怒声と共に無数の羽をミカ、中道、愛子の三人に向かって放ってくるカズフェル。これを三人は飛びのいてかわすが、間髪入れずにミカの体に何かが当たる。
見ると、信徒の一人がミカに向かって銃口から硝煙のあがっている銃を構えていたのだ。周囲を見回すと、他の信徒も銃や剣といった凶器を構えてミカを睨んでいる。
「貴様は既に天から堕ちた身! 聖なる力と尊き美貌で人心を惑わす魔女なのだ! ゆけ、信徒達よ! あの魔女に正義の鉄槌を喰らわせてやるのだ!」
カズフェルの号令と共に、銃を持つ信徒達が一斉砲火を浴びせてくる。とはいえ、当然ながらこの程度ではミカに傷一つ付けられない。そして、
「す、凄いな…。これがミカの防御力か…これは確かに戦闘に絶対の自信を持つのも頷ける…」
「銃弾がちょっと痛い程度にしか感じないなんて…そして、これでも3分の1の性能なのよね…」
ミカの後ろで何発か流れ弾を貰った中道と愛子もさしてダメージを受けていない。ただ、自分達が獲得したその高い防御力に目をみはるばかりだ。
「
一方、カズフェルは忌々しそうに口元を歪めている。そうしながらも一呼吸を置いてから、
「怯むな! お前達は神聖なる主の信徒達なのだ! そのお前達が放つ正義の鉄槌はいかなる巨悪も必ず打ち砕く時が来るのだ! 突撃隊よ、行け! 砲兵隊は次弾装填急げ!」
信徒達に指示を下す。この指示を受け、剣やその他の凶器を持っている信徒達が三人向かって突撃してくる。
「ーーーなんか、あいつの声異様に耳障りだな…」
「ええ、何だか頭の奥をかき回されてるみたい…」
そんな中において、不快そうに顔をしかめる中道と愛子。その直後に三人と無数の信徒達との乱闘が始まるが、ミカは当然として、中道と愛子も余裕をもって信徒達をあしらっている。相手の攻撃がどうあがいても致命傷にならない以上、相手の攻撃を気にせず無力化する事だけに集中できるというのが大きいだろう。
しかし、乱闘が始まってすぐに違和感を感じる三人。何故なら、倒しても倒してもこの信徒達は平然と起き上がって来るからだ。まるで痛みなど感じていないかのように。
「次弾装填、完了しました!」
「良し! 聖なる弾丸をあの魔女とそのお供共に喰らわせてやるのだ!」
砲兵隊の合図に、カズフェルはすぐさま射撃再開の指令を下す。
「ちょ、ちょっと! 今撃ったらこの人達にも当たって」
「撃て!!」
乱闘のど真ん中に銃弾を撃ち込もうとするカズフェルと砲兵隊に、ミカが大声で非難の声を上げるが、そんなもの知った事かとばかりに無情に響くカズフェルの号令。
「くっ!」
咄嗟に自分にまとわりついて来る突撃隊を突き飛ばし、周囲に人がいない空間に飛び込むミカ。その直後、ミカに向かって再びの弾幕が撃ち込まれるが、案の定ミカ自身は碌にダメージを受けた様子は無く、また場所を移したおかげで、信徒達の被害もゼロだ。
「次弾装填! 必ずここであの魔女とそのお供共を滅するのだ!!」
再び響くカズフェルの号令。ただ、その声が微かに震え始めている。理由は分からないが、どうやら焦りを感じている様子だ。
「ミカ! 何とかその天使を狙えないか!?」
「そいつが何やら怪しい魔力を流してるみたいなの! この人達が変なのも多分その所為!!」
そこに飛んでくる中道と愛子の大声。見ると、中道の横にギンザのアクマ使いとの闘いの時に召喚していた女神が佇んでいた。恐らく、彼女に感知してもらったのだろう。
とはいえ、カズフェルは常に砲兵隊の中心に陣取っているので、銃で狙い撃つのは難しい。
ならば…! と、ばかりに砲兵隊に単身突撃するミカ。そして、人垣を強引におしのけてカズフェルの羽をつか…もうとした手が、突然動かなくなる。
「うっ!? な、何これ…?」
「薄汚い魔女の分際で、この私に触れようなどと…汚らわしい!」
何もない筈の空間に押し返される感覚を覚える右手に戸惑うミカに、カズフェルが嫌悪感をたっぷりと含んだ言葉を吐き捨てる。見ると、カズフェルの左手がミカの手に向けられている。恐らくは、少し前に法二がやったあの念動の力と同質のもので、ミカの手を抑え込んでいるのだろう。
「こ…んのおおおぉぉ!!」
しかし、気合の掛け声と共に更に腕に力を籠めるミカの前に、この念動の力も徐々に押され始める。
「そ、そんな…ばかなげぁっ!?」
遂には押し切られ、羽…どころか顔面を掴まれ地面に叩きつけられるカズフェル。そして、カズフェルが次の行動をとる前に、ミカはカズフェルに向かってありったけの弾丸を撃ち込んだ!
「が、あ……こ、ここまでの強さ……き、聞いていないぞ…マンセマットの奴め…どういう事だ…!?」
「マンセマット…?」
満身創痍になりながらも、憎々し気に言い放つカズフェル。そして、その時に出た覚えのある名前に、ミカの目の色が変わる。
「あなた、あの天使とどういう関係なの?」
「―――地獄に堕ちよ、呪われし魔女め…。主よ……この者に……裁きの……雷を………」
しかし、続くミカの質問には答えず、呪いの言葉を吐きながらカズフェルの体は消えてしまった。
「………はっ!?」「あ、あれ…?」「どこだここ…?」「お、俺…何やってんだ…?」「う、うわ!? なんでこんなもん持ってんだ!?」「う、い、いてて…なんか体中が痛ぇ…」
と、同時に次々と正気を取り戻していく周囲の人々。その様子を見る限り、どうやら実際は信徒ですらなかったような感じだ。
「魔女か…。聞き慣れた呼び名だけど、他人を好きなように操ってその命も軽く見るような人にそう呼ばれるのは流石に心外かな…」
そんな中で、正気を取り戻す人々とカズフェルのいたところを交互に見遣りながら、ミカは無表情にボソッと呟いていた。
改めて東京タワーにいた人たちに話を聞いてみたところ、その大半がメシア教に興味はあったが、入信するかは話を聞いてから…くらいの者達だった。
しかし、実際に話を聞いてみるとその放つ言葉の一つ一つに妙な感動と幸福感を覚え、気が付いたら今の状態になっていたという事だ。
因みに、落ち着いて考えてみるとこの話していた内容自体は大したことはなく、更にこの話をしていたのは法衣を着た女性らしい。恐らくはカズフェルが擬態していたあの女性だろう。
「成程な…。奴の声その物に人を少しずつ洗脳していく特殊な音波でも出ていたんだろう」
「私達が奴の声が不快に聞こえたのも、その音波をミカの服が防御してくれた影響でしょうね」
その話を聞き、カズフェルの声が何故不快だったのかを理解する中道と愛子。
「ちっ! 何が天使様だ! やってることは悪魔のそれじゃねえか!!」「ガイア教も怖いが、メシア教も所詮はそんなもんか…」「結局、もうこの地に安心して住める場所なんてどこにもないんだな…」
一方、現状の解説を中道、愛子、ミカから受けた人たち。その誰もが、裏切られた怒りや絶望で顔色を暗くしている。
「その…一つ聞いても良いですか? あ、貴女は何故あの天使と戦ったんですか? 貴女も天使なのに…」
そんな中において、不意に挙がる質問。
「何でって、喧嘩売られたらやるしかなくない? 逃がすつもりもなかったみたいだし…」
「そ、そういえばあんた…主、えっと神様は嫌いだって…」
「好きな訳ないじゃん! こんな世界にしたのその神様とかいう奴なんでしょ?」
「そ、その…どうして僕達を助けて下さったのでしょうか?」
「どうしてって…。困ってる人を見たら放っておけないでしょ」
「そ、そういえば俺覚えてるぞ! この人、あの天使が銃で俺達もろとも撃ち殺そうとした時、あえて囮になって狙いを逸らしてくれたのを!」
「私は平気だけどこの世界の人達は銃弾一発で死んじゃうからね。人が死ぬ所なんて見たくないから…」
その最初の質問を皮切りに、次々と質問をされるミカだったが、その全てに思った事を口にしていく。そして、質問が切れたところで、
「皆大丈夫? 家に帰れる?」
と、心配そうに人々に聞いて回る。
「あ、それは大丈夫です。どうやら、ここに集められていたのはもともと帰る場所の無いはぐれ者ばかりっぽいので。あと、食料やそのほかの物資もある程度揃っているみたいなので、暫くはここで暮らしてみます」
「そうなの? じゃあ、悪いけど私もう行くね。ちょっと話を聞きたい人ができたから…」
そうして、大丈夫という確認が取れたミカは、言葉通りに速足で踵を返す。その後を、中道と愛子も追って行ってしまった。
そんな三人の背中を見ながら、人々は誰からともなく口を開く。
「な、なあ…俺思ったんだけどよ」「あ、ああ…多分俺も同じ事を思っていると思う」「そうよ! 別にメシア教やガイア教なんかに入信しなくても」「ああ、そう! その通りだ!」
カズフェルですが、調べたところこいつはハピルマ、マリンカリンと所持魔法三つの内二つが精神系バッドステータス付与持ちだったので、今作では精神汚染系の敵として登場させました。因みに、ハニエルもマリンカリンを所持しています。こう見ると、ロウサイドはどういう意図でこの二人を先兵として送り込んでいたかが見えて面白いですね。