スティーヴンとマッドサイエンティストの二人は旧警視庁を動かないという固い意思を示したので、仕方なく他の地にいる人たちに避難を勧めに行くミカ達一行。
しかし、やはり各場所でのこの避難勧告に対する反応は様々だ。まずシンジュクについてだが、ここはもともとミカは町を救ったヒーローとして祭り上げられていたので、そのミカの避難勧告とあらば多少の混乱はあったものの比較的スムーズに住民たちは動いてくれた。
続いてシブヤだが、ここも以前とは比べ物にならない程活気に満ち溢れており、その活力を持って避難勧告に進んで動いてくれた。なんでも、ミカがメシア教に寄付したのをきっかけに、規律に厳しかったメシア教がやむを得ない規律違反については目をつむって援助してくれるようになり、その助力に気力を取り戻した住人たちが復興作業を進めていったそうだ。
建設予定地から全く作業が進んでいなかったメシア教会も建設が進んでおり、まさしく理想的な相互援助の関係と言えるだろう。それだけに、建設中だった教会を放棄せざるをえない事に関しては遺憾の意を示していたが…。
と、同時にこの時点でミカ達に疑念が一つ生まれる。シンジュクもそうだったのだが、シブヤにいるメシア教の者達も、誰も神の裁きについて知らなかった事だ。下っ端ならまだしも、教会の責任を任されているそれなりに地位の高そうな者達も全てだ。
当然、最初は驚かれ疑問を持たれたが、誰あろうミカが言うのなら…と避難勧告に応じてくれたのだ。が、味方であるはずのメシア教信者にまで全く教えていないのは無責任が過ぎるでしょ! と、ミカは激怒していた。中道と愛子も口にはださねど似たような感想だろう。
この二つの町の避難場所に選ばれたのは都庁だ。二つの町から近場で、大破壊後でも目立って破損している箇所は無く、高さも十分というのが選ばれた理由になった。
次にロッポンギだが、かつては死人の町としておそれられ、ベリアル、ネビロスの両巨頭を失い無人の町と化した場所だが、現在少ないながらも住んでいる人がいたのだ。というのも、様々な理由でロッポンギを出て行かざるを経なくなった人達が戻ってきたというのが殆どだ。なので、移住と言うよりは出戻りと言うのが近い。
なので、ここの人達を説得して避難させるのは少し骨が折れた。なにしろ、紆余曲折を経てやっと戻れたと思ったら、再び出て行けと言われている様なもの。難色を示されるのも無理はない。
とはいえ、その指示しているのがロッポンギを開放したミカと言う事で、渋々ながらも了承は取れた。
次にギンザ。ここはあらゆる人種が存在するので、反応も様々だ。真剣に耳を傾ける者もいれば、そんなバカなと一笑に付すもの、所詮神などそんなもの…と達観した者、逆に神を愚弄する気か! と激怒する者…と実にいろんな意見が聞ける。
とはいえ、ここでもミカの影響は大きかった。カオス寄りの者達は、各地で暴れまわっているヤバい奴という、ウエノでも聞いた評により妙に大人しく言う事を聞くし、それ以外の者達も比較的大人しく避難勧告に従ってくれた。どうやら、あの東京タワーの天使と対峙するミカの映像が少なからず効いている様だ。
この二つの町の避難先は東京タワーだ。理由は都庁とほぼ同じだ。
次にウエノだが、薄情な事にガイア教の一定以上の地位の者は既に姿を消しており、残っているのはガイア教の下っ端と、もともとウエノに住んでいた住人たちだけだ。
なので、ギンザと同じくカオスの者はミカに逆らう気は無く、もともとの住人はミカの言葉を素直に聞き入れてくれるという事で、避難勧告自体は滞りなく進められた。
ウエノの住人たちの避難場所に選ばれたのはスガモプリズン。罪人の収監場所ではあるが、牢屋が下ではなく上に建てられ、重罪人ほど上階に移されるという関係上、かなり高い建物となっている。流石に、高さでは東京タワーや都庁には負けるが、代わりに罪人の収監場所と言う事で頑丈さで右に出る建物は無いだろう。なにやら、最上階に重罪人が捕らわれているなどと言う噂もあるらしいが、今はそんなこと気にしている場合ではない。
最後にシナガワ…なのだが、ここは一言で言えば残念な結果に終わったというしかない。
何故かと言うと、初来訪の時とは一転、誰もミカを天使として認識してくれなくなっていたのだ。どうやら、あの東京タワーのカズフェルを手がけた映像…そして、ハニエルをも打ち倒してしまったというのが、この地ではかなり悪評として広まっている様なのだ。
誰がその様に悪しざまに広めたのかは分からない。が、聖園ミカは最早天使ではない。堕天し、力と混沌に魂を売ったのだ。と言う言説が広まっている以上、神にすがり、天使の庇護の下日々を過ごしてきたシナガワの住人達にとって、聖園ミカはもう恐ろしい悪魔以上の何者でもないのだ。悪魔の言う事など、シナガワの住人は誰も聞きはしない。
「お願い、話を聞いて! このままここに居たらみんな死んじゃうよ! だから避難を…!!」
懸命に訴えるミカだったが、ついぞこの訴えに耳を傾ける者はいなかった。それどころか、駆けつけてきたテンプルナイトの集団に追い払われる始末。これではもうどうしようもない。
それでも諦めきれなかったらしいミカは、あの助けた少女だけでも…! とテンプルナイト達に一日かけて訴えるが、結局最後まで相手にされることはなかった。
あらかた避難を終え、改めて四天王の館…その四つある館の内の一つであり、四天王のリーダー格であるらしいビシャモンテンの館の前に立つ一行。しかし、ミカの顔色があまりよろしくない。唯一避難させられなかったシナガワの人達を未だに思っているのだろう。
「ミカ、大丈夫…?」
そんなミカに心配そうに声を掛ける愛子。中道も同じような視線をミカに向けている。
「―――う、うん…。大丈夫…」
対して、一応頷いてはいるが明らかに心を痛めている様子のミカ。その様子を見て、中道と愛子は視線を合わせて頷く。今のミカには余り無茶はさせないでおこう…と言った感じの同意の視線だ。
「ようこそ、おいで下さいました」
と、そんな一行に不意にかかる声。みると、いつの間にか一人の男が一行の前に立っていた。筋骨隆々の偉丈夫だが、顔は帽子から垂れる幕で隠れていて見えない。更に、背中から漆黒の羽…天使の羽ではなく動物の羽だ…が生えている辺り、この男も人間ではないだろう。
「まずは自己紹介を…。といっても、私はまだ名も与えらえていない天狗の一人。四天王が一人、ビシャモンテン様にお仕えするただの天狗です」
警戒する一行に、丁寧な対応をしてくれる男…天狗。とはいえ、その立派な体躯とそこから放たれる圧力から、ただものではないのは明らかだ。
「本来なら、まずは私が来訪者の力量を試し、そこで認めた者をビシャモンテン様の前にお連れするのが習わし。しかし、今その様な悠長な事をしている時ではないのも事実。あなた方をビシャモンテン様の間へご案内いたしましょう」
全ては分かっている…と言うような口調で喋った後、館の中に移動する天狗。その後ろを、警戒しながらも一行は付いて行く。
程なくして、たどり着いた一つの部屋。その中心に、厳めしく、しかし誇り高そうな鬼の石像が象られていたのだ。
「さあ、しもんのぎょくをあの石像へ」
天狗に誘われるままに石像に歩み寄り、しもんのぎょくを掲げる一行。すると、今まで完全に石像だった筈の物に、少しずつ血色が加わり始めたのだ。
ゆっくりと開かれる石像だった者の両眼。そして、全てを焼き尽くさん…と言わんばかりのその灼熱の両眼が、ゆっくりと一行を捕らえた!