翌日、シナガワを発った中道達一行。が、残念ながらその雰囲気は決して良いものとは言えない。何故なら、ミカが見るからに落ち込んでしまっているからだ。
原因はシナガワの人達の視線。到着直後から変に敬われて
一つは尊敬、心酔の方。やはり天使様は人間など歯牙にもかけぬ存在。にもかかわらず、慈悲の心をもって救って頂ける尊き方々。己の体が傷つくのも
一つはただただ純粋な恐怖。やはり天使は人間如きが考えた武器では傷一つ付けられない恐ろしい存在。その気になれば、人間如き皆殺しにする事も容易い。機嫌を損なう訳にはいかない、絶対に逆らってはいけない…。
どうやら、例のアクマ使いとの戦闘を経て、これらの印象を強烈に持たれてしまった様なのだ。
方向性は違えど、人として見られていないのは同じ。ミカも事情があって見下されたり侮蔑の目を向けられたりした事はあったが、それでもまだ人を見る目ではあった。当時はこれでも辛かったのだが、まさかこれらの視線を上回るきつい視線があるとは流石に想像していなかったのだ。
とはいえ、救いもあった。ミカの右手に握られている四葉のクローバーがそうだ。
これはあのアクマ使いに人質にされていた少女から法二共々貰った物。その時に向けられた、この人達の様な強く優しい人になりたい! というまっすぐな憧れの視線は、ミカが可愛がっている後輩、コハルを思い起こさせる物だった。これだけでも、心がだいぶ軽くなったのだ。
「―――うん、そうだね。いつまでも落ち込んでいられない」
その少女とコハル…二人の笑顔を思い出し、顔を上げて気合を入れなおすミカ。まずは頼まれた目的を果たさなければ…。
最終目的地はエキドナのいる
更に、法二からその道中で出来れば東京タワーという所に顔を出してほしいとお願いされたのだ。ここで同胞達が東京中にメシア教の情報を流している。天使たるミカが顔を出せば、士気も上がるだろう…と。
またあの嫌な視線に晒されるのは明白だが、法二の頼みとあっては無下にもできない。場所もあの旧警視庁ビルの近くという事もあったので、まずはそこへと向かうのだった。
現在地はギンザにある邪教の館。ターミナルでギンザに戻ってきたのは良いのだが、やはりあの視線は辛すぎるとなかなか踏ん切りのつかないミカに、ならば先にこの剣を合体させてみないかと中道が提案してきたのだ。
”あめのむらくも”と”草薙の剣”。この二つからできる最強の剣と言うのは確かにミカも興味がある。という事で、まずは邪教の館に向かったのだ。
「なんと…! かの伝説の剣の復活を、我が手で行う事が出来るとは…!」
という様子で、意気揚々と合体準備に取り組んでくれたギンザの邪教の館の主。そして、遂にその伝説の剣が復活したのだ!
「おー…。今までと違ってかなり実用的っぽそうな剣だね…」
その剣を手に取って、品定めするミカ。鈍く輝く白刃は切れ味もよさそうで、合体前の二つの剣の骨董品感を一切感じず、持ち手の無骨さも含めてかなり実戦的な剣に生まれ変わったと言えるだろう。
「む…? これがかの伝説の剣、”ひのかぐつち”だというのか…?」
しかし、感嘆の声を漏らしているミカとは対照的に邪教の館の反応はイマイチ鈍い。
「違うのか?」
「―――いや、見た目は確かに文献にあった”ひのかぐつち”まんまだ。しかし、この”ひのかぐつち”は聖なる炎に覆われていたらしいのだ。聖なる炎の剣…それが”ひのかぐつち”だ」
ミカと同じく感嘆していた中道が、首をひねる邪教の館の主に問う。対して、邪教の館の主はその姿勢を崩さぬままに、自分の知識の中の”ひのかぐつち”と目の前の”ひのかぐつち”の差を語った。
「聖なる炎…か。つまり、これはまだ真の”ひのかぐつち”ではないという訳ね」
「うむ…そうなるな。時に天使よ、これをそなたに授けよう」
愛子の確認に一つ頷いた後、邪教の館の主はミカに何かを差し出した。
「これは…宝石? えっと、ダイアモンド…かな?」
「そうだ。そして、ガーネットとルビーを手に入れラグの店という所を訪れるのだ。今言った二つの宝石とダイアモンドを差し出せば、サラマンダーという精霊と交換してくれるはず。この精霊は炎の化身と呼ばれている。もしかしたら、この化身が”ひのかぐつち”の聖なる炎を呼び覚ましてくれるやもしれん」
「精霊…か。そういう種族があるというのは聞いた事あるが、実際に見た事は無いな…」
邪教の館の主の説明に、中道も何やら唸っている。それ程希少な種族なのだろう。
「で、でもいいの? 宝石なんてこの世界じゃ貴重品なんじゃ…」
「儂が持っていても宝の持ち腐れじゃ。それに、この剣合体と言うのは何やら新しい風を感じる。当初こそ裏で持て囃された悪魔合体も、流石にマンネリ化してきた感があってのう。何か違う試みを試してみたかったのじゃ。新宿ではなにやら人と悪魔を合体させた主がいたらしいが、流石にそれは非人道的すぎるしのう…」
明らかな貴重品の譲渡に困惑するミカに、しかし邪教の館の主は頷きながら近況を語る。どうやら彼らは彼らで色々悩みがある様だ。
「―――そういえば、リキヤって今頃何してるのかな…?」
「まあ、アクマの力を手に入れたんだから、そう簡単にくたばったりはしないだろう」
「そうね…。大破壊前には力も貸してもらったし、一度くらいは顔を合わせておきたいわ…」
恐らくは力也の事であろう邪教の館の主の言葉に、三人はかつて別れた戦友の事に思いを馳せるのだった。
邪教の館での一件の後、覚悟を決めて東京タワーに乗り込む三人。例の二極化の視線を恐れていたミカだが、出迎えたのはそれらとはまた違う非難と敵意の視線。
「な、なんだろ…? なんかホウジの話と違ってあんまり歓迎されてない感じ…?」
その露骨な視線を前に警戒するミカ、中道、愛子の三人だったが、ミカは警戒の言葉とは裏腹に何やらホッと安堵したような雰囲気も醸し出している。今の敵意と非難の視線もかなり厳しいのだが、これがましと思う程にあの二極化した視線は辛い物があったのだろう。
そうして、負の視線を潜り抜けエレベーターで最上階に辿り着いた一行。そこにはたくさんのメシア教信者と共に一人の法衣を着た女性が待ち構えていた。
「メシア教放送局にようこそおいで下さいましたミカ様。我らは天使である貴女を歓迎致します」
何やら恭しい様子で語り掛けてくる法衣の女性。しかし、周囲の信者や何よりこの法衣の女性自身から放たれる敵意に、歓迎の意思など微塵も感じられない。
「時にお伺いいたします。貴女は主に忠誠を誓いますか?」
間髪入れずに問いを投げ掛けてくる法衣の女性。何やら目付きも厳しい。
「あるじ…? もしかして神とかいう奴の事? 誓う訳ないじゃん! 訳の分からない基準でこの世界を無茶苦茶にしてさあ! ハッキリ言って、銃弾の一発でも撃ち込んであげたいところだよ!」
しかし、その法衣の女性の厳しい目つきにも、周囲の信徒の敵意の視線にも一切怯まずに自身の心情を盛大に吐露するミカ。
「な、なんと…!?」「ふ、不敬な…!?」「天使様…何故…!?」
途端に回りから飛ぶ、驚愕、怒り、失望の言葉。
「皆さま、この通りです。東京中を回り救いの手を差し伸べていた天使様は、その実天使などではなかった。神々しい御姿に聖なる力をもって人心を惑わす悪魔…それがこの女の実情なのです!!」
そんな周囲の勢いに乗って、ミカに非難の言葉を投げかける法衣の女性。と、同時に、法衣の女性の体が光に包まれる。そして、その光の中から一体の天使が現れたのだ!
「天使ではなかった以上、我らが貴様を歓迎する事もない! ミカエル様の御力を振るい人心を惑わす悪魔め! この、天使カズフェルがその行いに罰を与える!!」
なにやら将門公に無礼を働いた輩のせいで、東京のあちこちで被害が起きている様子。アトラス好きゲーマーとしては将門公に無礼を働くなどあまりにも恐れ多い…と思ったのですが、この作品もニュートラルルートで行く予定なので、将門公に出演して頂かざるを得ないんですよね…。ど、どうしよう…?