「う…んん……」
徐々に意識を取り戻していくミカ。そうしながら、まだはっきりとはしない意識で周囲を見回す。
「あれぇ…? なんで私外にいるのぉ…? さっきまで自分の部屋にいたはずなのに…」
そして、何故か屋外で座り込んでいる事に気づき少々間延びした疑問の声を上げる。だが、不可思議な事はこれでは終わらない。
「う……うおおおおおおっ!」
「わっ!? えっ、な、なになにっ!?」
いきなり背後から炸裂した野太い歓声に、驚き慌ててミカは振り返る。そこには、ミカのセンスでは形容しがたい程に珍妙な服を着た、小太りで不気味な感じの中年の男が立っていた。
「アクマ使いを始めて苦節十と余年…。お、俺は…俺は遂に…天使の召喚に成功したのかっ!? く、くうううっ、長かった…ここまで来るのに本当に長かった…。どれだけ工夫しても、出てくるのは最低級の悪霊や邪鬼ばかり…」
そうして、長々と感傷に浸る中年の男だが、あまりに突然の状況に思考が定まらないミカは、茫然と中年の男を見上げるしかない。
「よぉし…これで他のアクマ使い共を見返せるぞ…っ! おい、お前の名前は!?」
「へっ!? み、聖園ミカ……だけど…」
が、ここで中年の男に名前を聞かれたため、半ば反射的に返してしまうミカ。
「み、みその…みか…? 悪魔の割には人間みたいな名前だな…ま、まあいい。じゃあついてこ」
「はぁ!? 悪魔ぁ!? 私がぁ!? 冗談でしょ!? 魔女ならまだいざ知らず、ゲヘナと同列にされるのは流石に心外だよね!」
ミカの名前を聞いて何故か少し困惑する中年の男だったが、その時に口から発した悪魔と言う言葉にミカの怒りのボルテージが一気に跳ね上がる。
「な、何だお前、生意気だぞ! お前を召喚した主人に逆らうってのか!?」
「キモイ事言わないでよ! なんで私が貴方なんかに従わないといけないの!?」
予想だにしないミカの怒気を前に、中年の男は怯みながらも自分が主人だと主張するが、当然ミカがそんな訳の分からない理屈を受け入れる訳もない。
「こ、この…っ! だ、だったら力づくでも従わせてやる!!」
そう言って、中年の男は右腕に取り付けていた機械を弄りだす。すると、中年の男の周りに気持ち悪い化け物が何体も現れたではないか!
「うわ、きっも! な、何なのこいつらっ!?」
あまりの悍ましい姿の化け物共に悲鳴に近い声を上げるミカだが、そこでスマホが震えている事に気づいた。
「ん…? なにが…で、デビルアナライズ…? 邪鬼オーク4体、悪霊レムルース4体…? ………あ、も、もしかしてこの化け物たちの事…?」
スマホの画面と目の前の化け物どもを交互に見比べ結論を出すミカ。一方、中年の男はミカの言葉に目を見開く。
「デビルアナライズだと!? っつー事は…それ、悪魔召喚プログラムか!? な、なんで悪魔が悪魔召喚プログラムを持ってんだ!? それにその………何だそれ!? ハンドヘルドPC…じゃない!?」
「むっ! また悪魔って言った! もう許さないよ!」
驚愕の声を上げる中年の男だが、再びの悪魔扱いにミカの眉尻が吊り上がる。次の瞬間、手に持っていた銃で化け物どもを次々と射撃、全て一発で倒れ、姿が消えてしまった。
「さあっ、次は貴方の番だね!」
「わっ、あっ、なっ…!? ひいっ、ゆ、許して…許してください!」
顔面に銃口を突きつけられ、無様に土下座する中年の男。それを見たミカは「ふんっ!」と鼻を鳴らし、次に落ち着くためかふうっ、と一息つく。
そうして、改めて周囲を見回すミカ。屋外なのは間違いないが、あちこちに倒壊した建物があり、何やら退廃的な雰囲気を醸し出している。
この雰囲気にミカは経験がある。かつて突入したアリウスの地にそっくりだ。が、アリウスではない。上手く言えないが、そっくりだが微妙に違うのだ。
「ちょっと! ここ何処なの!? 早く私を帰してよ!」
「えっ、あっ、はいっ! ええと…」
ミカの脅しに中年の男は慌てて機械を弄りだす。また化け物を!? と身構えるミカだが、慌てて操作している割に増援は出てこない。どうやら何らかの手続きを行っている様子…なのだが…。
「ええと………。あ、あれ? リターンできない? い、いや、それ以前にみそのみかなんてデータないぞ!? ど、どうなってんだ!?」
何やら手間取っている様子。ミカのイライラが伝わっているのか、慌てる指の震えが少しずつ大きくなっていく。
「ねえ、まだなの?」
「あっ、た、ただいま…ただいま戻しますのでもう少しだけお待ちを…!」
苛つきを隠そうともせずに問うミカに、中年の男は体を震わせて機械いじりを続ける。が、その慌てぶりに反し何も起きない所を見るに、どうもこの中年の男に任せても事態は進展しなさそうだ。
そう考えたミカは、銃を下ろし改めてスマホを見る。
「電話は…圏外だね。当然モモトークも使えない。となると、この悪魔召喚プログラムとか言うのが鍵…かもしれないんだけど。………だめだ、デビルアナライズとかいう機能以外は起動してもエラー落ちしちゃう。再起動して………またエラー落ち! もう、なんなのこれぇ…」
「危ないっ!!」
スマホをいじりながら情けない声を上げるミカにかかる突然の大声。ハッと顔を上げると、なんと先ほどまで機械を弄っていた中年の男がいつの間にか右手にハンドガンを持ち、ミカの顔面を狙っているではないか!
響く二発の銃声。対して、あがった悲鳴は「ぎゃあっ!?」という中年の男の悲鳴だけだ。
「くそっ! 間に合わなかったか!」
「おいっ! 大丈夫か!?」
新たに現れた三人の少年たち…その内の潔白そうな少年が悔しそうにこぶしを握り、眼鏡をかけた荒々しそうな少年がミカの容態を確認しようとする。
「―――ふーん…。そういう事、するんだ?」
が、そんな少年たちにはわき目もふらず、ミカは再び己の銃を中年の男の額に押し付ける。恐らくは銃弾が当たったのであろう左頬を左の親指で撫でながら。その凄まじい威圧感に少年たちは声を上げる事すらできなくなり、中年の男に至ってはただ恐怖に震えながらミカを見上げるだけだ。
しかし、ここでミカはある事に気づく。中年の男の右手が思った以上に重傷なのだ。それこそ、しっかり手当てしないと二度と動かせなくなるのでは? という程だ。
チラッと潔白そうな少年の右手に握られた、銃口から硝煙が上がっているハンドガンを見るミカ。恐らくは、これで中年の男の右手を撃って止めようとしたが、遅くて止められなかった事を先ほどは悔しがっていたのだろうが、ミカ的に問題はそこではない。
あんな普通のハンドガン一発で重傷を与えられた。…いや、当たり所が悪ければ、もしかしたら致命傷になりえたかもしれない。
そして、ミカはこの異常に撃たれ弱い人種を知っている…。ミカの最愛の人…。
改めて目の前の中年の男を確認するミカ。容姿は全く似ていない…が、人種は同じ…感じがする。
更に、思い出せば戦い方も似ている。呼び出す個体こそ全く別だが、前線はその個体に任せ、自身は後方から指揮をする。
「ね、ねえ…。い、一応聞くけどさ…。やっぱり、この人撃ったら…怪我するの?」
恐る恐る…と言った感じで、眼鏡をかけた荒々しそうな少年に尋ねるミカ。先ほどの威圧感も消えている…どころか、青ざめた表情からはハッキリと恐怖を感じ取れる。
「あ、ああ…? そりゃ、こんなデカ物の鉛玉を脳天にぶち込まれたら怪我どころか死ぬだろ。むしろ、何でてめえは顔面撃たれて無傷なんだ…? やっぱり見た目通りに悪魔なのか…?」
「
そして”死ぬ”という言葉に激しく動揺するミカ。悪魔と呼ばれても反応できない程だ。なにやら眼鏡をかけた荒々しそうな少年と潔白そうな少年が口論を始めたっぽいが、それも今のミカの耳には届かない。
(何これ…どうなってるの…? いやだ、帰りたい…先生…先生助けて…)
心の中で先生に助けを求めるミカ。そして、そんな悲しそうにうなだれているミカを、中年の男と同じ機械を右腕に付けている三人目の少年はじっと見つめていた。