力也のパートナー
中道が落ち着きを取り戻した後、改めて中道とパスカルの関係性を教えて貰ったミカと愛子。まだ中道が少年だった頃に、親が親戚から譲り受けたのが出会いだったそうだ。なんでも、当時から無口で大人しかった中道を親が憂いた故の行動らしい。
そうして苦楽を共にし、深い友好を築いて行った。その深さは、母親を悪魔に殺され心に大きな傷を負った中道を気遣い、悪魔と合体してまで中道を守ろうとしたという忠誠心からも伺える。この合体、中道も最初は渋っていたらしいが、パスカルがどうしても邪教の館から出ようとせず、仕方なく合体させたらしい。と、同時に、これが中道の初めての悪魔合体の経験でもあるそうだ。
因みに、この時には既に力也と法二も同行していたそうだ。思い返せば、力也も直ぐに合体による力の獲得に考え至っていたし、それを中道も法二も…特に法二は大きな拒絶反応を示していた。既に一度、悪魔と合体して力を得るという背徳的な方法を見ていた故の各々の反応だったのかもしれない。
「もう大丈夫だ…。情けない所を見せた…」
「そんなことないよぉ…! また会えてよかったねナカミチ…!!」
「ええ、ほんとうによかったわね…」
関係性を語った後、少し恥ずかしそうにしている中道にミカは涙目になりながら、愛子も聖母の様な笑みで中道を励ましてくれる。
「ところで中道…。この天使は何者だ…? なぜ一緒にいるんだ…?」
しかし、ここでパスカルから警戒心をたっぷり滲ませた質問が中道に飛ぶ。
「大丈夫だパスカル。この子は聖園ミカ。俺や力也や法二も何度も世話になった恩人だ」
「―――仕方ないとはいえ、やっぱり疑われるのは悲しいなぁ…。はあぁ、ほんっとこの世界の天使の人達って余計な事ばっかしてさぁ…」
中道の言葉を受けても尚「ふぅん…」と警戒を解こうとしないパスカルに、先ほどの涙目の笑みから一転、荒れ果てた大地を改めて見回し、悲しそうな溜め息をミカは漏らすのだった。
「お、中道にミカじゃねえか。こんなとこまで来たって事は…お前らもカテドラルに乗り込む気か?」
気を取り直してTDLに入っていった一行だったが、その入り口にて早速声を掛けられる。相手は…力也だった。そして、力也の後ろに一人の女性が控えている。
「はっはっは! 驚いたか!? 俺にもパートナーが出来たんだ! りえって言うんだが、これが女にしとくには勿体ない程つええ奴でな! 俺も最初はパートナーなど邪魔だとしか思わなかったんだが、こんだけつええなら文句はないぜ! こんな時でさえなければ、一つ手合わせを願いたいくらいなんだかな!」
「お前…力也か? あの時、中道と一緒にいた…」
上機嫌に後ろの女性…りえについて語る力也だったが、そんな力也をまじまじと見つめた後、パスカルが訝し気に尋ねる。
「ん…? お! お前…もしかしてあの時中道が連れてた犬か!? 確か…カルパス…だったっけ?」
「パスカルだ。しかし…あの力、力、と卑屈だった小僧が随分尊大になったものだな」
「ああ、確かにあの時は惨めだったな。だが! お前と同じく、俺も悪魔と合体して力を手に入れた。同じ悪魔と合体したもの同士、ここで力試しといくか…?」
いうやいなや、腰の刀に手を添える力也。それを見て、パスカルも小さく唸り声を上げながら、いつでも飛び掛かれるように姿勢を低くする。
「待って待って! 今そんな事してる場合じゃないでしょ!?」
「パスカル、少し押さえてくれ…。力也、やはりここからカテドラルに行けるのか?」
しかし、ここでミカと中道が割って入る。中道の懇願にパスカルは仕方ない…とばかりに臨戦態勢を解き、ミカに割り込まれては流石に分が悪いと判断したのか、力也も刀から手を離す。
「ああ、大地母神エキドナがその身をもって希望者をカテドラルに移してくれるそうだ。ただし! エキドナはカテドラルを乗っ取るつもりだ。なので当然だが、連れて行って貰えるのは強さと心意気、この二つをエキドナに認められた者のみだがな」
そうしながら、中道の発した質問に答える力也。そこはかとなく自慢げに聞こえる所を見るに、どうやら力也は既に移してもらう事が決まっているみたいだ。
「お前らも…と言いたいところだが…。多分今のままじゃ無理だろうな。強さは申し分ねえんだが…聞くところによると、あの上野の弱者共をわざわざ助けてたみたいじゃねえか。そんな甘ちゃんじゃ結局足手まといだな」
「困っている人達を助けるほどの余裕があるって事じゃない。逆に、そんな余裕もない人が強者を名乗るなんて、それこそ滑稽に見えるけど…?」
「そんな余裕を実戦で出されたら困るっつってんだよ。ミカと中道のおかげでここまで命拾いしただけにすぎねぇのにデカい口叩いてんじゃねえぞ」
なにやら諦念の表情と共に評価を下す力也に愛子が反論するが、この反論は力也の一転した憤怒の表情からの言葉に黙らされてしまう。中道もそうだが、それ以上にミカが居なかったら死んでいたかもしれない場面などいくらでも浮かんでしまうからだ。
「じゃあ、俺はもう行くぜ。神の野望をぶっ潰すためにな。お前らも、どうしてもカテドラルに行きたいってんなら、まずはエキドナに会ってみろよ。まあ、無駄だとは思うがな。そもそも、ここTDLはエキドナが認めた者以外は探索すらおぼつかない程の厳しい場所。無事、エキドナの下までたどり着ければいいがな…」
それだけ言って、力也は建物の奥へ行ってしまった。その後を、りえが中道達に一つ会釈をしてから追いかけて行ってしまう。
「なんか…あのりえって子、ちょっと不気味ね…」
「うん…。上手く言えないけど…なんか嫌な感じがする…」
「そ、そうなのか…? 俺は何も感じなかったが…」
りえの後姿が見えなくなったのを確認した後、揃ってりえに対してなにやら不穏なものを感じ取っていたらしい女性陣が口を開く。対して、中道は特に何も感じてはいなかった様だ。
「と、とにかく先に向かおう。早くエキドナに会わないとな」
一人だけ何も感じなかったことに気まずさを感じたのか、そう言うと共に中道はそそくさと先へ進んでいく。その後を、ミカと愛子、そしてパスカルは追っていくのだった。
そうして始まるTDLの探索なのだが、確かに力也が言っていたように一筋縄ではいかなかった。
というのも、広大さは言うに及ばず、特定の地点に足を踏み入れると謎のアナウンスと共にランダムで身体に強引に異常を起こさせられてしまう箇所がそこかしこに点在していたのだ。運がいいだの悪いだのと適当な事を宣っているが、お呼びでない侵入者を迎撃する罠なのは明らかだ。
とはいえ、異常をきたすのは中道、愛子、パスカルの三名のみで、ミカの身体には一切影響がない。この頑強さを初めて見るパスカルはただただ舌を巻くのみだった。
そうして、苦労しながらも遂に最深部と思しき場所に到達した一行。目の前の仰々しい大きな扉の先から、圧倒的な力を感じる。
意を決して扉を開け中に入ると、非常に広々とした空間の中に、蛇の様な文様が刻まれた一本の巨大な柱が建てられていたのだ。
…いや、違う! 柱が動いている! それを感知し慌てて全員が顔を上げると、あのラドンやベリアルすら比較にならない程の、超巨大な蛇の体に女性の頭が付いているという悪魔が中道達を見下ろしていたのだ!
「よくぞ きた。 わが 名は 大地母神エキドナ。 この世の 生きとし 生けるもの 全ての母なり」