「アンタがエキドナか…。頼みがあるんだが、俺達をカテドラルに連れて行ってくれないか?」
その圧倒的な巨体に圧を感じつつ、まずはまっすぐに頼み込んでみる中道。とはいえ、力也の口ぶりからして素直に頷いてもらえるとは思っていない様で、何やら思案顔だ。恐らくは断られた時の次の説得の言葉を考えているのだろう。
「―――よかろう そなた達 同行を 許す」
だが、その中道の予想に反し、何とエキドナは特に躊躇う事もなく首を縦に振ったのだ。
「ほ、ほんと!?」
「だが!」
驚き聞き返すミカに、先ほどより鋭い視線と声をミカにぶつけるエキドナ。
「聖園ミカ。貴様の 同行 決して 許さぬ!」
「はぁ!? なんで!? また天使だからとかいう訳!?」
強烈な拒絶の意思を示すエキドナに、ミカも怒りの言葉をぶつける。
「貴様は 危険。力ある者 力求めし者 その力に魅入られる。 法を守り 法に守られし者 その心に魅入られる。 どちらにも属さぬ者 その在り様に魅入られる 全てを魅了し 堕落させる。 ロウも カオスも 関係無し 生きとし 生ける者の母として 貴様は この場で わらわが 滅ぼす!!」
言い終わるやいなや、口から何かを飛ばしてくるエキドナ。それをミカはバックステップでかわす。エキドナが飛ばしてきたのは、獣の牙の様に鋭く尖った見るからに毒々しい色の結晶体だ。当たれば猛毒は免れなかっただろう。
「くっ!」
即座に反撃しようとエキドナの顔面に向かって銃を構えるミカだったが、
「一つ 忠告する。 カテドラルへの道 すなわち わらわの胴体。 わらわを滅する事 すなわち カテドラルへの道 断たれる事。 それでもよければ 攻撃するがよい」
エキドナの脅し文句を聞き、引き金を引く指が止まってしまう。その動きが止まったミカにエキドナの顔が物凄い速さで向かってくる! 牙をむき出しにしている事から、今度は直接噛み砕いてやろうという魂胆か。
「危ないっ!」
このエキドナの一撃は、中道がミカを突き飛ばす事で何とか事なきを得る。そして、
「どうやら交渉は決裂の様だな。愛子、パスカル、やるぞ!」
「ええ!」「おう!」
仲魔を召喚しながら応戦態勢を取る中道。その掛け声に愛子とパスカルも構えを取る。
「み、皆…。でも、この人を倒しちゃったらカテドラルに行けなくなる…」
そんな中道達に困惑するミカだが、
「ミカを生贄は流石に代償が大きすぎるだろ! ふざけんな!」
「大丈夫よ、きっと他にも道はあるから!」
「中道の言葉に俺は従うのみだ」
中道、愛子、パスカルがミカを庇うように囲みながらそれぞれの言葉をミカにかける。これらを受け、ミカは少し呆けた顔をした後、嬉しそうな笑みを見せた。
「―――既に そこまで深く 魅入られているか。 哀れな人の子らよ…。 よかろう では この場で 全員 滅ぼしてくれる!!」
一方、言葉通りに中道達に哀れむ視線を向けた後、一気に表情を険しくすると共に今度は無数の氷の刃を瞬時に展開し、その全てを中道達に撃ちだした!
それらをかわし弾く中道達だったが、大量だったゆえに全てはかわし切れずミカ以外の全員がそれなりのダメージを負う。
「う…ぐ…!」
とりわけパスカルの受けたダメージが大きめだ。苦悶の声を漏らしている事からも、かなり効いた事が分かる。
「大丈夫!? 今治すわ!」
愛子と、もう一人中道の召喚した女性(恰好からして恐らく女神)の治癒魔術を受けすぐに態勢を取り戻すパスカル。だが、治してくれた二人に礼を言いながらも、その表情は何やら曇っている。
「我が息子の一人ながら 何と貧弱な…。 やはり この様な軟弱な 親不孝者は 呼ぶべきでは なかったか…」
そのパスカルの姿を見て、明らかな失望の眼差しをパスカルに向けるエキドナ。
「息子だと…?」
「さよう ケルベロスは わらわの息子が一人。 しかし 呼び戻してみれば 人の子がどうだと煩く 使い物にならん。 故に 頭を弄り 番犬など させていた訳だが それすら 満足に出来ぬ 有様…」
心底失望した…とでも言わんばかりのエキドナの言い草に、しかし中道はなにやらブルブルと震えている。
「そうか…。お前が…お前がパスカルをあんな状態にしやがった犯人か…!」
怒声と共に、エキドナの顔面に向かって銃を乱射する中道。それにならいミカと愛子も銃をエキドナに向かって撃つ。更に、この三人に何やら赤いオーラがまとわりついている。出どこがシュテンドウジなのを見るに、恐らくは攻撃力を強化する術が三人に掛かっているのだろう。
この一斉攻撃をうけ、流石に「ぐっ!?」と怯んだ声を出すエキドナ。それなりのダメージは与えた様だが、即座に体勢を直したあたり、まだまだ余裕はありそうだ。流石にその巨体は伊達ではないと言う事か。
「小癪! ならば これでどうだ!」
そう言うと共に、今度はエキドナの口から毒々しい色の煙が吐き出される。それは瞬く間に中道達一行を覆い尽くしてしまった!
「原始の猛毒に 苛まれ 後悔と共に 朽ちるがよい」
勝ちを確信したらしいエキドナが勝ち誇った様子で口を開くが、次の瞬間、中道達を覆っていた煙の中から何かが物凄い勢いで飛び出し、エキドナの額に突き刺さったのだ!
「ぐあっ!?」
悲鳴を上げつつ慌てて確認するエキドナ。そこには、エキドナの額に突き刺さった刀と、その刀の持ち手にぶら下がっているミカがいたのだ。
「き 貴様…!」
「まだ終わりじゃないよ!」
怒りの言葉を吐くエキドナに、今度はミカが勝ち誇った様子の笑みを浮かべる。そして、その直後。なんと巨大な隕石がエキドナ目掛けて落ちてきたのだ! そう、あのベリアルを狙った隕石と同じやつだ。
まず、この隕石の直撃がエキドナの前頭を襲う。更に、この落ちてきた隕石をミカが掴むと共に、刀の持ち手もしっかりと握りなおす。
すると、隕石の重さでまずミカが下に引っ張られ、釣られてミカが握っている刀も下に引っ張られる。必然、刀はエキドナに突き刺さったまま下に落ちる事となり、見事にエキドナの巨体をばっさりと切り裂いたのだ!
表現し難い歪な悲鳴を上げながら倒れてしまうエキドナ。そして、その倒れた衝撃で中道達を覆っていた煙も吹き飛んでしまう。中では愛子と女神が中道達を守る様な障壁を展開しており、更にシュテンドウジが何かを思い切り投げつけた様なポーズを取っていた。恐らくは、彼がミカをエキドナに放り投げたのだろう。
「ぐ…。 ば ばかな…。 この わらわが 人の子に 負けると いうのか…」
胡乱な瞳で中道達を見据えるエキドナ。が、間もなくその瞳は閉じられてしまった。
「ふう…。何とかなったね…。………危険…かぁ…」
一つ息を吐いてから、刀をしまうミカ。その時に漏れ出た言葉を聞くに、どうやらエキドナの言葉が心に引っかかっている様子。
「本当に、いつ見ても滅茶苦茶だなミカは…」
「この子が味方でよかったと心の底から思うわ…」
一方、消えゆくエキドナの体を見つめ続けるミカを見遣りながら、なにやら感動している様な呆れているような声色で呟く中道と愛子。更に、パスカルに至ってはまさかミカがこれほどまでとは思っていなかった様で、完全に放心している状態だ。
だが、唐突に建物全体が揺れ始める。その揺れは瞬く間に大きくなっていく。何が起こっているのかは分からないが、この場に留まるのが危険なのだけは間違いない!
「皆、早く脱出するぞっ!!」
中道の怒声と共に、全員が一目散に入口へと駆けだした。
間一髪、脱出に成功した一行。しかし、肝心のTDLは島ごと沈んでしまい、ここからのカテドラルへの道は完全に断たれてしまった。
「どうする? ナカミチ…」
おずおずと聞いてくるミカ。愛子も口こそ開かなくとも視線でミカと同じことを問うている。そして、少しの間を置いてから中道は口を開いた。
「―――品川に行ってみよう。こうなったら一か八かだ。何とかしてハニエルに道を開かせる。今思いつくのはこれしかない」
エキドナのあの独特の台詞の再現むっず…。