老人の案内を受ける道すがら、中道から老人の事を聞くミカと愛子。なんでも、大破壊前に知り合い、近い未来に相対するであろう強敵を予見してもらい、事前にその対策を立てる事で窮地を凌いだらしい。因みに、その対策と言うのがパスカルの事なのだそうだ。
ただ、この老人も大破壊前から姿が変わっていないらしい。なので、恐らくこの老人も只の人間ではないだろう。
「ここじゃ」
という話をしている内に目的地に着いた様だ。
「うわ…何これ…」
そして、その場に着いたミカが気味悪そうに一歩後ずさる。とはいえ、不気味な札がびっしり張り付けてある物々しい扉などという物を前にしたら、ミカならずとも気味悪く感じるだろう。
「ここはカテドラルの建設初期に資材搬入路として使われていた道。中期以降は品川から資材を送っていたらしいが、初期の頃は品川も大破壊直後と言う事で安定しておらず、やむなく人や資材が集まるこの銀座から送っていたそうじゃ。そして、お役御免となったこの道は、見ての通り厳重に封印されてしまったという訳じゃ」
「じゃ、じゃあ…この扉を壊せば…!」
老人の説明を聞き、不気味そうな顔から一転、道は開けた! とばかりに銃を構えるミカだったが、
「物理的にこじ開けるのは無理じゃよ。霊的な力で打破しなければな」
と、老人に諫められてしまう。
「やってみなければ分かんないじゃん!」
それでも、ミカはそう言いながら扉に向かって銃を乱射するが、残念ながら扉には傷一つ付かない。ならばと今度は思いっきり殴ってみるが、これも弾き返されてしまう。なにやら、扉の前に目に見えない壁の様な物が張られており、これが非常に強固な様だ。
「あーもう! 何なのこの扉!?」
「はっはっは。聞きしに勝る直情的な天使じゃな。じゃが、何事も力だけでは上手くいかんぞ」
「で、この扉を開ける方法はあるの?」
苛立たし気に扉を睨むミカを愉快そうに笑いながら諭す老人に、今度は愛子が尋ねる。
「うむ…。この東京を守る四柱の守護者…四天王の力を借りれば道は開くやもしれん。そして、この四天王に会うには”しもんのぎょく”という宝玉が必要なのじゃ」
「宝玉…? まさか…」
思案顔の老人の説明を受けた中道が慌てて懐から、あのハニエルが落とした宝玉を取り出す。
「おお、まさしくそれがしもんのぎょくじゃ! 場所を転々とし、今はアクマ使いが持っていると聞き及んでいたが、やはりお主じゃったか」
「―――いや、その伝聞が指すアクマ使いは、多分あの品川で暴れたアクマ使いの事だと思う。それをハニエルが強奪し、しかし処理しきれないままミカに敗北し俺達に流れてきた…と言ったところだろう」
快哉を上げる老人に、しかし中道は考え込みながら宝玉…しもんのぎょくのたどった道を推察する。
「まま、難しい事はいいじゃん! で、これをどうすればいいの?」
「このしもんのぎょくがあれば、各地の四天王の館に
急かすミカに、老人はしもんのぎょくを見つめながら説明を続けるが、これを言い終わるやいなや、何やら表情に陰りを滲ませる。
「先ほども言ったように、この東京の地は四天王によって守らておる。その四天王から力を借りるという事は、必然、東京を守護する力も弱まる。いまですらギリギリのところで耐えている状態なのじゃ。ここで、守護の力が弱まれば、すぐにでも神の裁きが再び東京を襲う事となるだろう」
そして、続く老人の言葉に中道も愛子も、そしてミカも表情が真っ青になる。
「神の裁き…って、もう間に合わないの!?」
「残念じゃがな…。そもそも、カテドラルの建設が始まったのが大破壊を経て間もなくの事じゃった。神からすれば、この時点で二撃目を予定しておったのじゃろう。そしてそこから三十年…。準備し実行するに十分な時間じゃったろうな…」
絶望の声を上げるミカに、老人も首を横に振りながらつらつらと心境を語る。その神の裁きを止めるために各地を奔走していた中道と愛子も表情が暗い。
その暗い雰囲気のまま続くしばらくの沈黙。しかし、不意に中道が顔を上げる。
「四天王から力を借りれば、守護の力が神の力に耐えらえなくなるのは分かった。しかし、それは力を借りなくてもいずれ破られるのか?」
「うむ、神の力は日増しに強くなっていっておる。例え力を借りずとも、近いうちに破られる日は来るだろう」
「ならば、やはり力を借りるしかないな。そうしてカテドラルへ行き元凶を叩かなければ、これからも何度も東京は酷い目にあわされてしまう。それだけは避けなければならん」
老人の確認を取った後、真剣な表情で次にどう動くかを口にする中道。これに、一呼吸置いてからミカも愛子も頷く。
「ただ、もう間に合わないというのならせめて今いる人たちを避難させてあげたいわ。四天王の館を巡る前に各地に赴いてこの事を話さない?」
「あ、そ、そうだね! スティーヴンやマッドサイエンティストのおじいさんにも教えてあげないと…!」
そして続く愛子の提案。更にミカの発言を受け、一行はまず旧警視庁へと向かった。
「―――成程、事情は分かった。しかし、まだ鍵の作成が終わっていない。これを終えるまでは、私はここを離れるつもりはない」
旧警視庁にて、これまでの経緯をスティーヴンに説明する一行。しかし、その避難勧告にスティーヴンはゆっくりと首を横に振りながら、機械の操作を続ける。
「で、でも! それじゃ裁きの被害に…!」
「その裁きとやらでおそらくここも使い物にならなくなるだろう。そうすれば、今度こそ開発環境が無くなってしまい、君も元の世界へ帰れなくなる。それは困るだろう?」
胸の前で手を合わせて訴えるミカだったが、スティーヴンの冷静な言葉を前に「そ、それは…」と口ごもってしまう。
「何故、そこまで鍵の作成にこだわる? やはり、新宿での恩返しか?」
次に、中道がスティーヴンに問いかける。対して、やや間を置いてからスティーブンはおもむろに口を開いた。
「無論、それもある。そして、それ以上に私の罪滅ぼしでもある。そもそも、事の発端は私が魔界と現世を繋げてしまった事にある。それさえなければ、ここまで世が混乱する事も無かった筈だ。そして、ミカさんは各地でこの混乱を静めようと奮闘してくれている。ならば、帰り道くらいはちゃんと用意しておくのが筋という物だろう」
つらつらと心境を語るスティーヴン。表情こそ変わりはしなかったが、大きな後悔の念と、そこから出てくる開発完遂の強い意志が垣間見える語りだ。
その強烈な意志に気圧され少しの間無言となる一行だったが、
「と、いう訳でこれは私の意地だ。君はこの意地に付き合う必要はないので逃げてくれても構わないよ」
不意にスティーヴンが後ろで同じく機械を弄っているマッドサイエンティストに声を掛ける。
「逃げるってどこに逃げればいいんじゃ? それよりも、さっさとこのプログラムを完成させて、この天使の世界に逃げ込んだ方が安泰じゃし、機械の作成者にも文句を言えるし、その技術を盗んで今度こそ儂だけの機械軍団を作れるしで一石三鳥じゃわい!」
しかし、声を掛けられたマッドサイエンティストもはっきりと避難に拒絶の色を見せる。その覚悟ガンギマリのらんらんと輝く両眼を見る限り、こちらも意思は固そうだ。
「どこに逃げる…か。確かに、具体的に何をされるかわからなければ、逃げようがないな…。中道君、実際に何をされるのかは見当はついているのかい?」
そのマッドサイエンティストの言葉を聞いて、疑問を感じたらしいスティーヴンが中道に問い質す。対して、中道は少しの間考えた後、
「―――具体的には分からない。だが、恐らく高い所に居れば助かる筈だ」
と、推察の言葉を出す。
「理由を聞いても?」
「まず、ミサイルの様な広範囲攻撃兵器は駄目だ。カテドラルにまで被害が出てしまう。ハニエルは言っていた。神の裁きから逃れるためにカテドラルに行くつもりか…と。逆説的に、カテドラルに居れば被害は出ないと喧伝していた筈。なのに被害が出ては本末転倒だ。次に、カテドラルは高台に作られている。これは、つまりある程度の高さのある場所なら被害から逃れらるのではないかと言う推察だ」
「ならば大丈夫じゃろう。この建物も地上五階建てとそこそこの高さはある。それに、元とはいえ治安を守る組織が使っていた建物と言う事でそれなりに頑丈じゃ。更に、いざとなれば地下から逃げおおせる事もできる。という訳で、わしらの事は心配いらんから、他の奴らの避難の手伝いでもしてやるんじゃな」
そして、その推察の根拠を説明する中道だったが、それを聞いて尚、スティーヴンもマッドサイエンティストもその場を動こうとはしなかった。
四天王ですが、鬼神と言う種族上ゲームでは属性がカオスなのは仕方ないのですが、個人的には組織としてのロウやカオスには属していないイメージがあるので、本作でもそういう存在として描写されると思います。