信徒からの急報を受け、急いで現場に駆け付けるミカ、中道、愛子、そして法二の四人。そこには、大勢の人だかりが出来ており、更にその人だかりの前に一人の男が脇に女の子を抱えて立っていた。少し小太りの中年の男だが、腕には確かに中道とほぼ同じ機械を付けている。
「来ましたか…。奴が聖園ミカ…ですね。奴を倒せば、私の名声も一気に上がる…」
急行した四人の内、早速ミカに目線を向ける男。そして、ミカ達が口を開くよりも早く脇に抱えている女の子の首を掴み、高く掲げる。
「動かないでくださいね。動けば、この子の首は変な方向に曲がってしまいますよ」
「た、助けて…。メシア様…天使様…」
下卑た笑みを浮かべながら悪魔を召喚し始める男。しかし、人質を取られている以上ミカはその召喚に迂闊に反応できない。
「何者です? 何故ミカ様を狙うのです?」
「ふっふっふ…。名乗るのはその天使様を倒してからにしましょう。そう、名実ともに最強のアクマ使いとなったその時に、満を持して私の名は明かされるのです! さあ、お行きなさい悪魔達よ!」
法二の険しい表情からの質問に、しかし男は何やら陶酔した様子で語った後、召喚した数多の悪魔達をミカにけしかけてきたのだ!
流石にこの数の悪魔からの攻撃は…! と判断したらしい中道と愛子が割って入ろうとしたが、それをミカは右手で制する。
そして、素手で殴りかかって来る悪魔。剣で切り掛かって来る悪魔、牙を突き立て爪で引き裂いてくる獣型の悪魔…その全ての攻撃をミカは正面から受け止める。まだ女の子の首に男の手がかかっている以上、動く訳にはいかないのだ。
「天使様っ!!」
「いやあああっ!!」
「おのれ…卑怯な手を!!」
その凄惨な現場を前に、悲鳴や怒号が響き渡る。が、たっぷり数分間にわたるリンチの果てに、明らかに疲労を見せて攻撃を止める悪魔達を尻目に、一切ダメージを受けた様子の無いミカが変わらず立っていた。
「こんな程度で私を倒す…か。一体いつまでかかる事やら…」
腕に噛みついていた魔獣を、噛まれている腕を思い切り振りぬいて叩き落した後に、呆れた様子で呟くミカ。その圧倒的な頑丈さには、周囲の人々も呆気にとられるのみだ。見ると、その頑丈さをこれまで間近に見てきたはずの中道と愛子さえも、何やら微妙な笑みを浮かべている。改めてミカの頑丈さを実感しているのだろう。
「ま、まさか…。この悪魔の数の猛攻をも物ともしないとは…」
一方、アクマ使いの男の方も、ミカの現実離れした頑丈さに驚愕を隠せない模様。
「―――
そんな中、ミカの隣でなにやら目を閉じて集中していた法二がボソッと口を開く。と、同時に右手を思い切り振りぬく。
その直後、なんとアクマ使いの男の体が突然ものすごい勢いで右に吹き飛び、柱に思い切り叩きつけられてしまったのだ!
「ぐげっ!?」
と、汚い悲鳴を上げるアクマ使いの男。一方、女の子なのだが、何と空中で制止していたのだ。そう、アクマ使いの男に首をもって掲げられた位置のまま、宙に浮かんでいるのだ。
法二が右の人差し指を宙に浮かぶ女の子に向け、手を表返して人差し指をクイッと自分に向ける。すると、その女の子がゆっくりと動き出し、法二の腕の中に納まった。
「怪我はない? もう大丈夫だよ」
「め、メシア様…っ! う、うわああああん!! 怖かったよぉぉ!!」
優しく語り掛ける法二に、女の子は大泣きで法二に抱きつく。それを頭を撫でながら宥める法二。
「い、今のは法二が…?」
「はい、メシアとして新たに授かった念動の力です。さあ、テンプルナイトのみなさん! 早急に悪魔達を滅し、あの男を捕らえるのです!!」
ミカの問いに頷いた後、集まってきていたテンプルナイト達に指示を出す法二。それを受け、テンプルナイト達は手早くアクマ使いの召喚した悪魔達を仕留めていく。
だが、ここでまたもや一悶着起きる。テンプルナイト達が悪魔達を殲滅したとほぼ同時に、アクマ使いの男が懐から何かを取り出したのだ!
「ぐ…ふふっ。このまま黙って捕まるくらいなら、周りの奴らも道連れにして差し上げましょう!」
「あれは…手榴弾!?」
アクマ使いの男が取り出したものの正体にいち早く気づいたミカが、即座に間合いを詰めアクマ使いの放った手榴弾をキャッチ。周囲に破片が飛び散らないように、両手と体全体で手榴弾を覆い握りつぶしてしまった。
「ミカ様! 大丈夫ですか!?」
盛大な破裂音を響かせる手榴弾を全身で防護したミカに、法二が慌てて駆け寄る。が、
「うん、大丈夫。ちょっと痛かったけど、どうって事ないよ」
ミカはにこにこと笑いながら返事をする。どうやら、本当に大丈夫な様だ。
「ははっ…。本当に、何という強いお方だ。流石ですミカ様」
そんなミカに、尊敬の眼差しを送る法二。
「そ、そんなばかな…。あの特製手榴弾をゼロ距離で喰らって、傷一つ負わないなんて…」
「傷害、暴行、殺人未遂、凶器所持、及び天使反逆罪により貴様を連行する! さっさと立て!!」
一方、恐らくは切り札であったのだろう手榴弾ですら、碌なダメージを与えられなかった事に愕然とするアクマ使いの男。そのままテンプルナイトの集団に連れていかれてしまった。
「さて、では改めてミカ様…そして中道君と愛子さんにお願いがあります」
アクマ使いの襲撃のゴタゴタを一通り片づけた後、四人は例の厳かな部屋に戻り会話を再開していた。
「カオスの巨頭が一体、エキドナが顕現したという情報が入りました。皆さんにはこのエキドナを討伐して頂きたいのです」
法二の懇願に、しかしミカ、中道、愛子の三人は渋い顔だ。特に中道と愛子は露骨に嫌な顔をしている。
「皆さん…特に中道君と愛子さんは経験上天使様達の手伝いなどはしたくないかもしれません。ですが、エキドナを放置するという事は、カオスの軍勢をのさばらせるという事。弱者は切り捨てる奴らをのさばらせるという事は、先の人質の少女の様な何の罪もない人達が切り捨てられていくという事。これだけは許してはいけないのです」
そんな三人を必死に説得しようとする法二。その甲斐あったのか、少し間を置いてから中道が顔を上げる。
「分かった、その依頼受け負おう」
「中道君!」
中道の返事に快哉を上げる法二。一方、ミカと愛子は良いのか? といった感じの視線を中道に向けている
「天使達の思い通りに動くのは確かに癪だが、カオスの奴らを放っておけないというのも事実だ。それに、巨頭たるそのエキドナとやらを討伐したとなれば、牽制としての効果も高いだろう」
その二人の疑問に、受けようと思った理由を語る中道。そして、今度は中道がミカと愛子に同意を求める視線を送る。
「うん、ナカミチがそう考えてるのならそれでいいよ」
「ええ、それで問題ないわ。私は貴方について行き、貴方を支えるだけ」
その視線に、ミカも愛子もしっかりと頷く。
「良かった。これで三人とも同意していただけましたね。ですが、今日はもう遅いのでこの大聖堂で一晩泊っていってください。本格的に動くのは明日からにしましょう」
そして、三人の同意を得られた事に法二も気をよくした様だ。明るい笑顔で三人に一夜を大聖堂で過ごす事を進めのだった。
「聖園ミカ様」
法二から客室の場所を教えられ、そこに移動している最中の三人に不意に声がかかる。あの法衣の男…ハニエルだ。
「先ほどはご苦労様でした。聖堂の民を救っていただき、感謝いたします」
恭しく頭を下げるハニエルに、しかしミカは…中道や愛子も訝し気な視線を向けるのみだ。まあ、名乗りもしない輩を訝しむなという方が無理な話だが。
「時に一つお尋ねしますが…私の事はメシアから聞かされておりますか?」
しかし、ここでハニエルからの不意打ち気味の質問。反応してはいけない…と心では分かっていても、僅かな動揺が三人の顔に現れてしまった。
「…っ。知らないよ、誰なの貴方?」
「そうですか。それでは失礼します」
即座に動揺の色を隠し平静を装うミカだったが、ハニエルは確認は終わった…とばかりに廊下の向こうに消えてしまった。
「どうやら言ってしまった様だ」
「やはり…洗脳の効きが悪いな…。よほど復活前にあの偽物に心を奪われていたと見える」
「どうする? 美夜に戻すか?」
「いや、あの信心深さ、敬虔さを捨てるのは惜しい。それに、美夜の奴には別の役目もある」
「では、今のまま続行という事だな?」
「うむ…。あと、あの偽物…聖園ミカももう用済みだ。メシア教の布教の為とはいえ、これ以上ミカエル様の力を振るわれるのは流石に邪魔だ。なにより、あの偽物がいるとメシアの調子が悪い」
「そうだな…。今日の事は、聖園ミカに変わるメシアが現れた…と、しておこうか」
「あのアクマ使いは?」
「既に始末した。ふん、最強か。下賤な愚物の考える事など分からんな。まあ、利用しやすくて結構な事だが」
「では、私はこの映像をもって東京タワーに戻る。聖園ミカもそこで…」
「うむ、私はメシアの調整に専念する。あの偽物の始末は頼んだぞ」
エキドナって真Ⅰだとカオス側にいるけど、こいつ種族が邪神だからむしろロウ側の悪魔なんだよなぁ。やっぱ容量とか開発の都合でこうせざるをえなかったんだろうか…。せめて後に出てくる地母神みたいな種族があれば…。