力也との再会
ミカが会いたかったのは二人。一人はマンセマット。カズフェルの意味深な最後の台詞は気にするなという方が不可能という物だろう。
もう一人は法二だ。そもそも東京タワーへ行くのを勧めたのは法二だ。しかし、結果は天使との有無を言わせぬ戦闘。これを法二は知っていたのか確認したかった。
しかし、シナガワに戻った一行が二人の居場所を聞くが、残念ながら二人とも今シナガワにはいないらしい。法二は所在不明、マンセマットは苦しめられている同胞を助けるという名目で今はイケブクロの方にいるそうだ。
「居場所が分からない奴を探すのは骨が折れる。まずは池袋に行かないか?」
「ええ、マンセマットもミカの知りたい情報を持っている筈よ」
どっちを追えば…と迷っていたミカに中道と愛子からの進言。確かに、全くどこにいるのかわからない相手より、向かった場所だけでも分かっている相手を探す方が幾分簡単だろう。
「―――そうだね。じゃあ、イケブクロに…」
「あっ! 天使様!!」
一つ頷き移動しようとしたミカに掛かる声。見ると、あのアクマ使いに人質にされた少女が嬉しそうな顔で小走りにミカに駆け寄ってきていた。
「天使様、戻ってきてくれたの!?」
「う、うん…。ちょっと知りたい事があってね…」
キラキラと輝く尊敬の瞳を向けてくる少女に、ミカは少し居心地悪そうにしている。が、ここでミカは少女が小型の銃を携行している事に気づいた。
「ねえ、それ…」
「ん? あ、これ? 今ね、戦い方を教えて貰ってるの! 私も、天使様みたいに弱き人、困っている人を助けるんだ!」
ミカの疑問に、少女は興奮気味に鼻を鳴らしながら答える。
「―――ねえ、ナカミチ。この世界って、子供が銃を持つのって一般的なの?」
両手を握り締めて見上げてくる少女を何ともばつの悪そうな表情で見つめながら中道に聞くミカ。
勿論、キヴォトスでは小さい頃から銃の使い方を習うなど一般的だ。しかし、それは普通の銃ではキヴォトスの人々を殺傷する事はほぼ不可能だからの話。銃弾一発で致命傷になるこの世界の子供に、本当に銃など持たせていいのかという疑問が湧いたのだ。
「大破壊前ならありえんな。未成年に銃を持たせ、尚且つ使い方を教えるとか多分普通に犯罪だぞ。良いとか悪いとかそれ以前の話だ」
「でも今はこんな時代。悪魔は
対して、中道に愛子も悲し気に答える。やはりミカの推察は当たっていた様だ。
少し考えた後、ミカは懐からリボンを一つ取り出し、少女の携行している銃のグリップにこのリボンを巻き付ける。
「はい、私からのお守りだよ。いい? 弱き人々や困っている人を助けたいと思うその心は凄く立派だと思う。でも、まずは自分の命を大事にして欲しい。自分の命も守れない人に、他の人は守れないでしょ?」
「わああああ…っ! うん、わかった! ありがとう天使様っ!!」
その銃を手渡すと共に、忠告をするミカ。対して、銃を感動の声と共に受け取り、ミカの忠告に大きく頷く少女。そうして、少女は走り去っていってしまった。
…本音を言えばあの子には銃など持ってほしくはない。しかし、愛子の言うように力がなければ生きていく事すらままならない。
「無情な世界だね…」
言いたい事はいっぱいあるのだが、結局ミカの口から出たのはこの一言だけだった。
イケブクロに向かうため、ターミナルでギンザに戻った一行は地下道からイケブクロを目指そうとした。しかし、その途中で意外な人物に足止めされたのだ。
「久しぶりだな、中道、ミカ。もう一人の女は…愛子かお前?」
そこに立っていたのは力也だ。十数人の者達を従え、ミカ達を通すまいといった布陣を敷いている。
「ええ、その通りよ。久しぶりね力也」
まず答えたのは愛子だ。が、無言の中道同様に警戒している様子。まあ、力也の後ろに控えている者全てが中道達を明らかに敵意の目で見ている以上、感動の再開などではないのは明らかだ。
「ふぅん…。まあいい。おい、どうだミカ。中道でも良い。ここでやりあってみねぇか? 俺はもっと強くなった。もうお前らには負けねぇぜ」
「へぇ…。面白い事言うじゃん…リキヤと後ろの人達をやっつければいいんだよね?」
愛子を見回した後、不意に提案してくる力也。売り言葉に買い言葉とばかりにミカも応戦し、一触即発の状態となる。
「はっはっは! 冗談だ冗談。けど、やっぱミカ。お前のその性格はカオスよりだわ。天使なんかやめてこっち側に来ねぇか?」
「こんな不愉快な冗談言ってくる人と一緒なんて絶対いや。で、用件はそれだけなの? だったら退いて欲しいんだけど」
唐突に高笑いをする力也の勧誘に、しかしミカは不機嫌と共にハッキリと拒絶する。
「そうはいかない。お前達がこれ以上ガイア教に近づくというのなら、まずは裁判を受けて貰う」
「裁判? なんの?」
「お前達…というより、中道。お前の使っている悪魔召喚プログラムだが、本来悪魔と契約できるのは契りを行う許可を取った者だけだ。しかし中道。お前はそんな許可を取った覚えはないな? その行いに対し天魔 ヤマ様が直々に裁判を執り行われる。これを受けずしてこの先を大手を振って歩けると思うな」
訝しむミカに、力也は淡々と説明を続ける。
「これを使うのに許可なんか必要だったのか? そんな話は聞いていないが…」
「知らねぇよ。申し開きがあるんならヤマ様にするんだな」
続いて中道も不満気に口を開くが、これも力也は容赦なく切り捨てる。
「どうする? ついて行く? それとも強行突破する?」
「話を聞く限り、ここはまだガイア教の拠点の入り口みたいなもの。ここで騒ぎを起こすのは得策ではないと思うわ」
「そうだな…。それに裁判と言うのなら事情を聴いてもらう余地もある筈。今は大人しく従おう」
ミカの問いに対し、愛子も中道もまだ騒ぎは起こしたくないという答え。ならばと、ミカも力也についてくこととする。
「よし、こっちだ。ついてこい」
「はいはい…。それにしても…ヤマ様…か。なんだ、一匹狼を気取っていた割に、結局強者の飼い犬になったんだ。正直、がっかりだよ」
先導しようとする力也に、ミカは先ほどの意趣返しとばかりに嫌味をぶつける。対して、力也も今の自分の立ち位置に思う所がある様で、一瞬の間を置いてから「ちっ!!」と思い切り舌打ちをしていた。
スガモプリズン。それが力也に連れてこられた場所。大破壊前から存在し、いまなお多くの罪人を収容する巨大施設だ。
その施設内の裁判の間という場所の中央に中道、愛子、ミカの三人は立たされている。そして、三人の前には地獄の閻魔様そのまんまの容姿のヤマという悪魔が立っていた。
「世代中道。その方、無断にて悪魔との契りを交わしその力を使役しておる。これは魔界において重大な違反であり、その罪の重さは計り知れぬ」
重々しい声で中道の罪…らしいものを読み上げていくヤマ。
「だが、その使用についてやむにやまれぬ事情があった事もまた認められる。そこで、儂から一つ頼みがある。これを引き受けるというのなら、貴様らを無罪放免としよう」
「頼み…?」
少し流れが変わった事に訝し気に問い返す中道。他の二人も困惑顔だ。
「品川のハニエル。奴を倒してくるのだ。そうすればロウの天使共の気勢も少しは挫けよう。どうだ、引き受けてくれるか?」
「ちっ…結局それか。俺達はお前らの操り人形じゃねぇんだよ…!」
ヤマの頼みに、しかし中道は不快そうに顔を歪める。見ると、愛子も似たような表情だ。
「ふむ…。聖園ミカ。その方もこ奴らと同じ意見か?」
「へ!? 私!?」
ここでヤマは視線をミカに向ける。唐突に話を振られ頓狂な声を上げるミカ。
「うむ。本来なら天使など問答無用で有罪なのだが、その方は力也から気質はカオス寄りだと聞いている。あの者がそういうのなら間違いは」
「いやいや! 天使ってだけで有罪ってそれ全然公平じゃないじゃん! 子供の御遊戯会じゃないんだからさ! 裁判を名乗りたいんならもっと公平にしてよ!!」
そして飛び出すトンデモ差別に、流石にミカも大声で突っ込んでしまう。
「ならば貴様ら全員に有罪判決を下す! 罰を受けるまでの間、牢獄の中で己の過ちを悔いるがよい!!」
大声と共に木槌を鳴らすヤマ。次の瞬間、中道、愛子、ミカの三人の姿が裁判の間の中央から消えてしまった。