「はあっ!」
目の前にいる巨大な怪獣に向かって、掛け声と共にミカは剣を振る。その一撃はミカの身長三人分くらいはありそうなほど横に太い怪獣の胴体を、なんと真っ二つにしてしまったのだ!
「まだまだ!」
「これでとどめよ!」
追撃とばかりに中道と愛子が銃撃をお見舞いし、更に中道の召喚した悪魔達も一斉に攻勢をかける。これにより、怪獣はほとんど何もできずに倒される事となった。
「う…おおお…。ほ、本当にこんな巨大な怪獣を一方的に倒しちまった…」
「ミカの加護があるとはいえ、私達の強さもだんだん伯が付いてきたわね」
「ううん。いくら私でも、流石にあんな巨大な怪獣を一撃で真っ二つはちょっと厳しいと思う。できたのは、ナカミチが召喚したこのシュテンドウジって悪魔のおかげ。だから、この悪魔を召喚できるほどに二人は強くなったって思っていいと思うよ」
自身の戦功を改めて実感している様子の中道と愛子だが、その際に発した謙遜気味の愛子の言葉にミカはフォローを入れる。そのミカの指差す先には、戦闘を終え酒をかっ喰らっている、あのタケミナカタと同じくらいガタイの良い赤鬼の姿が。
そう、このシュテンドウジという悪魔は味方の物理的な攻撃力を上げるという不思議な術を使えたのだ。それも、物理でさえあれば近接は勿論、銃による攻撃力も上げられるという非常に有用な代物だ。
「ラドンを倒したか。見事だ」
と、その時だった。突然、パチ…パチ…と手を叩く音と共に一人の男が現れる。全員が振り向いた先には、警視庁ビルで出会った金髪の男…ルイ・サイファーがいつの間にか立っていたのだ。
「さて、早速だが要件だ。以前に伝えた通り、ユリコを連れてきた」
三人が反応を示す間を与えずに口を開くルイ・サイファー。すると、その影からスッとユリコが姿を現したのだ。が、何やらユリコの様子がおかしい。
「―――本当は貴方のパートナーとなるのは私の筈だった…。でも、その女にそそのかされて…」
上の空でブツブツと呟くユリコ。そのあまりに不気味な姿に、中道も愛子も、そしてミカも固唾を飲んで見守る事しか出来ない。
「私の物にならないというのなら…今…この場で……中道…。貴方を殺す…!」
が、次の瞬間、ユリコが右手を中道に向かって突き出す。と、同時に、なんとその右手が毒々しい色の蛇となり、その蛇の牙が中道の首元に噛みつかんと一気に間合いを詰めてくる!
あまりに唐突な不意打ちに誰も反応できない! だが…何を思ったのか蛇の牙は中道の首に食い込む直前で止まってしまった。
「ああ……やはり私には……貴方を殺すなんて……できない…」
ゆっくりと蛇を元に戻し、項垂れた様子でそんな事を宣うユリコ。そうして、おもむろに懐から壺を…あのベリアルを封じた壺だ…を取り出し、これを地面におく。
今度こそ封印を解くつもりか!? と三人は身構えたが、ユリコは何をするでもなく、
「さようなら中道…」
と、寂しそうに告げた後どこかへと歩いて行ってしまった。
「ふっふっふ…やはり女は怖いな中道君…。まあ、その壺は君が持っていたまえ。あのラドンを倒せるほどの実力を身に着けたのなら、その壺も扱えるだろう。そして、その黄金のリンゴもな…」
警戒を続ける三人に向かって、不気味な笑みを浮かべながら怪獣がいたところを指差すルイ・サイファー。その指を三人が視線で追うと、なんと怪獣がいた場所に確かに金色に輝くリンゴが落ちているではないか。
「うっわ何これ!? 本当に黄金のリンゴじゃん!? た、食べれるのかなこれ…?」
「止めときなさい。どうせ碌でもない事になるだけよ」
興味津々に黄金のリンゴを手に取るミカに、何やら妙に達観した止め方をする愛子。
「なあ、これは一体…」
そして、壺と黄金のリンゴについてルイ・サイファーに聞こうとした中道だったが、既にそこに彼の姿は無かった。どうやったかは分からないが、三人が黄金のリンゴに気を取られた隙に去ってしまった様だ。
「ユリコもそうだが、あいつも人間じゃないよな…絶対…」
ルイ・サイファーが立っていた場所を見遣りながら、難しい顔で中道は呟いた。
怪獣を倒した事をウエノの住人に報告した中道達。すると、宣言通りに謝礼を出してはくれたのだが、これがまた明らかに無理をして出している量だったのだ。
どうせガイアの連中に奪われるくらいなら天使様に差し出した方がマシ…みたいな事を言われたが、ミカとしても別に住人を苦しめたいわけではない。
結局、少量の物資と謝礼の中にあった宝石…ルビーを貰うと言う事で決着をつける。あとはガーネットをどこかで見つければヒノカグツチも復活できるという訳だ。
「な、何か急に持ち物がいっぱいになって来たね…」
ウエノでの用事を終え、TDLに向かっている最中、全員が持つ荷物袋を見ながら、ミカが僅かな困惑を見せながら口を開く。
「まあ、旅に必要な物資に加え、宝石二種に取扱注意の壺、更に使用法は分からんが貴重品なのは間違いない変なリンゴなんてものまであるからなぁ…」
「何と言うか、危険物が一気に増えた感じだわ…」
対して、中道と愛子も何やらしみじみと呟いている。危険物…勿論壺とリンゴの事だが、特に壺の方はかなり厄介で、もし封印が解かれたら…などと考えてしまってはおちおち寝ても居られない。
封印されているベリアルが炎を使っていた事から、もしかしたらヒノカグツチの復活に使えるかも…という考えも出たのだが、ヒノカグツチの炎が聖なる炎らしいのに対し、ベリアルの使っていた炎は明らかに禍々しい物だった。恐らくは合わないだろうという結論にすぐに至った。
そういう話をしながら目的地を目指す一行。そして、意外にも黄金のリンゴに関しては早速使い道が出てきたのだ。
遂にTDL…の入り口に繋がる橋に辿り着いた一行。しかし、ここで問題が発生する。その橋の前に一体の悪魔が居座っていたのだ。
この犬型の悪魔を最初は倒しておし通るつもりだった一行なのだが、何故か首輪をしている事が近づく事で分かった。更に、この首輪を認識した途端、中道の様子が一変したのだ。
「―――パスカル…? お前……まさか…パスカルなのか…っ!?」
何やら感極まった様子で悪魔に近づく中道。しかし、パスカルと呼ばれた悪魔は呼びかけには反応せず、ただただ威嚇の吠え声を上げるのみだ。
「あの悪魔、知ってるのナカミチ?」
「ああ…あいつはパスカル。俺の家の飼い犬で、悪魔と合体してまで俺を守ってくれた恩人だ」
「話は聞いていたけど、あの子がそうなの…。でも、様子がおかしいわ。本当にあの子がパスカルなの?」
「あの首輪は俺がパスカルにあげた首輪なんだ、見間違えなどしない。パスカル! 俺だ! 頼む、気づいてくれ!!」
訝しそうなミカと愛子の問いに答えた後、再びパスカルに近づく中道。しかし、パスカルの様子はおかしいままで、遂には何とか正気に戻そうとする中道に牙をむき出しに飛び掛かってきたのだ!
「うっ!?」
「ナカミチ!」「中道!」
思わず身構える中道に、ミカと愛子も流石に武器を構える。が、ここで中道の道具袋の中に会った黄金のリンゴが、唐突に眩く輝き始める!
その光を浴び、何やら苦しみ始めるパスカル。慌てて中道がパスカルに駆け寄るが、暫く苦しんだのち、不意にパスカルの瞳に理性の光が戻ったのだ。
「はっ…? お、俺は一体…?」
困惑気に人語を発するパスカルを、中道は「パスカルっ!!」と再び感極まった様子で思いきり抱き締める。
「あ、お、お前…中道か…? な、何をそんなに泣いてるんだ…?」
パスカルの体に顔を押し付け嗚咽を漏らしている中道に、パスカルはただただ周囲を見回しながら、困惑気な言葉を吐き続けるのだった。
”ベリアルの壺”と”れんきのけん”でできる”かりゅうけん”ですが、原作通りだと流石に登場が遅すぎるので、少し前倒しで登場させようと思います。