ガイア教の現状
スガモプリズンを脱出し、ウエノという場所を目指して移動する一行。最終目的地のTDLにたどり着くにはこのウエノから更に南下する必要があるらしいのだ。
しかし、このウエノという場所。どうやら、ガイア教の総本山があるらしいのだ。ガイア教の占有地らしかったスガモプリズンで暴れた事は既に情報がいっている筈。ならば、ここで一悶着起きる可能性は高い。
そう判断し、警戒しながらウエノの地に足を踏み入れた…のだが…。
「ちっ、囲まれたか…!」
何十というバイクに乗った武装集団に囲まれ、銃を構えながら舌打ちする中道。同じくミカと愛子も銃を構えている。移動中に突然現れたこの集団に、あっという間に包囲されてしまったのだ。
が、何やら様子がおかしい。動きこそ封じられてしまったが、何故か襲ってくる気配がないのだ。大体はバイクを止めこちらを注視し、数少ないバイクを動かしている者達も、周りをゆっくり回るだけで武器を構える気配がない。そして、その視線はどうやらミカに集中している様だ。
そんな中で、バイク乗りの一人がバイクを下り、ヘルメットを脱いでミカに近づいてくる。厳つい顔付きの男だが、所持している武器を手に取らない所を見るに、あまり敵意は感じない。
「失礼、もしや貴女は…聖園ミカさん…か?」
「―――そうだけど、何で私の名前を…?」
唐突に名前を呼ばれ、警戒を怠らずに聞き返すミカ。
「ご冗談を。少なくとも、東京中で貴女の名前を知らぬ者など最早数えるほどしかおりませんよ」
「この女が…聖園ミカ…」「東京中で暴れまわってるって言う…」「天使でありながら、他の天使を躊躇なくぶっ殺した…」「ニオウやヤマもやっちまったらしい…」「新宿のオザワや六本木のベリアルやネビロスも…」「あの誰かれ構わず噛みつく力也様ですら、死にたくなければあいつと戦うのだけはやめておけと言ったらしいぜ…」「まさしく力と混沌…カオスを体現している女…」「本当に見た目はメシア教の聖典にでも出てきそうな綺麗な姿なんだな…」
対して、苦笑を浮かべて答える男。と、同時に周囲からも囁き声が聞こえてくる。その内容を鑑みるに、どうやら、この場にいる全員がミカに対して多大な畏敬の念を持っている様だ。
「…っ。で、貴方は誰? 何か用なの?」
そんな周囲の視線に若干の居心地の悪さを感じながら、銃を下ろして会話の体勢に入るミカ。それを見て、後ろにいた中道と愛子も銃を下ろす。
「申し遅れました。俺は処刑ライダー第2分隊隊長を務める者です。少し前に貴女がこのウエノの地に足を踏み入れたという報告を受け、お迎えに上がった次第。どうか、ガイア教の教祖にお会いして頂けませんか?」
そのミカの様子を見て、男も礼儀正しく用件を述べる。
「教祖が直々に…? 私、天使ってだけで有罪喰らったんだけど…?」
訝し気に聞くミカだが、男は首を縦に振るだけだ。それを見て、ミカは「どうする…?」といった感じの視線を後ろにいる中道と愛子に向ける。
「―――行ってみよう。カオスなんて無法者だらけだろうに、わざわざこんな礼儀正しい奴を使いに出した事からも、少なくとも今すぐ争うつもりはないだろう」
「そうね。もしかしたら何か有益な情報が貰えるかもしれないし…」
その視線を受け、中道は誘いを受ける事を提案、愛子も同調する。
「分かった。じゃあ、案内して」
二人が男の誘いに乗る事を受け、ミカも頷く。こうして、男の先導の下、三人はガイア教の総本山へと足を進めるのだった。
「よく来てくれた、聖園ミカとその付き人達よ。我らは君達を歓迎しよう」
ガイア教総本山の奥にて、教祖と思しき初老の男と対面する三人。一見すると少し小太りの人畜無害っぽそうな男に見えるが、纏う雰囲気に僅かだがあのベリアルの人間形態であった赤伯爵と似たところがある。必要とあらば、冷酷な判断も容赦なく下しそうなイメージだ。
「さて、早速だが…。聖園ミカ、お前は我がガイア教の洗礼を受ける気は無いか? ガイア教に忠誠を誓えば、ガイア教に伝わる秘蔵の武具を与えられるのだが…」
「嫌に決まってるじゃん! 本当にいきなり不躾だね!」
そして、突然の教祖の勧誘に憮然とした表情でハッキリと拒絶するミカ。
「本当に随分唐突ね。もしかしてガイア教って人手不足なのかしら?」
更には愛子も若干の嫌味を含んだ疑問を教祖に投げかける。
「―――正直に言えば、かなり厳しい立ち位置だな。世間ではメシアとガイアの二大宗教などと言われているが、残念ながら今のままではメシア教の…忌々しい神と天使共の勝ちなのは揺るぎないだろう」
対して、信じられない事に教祖は愛子の言い分を認めると共に、ガイア教が苦境に立たされている事を認めてしまったのだ。
「何故だ? 信者の総数こそ分が悪いだろうが、戦える者達の総数はガイア教の方が多い筈だ。総合的には勢力は拮抗状態だと思ったんだが…」
その、なにやら弱気な教祖の様子に、中道が純粋な疑問をぶつける。
「ところが、そうでもないのだよ。弱き者、力なき者はそもそもガイア教では生きていけぬ故、メシア教に下るしかないので総数で負けるのは自明の理。では、強きものは皆ガイア教に来るのかと言えばそうでもないのだ」
沈痛な面持ちで語る教祖に、しかしその言葉の理由が分からず三人とも首を傾げてしまう。
「例えば…だ。剣を極めた者がいたとしよう。それこそ、死線を潜り抜けた経験もある剣の猛者3~4人に囲まれようとも余裕で勝てる程に極まった者だ。そして、その者は自己中心的な上、頭も回り、かつ人の心の無い外道だったとする。さて、この者はメシアとガイア、どちらに付くと思う?」
「へ? が、ガイア教じゃないの? ガイア教の方が自由に出来そうだし…」
「―――いや、メシア教だな」
教祖の質問にミカが困惑気に答えるが、即座に中道に逆の答えを出されてしまう。
「なぜ…?」
「ガイア教は自由…なんていえば聞こえはいいが、自由ってのは悪い言い方をすれば己の行動の結果はすべて自己責任って事だ。好き勝手していいって事じゃない。当然、悪事を働けばそのしがらみは死ぬまでそいつに絡みついてくる。これだけは、いくら強大な力を手にしたところで、絶対に逃れられやしない」
ミカと同じ答えだったらしい愛子が訝し気に中道に尋ねるが、その理由を淡々と答えていく中道。それを聞いてミカはハッと顔を上げる。
そうだ、自分もそうだった。圧倒的な身体能力と権力を持ちながら、巨悪を働き今もその責任を追及されている立場ではないか。
「一方、メシア教なら上の命令こそ絶対だが、その命令内なら何をやってもしがらみにとらわれる事など無い。極論、何十人何百人無実の人を切り殺そうが、その死体に唾吐きながらこれが神の思し召しだと神に責任を擦り付ければいいだけだからな。命令されること自体我慢できない…もしくはメシア教に恨みがあるでもない限りは、こっいの方がいいに決まっている」
「そういう事だ。そんな訳で、確かに戦える者の総数こそガイア教の方が上だが、質に関してはメシア教の方が上なのだ。また、ガイア教はその性質上まとまった行動が苦手なのだが、メシア教は神という絶対のカリスマを中心に群がしっかりまとまっている。そういう意味でも、メシア教の方が一枚上手だな」
過去を思い出しプルプルと震えているミカを他所に、中道の説明を肯定しつつ、ガイア教が苦境に立たされている事にため息を吐く教祖。
「ガイア教が苦しいのは分かったわ。でも、だからっていきなりミカを勧誘はちょっと急すぎない?」
「確かに少し気が逸っていたのは認める。しかし、自身も天使でありながら他の天使と敵対し、あまつさえそれを東京中に放送するなどカオスに寄ったとしか思えんかったが…」
「ちょ、ちょっと待て! なんだ放送って!? そんな事をした覚えはないぞ!!」
愛子の疑問に、教祖も不思議そうに首を傾げるが、その時に教祖の口から出た放送という言葉に中道は仰天に声を張り上げる。愛子も「ほう…そう……?」と、予想外の言葉に呆けている様だ。
「ふむ…そうなのか? では、これはこ奴らが独断で放送していると…?」
そう言って、部屋の隅に会ったテレビを付ける教祖。映っているのは何やら見覚えのある場所で見覚えのある数人の人物が何かを訴えている。ここは…東京タワーだ!
「この放送を受信している皆! 聞いてくれ! やはりメシア教はうそつきの集団だった!!」
処刑ライダーってスゲエ名前だなってゲームをプレイしていた時は感じましたが、調べてみたらそういう名前の映画がアメリカにあったんですね。The Wraith(幽霊)を「処刑ライダー」って訳すセンスすげえな…。