成長中の中道と愛子
東京中を回ると言う中道。その理由は、あのベリアルの言葉にあった。
ロウとカオスの軍勢が再び動き出した…。というものだ。確かにそんな事を言っていた様な気がする…と、ミカも当時を思い出して頷く。
そもそも、大破壊が起こったのもこの二つが衝突した末の結果らしい。そして、大破壊前も中道と愛子…特に愛子は精力的に動いてはいたそうだが、間に合わなかったそうだ。
そして今、またもや動きを見せ始めた二つの勢力。このまま放置しておけば次なる大破壊を起こされる可能性が高い。そして、それだけは阻止したい。
その為にも、まずは東京中を回って現状を確認したい。そして、ロウの依り代たるメシア教、同じくカオスの依り代たるガイア教の本拠にも向かい牽制したい。というのが、中道の決断だそうだ。
当然だが、牽制には武力は必須だ。そこにミカがいてくれるなら、これほど心強い事もないだろう。
「なるほどねー。いいよ、一緒に行ってあげる!」
そして、この中道の懇願をミカは快諾した。十数日も何もしないでいるのも退屈だし、なによりこんな酷い世界になってしまった原因の大破壊がまた起こるかも知れない…などと聞かされたのなら、ミカとしても黙って見ている事などできない。
そうして、ミカの許可を得られたことに安堵したらしい中道から出た次の目的地がシナガワという所だ。どうやらここに大聖堂というメシア教会の本拠地があるらしい。場所もギンザから比較的近いので、まずはここを訪れてみようという事になったのだ。
「このぉっ!!」
掛け声と共に、8匹ほどの悪魔の大群に向かってマシンガンを乱射する中道。使っている弾が特殊なのもあり、それなりにはダメージが通っている様だが、向かってくる勢いを止めるには至らない。
しかし、悪魔の大群の攻撃はそのこと如くが跳ね返され、悪魔自身にダメージを与える。みると、中道達を薄い光の幕が覆っており、その光と同じ色の光を、中道の後ろに控えている女性型の悪魔が放っている。
さらに驚きなのは、その女性型の悪魔の隣に見覚えのある大男がいたのだ。そう、かつて敵対した悪魔…タケミナカタだ!
あの中道達を苦しめた大ぶりの一撃を悪魔の大群に放つタケミナカタ。その一撃で、大半の悪魔は消し飛んでしまった。相変わらずの凄まじい威力だ。
「残ったのは私に任せて!」
そういうやいなや、右手を額の前に寄せ集中する愛子。そして、その右手に顕現した光の札を残った悪魔全員に放つ。着弾と同時に札は悪魔を覆う程の強烈な光を放ち、その光が消えると共に悪魔の姿も消えてしまったのだ。
「よし…よし…っ! ミカ抜きでも、ある程度は戦えるようになってきたぞ…!」
「ふふっ、そうね。いつまでもあの子に頼りっぱなしじゃいけないからね」
手ごたえを感じたらしい中道が小さくだが快哉を上げている。それに、愛子も嬉しそうに同意する。
「おーっ…。二人とも強くなろうと必死なんだね…」
そんな二人を感動の面持ちで見ているミカ。実際、タケミナカタの一撃で死にかけていたあの頃と比べると格段に成長しているのは明白だ。
次に、ミカの視線は中道の召喚した悪魔達に向く。タケミナカタは知っているとして、女性は女神 サラスヴァティ そして、もう一体ウシ型の悪魔がいて 神獣 ナンディ というそうだ。
「鬼神…女神…神獣…。ん? みんな神様なの? でも…悪魔? ………やっぱり、変なの」
その三体を見比べて首をひねるミカ。まあ、これについてはもうこの世界のルールなのだと受け入れるしかないだろう。
「そ、そんな…。ラケー達まで倒されちまうんなんて…!」
と、ここで震える声が聞こえてくる。全員が視線を声の方に向けると。一人の男が絶望の表情で立っている。いかにもなチンピラの風情だが、腕には中道と同じく機械を装備している。
そう、そもそもの戦闘の始まりは、このチンピラ風アクマ使いが喧嘩を吹っ掛けてきたところからなのだ。シナガワへの道を通りたければ10000マッカ払えという無茶ぶり。当然断ったのだが、ならばと先述の悪魔達をけしかけてきたのだ。
だが、この戦いにミカは参加していない。勿論ミカも対抗しようとしたのだが、ここは任せて欲しいと中道達の方から願い出てきたので、駄目だとミカが判断したら横槍を入れるという条件で、中道達に任せたのだ。どうやら、中道達も今の自分の力量を試してみたかった様子。
「―――今からアンタの事はアニキと呼ばせて下せえ! アニキ、ここ通りたいんですか!? どうぞどうぞ、アニキならご自由にお通り下せえ!!」
「あ、ああ…。なら、通してもらおうか…」
「なんか、少し前にもこんな調子のいい人を見たなぁ…」
戦闘前は高圧的だったにもかかわらず、劣勢になるやいなや揉み手で下手に出るチンピラ風アクマ使いに呆気にとられた様子の中道。ミカも同じく呆れた様子だ。
「と、ところで…。そちらの天使様もお強いので?」
そうして、通り過ぎようとした中道達に掛かるチンピラ風アクマ使い疑問。先の三体はすぐに戻したのに、ミカだけはそのままという所に疑問を感じたのだろう。
「ええ、彼女は強いわよ。私達が百人くらいで束になっても傷一つ付けられないくらいにはね。貴方も、死にたくないのなら彼女にだけは口ごたえしない方が賢明よ」
「へ、へえっ! 肝に銘じておきますっ!」
答えたのは愛子だ。浮かべる不敵な笑みは非常に不気味であり、チンピラ風アクマ使いはすっかり委縮してしまった。
「あ、アイコちゃん…? あ、あんまり強調するのもどうかなぁと…」
「いいの。ああいう輩は強めに脅しとかないと、直ぐに調子に乗るわよ。そもそも私は、少なくとも強さについては嘘を吐いたつもりは一切ないけど」
その返答の内容に思わずといった様子で口を開くミカだが、愛子の断言に気圧され、二の句を継ぐ事が出来なかった。
そうして辿り着いたシナガワの大聖堂。何やらイベントがあるらしく、大聖堂前は人だかりが出来ていた。
「ねえねえ、何かあるの?」
「ああ、遂にメシア様が降臨成されるとの事で…」
近くにいた人にミカが尋ねてみる。しかし、返答の途中でその人物は固まってしまった。
「へ…? ど、どうし」
「こ、これは天使様っ! ご無礼お許しくださいっ!」
改まって聞こうとしたミカに、その人物は物凄い勢いで謝りだすではないか! その勢いの凄さたるや、ミカですら「わっ!?」と驚いて後ずさるほどだ。
「ね、ねえ!? ちょっと! 頭を上げてよ! 許す、許すからさ!!」
慌てて声を上げるミカだったが、その人物はミカを前に拝み倒すばかりでなかなか面を上げてくれない。のみならず、遂には周囲の人たちまで集まりだしたのだ!
「天使様…?」「天使様だ…!」「おお、なんと神々しい御姿…っ!」「しかし、それに反しお召し物はだいぶ傷んでいる様子…」「お持ちの銃を見るに、我らを守るために日夜戦い続けておられるのだ…」「感謝いたします天使様…」
「ちょっと! 止めて、止めてよ!! 何なのこれ!? 気持ち悪い!!」
そして、その全ての人物が感謝の言葉を捧げながらミカに頭を垂れる。その不気味で異常な光景を前に、ミカは思わず悲鳴を上げてしまった。
「ミカ! こっちだ!」
その様子を見かねた中道と愛子が、人気のない所までミカを引っ張る。
「は~…っ。助かった…。ありがとナカミチ、アイコちゃん」
「いや、俺達こそ迂闊だった。そうだ、メシア教の聖地なんだから、住人は天使をあれくらい敬っていてもおかしくはないんだ」
「
一息ついて礼を言うミカに、中道も愛子も苦虫を噛み潰したような表情で返す。とはいえ、このままではおちおち探索もできない。
「ミカ、羽と天使の輪っかは隠せないのか?」
「羽は服の下にしまえば何とかなるけど、ヘイローは…どうやって隠せばいいんだろ…? 一応、寝てる間は消えてるんだけど…」
ナカミチの問いに、しかしミカも困った様子で返事をする。羽はともかく、ヘイローを隠した事など無いのでどうすればいいのかわからないのだ。
「困ったわね………ん? ちょ、ちょっと、これ…っ!?」
言葉通りに困った様子で顔を上げる愛子だが、その時に何かを見つけたようで、慌てて中道とミカに視線を上げるように手招きする。
それに倣い、上を見る中道とミカ。そして表情が固まってしまう。
今、三人は石像の影に隠れているのだが、その新しくできたばかりらしい汚れ一つない石像の顔を見て驚愕してしまったのだ。が、それも無理はない。その彫られた顔は、あの法二とあまりにも瓜二つだったのだから。