「それでは、こちらでしばしお待ちください。式が終わり次第、呼んできますゆえ…」
何やら厳かな雰囲気の部屋。その室内にある大きな椅子に座らされているミカ、中道、愛子の三人。その三人に声を掛けた後、法衣の男性は部屋を出て行ってしまった。
「なんか、あれよあれよと言ううちに、こんなところに来ちゃったね…」
乾いた笑いを浮かべながらそう漏らすミカ。そう、今いる場所は大聖堂の内部…明らかに関係者以外は立ち入り禁止っぽい区画なのだ。
例の法二の顔が彫られた石像を確認した後、それでも動きようがなかった三人だったのだが、その動作が不審者と思われたらしく、テンプルナイトを名乗る男達に尋問されてしまったのだ。
しかし、その過程で注目されたのはやはりミカだ。まず天使だとわかりハッキリとテンプルナイト達の態度が変わった。更に名前…聖園ミカという名前を出すや、テンプルナイト達は慌てて大聖堂の内部に報告に行ってしまったのだ。そして、その後に出てきたのが先の法衣の男性で、この厳かな雰囲気の部屋に連れてこられた…という流れだ。
そうして、どうにもな居心地の悪さのせいで会話らしい会話もなくある程度時間が経った後、不意にドアがノックされる。
「あ、どうぞ!」
沈黙に耐えかねていたらしいミカが、救いが来た! とばかりにそのノックに返事をする。すると、ゆっくりとドアが開き三人の人物が入ってきた。
一人は先ほどの法衣の男性、もう一人は女性のテンプルナイト。そして、その二人を従え中央に立っていたのが…。
「お久しぶり…という程の間は離れていませんでしたが、お元気そうで何よりです。中道君、愛子さん、そしてミカ様」
大仰な純白の法衣に身を包み、これまた頭部を全て隠すほどの大きな純白の帽子をかぶった法二が、清らかな笑みを浮かべて話しかけてくる。全身が白に包まれているせいか、以前とは比べ物にならない程に高潔で清廉潔白な雰囲気を醸し出している。中道や愛子が近寄り難そうに顔をしかめている程に。
「ホウジ!? うわ、だいぶ雰囲気変わったね! 怪我は大丈夫なの!? もう歩いても平気なの!?」
しかし、そんな天井知らずの高潔さを前にしても、ミカは一切臆さずに返事をする。元とはいえ、首長の肩書は伊達ではないのだ。
「ええ、怪我はもう完治しています。なので、落ち着いて下さいミカ様」
「―――この方が聖園ミカ様…。今の法二様の御姿は、天使の方たちすら息を呑むほどの高潔さだというのに、それに全く臆さないなんて…」
法二の怪我を心配して駆け寄るミカに、落ち着くよう声を掛ける法二。その後ろで、女性のテンプルナイトが驚愕の視線をミカに送っていた。
「それでは改めて…。ミカ様、中道君、愛子さん。ようこそ品川大聖堂へ。僕達は貴方達を歓迎します」
「法二様の護衛を務めるテンプルナイト、
「法二殿の付き人を務める者だ。以後宜しく」
両手を掲げ歓迎の言葉を口にする法二。その後ろに控えていた二人の人物も自己紹介を口にするが、法衣の男の方はどうも名乗るつもりはない様だ。
「さて、早速ですがミカ様に二つの献上品と一つのお願いがあります。まずはこれを…」
名乗りがない事を指摘しようとしたミカだが、間髪入れずに法二が話と同時に何かをミカに差し出してきたので、切り出すタイミングを逃してしまう。そして、法二が差しだしたのは…一振りの剣だ。
「これは…」
「
説明と共に剣…草薙の剣をミカに手渡す法二。受け取ったミカはその刀身をじっと見つめる。パッと見た感じはあめのむらくもと同様に古びており、本当にこの二振りの剣を合体させれば伝説の剣とやらは出てくるのか…? と疑ってしまうくらいには実用には向いてなさそうだ。
「続いて、もう一つの献上品なのですが…。まずはこちらを」
そう言って、三着の上半身用の白い下着を取り出す法二。メシア教の紋章が刻まれている以外はいたって普通の下着だ。
「現在、メシア教では”テトラジャマー”と言う防具を開発中です。これは強力な悪魔の一部が繰り出す人間を呪い即死させる術に対抗するための防具。そう、あのネビロスの様な悪魔が対象です。ですが、現在は開発が難航しております。そこで、ミカ様の御力をお借りしたいのです」
解説をしつつ、下着のメシア教の紋章を指差す法二。
「この紋章には特別な細工が施されています。聖なる者が触れた時、その者の耐性を複製し刻まれている衣服に与えるという物。ミカ様、どうか貴女様の御力を、この衣服にお授け下さい」
「あ、う、うん…。なんか良く分かんないけど、触ればいいんだね…?」
法二の指示通りに、メシア教の紋章に指を触れるミカ。その途端、メシア教の紋章が激しく輝きだした!
「うわっ!?」
と驚いて指を離してしまったミカだが、光の勢いは衰えない…どころか、ますます光り輝きだし、その光が衣服を覆い始める。程なくして服の全てを光が覆い、それと同時に光は一気に収まる。まだかすかに輝いてはいるが、衣服を覆おうとしていた時ほどの光は無い。
その衣服を法衣の男性が手に取ってまじまじと見つめる。
「どうですか?」
「―――素晴らしい、何という光の力。これならば小賢しい呪殺の術など全てはじき返してくれるだろう。だが、呪殺以外の耐性は残念ながら複製しきれておらん。そうだな…恐らくはミカ様の3分の1程度の耐久力にとどまっておる。この細工が複製しきれんとは、改めてミカ様の偉大なる御力に感服するばかりだ…」
法二の問いに、法衣の男性は衣服とミカを見比べながらしみじみと口を開く。そして、おもむろに美夜の方へ振り向いた。
「では美夜。これを持ってみなさい」
「はい…」
そう言って、美夜に衣服を手渡す法衣の男性。そして、衣服を持つ美夜を見て、法衣の男性は満足げに頷いた。
「―――うむ、光は消えぬな。よろしい。では、付いてきなさい。メシアの護衛たるお前が、まずこの神聖な防具を最初に使いこなすのです。いいですね?」
そう言って、法衣の男性は美夜を連れて部屋を退出してしまう。それについて行く美夜だったが、一瞬だけ法二に名残惜しそうな視線を送っていた。
「何だアイツ…名乗りもせずに不愛想な奴だな」
法衣の男性が部屋を去った後、中道が不機嫌そうに口を開く。
「ごめんよ中道君。代わりに僕が紹介するよ。人の姿をしているけど、あの方の名はハニエル。まぎれもなく天使の方なんだ」
そんな中道に対して、法二は法衣の男の正体を口にしてしまったのだ。
「へ? い、いいの? そんな事教えて…。名乗らなかったって事は正体を知られたくなかったって事じゃないの?」
「確かに、ハニエル様からは口止めされていましたが、やっぱりみんな…特にミカ様には隠し事はしたくなかったんです。あ、でも、気づいてない振りはして下さいね。僕が怒られてしまいますから」
すんなりとハニエルの事を口にする法二に、ミカが困惑した様子でたずねるが、それに苦笑いをしながら答える法二。先ほどまでは別人と言っていい程に高潔な雰囲気を放っていたが、今の苦笑いをしている法二は、ミカの記憶の中にある法二と全く同じだ。
「ではミカ様。残り二着の複製もお願いします。そして、この二つは中道君と愛子さんへ。これがあればもうネビロスのような相手も怖くは無いでしょう。更に、ミカ様の3分の1の耐久力を得る事も出来ます。僕達人間からすれば、ミカ様の3分の1でも十分な耐久力ですし、更にこれは下着なので、この上から更なる防具を着る事も出来ます。これで、防御面はかなりマシになると思いますよ」
「それは…非常にありがたいわね。でも、なぜわざわざミカを選んだのかしら? 聖なる者なら、それこそあのハニエルを複製すればそれで事足りるような気もするけど…」
法二の懇願に、ミカも「おっけー!」と快諾しながら残った二着の下着の紋章に力を注いでいく。そんな中で発された愛子の疑問。
「まさに難航していたのはそこなんです。勿論天使の方々の力の複製もできるのですが、その衣服を人間が持つと、光が消えてしまうのです。まるで、お前には着る資格がない…とばかりに。そこで、思いついたのがミカ様です。マンセマット様の仰っていた通りに、霊体による顕現ではなく人間の肉体を持って降臨成されたミカ様の御力なら、人間も受け入れてくれるのではないかと。まさにその通りでした。ミカ様の器の広さには本当に感服するばかりですね」
その疑問に答えていく法二だが、特に後半の方はミカへの多大なる尊敬が滲み出ている。それ程までに法二にとってのミカは大きな存在となっているのだろう。
「はい、終わったよ! ナカミチ、アイコちゃん、これ!」
「では、早速その下着の装備をして頂き、それが終われば次に僕の願いを」
「め、メシア様! 大変です!!」
ミカが力を授けた下着を中道と愛子に渡し、法二が次の要件に移ろうとしたその時! 不意にドアが乱雑に開けられ、一人の信徒と思しき者が慌てて入ってきたのだ!
「どうしました!?」
「あ、アクマ使いを名乗る男が聖堂に押し入り、子供を人質に聖園ミカという天使を出せと要求しています!」