨されている天使様達が必ずお前を裁かれるだろう!」
ミカと法二の言い分に、しかし赤伯爵は「くっくっく…」と含み笑いを漏らし始める。
「裁きだと…? 自分勝手だと…? 汚れた民族の浄化などという自分勝手な理由でこの地にICBМ…大陸間弾道ミサイルを撃ち込んだ天使共がそれを言うのか? 笑わせてくれる」
蔑みの言葉を吐く赤伯爵に、ミカは「は…?」と変な声を上げる。少し間を置いてから本当なのか…? と問う視線を法二に向けるが、法二はミカから視線を外す。その仕草が、本当だと言っている。
「ふむ…。ミカエルならば、神の思し召しだ! などと開き直りそうなもの。そういう事をしないあたり、やはりこの天使はミカエルではなさそうだな。いや、正直天使かどうかも怪しい…」
そんな様子のミカを見て、赤伯爵も訝し気にミカを見遣る。が、
「とにかく、私はこれから撤収の準備をする。それが終われば結界も消えよう。ただ、少し時間がかかる。暇ならアリスの遊び相手でもしていてくれたまえ。あの子ならいつもの路地裏にいるだろう」
それだけ伝えると、すっかり意気消沈しているミカなど気にもかけず何処かへと去ってしまうのだった。
シンジュクへと戻ってきていた四人。赤伯爵の依頼通りにアリスの遊び相手をしようとしたのだが、会いに行ったアリスに「ヒランヤが欲しい!」と頼まれたのだ。しかし、ロッポンギの店は全て閉まっているため、シンジュクの店で買うために戻ってきたという事だ。
「ねえホウジ。本当なの? この世界の天使達がこの地にミサイルを撃ち込んだって」
「―――何か…。何かひっ迫した事情があったに違いないんです。出なければ、あの方たちがそんな非道を行う訳が…」
暗い声で問うミカに、法二は必死に言い訳を口にする。
「どんな事情か知らんが、それで愛子は一回死んだんだ。悪いが俺は擁護する気は無いぞ」
「そうね。法二には悪いけど、私と中道は天使の寝言なんて真に受けるつもりはないわ」
しかし、ここで中道と愛子からの苦情が入る。ここまで責められては法二も黙るしかない。
「ミサイルって…。そんな…そんな…。だって、トリニティですら処置が遅れたら危なかったって子が何人もいたんだよ? それを、この地の人が受けたなんて…。普通に死んじゃうよね? 何人死んだの? いや、何人なんて数じゃないよね。何万、何十万…下手したら何百万…死んだ……死んだの…?」
鬼気迫る表情でブツブツと呟くミカ。その危ない雰囲気に誰もミカに話しかける事が出来ない。
「―――マンセマット。あの人に聞くしかない」
決意の瞳を携えて、ロッポンギに戻るためにターミナルへ急ぐミカ。その後を中道と愛子が無表情で、法二は悔し気にしながらも追う。
しかし、やはり物事はそううまく運びはしないのだ。早くマンセマットに会いたかったミカだが、まずは約束通りにヒランヤをアリスに渡そうとする。彼女は赤伯爵の部屋に戻っていた。
ところが、これに大喜びこそしてくれたアリスが、次に驚愕のお願いをミカ達にしてきたのだ!
「あのねー…。死んでくれる?」