ターミナルを使い、シナガワに戻ってきた一行。目的はハニエルだが、説得に応じる可能性は低いだろうし、そもそも以前尋ねた時は留守にしていたので、今いるかがまずわからない…と望みは薄くはあるのだが、それでも一縷の望みをかけての行動だ。
しかし、シナガワのターミナル室に転送するやいなや数名のテンプルナイトが待ち構えており、有無を言わさず囲まれてしまった。敵意に満ちた視線を見るに、歓迎してくれている訳ではないだろう。
構える一行に、囲んできたテンプルナイト達の隊長格と思しき男が一歩前に出てきた。
「ハニエル様がお呼びです。一緒に来て頂けますか?」
慇懃な態度でミカに向かってそう言う男。ミカ、中道、愛子の三人の中で視線をかわし合い、全員が頷いたのを確認した後、ミカは「案内して」と言った。因みに、パスカルは今召喚されていない。中道としては一緒に居たかったらしいのだが、パスカルが望んだことなので、渋々中道はパスカルを戻している。なにやら思いつめた顔をしていたパスカルだったが…。
ともあれ、テンプルナイト達に連れられて移動する険しい表情のミカ達。ハニエルがいる事には安堵したが、雰囲気的に戦闘は避けられない…とふんでいるのだろう。
そうして連れてこられたとある大広間。そこには既に正体を現していたハニエルが待ち構えていた。
「来たか…。主に見捨てられし哀れな天使と、それに魅入られし愚かな人の子達よ。主の裁きから逃れたくてカテドラルへ行くつもりなのだろうが、貴様らにカテドラルへ足を踏み入れる資格などない!」
「主の裁き…やはり再びこの東京を…。何をするつもりなのか話して貰おうか」
両手と翼を広げて大仰に語るハニエルに、中道が冷徹な表情で聞く。
「知る必要はない! なぜなら、貴様らはこの場でこの私の手によって滅されるからだ!」
しかし、返ってきたのは拒絶の言葉。と、同時に突き出されたハニエルの右手から、激しい雷撃がミカ達に向かって放たれる!
「ぐっ…」「つっ…」
だが、ミカは無言でその雷撃を片手で弾き飛ばし、中道と愛子も両腕で防御、微かに苦悶の声を漏らすも大したダメージではなさそうだ。
「ふむ…腐ってもあのエキドナを滅ぼした者共…流石にまともにやり合っては分が悪いか…」
「もういい? カテドラルにも連れて行かない。何も喋る気もない。そんな人の相手をしていられるほど私達暇じゃないからもうさっさと倒すね。これ以上邪魔されても迷惑だしさ」
難しい顔で呟くハニエルに、ミカは言葉通りに鬱陶しそうに銃を片手にハニエルに詰め寄る。
「舐めおって…! ならばこれでどうだ!」
そんなミカの態度に激怒したらしいハニエルが、懐から何やら輪っかを取り出し、それを自分の頭にのせる。次の瞬間、ハニエルの体が強烈に輝きだした!
「おお……おお………! 全身に力が漲って来る! これがエンゼルリング! 主よ、新たな力を授けていただき感謝いたします!!」
輝きと共に、全身を青い稲妻で覆い始めるハニエル。その狂気の笑みからも、明らかに何やらヤバい物を使ったことが推察できる。
「何か…不味い感じがするわね…」
不気味そうに口を開きながら改めてハニエルに向かって構えなおす愛子。ミカと中道も、警戒を強める。
「今度こそ終わりだ! 滅せよ!!」
そしてハニエルから再び放たれる青い雷撃。これを三人は再び受け止めようとしたが、
「ぐあっ!?」「きゃあっ!?」
中道と愛子は今度は受けきれずに吹き飛ばされてしまう。更に、
「くっ!?」
なんとミカまでもが弾き飛ばし切れずに体勢を崩されてしまったのだ! 見た目のヤバさに違わず、威力もだいぶ上がっている様だ。
「好機! 醜悪な偽天使め! 今度こそ滅せよ!!」
この状態のミカを仕留めるチャンスと見たらしいハニエルが、両手に力を籠めながらミカに飛び掛かり、全力の雷撃をミカに向かって叩きつけようとする。
対して、ミカも一呼吸置いてから、
「やああああっ!」
裂帛の気合と共に渾身の拳をハニエルに向かって繰り出した!
ぶつかる拳と雷撃。最初の数瞬こそは拮抗しているように見えたが、
「ぐっうっおおっがっおっ…っ!!」
すぐにハニエルの様子がおかしくなる。よく見てみると、なんとハニエルの体がわずかずつだが崩れて行っているのだ!
「これで……終わりっ!」
トドメとばかりに気合と共に拳を振りぬくミカ。その一撃は、雷撃ごと崩れゆくハニエルの胴体を思い切り打ち抜いた!
「がはあ…っ!」
吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるハニエル。そのボロボロの体を見るに、もう戦えそうもない。
「ミカ! 大丈夫か!?」
「今治療するわ!」
一方、ミカの拳もあちこちが小さいながらも裂け、血が出ていたのだ。ミカが明確にダメージを負ったのはベリアルに次いで二度目だ。それだけ、あの雷撃は凄まじい威力だったのだろう。
「バカな…なんだ…これは…っ!?」
愛子に治してもらった拳を冷や汗まじりに見つめていたミカの耳に届くハニエルの驚愕の声。見ると、なんとハニエルの体が光と化し、あの謎のリングに取り込まれようとしていたのだ。
「おいっ! そのリングは一体なんだ!?」
ハニエルに駆け寄る三人。その中でまず中道が声を掛けるが、
「このリングは…主からの授かり物ではないのか…!?」
そんなもの意に介さず喋り続けるハニエル。先ほどの狂乱とはまた違った意味でどうも様子がおかしい。
「ちょっと! 聞いてるの!?」
「こっち向きなさいよ!」
「い、生贄だと…? き…貴様…!」
更に愛子とミカも大声でハニエルに呼び掛けるが全く聞こえていないように反応がない。まるでその場にいない誰かと会話をしている様だが…。
そうしている間も、リングがどんどんハニエルを吸収していく。そして、いよいよその吸収がハニエルの顔にまで及んだその刹那、
「マ……マンセマットォォォォォッ!!」
地獄の底から響くような怨嗟の雄たけびを上げるハニエル。と、同時にハニエルは完全にリングに取り込まれてしまった。
そして、次の瞬間、リングは一瞬の光と共に姿を消してしまったのだ。
「マンセマット…? またアイツか…」
「全く、胡散臭いったらありゃしないわね…」
再び出てきた天使の名に、中道も愛子もげんなりした様子で呟き、
「そうだね…。ちょっと一回…腰を据えてじっくり”話し合い”をした方が良さそうだね…」
怖い程の無表情で、ミカもぼそりと口を開く。と、その時だった。
コツン…とミカの足元に何かが当たる。みると、何やら不思議な淡い光を発している宝玉があるではないか。
「なんだろ…これ…」
「ハニエルが持っていたのか? 何か貴重品っぽそうだが…」
「とにかく、持っていきましょう。ハニエルが持っていたとなれば、カテドラルへの足掛かりになるかもしれないわ」
その宝玉を注意深く調べる三人だったが、最終的に愛子の提案通りに持っていく事となった。
マンセマットも気になるが、まずはカテドラルへの道を探すのが先決だ。エキドナもハニエルも倒れ、道は無くなった。カテドラル自体も、海を隔てた高台の上に建てられているので、強引におし通るのも無謀だろう。
とにかく何か情報を…と人通りの多いギンザの、特に人が溢れるであろう酒場と言う酒場に赴き片っ端から情報を聞き出していく一行。
「少し良いかな?」
そんな一行に不意にかかる声。振り返ると、何やらみすぼらしい老人が立っていたのだ。
「あ、ごめんねおじいちゃん。今私達急いで」
「ミカ、ちょっと待て」
急いで情報収集を再開しようとするミカを、何故か中道が止める。
「アンタは…井の頭公園で会った…」
「ほっほっほ…。久しぶりじゃのう、元気にしておったか?」
そして何やら感慨深い様子で話し合う中道と老人。どうやら知り合いの様だが…。
「さて、早速だがお主たちに見せたい物がある。ついてこい」
そう言って、背を向け歩き出す老人。中道こそ素直について行くが、老人とは初対面な愛子とミカは困惑するばかりだ。が、中道が付いて行くのなら…と、少し間を置いてから二人も老人を追うのだった。