宿に帰ってきた一行。夕食もそこそこに、早速ミカ、中道、愛子の三人はミカと愛子の使う部屋に集まる。勿論おしゃべりをする為だ。中道は「俺も交じっていいのか?」と改めて聞いたのだが、人数は多い方がいいというミカの独断で連れ込まれてしまった。
とはいえ、いざおしゃべり! となっても、やはり文字通りに住む世界の違う者どうし。鉄板の会話内容とかもわからないのでなかなか最初の一手が切り出せない。
そこで中道が提案したのが、ミカの世界の事を教えて欲しいというもの。これならばミカはいくらでも話せるだろうし、中道も…そして恐らくは愛子も興味があるであろう内容なので、おしゃべりも弾む筈…という考えだろう。
「そうそう、天使も悪魔も獣人も機械もいるけど、あくまで人間っていう大種族の中の分類だよ。―――特に人に近い姿をした子は皆女の子だね。ヘイロー…この輪っかね…を持ってるのも皆女の子。―――うん、ヘイローを持ってる子は普通の銃弾じゃ何十発撃たれても死にはしないよ。勿論個人で差はあるから、怪我する子ならいるかもだけど…。そんな感じだから、挨拶代わりに発砲なんて当たり前だね。―――そうだね。強い子は一人で戦車や戦闘ヘリを破壊したりもできる。勿論私もできるよ。―――戦車や戦闘ヘリを相手にする機会? うーん…まあ結構あるかな。普通にブラックマーケットに流れてる中古を不良グループが買ってるとか結構あるし…」
しかし、中道と愛子の常識を根底から覆すミカの世界の様々な事情に、二人は閉口するしかない。
大種族の中の分類…つまり、ミカの世界では天使も悪魔も自身を天使という種族の”人間”…悪魔という種族の”人間”と自認しているという事だろうか…? この世界では人間など基本的に見下されているのだが…。
女の子しかいない…? 力仕事…は、ミカを見る限り問題なさそうだが、恋愛とかそういうのはあまり興味がないのだろうか…? 子供とかも作れないのでは…?
挨拶代わりに発砲。その辺の不良グループが戦車や戦闘ヘリを繰り出してくる…に至っては、あまりにも治安が終わり過ぎているとしか言いようがない。と、同時に、戦闘ヘリはまだ機動力というメリットがあるが、単騎の歩兵に潰される戦車に何の存在意義が…?
などなど、聞けば聞くほど驚愕と疑問だらけになっていく摩訶不思議な世界だ。こんなバイオレンスな世界で首長をやっていたとなれば、ミカの信じられない強さにもある程度は合点がいくというもの。
「なあミカ。ミカが前に言っていた先生という人もやっぱり強いのか? 俺と同じように後ろで指揮を執るって言ってたが、ミカの世界の奴らは強者じゃないと言う事聞いてくれないだろ?」
そんな中で、ふと疑問に思ったらしい中道がミカに聞く。中道もアクマ使いだが、ある程度の強さがなければそもそも悪魔は会話に応じてくれないのだ。ならば、ミカの世界でも…と考えたのだろう。
「ううん、先生は…弱いね。それも凄く。銃弾一発で瀕死になった事もあるし、私…に限らず、他の子がちょっとその気になったらすぐにこう…いっちゃえると思うよ」
しかし、その中道の問いをミカは首を横に振って否定する。
「強く…ないのか?」
「うん、全然。でも、すっごく生徒思いなんだよ。銃弾の傷もまだ治ってないのにアリウスって学校の子達に付いて行って助けてあげてたし、その直後に私の事も助けてくれて…すっごく悪い事をしたのに…お姫様って…」
信じられない…と言った様子で聞き返す中道に、微笑を浮かべながら語り続けるミカ。頬が朱に染まっているのを見るに、明らかにその先生という人物に惚れ込んでいる様だ。
「~~~っ! な、なんか話してたら恥ずかしくなってきちゃった! ね、ねえ、ナカミチやアイコちゃんの事も聞かせてよ! 私二人の事ももっと知りたいな!」
が、そのうちに何やら感情が溢れて我慢できなくなってしまったのだろう。慌てた様子で中道と愛子に話を振ろうとするミカ。
「お、俺達の…? 流石にミカに比べたら全然インパクトがないと思うが…」
「そうね…。私も、自分の力に関する陰鬱な話題しかないわ。こういうの結構目を付けられるから…」
「いいの! それでもいいから聞かせて!」
色々とスケールの大きかったミカの話を前につい委縮してしまう中道と愛子だが、ミカは強引に話を進めるのだった。
そして翌日。休息の一日を挟んである程度の気力を取り戻したミカを筆頭に、一行はスティーヴンの下へと急ぐ。彼は旧警視庁ビルの現状を調べるという名目で単独行動をとっていたのだ。
「来たか…」
しかし、ミカ達を目の前にしたスティーヴンの表情は明らかに曇っている。何やら面倒ごとが起こった様だ。
「何かあったの…?」
「それなんだがね…。旧警視庁ビルは…既に何者かの手に落ちている事が判明したんだ」
訝し気に聞くミカに、難しい顔で答えるスティーヴン。
「何者かは…」
「不明だ。調べてみたが何も出てこない」
「具体的にどういう実害が?」
「まず、プログラムの組み換えでセキュリティはより万全になるだろうね。そして、これは私達だけの問題ではないのだが、旧警視庁ビルの放つ機械達が破壊活動を始めたらしい。まだ始めたばかりなので被害らしい被害は出ていないが、放置しておけば被害が拡大していくのは目に見えているね」
続く中道と愛子の質問にも静かに答えていくスティーヴン。その説明を聞く限りは、ミカの目的を抜きにしても今のうちに何とかしないと、どうにもヤバそうだ。
「うーん…。とりあえず、そのビルの近くまで行ってみない? その暴れてる機械も戦ってみないとどれくらい強いかわからないし」
と、ここで出てくるミカの提案。何とも脳筋なものだが、実際にミカが余裕なら何とかなるだろうし、ミカで無理ならほぼ無理…というのも事実なので、非戦闘員のスティーヴンを残し、三人で旧警視庁ビルへと向かう事となった。
そして、旧警視庁ビル前でとある人物たちと出会う。
「だから機械は苦手だといったのに…っ!」
「毒…機械は駄目…っ!」
「くそっ! この決定した奴、絶対に後でじわじわと毒でなぶり殺しにしてやるっ!!」
見覚えのある三人組が、数体の機械兵士を相手に苦戦していたのだ。
「あの人たちは…昨日ミカに喧嘩を売った人達だわ。何故こんな所に…?」
「困ってるみたい…助けてあげよう!」
相手を確認し首を傾げる愛子。一方、ミカはいうやいなや銃を構えて飛び出してしまい、あっというまに機械兵士たちを蹴散らしてしまった。
「―――なんだ。キヴォトスの機械兵士たちと比べても、全然弱いね」
よほど手ごたえがなかったのか、呆気にとられた様子のミカ。
「お、お前は…っ!」
「最悪…何故ここに…」
「ちっ! 最悪の奴に借りを作っちまった!」
一方、助けられた三人組は、驚愕の声と共に露骨に不機嫌を露にする。
「助けてあげたのに酷い言い草。三人とも何でここに?」
「誰も助けてくれなんて頼んでないわ」
「不快…反吐が出る…」
「この機械共を動かしてる奴が、ガイア教を離反した裏切り者だから始末しろって指示で来たんだよ!」
仕方のない人たち…とでも言いたげな生暖かい視線を送るミカに、明らかな不愉快の表情を見せる三人組だったが、そうしながらもここにいる理由は答えてくれた。
「ガイア教? 貴女達、ガイア教の人たちだったの?」
「へ? う、嘘でしょ? 貴女、泣く子も黙るガイア教のくノ一…鬼女郎を知らないの?」
「驚愕…物知らず…」
「けっ、偉大な天使様からしちゃ汚れ部隊なんか興味ねぇってか。ホント腹立つ天使様だぜ」
そして、続くミカの台詞にこの三人組からますます嫌われてしまったようだ。とはいえ、この世界に疎いミカが知らないのも無理はない。その証拠に、
「な、なあ愛子。鬼女郎ってそんなに有名なのか?」
「ガイア教所属の恐ろしい部隊だというのは聞いた事あるわね。ただ、部隊としては大破壊前からあったそうだけど、台頭してきたのは大破壊後しばらくたってからだから、中道が知らないのも無理はないわ」
と、大破壊後の生活はまだ浅い中道も愛子に聞いていた。尤も、この会話は小声だったので三人組には届かなかったが。
「何でもいいけど、私達もここに用があるから邪魔だけはしないでね」
「こっちの台詞だわ。はあ、こんな憂鬱な仕事初めてかも…」
「不運…たまらない…」
「ムカつく奴のいる場所で、苦手な機械の相手か…。まーじでやってらんねぇぜ…はーぁ…」
ぎゃいぎゃいと言い合いながらビルの中に入っていくミカと三人組。その後を、何とも言えない表情で追う中道と愛子だった。